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第2部 最終章 始と終のリベレーション
第275話 家族と笑顔
しおりを挟む「前に、あかりが来てた時、実はエレナもいたんだよ」
「「はぁ!?」」
その言葉に、双子は、前にあかりが家に来ていた時のことを思い出した。
廊下で、飛鳥とあかりが二人でいるところをたまたま蓮が目撃し、そして、あろうことか、まるで隠すようにして、飛鳥は、あかりを自分の部屋の中に押し込んだのだ。
だが、まさかあの時、エレナも一緒だったなんて
「ほ、本当なの? エレナちゃん」
「う、うん……ごめんなさい。あの時は、挨拶もせずに」
すると、兄のあの時の行動に納得したからか、双子の心には、なわなと別の感情が芽生えてくる。
(だから、あかりさんを、無理やり部屋に押し込んだんだ!)
(だから、家から出ていけっていったんだ!)
あの後、自分たちが、兄とあかりさんの関係について、どれだけ悩んだことか!?
だが、あかりさんの言った通り、やましいことなど一切なかったのだ!
それなのに、自分たちは──
「あ、あの……私たちも、お兄ちゃんとあかりさんに謝らなきゃいけないことが」
「え? 俺とあかりに?」
「う、うん。私たち、あかりさんのこと、デリバリー系のお姉さんだと思ってて……あの、ごめんなさい!!」
「…………」
頭を下げる華と、横でバツの悪そうな顔をする蓮に、飛鳥は更に首を傾げる。
──デリバリー系のお姉さん?
「はぁ!? お前ら、何言ってんの?」
意味が分からず、さらに尋ねれば、双子は、顔を真っ赤にして
「だって、全く紹介してくれないし! 家からは出ていけとか言うし!」
「名前も知らない上に、終わったら、連絡するとか言ってくるし!」
「しかも、彼女ではないって言うじゃん!」
「オマケに、ゴム持参して、あかりさんの家に言ってるみたいなこといってた!!」
「…………」
次々と放たれる言葉に、飛鳥だけでなく、同じくリビングにいる隆臣も硬直する。
すると、双子の言葉に、隆臣も、ふとあることを思い出した。
「……そういえば、飛鳥。お前、この前、あかりさんにお詫び持って行くとか言ってたよな? まさかお前、付き合ってもないのに、あかりさんに……」
「ちょっと、隆ちゃんは黙ってて」
頭の中がこんがらがって、何が何だか分からない。だが、あまり良くない勘違いをされているのは、よくわかった。
あかりを部屋に招いたことで、彼女と勘違いされるかもと、そこまでは想像していた。
だが、テリバリー系のお姉さんって……っ
「ッ──お前ら、どんな勘違いしてんだ!?」
「だから、謝ってるじゃん! まさか、あそこにもう一人いるなんて思わなかったんだもん!」
「だいたい、兄貴だって悪いだろ! カバンの中にゴム常備してるとか言われたら、しょっちゅう使ってるのかと思うじゃん!」
「しょ、しょっちゅう、使う??」
あの時の『ゴム』って、そっちの意味か!?
飛鳥は顔を真っ青にする。
あかりに傘を返しに行く日の朝。飛鳥は、蓮に『ゴム忘れないようにね』などと言われた。
飛鳥はそれを『髪ゴム』のつもりで『カバンにいくつか常備している』などと答えたのだが
「あのさ、俺が言ってたのは、髪くくるゴムのこと!! だいたい、デリバリーとか、俺はともかく、あかりに失礼すぎるだろ!」
「わかってるよ! だから、今度あかりさんに会った時に、しっかり謝る!!」
「謝らなくていい! 墓場まで持ってけ!!」
謝るって何?!
直接本人に『兄がデリバリーしたお姉さんだとおもってました、ごめんなさい』とでも言うつもりか!?
絶対、やめて欲しい!!
