402 / 509
第8章 好きな人のお願い
第380話 華と葉月
しおりを挟む『神木さんって、絶対、お兄さんとデキてるよね』
あれは、忘れもしない中学三年の夏。
たまたま聞いた、華の噂は耳を疑いたくなるようなものだった。
女子トイレの中から、聞こえてきた女子生徒の声は、あまりにもあり得ないもので、だけど、その会話は、止まること無く膨らんでいって、思わず足が止まった。
『えー、デキってるって兄妹で?』
『だって、神木さんのお兄さん、告白断ってばかりらしいじゃん。彼女作らないのは、妹とデキてるからだって』
『あーでも、確かにお兄さん、神木さんのことめっちゃ溺愛してるよね』
『でしょー。しかも、この前は一緒にデートしてるところを、見た人がいるんだって』
『マジ!? あー、でも、あんなカッコいいお兄ちゃんがいたら、血つながってても好きになっちゃうかも』
『つーか、血つながってないでしょ! 神木さんとお兄さん、全く似てないじゃん!』
金髪碧眼で綺麗な飛鳥さんと、黒髪で日本人らしい華は、全く似てなかったから、時々、こういう噂が流れる時があった。
特に飛鳥さんは、あの双子をとても大切にしていたし、どんな時も家族優先。
そのうえ、めちゃくちゃモテてたから、飛鳥さんにフラれた女子たちが、その腹いせで、良くない噂を流すこともあって、そして、その矛先が、華に向かうこともあった。
だけど、あの家族の形は、小学校の事から何も変わらない。お互いがお互いに、大切にし合ってる。それは、華の傍で見てきた私が一番よくわかっていて。
でも、小学校の時は、仲のよい兄妹弟で通っても、中学にあがり思春期を迎えると、その仲の良さが、異常なものだと言い出す人も現れた。
『神木さんの家って、今、親いないんだってー』
『あー。そういえば、父親は海外にいるっていってたっけ』
『ぶっちゃけさー、親の目がなければ、やりたい放題だよね』
『え、兄妹でってこと!? うわ、それヤバいじゃん! だれか親に教えてあげれないいのに。おたくの子供たちが、兄妹でいやらしいことしてますよーって』
『つーか、この噂広めちゃえばさー、学校から親に話がいくんじゃない?』
『あー先生たちもビックリするかもね。あんな清純そうな神木さんが、お兄さんと』
――バン!!
『ひッ!!』
大切な親友と、その家族のことで、あることないこといわれて、さすがに頭に来た。
気が付いたら、側にあった壁を思いっきり殴りつけていて、中にいた女子たちも、私に気づいたのか、バツが悪そうに顔を見合わせた。
『げ、葉月ッ』
『あんた達、さっきの話なに?』
『な、なにって、そういう噂がマジであるんだって! あの兄妹、仲が良すぎるし!』
その言い分には、さすがに呆れた。仲がいいから兄妹できてるって、なにそれ。
『バッカじゃないの!! 華と飛鳥さんは、ちゃんと血がつながってるよ! 母親は違うけど、父親は同じなの! それに、親は不在っていっても、弟君もいるじゃん!? つーか、デートじゃなくて、二人が行ってんのは、ただの買い出し! あんたら、家族と一緒に買い物行ったことないの!?』
イライラがまして、言葉が荒くなる。
しかも、そんなありもしない噂を、学校中に広めようとしているのが、あり得ないと思った。
『変な噂、流したりしたら、ただじゃおかないから』
『え?』
『そんな噂流して、華が学校にこれなくなったら、あんたたち、どう責任とるの?』
『せ、責任って……っ』
『事実じゃない噂でも、一度広まれば、それを本気にする奴らだっているんだよ! そうしたら、華と飛鳥さんは、何もやましいことしてなくても、そういう目で見られるようになるの! あんた達「あの噂は全部間違いでした」って、聞いた人全員に謝ってまわる気あるの!?』
『そ、それは……っ』
『あ、神木さん……!』
すると、どうやらタイミング悪く、華がやってきたらしい。
私の後ろに現れた華は、何事かと困惑していて、目が合った女子たちは、その後、慌てて華に謝罪しはじめた。
『ご、ごめんね、神木さん。変な噂、流したりしないから、安心してね!』
『え、変なウワサ?』
『あ、うんん! 聞こえてなかったなら、いいの!』
だけど、華には聞こえていなかったのか、女子たちは、安心したように駆け出していって、それを見送ったあと、華は、私の側にやってきた。
『葉月、何があったの?』
『うんん。別になにも』
『そう……ごめんね』
『な……なんで、華が謝るの?』
『うーん、なんとなくだけど、葉月が助けてくれたんだろうなって……ありがとう』
華は、笑っていた。
すこしだけ、悲しそうに。
きっと、どんな話をされていたのか、なんとなく、わかっていたのかもしれない。
だけど、それでも華は、変わらない。
変わらずに
今もずっと、家族を大切にしてる。
◇
◇
◇
(前に、兄貴に彼女ができた時、どんな気持ちだったか聞いてきたけど、あれは、飛鳥さんに好きな人ができたからだったのかな?)
