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第2章 誕生日と男子会
第325話 色気と理性
しおりを挟む「ん……隆ちゃん? なにしてるの?」
瞬間、飛鳥が目を覚ました。
顔を上げれば、いつのも綺麗な青い瞳が、呆然と見つめてくる。
だが、よりにもよって、服の中に手を突っ込んでるこのタイミングで、目を覚ますとは!?
(あ、マズイ……)
軽く冷や汗が流れた。罵倒されるのか、はたまた、殴られるのか?
だが、そう思った時──
「あ、着替えさせてくれてるんだ……ありがとう」
「……」
自分の状況を確認して、飛鳥が気だるげに、そういった。
全く疑うことなく、受け入れている飛鳥。
だが、そのいつもと違う反応に、隆臣は軽く焦りを覚えた。
そう、いつもの飛鳥なら、ここは確実に怒る場面だ!
殴るまではいかなくても
『は? お前何やってんの?』
とか言いながら、絶対零度の笑みと共に、胸倉ぐらいは掴まれるやつだ!
それが……
「飛鳥! お前、本当に大丈夫か!? 今の状況わかってんのか!? 服、脱がされそうになってんだぞ、男に!!」
「うん…分かってるよ」
「だったら、もうっとこう、焦るとか、ビビるとか、怒るとかしろよ!! なに受け入れてんだ!?」
「あはは」
「あはは、じゃねーよ!?」
あぁ、ダメだ! 酒をませたら、いつもの毒気が一切なくなる!
警戒心が、まるでないうえに、可愛らしさが全開になる!!
「隆…ちゃん? 何…怒ってんの?」
「怒りたくもなるわ! お前、本当にいいのか、このまま脱がされて!?」
「うん、いいよー……だって、隆ちゃんだし」
「……は?」
「隆ちゃんだから、大丈夫……俺の親友が、俺に変なことするはず…ないもん…」
「…………」
ふにゃりと可愛らしい笑顔で、そう言われ、隆臣は絶句する。
つまりこれは、隆臣だからいいと、受け入れているわけなのだが……
(……うわ。もう、このまま殴って、気絶させたい)
だが、聞いている隆臣からしたら、とんでもなかった。
『隆ちゃんだから』とか『親友が』とか、もうデレしかなくなった飛鳥の破壊力はすさまじかった。ハッキリ言って、耳から入ってるく言葉の全てが、甘い暴力だ。
だが、これ以上聞きたくない隆臣にむかって、飛鳥は容赦なく語りかけてくる。
「隆ちゃん…コレ…はやく…脱がして…っ」
「……っ」
気持ち悪いのか、そう言って、急かす飛鳥と目が合って、隆臣は、思わず動きをとめた。
まるで、誘っているかのような悩まし気な瞳と、上気した頬。
その姿は、もはや男だと分かって上でも、惑わされてしまうほどだった。
(……これ、マジで、シャレにならねーな)
この酒癖の悪さは、真面目になんとかしないと、取り返しのつかないことになる。
近しい人間(隆臣、双子、侑斗)は、飛鳥の本性を知っているから、大丈夫だが、そうでない人間は、確実に誘われていると思うだろうし
なにより、こんな綺麗な飛鳥に誘われて(本人は誘ってない)理性が持つかどうか……
「……どうし…たの?」
「どうしたのじゃねーよ。お前、これマジでヤバいぞ。しっかりしろ。まず、目覚めたんなら、自分で着替えろ」
「えー…それは…キツイ…っ」
「キツイじゃなくて、やれ。俺だって、男の服を脱がす趣味はねーんだよ」
多少、辛辣なことを言いつつも、これも飛鳥のためと割り切る。
なにより、着替えさせる最中に、あんな変な声まで出すのだ。ハッキリ言って心臓に悪いし、目が覚めたのなら、自分でやってほしい。
だが、その次の瞬間、なぜか飛鳥は、自分の髪を束ねていたリボンを、するりとほどいた。
「?」
ほどけた髪が飛鳥の肩をさらりと流れた瞬間、その予想外の行動に、隆臣は首を傾げる。
「飛鳥? 何して……」
「……これなら…いいよね?」
「え?」
「……だから、男の服脱がすのが嫌なら…女の子だと…思い込んでもらえば…」
「……」
あぁ、つまり、髪をほどいた自分を、女と思い込んで脱がせと?
「バカか! お前、どんだけ、自分で着替えたくないんだよ!? 髪下ろしても、俺にとっては、ただの男だ!」
「えー…そうだけど……でも、俺、そこら辺の女子より可愛いし…その気になれば…」
「ならねーよ!! お前、本当に大丈夫か!?」
なんだか、状況が更に悪化してきた。髪を下ろして、いっそう女っぽく色っぽくなった飛鳥は、かなり目のやり場に困る。
だが、飛鳥は、テコでも自分で着替えたくないようで
(ホント、酔うとたちわりーな……っ)
10年一緒にいて、飛鳥に対して、こんなにもめんどくさいと思ったことはなかった。
いつもなら、なんでもテキパキとこなして、他人に手間をかけさせることがない飛鳥。
それが、酔うと途端に頼りなく、そして、わがままになってしまう。
だが、これも、普段しっかりしている反動なのかと思うと、何とも言えない気持ちになってきた。
初めは、強い奴だと思っていた。
だけど、本当の飛鳥は、その強さの裏に、弱さを隠してた。
本当は、誰よりも、傷つきやすくて、誰よりも、一人を怖がっていて
だけど、頼りたくても、素直に頼れなくて──…
「くしゅ…っ」
「!」
瞬間、飛鳥がくしゃみをした。
寒かったのだろうか?
だが、考えても見れば、脱衣所で40分眠りこけていて、身体はすっかり冷えていた。そのうえ、先ほどシャツを脱がしたから、飛鳥の上半身は今、タンクトップ一枚。
いくら暖房のきいた部屋の中にいるとはいえ、このままでは確実に──風邪をひく。
「あー、もう!」
「わッ!?」
軽く声をあらげると、隆臣は再び、飛鳥の前に乗り出した。
距離が近づき、ちょっとだけ驚いた顔をする飛鳥の服を掴むと、隆臣は改めて忠告する。
「お前が脱がせって言ったんだからな。あとで、後悔するなよ!」
「へ?」
だが、そう言ったが最後、隆臣は、飛鳥の服を捲り上げると、先ほどの躊躇いが嘘のように、あっさり脱がし始めた。
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