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第3章 バレンタインと告白
第328話 バレンタインとクッキー
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2月13日、日曜日。
エレナは一人であかりの家に来ていた。
こじんまりとしたアパートのキッチンで、可愛いエプロンをしたエレナは、あかりに教わりながら、お菓子作りに没頭中!
作っているのは、ガトーショコラ。
初めてと言っていいくらいのお菓子作りだが、エレナは、どうやら素質があるようで、たんたんと調理はすすみ、あとは型に流し込むだけという所まできた。
「ちゃんと膨らむかな~?」
「大丈夫だよ。あとは焼き加減さえ間違えなければ」
丸い型に流し入れ、トントントンと空気を抜くと、あとは、予熱していたオーブンの中へ。
「みんな、喜んでくれるといいね?」
「うん!」
あかりの言葉に、エレナが笑顔で答える。
さて、なぜこのようなことになっているかと言うと、明日がバレンタインだからというのもあるが、なんと、今週末にミサの退院がきまったからだ。
ミサが入院し、ずっと神木家に居候していたエレナ。だが、エレナが神木家にいるのも、あと一週間。
そんなわけで、今までの感謝の気持ちも込めて、エレナは神木家にプレゼントをしたいと考えた。
そして、それを相談されたあかりが、エレナのお小遣いの中からプレゼント出来そうなものを色々提案し、バレンタインもくることだし、ガトーショコラを作ろうということになったのだ。
「焼きあがって、粗熱がとれたら、持って帰れるからね」
「ホント! ありがとう!」
オーブンの前で話したあと、あかりはふと時計を見る。
(帰る頃は、夕方になっちゃうかな?)
粗熱をとるにはそれなりに時間がかかる。
それに、2月のこの時期。5時には、もう暗くなってしまうため、帰りは送って行った方がいいかもしれない。
そんなことを思いながら、あかりは使い終わったボールやヘラを片付け始めた。
「ねぇ、あかりお姉ちゃんは、何もつくらないの?」
「え?」
だが、そんな中、またエレナが話しかけてきた。
つくらないの?……とは、お菓子。いや、バレンタインのチョコレートのことだろう。
「うん、私は誰とも交換する約束はしてないし」
聞き逃さないように手元を止めて、エレナの話に集中したあかりは、笑顔でそういった。
こちらにきて、もうすぐ一年。
実家にいた頃は、友達や弟や父にチョコレートを作っていたが、こっちでは、友チョコのやり取りをする相手は、まだいなかった。
だからか、今年はチョコレートを作らないつもりでいたのだが
「……そうなんだ」
「?」
瞬間、どこかシュンとしたエレナを見て、あかりは首を傾げる。
「あ、もしかして、交換したかった?」
「あ、うんん。そういうわけじゃないの。ただ、あげる男の人いないのかなって」
「男の人って……っ」
確かに、バレンタインは、一般的に女性が意中の男性に告白するイベントだ。
つまり、エレナがいいたいのは『あかりお姉ちゃんは、好きな人にチョコレートをあげたりしないの?』ということ。
(うーん……4年生にもなると、恋バナとか興味あるのかな? そういえば、うちの理久も昨年女の子からチョコもらってたし、学校でも話題になるのかも?)
(……やっぱり、お姉ちゃん、飛鳥さんにあげる気ないんだなぁ。義理でも貰えれば、喜ぶとおもったのに)
それぞれ別のことを考えつつ、オーブンの中では、ふんわりガトーショコラがふくらみ始めた。
果たして、お兄ちゃんは、あかりからチョコをもらえるのかる
これは、そんなハラハラドキドキな、バレンタインでのお話です。
第328話
『バレンタインとクッキー』
◇◇◇
「すごーい! さすが、飛鳥兄ぃ!!」
それから暫くし、夕方に4時半を過ぎた神木家では、キッチンの中で華がきゃっきゃと声を上げていた。
目の前にあるのは、可愛らしくオシャレなクッキー。
そう、これは、明日のバレンタインで、華が友達に配るための友チョコ。いや、友クッキーといえばいいのか?
