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第8章 好きな人のお願い
第385話 お兄ちゃんと彼氏
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「ところで、お相手の男性は、どのような方なのですか?」
「…………」
和やかな店員との会話の最中、いきなりぶっ込まれた、お相手の男性という言葉に、飛鳥は無駄な笑顔を貼り付けたまま固まった。
どうやら店員は、ウェディングドレスを選びに来たという話から、飛鳥に将来を誓いあった男性がいると、勘違いしたらしい。
(あー……どうしよう)
そして、それには素直に参った。
出来るなら、すぐにでも『違う』といいたいところだが、それを指摘していいものか、飛鳥は少し悩む。
なぜなら、さっきこの店員は、自分の性別を女性と間違えていた。
当然、性別を間違えられるのは、良くあることだし、こんな所までノコノコ女装服を選びにやってきた自分たちも悪いため、女性に間違えられようが、同性愛者に間違えられようが、別に怒りはしない。
むしろ、二度も間違った誤解をさせてしまったことを、申し訳なく思う。
だが、さすがに二回も間違いを指摘したら、店員さん、絶対、いたたまれなくなるよね!?
(うーん。指摘したら、気まづい雰囲気になりそう……)
性別にプラスして、かなりデリケートな間違い。この店員さん、ちょっとおっちょこちょいなのかな?なんて思いつつも、流石に2回目の指摘はちょっと躊躇する。
すると──
「相手の人は、お兄ちゃんの幼馴染なんです!」
「!?」
と、華が飛鳥の腕に抱きつきながら、突然、会話に割り込んできた。
いきなり何事かと華を見やれば、華は飛鳥の耳に、そっと耳打ちして
(大丈夫。この店員さんと、気まづい雰囲気になりたくないんでしょ? なら、私も話合わせるから!)
と、言い出した。
つまり、話を合わせるとは、このまま店員さんの間違いを指摘せず、男と交際しているつもりで行こう!と言うことらしい。
確かに、店員さんと気まづい雰囲気にはなりたくないし、このまま、男と付き合ってる男として、話を進めるのが、一番無難ではあった。
たが、さっき『幼馴染』といった話から察するに、交際相手の男として華が選んだのは、どうやら、アイツかと、眉を顰める。
「まぁ、幼馴染なんですね!」
すると、今度はその華の話に、店員が楽しげに話をふくらませてきた。
「いいですねー幼馴染って! 響きからして、もう」
「あー分かります! なんでも知ってる仲って感じがしますよねー。それこそ、お兄ちゃんとは同級生で、もう10年も一緒にいるんです! オマケに強いし、頼りになるし、私たちにとっても、第二のお兄ちゃんって感じで!」
「そうなんですね。そんな素敵な方が、お相手だなんて、羨ましいです……でも、お兄さんが、その幼馴染とお付き合いしてると知った時は、驚かれたのでは?」
「そうですねー。でも、お兄ちゃん綺麗だし、いつか彼氏を連れてきてもおかしくないなぁーとは思ってたし。それに、お兄ちゃんが幸せなら、相手は男でも女でも、どっちでもいいんです、私たちは!」
「…………」
飛鳥そっちのけで店員と話をする華。
それを見つめたまま、飛鳥は複雑な心境になった。
華ちゃん、思ったより演技派だね?
ていうか、それ本当に演技!?
なんか、本気で言ってる気がして、お兄ちゃん、心配なんだけど!?
「そうだ、お兄ちゃん! 見て! あのドレス、すっごく素敵なの!」
すると、今度は華がドレスを指さしながら、また話題を変えた。見れば、そこには、先程より豪勢に装飾された純白のウェディングドレスがあった。
プリンセスタイプのフワリとしたドレスは、まさに絵本の中のお姫様が着ていそうな、豪華さだ。
「まぁ、お目が高いですね~、そちらは、有名デザイナーが手がけた最新作なんですよ。是非ともご試着なさってください」
「だって、飛鳥兄ぃ、着てみれば!」
「ちょ、華!」
すると、フィッティングルームの前まで背中を押しやられた。なんだか、試着しなくてはならない雰囲気になり、飛鳥も軽く焦りを覚える。
しかも、このドレス、いくらするんだろう?
「あ、あの、このドレス、お借りしたら、大体どのくらいですか?」
そして、気になったことを問いかけた。
飛鳥くらいの年齢の子が、このような貸衣装屋さんのお世話になるとしたら成人式くらいだ。
だが、成人式の日は、飛鳥はスーツを着て式典に出たため、振袖や袴などを仕立てた経験などはなく、かと言って、もちろん結婚式も未経験なので、ドレスのレンタル料が、いかほどか検討もつかなかった。
すると、店員は
「こちらのドレスは、大体40万です」
(あぁ、やっぱり……)
デザインや質感からして、なんとなく高そうだなとは思った。いや、まだ40万なら良心的かもしれない。だが、流石の華も、その金額には驚いたらしい。
(飛鳥兄ぃ、40万だって。どうするの? あかりさんのために、40万だす?)
(お前、バカなの? 父さんが稼いできたお金、俺たちが、勝手に40万も使えるわけないだろ)
(そうだけど! じゃぁ、どうするの?)
(どうするって……っ)
どの道、あまり高価な衣装を選んだら、あかりだって、申し訳なく思うだろう。
だが、ここを、どう切り抜けるか!?
このまま話が進めば、ドレスを試着し、更にはレンタルしなくては、申し訳ない感じになってくる!
「飛鳥さーん、試着しないの?」
すると、葉月が声をかけつつ、やってきた。一連の話を聞いていなかった葉月は、深刻そうな二人に首を傾げる。
だが、その時──
トゥルルルル…!
と、突然、飛鳥のスマホが、鳴り出した。
誰かと思い確認すれば、その電話は、さっき彼氏役にも選ばれた──隆臣だったようで?
