神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
394 / 554
第7章 未来への一歩

第372話 兄と幸せ

しおりを挟む

「おっそーい! 何かあったのかと思ったじゃん!」

 その後、自宅に帰ると、飛鳥が玄関で靴を脱ぐ前に、華が血相を変えてやってきた。どうやら、ミサの元に行き、なかなか帰らない兄を心配していたらしい。

 すると、少し申し訳ないことをしたと思いつつも、飛鳥は、いつもと変わらない、にっこりとした笑みを浮かべた。

「ごめん、遅くなって。でも、大丈夫だよ。無事にお弁当は渡せたし。遅くなったのは、帰りにあかりと出くわして」

「え? あかりさんと」

「うん。美里さんの所に面接受けに行った帰りだったみたいで、道端にうずくまってたから、どうしたのかと思って」

「え!? あかりさん、どこか具合わるかったの!?」

「いや、具合が悪いというよりは、ドジ踏んで自滅してた感じ」

「自滅!? あかりさんて、意外とドジっ子!?」

「まぁ、そこそこ。華には劣るけど」

「はぁ!?」

 あかりの話に加えて、急にぶっ込んできた妹への中傷に、華が声を上げた。

 なぜなら、華自身は、一切ドジな自覚がないからだ。とはいえ、あのしっかり者なあかりさんが、ドジっ子だったなんて……

「ふーん。でも、そんなドジで可愛らしいところも含めて、飛鳥兄ぃは、あかりさんを好きになったってことだよね~?」

「……!」

 すると、華がニヤニヤと笑いながら、からかうような言葉を返してきて、飛鳥はジッと華を見つめた。

 別に間違いではない。だが、そんなことを妹から言われるのは、なんか、ちょっと……

「うるさいな」

「あー、もしかして照れてるの!?」

「照れてない。それより、昼飯なんにする?」

「え? もしかして、考えてないの!?」

「考えてない。もう、インスタントラーメンでもいいかな。なんか、ショックであまり作る気力が」

「え? ショック?」

 すると、玄関からリビングに向かいながら、ため息をつく兄をみて、華は首を傾げる。

「どうしたの? やっぱり、なにかあったの?」

「…………」

 心做しか、心配の眼差しでみつめてくる華。すると飛鳥は、思い切って聞いてみることにした。

「あのさ、華……俺のって、そんなに見たいもの?」







 第372話 『兄と幸せ』







 ◇◇◇

 そして、その後──リビングにうつり、ラーメンを作り始めた飛鳥の傍では、双子の妹弟がをしていた。

 先程、兄から聞いた話によれば、なんと、あのあかりさんから、直接、女装姿が見たいと言われたらしく、兄は珍しく落ち込んでいた。

 だが、これには、さすがの華と蓮も、笑うしかなかった。それはもう、腹がよじれるほど!

 だって、好きな女の子に、女装姿が見たいといわれるなんて、きっとどこを探しても、うちの兄くらいだ!

「もう、飛鳥兄ぃってば! 全然男として見られてないじゃん!」

「マジで、脈ナシじゃん!」

「わかってるよ! ていうか、笑いすぎ!」

 傷心中の兄を、これでもかと笑い飛ばす双子に、飛鳥は真っ黒な笑みを浮かべた。

 まさか、ここまで笑われなんて。正直、真面目に話した、自分がバカだった。

「ほら、ラーメン出来たから、持ってって!」

「そんなことより、飛鳥兄ぃ! このままじゃ、絶対ダメだよ! もっと攻めないと!」

「は?」

「だって、あかりさんは今、お兄ちゃんのことんだよ! なら、ちゃんと男だって自覚させないと、お兄ちゃんの恋が実る頃には、もう、おじいちゃんになってるよ!?」

「おじいちゃん!?」

 ズイッと兄に詰め寄る華! すると華は、ピンク色のエプロンをつけた美人すぎる兄を見つめ、切実に訴え始めた。

「だって、見てよ! この髪の毛アップにして、エプロンしてる姿!! どこをどう見ても、女子でしょ!? ただでさえ、飛鳥兄ぃは、男子力よりも、女子力のほうが高いんだから、もっと男らしいところ見せないと!!」

「女子力じゃなくて、って言ってくれないかな」

「え!? なにが間違うの、ソレ!?」

 女子力と主婦(夫)力。その明確な違いは上手く説明できないが、それでも、飛鳥にとっては、違うと思いたかった。

 なぜなら飛鳥は、は極めてきたが、を極めたつもりはないから。

「でも、華の言うとおり、このままじゃ、いつまでたっても、あかりさんに振り向いてもらえないよ」

「……っ」

 すると、そこに蓮が口を挟み、飛鳥は口篭る。
 確かに、それはそうかもしれない。だが……

「じゃぁ、どうやって、男として自覚させるの?」

 不意に飛鳥が問いかけた。

 日頃、無自覚に口説き文句をぶっこむ飛鳥だが、あれは、あくまでもで、故意にやっているわけでないのだ。

 すると、華と蓮は、ふたり顔を見合わせると

「「やっぱり壁ドンじゃない?」」

「壁ドン!?」

 これは、皆様も、ご存知だろう!

 【壁ドン】とは、意中の相手を強引に壁際に追いつめ、耳元で甘~い言葉を囁く、あの少女漫画界御用達の壁ドンである!

