神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第2章 誕生日と男子会

第322話 天使とお願い

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「ねぇ。飛鳥さん、今頃どうしてるかな?」

 午後10時を過ぎ、華の部屋で、エレナが髪を乾かしながら、そう言った。

 机に向かっていた華は、その言葉に、ふと兄のことを思い出す。

 兄がでかけたあと、神木家は

 いつもと同じように、夕飯を終え
 いつもと同じように、お風呂に入り
 いつもと同じように、寝る時間になった。

 だけど、いつもと変わらないその生活に、いつもいるはずの人がいないのは、ちょっぴり落ち着かない。

「うーん、どうしてるかなー? また変な酔い方してないといいけど」

「あはは、酔った飛鳥さん、可愛かったね」

「ホント! 男のくせに、女の私より可愛いなんて!」

 昔から美人で、女の子みたいな兄で、人々を魅了しまくってきたが、酔うと更にとんでもない事になる。

 まず、色気が半端ない。
 そして、毒気が一切なくなる。

 さらに、話す言葉が、素直すぎる上に甘すぎる!

 そんなわけで、直視すると周りにいた者は、かなりの深手を負ってしまう。

「飛鳥兄ぃ、なんで、あんなに弱いんだろうー」

「うーん、そう言えば、うちのお母さんもお酒弱かったけど、飛鳥さんほどじゃなかったなー」

「ねー、うちのお父さんも、弱くないしなー」

 エレナがボソリと呟くと、華も自分の父を思いうかべながら、同調する。

 本当に、誰に似たのか?

(うーん、隆臣さんがいるし、大丈夫だとは思うけど、なんだか心配だなー)



 *

 *

 *



 そんなわけで、華も心配している飛鳥サイドですが……

「神木くん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。これ、美味しいねー」

 お酒のグラスを片手に、にこやかに笑う飛鳥。

 そうです!
 全然、大丈夫じゃありませんでした!

(飛鳥、相変わらず、弱ぇな……)

「神木くん、本当に大丈夫ですか? なんか、フラフラしてますけど」

「……ん、大丈夫。武市くん、これもう一杯ちょうだい」

 可愛らしくグラスを差し出す飛鳥に、大河が顔を赤らめ、隆臣が顔を青くする。

 あのあと、料理もできて、みんなで鍋をつつきあいながら、お酒を飲み始めた。

 それから暫くは、大学の話しやら、進路の話しやら真面目な話もしたが、その後、急にスイッチが切れたらしい。

 二時間後には、まさに無防備で素直すぎる、産まれたての子鹿が出来上がっていた。

「飛鳥! お前、もうやめとけ」

「えー……でも、今日は、俺の誕生日祝ってくれてるんでしょ? そんな意地悪言わないでよ」

「……っ」

 弱々しく、とても潤んだ瞳で見つめられ、隆臣は息をつめた。

 見た目が綺麗だからか、こうなると、マジでタチが悪い。

「わかりました! 神木くんが、飲みたいなら、俺いくらでもつぎます!」

「わーい、ありがとう! 武市くん、大好き♡」

「だ、だだだ、大好き!? 橘、聞いた!? 神木くんが俺のこと大好きって!」

「……そうか、よかったな。(大丈夫か、これ?)」

 飛鳥にお酒を注ぎながら、泣き叫ぶ大河を見て、隆臣は不安げに眉をひそめた。

 なぜなら、飛鳥に従順すぎる大河がいるせいで、飛鳥の酔いが、更に回っていくからだ。

「大河。飛鳥マジで酒に弱いんだから、ほどほどにしろよ」

「わかってるよー! それはそうと、今の神木くんなら、何でも聞いてくれそうじゃない?」

「は?」

「だから、日ごろ聞けないこととか、してもらえないこととか、頼めばなんでもしてくれそう!」

「………何でもって」

 その言葉に、隆臣は再び飛鳥を見つめた。

 いつもの威圧感というか、警戒心が全くなくなった飛鳥は、まさに天使だった。

 頬は赤く染まり、熱いからと、第2ボタンまで外したシャツからは、白い肌が見えていた。

 その上、どこか間の抜けた笑顔を浮かべる飛鳥は、確かに、大河の言う通り、何でもしてくれそうではある。

 のだが──

「お前、飛鳥に何させる気だ?」

「だって、こんな機会滅多にないし! 日頃できないことをしてほしい時には、相手の機嫌がいい時に限る、これ鉄則!」

「いや、機嫌がいい時って……」

 機嫌がいいんじゃなくて、酔って、正常な判断がつかなくなってるんだが?

 え? 大丈夫か、コレ?

(いやいや、いくら酔ってるからって、さすがに何でも聞くわけが)

「神木くん! 今から、俺のお願いきいてくれますか!」

「ん、いいよー。なんでも言って?」

「!?」

 だが、飛鳥は、自ら、なんでもなんて言い出した。これには、さすがの隆臣も慌てた。

 だって、男だって知りながら、こんなに飛鳥のことが大好きな大河のお願いだ。

 前だって、女装姿を見たいと言われ、メイド服まで着せられていたのに、次は何を言われるか!もう、嫌な予感しかしない!!

「おい、飛鳥!」
「……わッ!?」

 ──バシャッ!

 だが、隆臣が目を覚まさせようと、飛鳥の肩を掴んだ瞬間、飛鳥が手にしていたグラスが、するりと滑り落ちた。

 そして、それは見ごと飛鳥の服にかかり、着ていた服を、びしょびしょにしてしまった。
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