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第2部 最終章 始と終のリベレーション
第289話 始と終のリベレーション⑭ ~永遠~
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普段より、若干アダルトな表現を含みます。
ご注意ください。
*────────────────*
その日の夜は、全く家事が手につかなかった。
飛鳥を寝かしつけながら、ただ呆然と昼間のことを考えていた。
(どうして、侑斗はお義父さんとのこと、話してくれなかったの?)
父親と血が繋がってないなんて、話しづらいのは分かる。
でも、侑斗のことは、なんでも知っていると思っていたから、そんな大事なことを知らされていなかったのかと思うと、正直辛かった。
それに──
『浮気する気になったら、いつでも出来ちゃうわよ?』
昼間のあの言葉が過ぎって、胸の奥が更に苦しくなった。
確かに、侑斗はよくモテた。
人当たりが良くて、仕事もできるから、会社の女の子たちからも人気みたいだった。
それに対して私は、コンプレックスの塊だった。
容姿には優れていたけど、自信がなかった。
人は人をあっさり裏切るものだと、学生の時に知ってしまったから、また裏切られるのが怖かった。
侑斗が、離れていってしまうのが怖かった。
(どうしよう。もし本当に、浮気とかされたら……っ)
「ただいまー」
すると、夜10時をまわったころ、侑斗が仕事から帰ってきて、私は眠った飛鳥をベビーベッドにそっと下ろしたあと、侑斗の元に向かった。
「侑斗!」
「……?」
帰ってくるなり、まだ靴すら脱いでいない侑斗に抱きついた。そんな私を見て、侑斗は酷く驚いた顔をしていた。
「どうしたんだよ、急に」
「……っ」
顔を見た瞬間、涙が溢れそうになった。だけど
「なにか、あったのか?」
そう言って、心配そうに私を覗きこむ侑斗は、いつも通りの侑斗で、安心したと同時に、なんで隠し事をするのかと、心の中はモヤモヤして仕方なかった。
「ねぇ、侑斗……私に、なにか隠してることない?」
キュッと抱きついたまま、侑斗を見上げて問いただした。だけど侑斗は平然とした様子で
「隠し事? いや、なにも」
「…………」
何もないと──顔色ひとつ変えずに、そう言い放った侑斗を見て、私は益々悲しくなった。
なんで、嘘つくの?
なんで、話してくれないの?
だけど、侑斗はそんな私を抱きしめると
「どうしたんだよ。俺、なにかしたか?」
そう言って、優しい言葉をかけてくれた。
疲れて帰ってきて、早くゆっくりしたいはずなのに、こうして抱きしめてくれる。
やっぱり私は、例え何を知っても、侑斗が好きだとおもった。
それだけは、きっと変わらない。
そんな侑斗に少しだけ安心して、私はまるで猫のように、侑斗の胸に頬をすり寄せた。
「……今日、お義母さんが、きた」
「はぁ!? また、来たのかよ……ったく、もしかして家にあげたのか?」
「だって、玄関あけたら入ってきたんだもの」
「はぁ……次からは居留守使え。関わったら、ロクなことにならないぞ」
「……」
本当に、もう関わりたくないと思った。
お義母さんのことは、初めてあった時から苦手だった。
侑斗との結婚も反対してきたし、しかも反対していた理由が、自分が侑斗に楽させてもらうためだなんて、呆れてものも言えなかった。
「ミサ、とりあえず、家あがらせて」
すると、侑斗がそう言って、私はハッと我に返る。
「あ、ごめん」
「飛鳥は?」
「今、寝たとこ」
「そっか」
その後、玄関先で荷物を預かると、侑斗は洗面所で手を洗ったあと、またリビングに戻ってきた。
洗いたての綺麗な手で、すやすやと眠る飛鳥の頭を撫でる侑斗は、本当にいいお父さんで
(きっと、大丈夫よね?)
