神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
368 / 509
第5章 あかりの帰省

第346話 あかりと蒼一郎

しおりを挟む

「ごめんね、あかりちゃん。急にきて」
「いいえ……」

 その後、あかりは蒼一郎そういちろうを奥の和室に通すと、お茶とお菓子を差し出した。

 わざわざ訪ねてきてくれて、追い返す訳にはいかず、家の中には、蒼一郎と二人きり。

「二月から出張で、よそに行っててさ。昨日やっと帰って来れたんだ」

「そうだったんですね」

「あ、これお土産。稜子りょうこさん達とみんなで食べて」

「まぁ、ありがとうございます」

 お菓子の紙袋を受け取り、あかりがにこやかに笑うと、蒼一郎は、また楽しそうに話しかけてきた。

「あかりちゃん、大分大人っぽくなったね!」

「え? そうですか?」

「うん、女子大生って感じ! 大学はどう?」

「はい、少ないけどお友達もできて、楽しく過ごせてます」

 蒼一郎の年齢は、現在35歳。あかりとは、16歳ほどはなれた、まさにお兄さん的な存在だ。

 短髪をワックスでしっかり整え、左耳にはピアス。少しヤンチャそうな見た目をしたお兄さんだが、気さくで話しやすく、あかりは、子供の頃から、何かしら親しくしていた。

 ちなみに、蒼一郎は高梨たかなし家の長男で、今は一部上場企業でサラリーマンをしているらしい。

「もしかして、好きな人でも出来た?」

「え?」

「いや、元々可愛かったけど、ここ一年で更に綺麗になってるから」

「そ、そうでしょうか?」

 好きな人──そう言われて、あかりの脳裏には、一瞬、ある人が浮かんだ。

 だが、その顔を必死に振り払うと

「す、好きな人なんていません。あっちは、こっちの田舎と違って、みんな華やかなので、少しずつ馴染んでいった結果かなと」

「あはは、垢抜けちゃたわけだ。その調子なら、あっという間に彼氏も出来そうだね」

「いえ、彼氏を作るつもりは、ありませんから」

 ピシャリと言い放つと、その瞬間、場の空気が一瞬静まりかえった。

 カチコチと時計の音が響き、その後、お茶を手にした蒼一郎が、また問いかける。

「そうなんだ……まぁ、あかりちゃんに彼氏が出来たら、理久りくくん怒りそうだしね」

「そんなことはないと思いますけど……そう言う蒼一郎さんは、どうなんですか?」

「俺?」

「はい、彼女とか、ご結婚とか?」

「あはは、彼女はいないし、結婚もないよ。親には四六時中、言われてるけどね、早く結婚しろーって! この前は、無理やりお見合いまで、セッティングされて」

「お見合い?」

「まぁ、ガチなやつね。今どき珍しいだろ。田舎って感じだよなー。相手は、近所の娘さんで……まぁ、俺には勿体ないくらいのいい人ではあったけど」

「そんな素敵な方だったんですか? なら、お付き合いされてみれば……」

「しないよ。俺、まだ好きだから」

「……っ」

 瞬間、あかりは息を飲んだ。

 まだ、好きだから──その言葉に、心がキュッと締め付けられる。

「だから俺。一生、結婚はしないと思う」

「…………」

 そして、ハッキリ紡いだ、その蒼一郎の言葉には、揺るぎない意志を感じた。

 それが、本気なのだと分かるほどに──

「そう……ですか……っ」

 再度、言葉を紡げば、辺りはまた静まり返った。

 お茶の香りが広がる和室は、その後暫く、無音のままだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】 少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。 次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。 姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。 笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。 なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中

処理中です...