「……あの、飛鳥さん、デリバリーってなに?」
「ピザのことだと思うよ?」
すると、突然エレナが声を上げて、飛鳥は苦笑いではぐらかす。
こんな純心無垢な小学生の前で、なんて話をしているんだろう。少しだけ、エレナをこの家に連れてきたことを後悔した。
「とにかく、何度も言うけど、あかりはただの友達! それ以下でも、それ以上でもないよ! もう、変な勘違いするなよ」
(ただの友達ねぇ)
(それだけは、どうしても信じきれない)
だが、どうみても、"ただの"ではないだろうに、かなくなにそう言い張る兄に、双子は眉を顰める。
今日、あかりさんが自分の親に傷つけられそうになってどう思ったのだろう。
腕を怪我してまで守り抜いたのは、本当に「ただの友達」それだけの理由なのか?
だが、ここで蒸し返せば、また喧嘩になりかねない。そう思うと、双子はぐっと言葉を飲み込んだ。
すると……
「話は、まとまったか?」
一段落着いたらしい三人をみて、隆臣が口を挟む。
「あぁ、隆ちゃん、今日はありがとね」
「ちょっと! まだ、話はまとまってないよ!?」
「え? 今度は何?」
「エレナちゃんの部屋のこと。私に気を使ってるのかもしれないけど、お兄ちゃんと同じ部屋とか絶ーーー対ダメ!! 小学生でも、女の子には色々あるんだからね! エレナちゃんは、私の部屋! 意義は認めない!!」
「……まぁ、華がいいなら、その方が助かるけど」
すごい剣幕でまくし立てる華に、飛鳥がおずおずと答える。
すると、そのやりとりを呆然と見ていたエレナに、今度は蓮が尋ねる。
「エレナちゃんは、華と一緒でも大丈夫?」
「あ、はい……私は、大丈夫です」
「本当に?」
「え?」
「なんだか、泣きそうだから」
「あ、ごめんなさい……違うんです、これは……っ」
そう言って、俯いたエレナは
「なんだか急に、お兄ちゃんとお姉ちゃんが、いっぱいできたみたいで…………嬉しくて」
そう言うエレナは、恥ずかしそうに頬を染めていて、そんなエレナを見て、横で騒いでいた飛鳥と華は、優しく笑みを浮かべた。
「……まぁ、かなり複雑な関係ではあるけど。これで、俺たち、四人兄妹弟ってことになるのかな?」
「慣れないうちは大変だと思うけど、困ったことがあったら、なんでも言ってね!」
「まぁ、なんだかんだ、いつもくだらないことで騒いでる兄妹弟だから、エレナちゃんも、気を抜いて接してくれたらいいよ」
飛鳥、華、蓮と、順番にエレナに語りかければ、エレナは「はい」と小さく返事をした。すると、全てがまとまったからか、華が
「それより、お腹すいてるよね? シチュー作ってあるから、みんなで食べよう。隆臣さんも、食べていってね!」
「あぁ、ありがとう」
「そうだ! もう隆臣さんも混ざって、五人兄妹弟とかになればいいのに。隆臣さん、頼りになるし」
「それは、勘弁してくれ。俺は飛鳥と兄弟にはなりたくない」
「いや、それどういう意味!」
「お前の寝姿、最悪なんだよ」
「え? 俺、寝相は、あまり悪くないはずなんだけど?」
(うん。寝相は悪くないけど……)
(無駄に色っぽいすぎるんだよな、兄貴は……)
こころなしか、隆臣が嫌だと言った気持ちも分からなくはない。
この美人すぎる兄と一緒に暮らすのは、いろんな意味で大変だから。
まぁ、エレナちゃんも、いずれ変わってくるだろうが……
「ふふ……っ」
すると、エレナが小さく笑い声を発した。まるで、堪えきれなくなったかのような、か細い笑い声。
「あ、ごめんなさい」
「うんん、笑いたくなったら、素直に笑えばいいよ。エレナが笑ってくれた方が、俺達も嬉しいから」
そう言って、飛鳥がエレナの頭を撫でると、その手に、その温もりに、エレナの胸はいっぱいになる。
「うん……私、見た目しか取り柄がなくて、迷惑いっぱいかけるかもしれないけど……これから、よろしくお願いします……っ」
涙ながらに、そういって、朗らかに笑ったエレナを見て、その場にいた全員が、ほっとしたように微笑んだ。
なぜなら、そのエレナの笑顔は、とてもとても、子供らしいものに見えたから──
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