「…………」
和やかな店員との会話の最中、いきなりぶっ込まれた、お相手の男性という言葉に、飛鳥は無駄な笑顔を貼り付けたまま固まった。
どうやら店員は、ウェディングドレスを選びに来たという話から、飛鳥に将来を誓いあった男性がいると、勘違いしたらしい。
(あー……どうしよう)
そして、それには素直に参った。
出来るなら、すぐにでも『違う』といいたいところだが、それを指摘していいものか、飛鳥は少し悩む。
なぜなら、さっきこの店員は、自分の性別を女性と間違えていた。
当然、性別を間違えられるのは、良くあることだし、こんな所までノコノコ女装服を選びにやってきた自分たちも悪いため、女性に間違えられようが、同性愛者に間違えられようが、別に怒りはしない。
むしろ、二度も間違った誤解をさせてしまったことを、申し訳なく思う。
だが、さすがに二回も間違いを指摘したら、店員さん、絶対、いたたまれなくなるよね!?
(うーん。指摘したら、気まづい雰囲気になりそう……)
性別にプラスして、かなりデリケートな間違い。この店員さん、ちょっとおっちょこちょいなのかな?なんて思いつつも、流石に2回目の指摘はちょっと躊躇する。
すると──
「相手の人は、お兄ちゃんの幼馴染なんです!」
「!?」
と、華が飛鳥の腕に抱きつきながら、突然、会話に割り込んできた。
いきなり何事かと華を見やれば、華は飛鳥の耳に、そっと耳打ちして
(大丈夫。この店員さんと、気まづい雰囲気になりたくないんでしょ? なら、私も話合わせるから!)
と、言い出した。
つまり、話を合わせるとは、このまま店員さんの間違いを指摘せず、男と交際しているつもりで行こう!と言うことらしい。
確かに、店員さんと気まづい雰囲気にはなりたくないし、このまま、男と付き合ってる男として、話を進めるのが、一番無難ではあった。
たが、さっき『幼馴染』といった話から察するに、交際相手の男として華が選んだのは、どうやら、アイツかと、眉を顰める。
「まぁ、幼馴染なんですね!」
すると、今度はその華の話に、店員が楽しげに話をふくらませてきた。
「いいですねー幼馴染って! 響きからして、もう」
「あー分かります! なんでも知ってる仲って感じがしますよねー。それこそ、お兄ちゃんとは同級生で、もう10年も一緒にいるんです! オマケに強いし、頼りになるし、私たちにとっても、第二のお兄ちゃんって感じで!」
「そうなんですね。そんな素敵な方が、お相手だなんて、羨ましいです……でも、お兄さんが、その幼馴染とお付き合いしてると知った時は、驚かれたのでは?」
「そうですねー。でも、お兄ちゃん綺麗だし、いつか彼氏を連れてきてもおかしくないなぁーとは思ってたし。それに、お兄ちゃんが幸せなら、相手は男でも女でも、どっちでもいいんです、私たちは!」
「…………」
飛鳥そっちのけで店員と話をする華。
それを見つめたまま、飛鳥は複雑な心境になった。
華ちゃん、思ったより演技派だね?
ていうか、それ本当に演技!?
なんか、本気で言ってる気がして、お兄ちゃん、心配なんだけど!?
「そうだ、お兄ちゃん! 見て! あのドレス、すっごく素敵なの!」
すると、今度は華がドレスを指さしながら、また話題を変えた。見れば、そこには、先程より豪勢に装飾された純白のウェディングドレスがあった。
プリンセスタイプのフワリとしたドレスは、まさに絵本の中のお姫様が着ていそうな、豪華さだ。
「まぁ、お目が高いですね~、そちらは、有名デザイナーが手がけた最新作なんですよ。是非ともご試着なさってください」
「だって、飛鳥兄ぃ、着てみれば!」
「ちょ、華!」
すると、フィッティングルームの前まで背中を押しやられた。なんだか、試着しなくてはならない雰囲気になり、飛鳥も軽く焦りを覚える。
しかも、このドレス、いくらするんだろう?
「あ、あの、このドレス、お借りしたら、大体どのくらいですか?」
そして、気になったことを問いかけた。
飛鳥くらいの年齢の子が、このような貸衣装屋さんのお世話になるとしたら成人式くらいだ。
だが、成人式の日は、飛鳥はスーツを着て式典に出たため、振袖や袴などを仕立てた経験などはなく、かと言って、もちろん結婚式も未経験なので、ドレスのレンタル料が、いかほどか検討もつかなかった。
すると、店員は
「こちらのドレスは、大体40万です」
(あぁ、やっぱり……)
デザインや質感からして、なんとなく高そうだなとは思った。いや、まだ40万なら良心的かもしれない。だが、流石の華も、その金額には驚いたらしい。
(飛鳥兄ぃ、40万だって。どうするの? あかりさんのために、40万だす?)
(お前、バカなの? 父さんが稼いできたお金、俺たちが、勝手に40万も使えるわけないだろ)
(そうだけど! じゃぁ、どうするの?)
(どうするって……っ)
どの道、あまり高価な衣装を選んだら、あかりだって、申し訳なく思うだろう。
だが、ここを、どう切り抜けるか!?
このまま話が進めば、ドレスを試着し、更にはレンタルしなくては、申し訳ない感じになってくる!
「飛鳥さーん、試着しないの?」
すると、葉月が声をかけつつ、やってきた。一連の話を聞いていなかった葉月は、深刻そうな二人に首を傾げる。
だが、その時──
トゥルルルル…!
と、突然、飛鳥のスマホが、鳴り出した。
誰かと思い確認すれば、その電話は、さっき彼氏役にも選ばれた──隆臣だったようで?
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