神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
347 / 507
第2章 誕生日と男子会

第325話 色気と理性

しおりを挟む

「ん……隆ちゃん? なにしてるの?」

 瞬間、飛鳥が目を覚ました。

 顔を上げれば、いつのも綺麗な青い瞳が、呆然と見つめてくる。

 だが、よりにもよって、服の中に手を突っ込んでるこのタイミングで、目を覚ますとは!?

(あ、マズイ……)

 軽く冷や汗が流れた。罵倒されるのか、はたまた、殴られるのか?

 だが、そう思った時──

「あ、着替えさせてくれてるんだ……ありがとう」

「……」

 自分の状況を確認して、飛鳥が気だるげに、そういった。

 全く疑うことなく、受け入れている飛鳥。

 だが、そのいつもと違う反応に、隆臣は軽く焦りを覚えた。

 そう、いつもの飛鳥なら、ここは確実に怒る場面だ!

 殴るまではいかなくても

『は? お前何やってんの?』

 とか言いながら、絶対零度の笑みと共に、胸倉ぐらいは掴まれるやつだ!

 それが……

「飛鳥! お前、本当に大丈夫か!? 今の状況わかってんのか!? 服、脱がされそうになってんだぞ、男に!!」

「うん…分かってるよ」

「だったら、もうっとこう、焦るとか、ビビるとか、怒るとかしろよ!! なに受け入れてんだ!?」

「あはは」

「あはは、じゃねーよ!?」

 あぁ、ダメだ! 酒をませたら、いつもの毒気が一切なくなる!

 警戒心が、まるでないうえに、可愛らしさが全開になる!!

「隆…ちゃん? 何…怒ってんの?」

「怒りたくもなるわ! お前、本当にいいのか、このまま脱がされて!?」

「うん、いいよー……だって、隆ちゃんだし」

「……は?」

「隆ちゃんだから、大丈夫……俺の親友が、俺に変なことするはず…ないもん…」

「…………」

 ふにゃりと可愛らしい笑顔で、そう言われ、隆臣は絶句する。

 つまりこれは、隆臣だからいいと、受け入れているわけなのだが……

(……うわ。もう、このまま殴って、気絶させたい)

 だが、聞いている隆臣からしたら、とんでもなかった。

『隆ちゃんだから』とか『親友が』とか、もうデレしかなくなった飛鳥の破壊力はすさまじかった。ハッキリ言って、耳から入ってるく言葉の全てが、甘い暴力だ。

 だが、これ以上聞きたくない隆臣にむかって、飛鳥は容赦なく語りかけてくる。

「隆ちゃん…コレ…はやく…脱がして…っ」

「……っ」

 気持ち悪いのか、そう言って、急かす飛鳥と目が合って、隆臣は、思わず動きをとめた。

 まるで、誘っているかのような悩まし気な瞳と、上気した頬。

 その姿は、もはや男だと分かって上でも、惑わされてしまうほどだった。

(……これ、マジで、シャレにならねーな)

 この酒癖の悪さは、真面目になんとかしないと、取り返しのつかないことになる。

 近しい人間(隆臣、双子、侑斗)は、飛鳥の本性を知っているから、大丈夫だが、そうでない人間は、確実に誘われていると思うだろうし

 なにより、こんな綺麗な飛鳥に誘われて(本人は誘ってない)理性が持つかどうか……

「……どうし…たの?」

「どうしたのじゃねーよ。お前、これマジでヤバいぞ。しっかりしろ。まず、目覚めたんなら、自分で着替えろ」

「えー…それは…キツイ…っ」

「キツイじゃなくて、やれ。俺だって、男の服を脱がす趣味はねーんだよ」

 多少、辛辣なことを言いつつも、これも飛鳥のためと割り切る。

 なにより、着替えさせる最中に、あんな変な声まで出すのだ。ハッキリ言って心臓に悪いし、目が覚めたのなら、自分でやってほしい。

 だが、その次の瞬間、なぜか飛鳥は、自分の髪を束ねていたリボンを、するりとほどいた。

「?」

 ほどけた髪が飛鳥の肩をさらりと流れた瞬間、その予想外の行動に、隆臣は首を傾げる。

「飛鳥? 何して……」

「……これなら…いいよね?」

「え?」

「……だから、男の服脱がすのが嫌なら…女の子だと…思い込んでもらえば…」

「……」

 あぁ、つまり、髪をほどいた自分を、女と思い込んで脱がせと?

「バカか! お前、どんだけ、自分で着替えたくないんだよ!? 髪下ろしても、俺にとっては、ただの男だ!」

「えー…そうだけど……でも、俺、そこら辺の女子より可愛いし…その気になれば…」

「ならねーよ!! お前、本当に大丈夫か!?」

 なんだか、状況が更に悪化してきた。髪を下ろして、いっそう女っぽく色っぽくなった飛鳥は、かなり目のやり場に困る。

 だが、飛鳥は、テコでも自分で着替えたくないようで

(ホント、酔うとたちわりーな……っ)

 10年一緒にいて、飛鳥に対して、こんなにもめんどくさいと思ったことはなかった。

 いつもなら、なんでもテキパキとこなして、他人に手間をかけさせることがない飛鳥。

 それが、酔うと途端に頼りなく、そして、わがままになってしまう。

 だが、これも、普段しっかりしている反動なのかと思うと、何とも言えない気持ちになってきた。

 初めは、強い奴だと思っていた。

 だけど、本当の飛鳥は、その強さの裏に、弱さを隠してた。

 本当は、誰よりも、傷つきやすくて、誰よりも、一人を怖がっていて

 だけど、頼りたくても、素直に頼れなくて──…


「くしゅ…っ」
「!」

 瞬間、飛鳥がくしゃみをした。

 寒かったのだろうか?

 だが、考えても見れば、脱衣所で40分眠りこけていて、身体はすっかり冷えていた。そのうえ、先ほどシャツを脱がしたから、飛鳥の上半身は今、タンクトップ一枚。

 いくら暖房のきいた部屋の中にいるとはいえ、このままでは確実に──風邪をひく。

「あー、もう!」
「わッ!?」

 軽く声をあらげると、隆臣は再び、飛鳥の前に乗り出した。

 距離が近づき、ちょっとだけ驚いた顔をする飛鳥の服を掴むと、隆臣は改めて忠告する。

「お前が脱がせって言ったんだからな。あとで、後悔するなよ!」

「へ?」

 だが、そう言ったが最後、隆臣は、飛鳥の服を捲り上げると、先ほどの躊躇いが嘘のように、あっさり脱がし始めた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...