だが、そんな華を見つめ、飛鳥が、にこやかに一言。
「ていうか、なんで俺が作ってんの?」
「だって、私がつくると、なんでか焦げちゃうんだもん!」
「だったらクッキーじゃなくて、別のにしろよ」
「仕方ないじゃん! もう作ってないのクッキーくらいだし! それに、毎年同じのってわけにもいかないの! 大体、私、テスト勉強もしなきゃいけないんだよ! 赤点とったらどうすんの!?」
「知るか!」
出来上がった、美味しそうなクッキー。
そう、なぜか飛鳥は、華の代わりにバレンタインのお菓子を作っていた。
まぁ、華は華で、色々と言い訳があるようだが、こうして、なんだかんだ作ってしまうあたり
「兄貴って、マジで華に甘いよね」
「わかってるよ、俺だって!」
蓮のツッコミに、飛鳥がうなだれながら答えた。
自分だって、よくわかっている。双子に甘いということは!
だが、もう染み付いてしまった長年の習慣が、どうしても抜けきらない。
先日、双子離れしろと、隆臣に言われたが、やはりこうして甘えられると、NOとは言えないのが、お兄ちゃんである。
「そういえば、エレナちゃんは、何時に帰って来るの?」
すると、再び華が飛鳥に話しかけてきた。
「さっきLIMEしたら、もうすぐ着くって連絡がきたよ」
「そっか。最近、エレナちゃん学校でお友達増えたみたいだしね! 芦田さんだったかな? この前公園で一緒に遊んでたよ。挨拶してくれた!」
「そう、エレナ友達欲しがってたし、いいことだよ」
「あ、でも、ミサさんが帰ってきたら大丈夫かな? ちょっと心配」
「………」
エレナのことを思い浮かべ、華がそう言って、飛鳥も同時に表情を曇らせた。
(退院するってことは、医者が大丈夫だって判断したわけだし、大丈夫だとは思うけど……)
やはり、まだ心配だ。
あんなことが、あったのだから……
「おい、華! それより、明日の計画立てるぞ」
すると、今度は蓮が喚き出して、飛鳥は首を傾げる。
「計画?」
「もう! チョコを回避するための逃走経路をシュミレーションしとくに決まってるでしょ!」
「そうだよ! 今年は行先が中学から高校に変わってるんだから! チョコ持った女子が潜んでいそうな箇所! 逃げるルートに、隠れられそうな場所! そして、万が一捕まった時の対処方!!」
「私たち、バレンタインは、毎年命懸けで学校に行ってるの!! 誰かさんのせいでね!!」
「………あはは」
ビシッと兄に指を突き立てた華に、飛鳥が苦笑いをうかべる。
そう、明日は、2月14日。
恐怖のバレンタインがやってくる。
大学ではプレゼント交換が禁止されているのだが、そのせいか、大学外での攻防戦は、毎年の事ながら行われていた。
ちなみに、華は蓮が部活を終わるのを待って、明日は二人で帰ってくるらしい。
一人で捕まるのは嫌だから!!
「いやいや、俺はいらないって言ってるんだけどね。毎年、凄いよね」
「凄いのは、兄貴の顔だろ」
「ていうか、いつまで続くの? 飛鳥兄ぃが、社会人なったら終わるの!?」
「さぁ……むしろ、俺が聞きたい」
この美人でモテまくりな兄を持つせいで、バレンタインは毎年苦労する神木家。
そして、これがいつまで続くか分からないから、より恐ろしい。
──ピンポーン!
「!」
すると、飛鳥がエプロンを外したタイミングで、インターフォンがなった。
(あ、エレナかな?)
多分エレナだろう。だが、鍵は持ってるはずだから、勝手に入ってくればいいのに……そう、不思議に思いつも、飛鳥はそそくさと玄関に向かう。
「おかえりー」
だが、ガチャ──っと、飛鳥が玄関を開けた瞬間、目にはいった人物に、飛鳥は瞠目する。
「あ……こんにちは、神木さん!」
「……え?」
なぜなら、そう言って可愛らしく笑ったのは、コートとマフラーをして現れた──あかりだったから。
エレナは一人であかりの家に来ていた。
こじんまりとしたアパートのキッチンで、可愛いエプロンをしたエレナは、あかりに教わりながら、お菓子作りに没頭中!