「壁ドンて、なんか古くない!?」

「でも、手っ取り早く男だって意識させるには、有効な手段でしょ!」

「そうだよ兄貴! 兄貴のその顔と声で、真面目に迫れば、普通の女の子ならイチコロだって!!」

「……い、イチコロ」

 確かに、今までは、大抵の女の子は、このだけでイチコロだった。

 待ってもいないのに好意を抱かれ、バレンタインや誕生日は、命懸けの逃走劇を繰り広げてきた。

 ならば、こちらがで迫れば、意識ぐらいはするだろうか?

「あ、でも、壁ドンってさ。なんとも思ってない相手からされたら、キモイだけだよな?」

 ──グサッ!!

 だが、その後、蓮が言った言葉が、無惨にも飛鳥の胸に突きささる。

「え、キモイ?」

「あー、確かにそうかも? キモイって言うか、わりと恐怖だよね? でも、逆に意識してる相手からなら、顔赤くするんじゃない?」

「あー、確かに華の言う通りかも……兄貴、この際だから、壁ドンして、あかりさんが、どんな反応するか試してみれば?」

「ちょっと待って! 試験的に壁ドンなんてさせないで!?」

 しかもそれ、結果次第で、すごく落ち込みそう!!

 その双子の話に、飛鳥は眉をしかめた。
 ていうか、壁ドンってなんか恥ずかしくない?

 だが、そこで、飛鳥はふと思い出す。

(いや……でも俺、前に、あかりに壁ドンしたことがあったような?)

 そう、それは昨年の夏祭り!

 あかりに大野の件を話に行った時、あかりが、あまりにも無防備な姿で出てきたものだから、壁際に追いこんで忠告したことがあった。

 あまり男に気を許さないようにと──

 だけど、その時のあかりの反応は焦っていただけで、赤くはなっていなかったような??

(あれ? もしかして、もう結果でてる?)

「というわけで、飛鳥兄ぃ! 今度あかりさんと、ふたりっきりになったら、レッツゴー壁ドン!」

「いや、待って。俺もう、やってる」

「「やってる!?」」

 瞬間、飛鳥の言葉に双子は固まった。

「──て、壁ドンを!?」

「あ、いや……あえてした訳じゃないけど、それらしい事はした記憶が」 

「いつ!?」

「夏祭りの時に」

「「夏祭りぃぃぃ!!?」」

 あれか!? 私たちをコンビニに残して、女の家に差し入れ届けに行った、あの時か!?

「うそだろ、兄貴!? あの時、浴衣きてたじゃん! 浴衣姿でフェロモン垂れ流し状態で壁ドンしたのに、まだ男として見てもらえてないの!?」

「ぅ、やめて……なんか、それ以上言われたら、さすがに心にくる……っ」

 なんだか、悲しくなってきた。

 この中性的で愛らしい容姿のせいで、ここまで惨めな思いをする日が来るなんて!?

「俺、もしかして……諦めた方がいい?」

 すると、珍しく弱気な声が返ってきた。

 無理もない。浴衣姿で壁ドンしても、男として意識されず、挙げ句の果てに、女装姿が見たいと言われたとなれば、さすがの兄も弱気になる。

 だが、華は──

「ちょっと、ダメだよ、諦めちゃ! 私、お兄ちゃんには、幸せになってもらいたいんだから!!」

「え?」

 幸せに──そう力強く言った華に、飛鳥は目を見開いた。

 幸せに、なれたらいい。
 それは、自分だって願ってる。

 だけど……

「華の言う、"俺の幸せ"ってどんなの?」
「え……?」

 瞬間、飛鳥が真面目な顔で問いかけた。

 その青い瞳は、どこか迷い子のように不安げな色をしていて、そんな兄の瞳に、華は困惑する。

「ぁ、どんなって……べ、別に、凄いこと望んでるわけじゃないよ! 普通でいいの。普通に好きな人と恋をして、結婚して、子供とか産まれて……そんな、当たり前の幸せでいいの! 私は、今ここで、お兄ちゃんが笑ってるように、この先も、家族に囲まれて、笑ってて欲しい……!」

 しっかりと、兄の目を見て、華がそう告げた。

 当たり前の幸せ
 普通の幸せ

 それを、自分だって望んでる。

 だけど

 あかりは、それを────望んでいない。



「そっか……ありがとう」

 苦笑し、飛鳥は華の頭をポンと撫でた。

 だけど、自分とあかりの意思は、決して交わることがない。

 結婚して家族を求める自分と、結婚をしたくないあかりでは、望む未来が何もかも違うから。

 そして、その違いは、どうしたって──覆らない。

 だけど、そんなこと言えない。

 俺の幸せを誰よりと願ってくれる



 この優しい家族には……





 トゥルルルル──!

「……!」

 瞬間、テーブルに置いていた飛鳥のスマホが、突如鳴り出した。

 少しだけ真面目な空気が変化すると、飛鳥は、すぐさまダイニングテーブルまで移動し、電話に出る。

「もしもし」

『よぅ、飛鳥。さっき、電話したよな?』

「あー……うん」

 電話をかけてきたのは、隆臣だった。

 先程、を確認するために、飛鳥は電話をした。

 きっと今は休憩中なのだろ。すると飛鳥は、手短に済ませようと、すぐさま隆臣に問いかける。

「あのさ、隆ちゃん」

『ん?』

「隆ちゃんて、俺のこととして、だったりする?」

『は??』


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...