大丈夫、大丈夫──そう、何度と言い聞かせた。
夫婦だからって、全て包み隠さず話してるわけじゃない。
それに、例え侑斗の本当の父親が、不倫をして相手の女を妊娠させてしまうような男だったとしても、侑斗は違う。
侑斗は、絶対にそんなことしない。
私のことも、飛鳥のことも、愛してくれてる。
それに、結婚する時、約束してくれた。
『絶対に浮気だけはしない』って。
だから──信じよう。
そう思って、私は、また侑斗に抱きついた。
「ねぇ、侑斗……今夜、一緒に寝たい」
「……?」
眠る飛鳥を見たあと、スーツのジャケットを脱いで、シャツとネクタイを緩めた侑斗に、私は思わず、そう言ってしまった。
別に、お義母さんから言われたからじゃなくて、暫く関係を持てなかったのは確かだったから、無性に心配になってしまった。
まだ、"女として"見てもらえてるか……
「寝てるだろ、毎晩。飛鳥と3人で」
「っ……そういう意味じゃなくて!」
だけど、どこか的はずれな返答が返ってきて、思わず赤くなる。
普段、私から誘うことはないから、ピンとこなかったのかもしれないけど
「あ、あの……だから……最近、してないから……今夜、どうかなと……思って……っ」
なんか今、凄いこと言った気がする。
もう何度と経験してきたし、子供だっているのに、自分から誘うとなると、ものすごく恥ずかしかった。
きっと顔は真っ赤で、羞恥心と"断られたらどうしよう"っていう不安とが混ざりあって、侑斗の顔をまともに見れなかった。
すると、それから暫く沈黙したあと
「はぁ……」
侑斗が、深くため息をついた。
あ、どうしよう。
その瞬間、一気に血の気が引いた。断られるんだと思った。
「あ、ごめん! 侑斗、疲れてるよね。今のは忘れ──!?」
これ以上、疑心暗鬼になりたくなくて、慌てて前言撤回しようとした。だけど、その次の瞬間、私は、なぜか侑斗の腕の中にいた。
「え? 侑……」
「お前、誘うなら、色々すませた後にしろよ」
そう言った侑斗は、さっきとは比べ物にならないくらい余裕のない表情を浮かべていて、断られると思っていた私の体は、そのままリビングのソファーの上に押し倒された。
「え? ちょ……今から!?」
「だって、飛鳥さっき寝たんだろ」
「そうだけど」
「なら……」
飛鳥が起きないうちに──
そうとでも言うように、私を組み敷いた侑斗は、その後、ネクタイをほどきながらキスをする。
熱い舌が絡まって、そのうち反応を確かめるように、ゆっくり首筋を伝って唇が移動すると、そうこうするうちに、侑斗の手が私の服の中に入り込んできた。
「あっ……待って。まだご飯も……食べてないじゃない…っ」
「そんなの後でいい。あんな誘い方されて、我慢できるわけないだろ」
「でも……っ」
「悪いと思ってた」
「……え?」
「ここ最近、お互いに仕事とか育児で、余裕なかったし。ミサいつも眠そうにしてたから、誘うの悪いかなって思ってて……だから、ミサの方から誘ってくれたのが、すごく嬉しい」
「……っ」
どこか、ほっとしたように笑う侑斗は、もう父親の顔ではなくなっていて、それを見たら、もう何も言えなくなった。
なにより私も、その日は、侑斗と愛し合いたかった。
不安な気持ちを、全部、払拭して欲しかった。
「んっ……、」
そのあとは、どちらともなく、またキスをして、私たちは、お互いの隙間を埋め合うように求め合った。
久しぶりの行為は、凄く熱くて、凄く激しかった。
それだけ、我慢させていたのだと思った。
侑斗に触れられる度に、堪えていた声が漏れて、飛鳥が起きないかヒヤヒヤした。
だけど、激しく求められれば求められるほど、安心したのも確かだった。
愛されてると実感した。さっきまでの不安が、少しづつ和らいで、私たちなら、きっと大丈夫だと思った。
(どうか……)
身体の奥で侑斗を感じながら、ずっと思っていた。
どうか
この幸せが、永遠に続きますように
どうか
ずっと侑斗の傍にいられますように
涙で霞む視界で最愛の人を見上げながら
私は、ただそれだけを、願っていた。
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