作っているのは、ガトーショコラ。
初めてと言っていいくらいのお菓子作りだが、エレナは、どうやら素質があるようで、たんたんと調理はすすみ、あとは型に流し込むだけという所まできた。
「ちゃんと膨らむかな~?」
「大丈夫だよ。あとは焼き加減さえ間違えなければ」
丸い型に流し入れ、トントントンと空気を抜くと、あとは、予熱していたオーブンの中へ。
「みんな、喜んでくれるといいね?」
「うん!」
あかりの言葉に、エレナが笑顔で答える。
さて、なぜこのようなことになっているかと言うと、明日がバレンタインだからというのもあるが、なんと、今週末にミサの退院がきまったからだ。
ミサが入院し、ずっと神木家に居候していたエレナ。だが、エレナが神木家にいるのも、あと一週間。
そんなわけで、今までの感謝の気持ちも込めて、エレナは神木家にプレゼントをしたいと考えた。
そして、それを相談されたあかりが、エレナのお小遣いの中からプレゼント出来そうなものを色々提案し、バレンタインもくることだし、ガトーショコラを作ろうということになったのだ。
「焼きあがって、粗熱がとれたら、持って帰れるからね」
「ホント! ありがとう!」
オーブンの前で話したあと、あかりはふと時計を見る。
(帰る頃は、夕方になっちゃうかな?)
粗熱をとるにはそれなりに時間がかかる。
それに、2月のこの時期。5時には、もう暗くなってしまうため、帰りは送って行った方がいいかもしれない。
そんなことを思いながら、あかりは使い終わったボールやヘラを片付け始めた。
「ねぇ、あかりお姉ちゃんは、何もつくらないの?」
「え?」
だが、そんな中、またエレナが話しかけてきた。
つくらないの?……とは、お菓子。いや、バレンタインのチョコレートのことだろう。
「うん、私は誰とも交換する約束はしてないし」
聞き逃さないように手元を止めて、エレナの話に集中したあかりは、笑顔でそういった。
こちらにきて、もうすぐ一年。
実家にいた頃は、友達や弟や父にチョコレートを作っていたが、こっちでは、友チョコのやり取りをする相手は、まだいなかった。
だからか、今年はチョコレートを作らないつもりでいたのだが
「……そうなんだ」
「?」
瞬間、どこかシュンとしたエレナを見て、あかりは首を傾げる。
「あ、もしかして、交換したかった?」
「あ、うんん。そういうわけじゃないの。ただ、あげる男の人いないのかなって」
「男の人って……っ」
確かに、バレンタインは、一般的に女性が意中の男性に告白するイベントだ。
つまり、エレナがいいたいのは『あかりお姉ちゃんは、好きな人にチョコレートをあげたりしないの?』ということ。
(うーん……4年生にもなると、恋バナとか興味あるのかな? そういえば、うちの理久も昨年女の子からチョコもらってたし、学校でも話題になるのかも?)
(……やっぱり、お姉ちゃん、飛鳥さんにあげる気ないんだなぁ。義理でも貰えれば、喜ぶとおもったのに)
それぞれ別のことを考えつつ、オーブンの中では、ふんわりガトーショコラがふくらみ始めた。
果たして、お兄ちゃんは、あかりからチョコをもらえるのかる
これは、そんなハラハラドキドキな、バレンタインでのお話です。
第328話
『バレンタインとクッキー』
◇◇◇
「すごーい! さすが、飛鳥兄ぃ!!」
それから暫くし、夕方に4時半を過ぎた神木家では、キッチンの中で華がきゃっきゃと声を上げていた。
目の前にあるのは、可愛らしくオシャレなクッキー。
そう、これは、明日のバレンタインで、華が友達に配るための友チョコ。いや、友クッキーといえばいいのか?
だが、そんな華を見つめ、飛鳥が、にこやかに一言。
「ていうか、なんで俺が作ってんの?」
「だって、私がつくると、なんでか焦げちゃうんだもん!」
「だったらクッキーじゃなくて、別のにしろよ」
「仕方ないじゃん! もう作ってないのクッキーくらいだし! それに、毎年同じのってわけにもいかないの! 大体、私、テスト勉強もしなきゃいけないんだよ! 赤点とったらどうすんの!?」
「知るか!」
出来上がった、美味しそうなクッキー。
そう、なぜか飛鳥は、華の代わりにバレンタインのお菓子を作っていた。
まぁ、華は華で、色々と言い訳があるようだが、こうして、なんだかんだ作ってしまうあたり
「兄貴って、マジで華に甘いよね」
「わかってるよ、俺だって!」
蓮のツッコミに、飛鳥がうなだれながら答えた。
自分だって、よくわかっている。双子に甘いということは!
だが、もう染み付いてしまった長年の習慣が、どうしても抜けきらない。
先日、双子離れしろと、隆臣に言われたが、やはりこうして甘えられると、NOとは言えないのが、お兄ちゃんである。
「そういえば、エレナちゃんは、何時に帰って来るの?」
すると、再び華が飛鳥に話しかけてきた。
「さっきLIMEしたら、もうすぐ着くって連絡がきたよ」
「そっか。最近、エレナちゃん学校でお友達増えたみたいだしね! 芦田さんだったかな? この前公園で一緒に遊んでたよ。挨拶してくれた!」
「そう、エレナ友達欲しがってたし、いいことだよ」
「あ、でも、ミサさんが帰ってきたら大丈夫かな? ちょっと心配」
「………」
エレナのことを思い浮かべ、華がそう言って、飛鳥も同時に表情を曇らせた。
(退院するってことは、医者が大丈夫だって判断したわけだし、大丈夫だとは思うけど……)
やはり、まだ心配だ。
あんなことが、あったのだから……
「おい、華! それより、明日の計画立てるぞ」
すると、今度は蓮が喚き出して、飛鳥は首を傾げる。
「計画?」
「もう! チョコを回避するための逃走経路をシュミレーションしとくに決まってるでしょ!」
「そうだよ! 今年は行先が中学から高校に変わってるんだから! チョコ持った女子が潜んでいそうな箇所! 逃げるルートに、隠れられそうな場所! そして、万が一捕まった時の対処方!!」
「私たち、バレンタインは、毎年命懸けで学校に行ってるの!! 誰かさんのせいでね!!」
「………あはは」
ビシッと兄に指を突き立てた華に、飛鳥が苦笑いをうかべる。
そう、明日は、2月14日。
恐怖のバレンタインがやってくる。
大学ではプレゼント交換が禁止されているのだが、そのせいか、大学外での攻防戦は、毎年の事ながら行われていた。
ちなみに、華は蓮が部活を終わるのを待って、明日は二人で帰ってくるらしい。
一人で捕まるのは嫌だから!!
「いやいや、俺はいらないって言ってるんだけどね。毎年、凄いよね」
「凄いのは、兄貴の顔だろ」
「ていうか、いつまで続くの? 飛鳥兄ぃが、社会人なったら終わるの!?」
「さぁ……むしろ、俺が聞きたい」
この美人でモテまくりな兄を持つせいで、バレンタインは毎年苦労する神木家。
そして、これがいつまで続くか分からないから、より恐ろしい。
──ピンポーン!
「!」
すると、飛鳥がエプロンを外したタイミングで、インターフォンがなった。
(あ、エレナかな?)
多分エレナだろう。だが、鍵は持ってるはずだから、勝手に入ってくればいいのに……そう、不思議に思いつも、飛鳥はそそくさと玄関に向かう。
「おかえりー」
だが、ガチャ──っと、飛鳥が玄関を開けた瞬間、目にはいった人物に、飛鳥は瞠目する。
「あ……こんにちは、神木さん!」
「……え?」
なぜなら、そう言って可愛らしく笑ったのは、コートとマフラーをして現れた──あかりだったから。
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