今、華は、どんな気持ちなのだろう。
飛鳥さんに好きな人が出来て。
嬉しい? それとも、寂しい?
でも華なら、どんなに寂しくても、きっと応援するのだろうな。
大好きな、お兄ちゃんの幸せを――
「葉月~、何やってんの!」
ボーっとしていたら、華が飛鳥さんからはなれて戻ってきた。
きゅっと腕に抱きついて、笑いかける華は、普段通りの明るい表情で、自然と笑みがこぼれた。
「なんでもないよ。ちょっと軽くシュミレーションをね」
「シュミレーション?」
「うん。だって私、飛鳥さんと一緒に電車に乗るの初めてだし! モーレツに女子が押しよせてきたらどうしよう~って!」
「あはは、さすがに電車の中じゃ危ないし、それはないと思うけど、でも痴漢にあったことはあるみたいだから気をつけないとね!」
「え、痴漢!? それって男、女?」
「どっちもだって」
「どっちも!?」
「うん。相変わらず美人すぎるよね、うちのお兄ちゃん」
華がため息混じりに、飛鳥さんを見つめた。
駅の入口では、華が離れたからか、さっそく女子から声をかけられている飛鳥さんの姿があった。
はっきりいって、この家族は『普通』じゃない。
あんなに美人なお兄ちゃんがいるからかもしれないけど、ありえないくらい仲が良くすぎて、必要以上に絆が強い。
だけど私は、そんなありえないくらい仲がいい神木家が、今も昔も、変わらずに大好きだった。
「ねぇ、華」
「ん?」
「飛鳥さんに彼女ができて、寂しいなーって思う日がきたら、私に言いなさいよ。いつでも話きいてあげるから」
「え?」
耳元でコソッと囁けば、華はキョトンと目を見開いた。
私だって兄貴がいるから、少しは気持ちが分かる。うちの兄貴に彼女はいないけど、やっぱり、ちょっと寂しいかもなって思うから。
でも、私がこうなんだから、華は人一倍寂しいかもしれない。
だって飛鳥さんは、華にとって、お兄ちゃんであり、お母さんのような人でもあるから。
「うん……ありがとう葉月。その時は、よろしくね」
私の言葉に、華がふにゃりと微笑めば、私も一緒に微笑んだ。
本当は、その寂しさを感じた時に、榊がいてくれたらいいんだけど、きっと、そう上手くはいかないだろうな?
だから、華が家族に気づかれないように、こっそり悲しんでる時は、友達の私が、そばにいてあげよう。
だって華は、一人孤立していた私に、唯一声をかけてくれた子だから。
無駄に正義感が強くて、周りから怖がられていた私に
『葉月ちゃんて、かっこいいね!』
なんて言って、笑いかけて、一切怖がらずに接してくれた女の子。
きっと、華がいなかったら、こんなにも楽しい学校生活は、送れなかったかもしれない。
「おーい、なにやってんのー」
女子を追い払ったのか、その後、飛鳥さんが声をかけてきた。
私と華は、すぐさま飛鳥さんの元に行って、駅の中に入った私たちは、電車に乗って隣町へ。
今日はまた、一段と楽しい一日が始まりそう!
まぁ、あんなに美人なお兄さんのお供をする訳だから、普段よりも、大変かもしれないけどね!
0
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる