神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第16章 コスプレと橘家

第227話 男の娘と息子

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「ただいまー。隆臣、お友達きてるの?」

 飛鳥が隆臣を引き寄せた瞬間、タイミング悪くリビングにやってきたのは、買い物から帰宅した美里だった。

 しかも、その美里の目にとびこんできたのは、自分の息子が、姿を押し倒している姿!

 オマケに、そのメイド服は肌けていて、二人の距離は、今にもキス出来そうなくらい近かった。

 そう、これは見るからに、あやしい現場だ!

「た……たかおみ?」

 その瞬間、声を震わせた美里は、手にしていた荷物を、ドサッと床に落とした。そして

「こ、こんなところで、なにしてるの!?」
「や、これは……!」

 あろうことか、メイド服の美少女を押し倒しているところを母親に目撃され、隆臣の事態は最悪と化した。しかも

「そ、そういうことは、せめて部屋でしなさい!──って、その子、もしかして、飛鳥くん?」

 そう、しかも、その女の子が飛鳥だと気づいたらしい。美里は、顔を真っ青にし狼狽する。

「そ、そんな! 飛鳥くんを押し倒すなんて。私、お父さんに、なんて報告すればいいか!」

「ちょっと待て! なにを、どう親父に報告する気なんだ!?」

 目前の光景に動揺し、口元をワナワナと震わる美里に、今度は隆臣は慌てふためく。

 ちなみに、隆臣の父親・橘 昌樹まさきは、警視庁捜査一課の警部だ。

 なにを勘違いしているのかは知らないが、その父に、このことが伝わるのは、絶対に避けたい!

 ていうか、本当に、どんな勘違いをしてるんだ!?

「あのさ、俺は……ッ」

「いいのよ、隆臣。もう、この際だから、はっきりさせましょう」

「は?」

「そりゃ、うちは一人息子だし、色々と思うところはあるけど……それでも、親としては、ちゃんと理解してあげたいとも思うの」

「り、理解……?」

「えぇ……だって飛鳥くん、昔からすごく可愛いかったし、いくら男の子だっていっても、こんなに可愛くて綺麗な子が側にいたら、ほかの女の子なんて霞んじゃうでしょ?」

「…………」

「前の彼女とも『飛鳥くんが原因で別れた』っていってたし。あなたたち、いつも一緒にいるし。正直、飛鳥くんが相手なら、隆臣が好きになってもおかしくないんじゃないかって……っ」

「…………」

 必死に理解を示そうとする母に、隆臣は滝のような汗を流した。

 いや、親として、子に理解を示すのは、とても良いことだ。

 だが、昔からちょっと天然なこの母は、思い込むと手がつけられないところがあった。

 これは確実に、自分と飛鳥が男同士でそういう……

「あ、ほどけた」
「!」

 するとその瞬間、隆臣の下から、飛鳥の声が響いた。

 どうやら、からまっていた髪がほどけたらしい。
 飛鳥は隆臣のシャツから手を離すと

「隆ちゃん。もう、離れていいよ」

「え、あ、あぁ……」

 内心穏やかじゃない隆臣とは対照的に、いつもの落ち着いたトーンの飛鳥。

 やっとのこと解放され、二人同時に起き上がると、飛鳥はその後、美里ににこやかに声をかけ始めた。

「美里さん、お邪魔してます。あと、なにか勘違いしてるみたいだけど、俺が転んで隆ちゃんを巻き込んじゃっただけだぬ。美里さんが考えてるようなことは、何もないから、心配しないで」

「え? そうなの? でも、どう見ても隆臣が飛鳥くんを、押し倒して……」

「違う、違う。距離が近かったのも髪が絡まっただけだし……てか、さっきから地味に俺の心、エグるのやめて欲しいな?」

 『好きになってもおかしくない』とか『飛鳥くんが原因で別れた』とか、いくら自分の容姿が女の子みたいとはいえ、何故こんな流れ弾を浴びなくてはならないのか?

 だが、その後、美里はほっとした表情を浮かべると

「そうだったのね。ごめんね。おばさん、ちょっとびっくりしちゃって!」

 どうやら誤解が解けたらしい。
 そう言った美里をみて、隆臣もホッと息をついた。

 確かに、警察官の息子が、友人の男にメイド服を着せて押し倒していれば、びっくりもするだろう。

 だが、なんだかんだ飛鳥が機転を効かせてくれたおかげで、最悪の事態は間逃れたようだった。

(助かった……)

「でも、どうして飛鳥くんは、メイド服なんて着てるの?」

「「………………」」

 だが、その後、美里から思わぬことを突っ込まれて、飛鳥と隆臣は同時に絶句する。

 そう、もとはといえば、飛鳥がこんな格好をしているから、勘違いをしたわけだ。

 だが、男が、男だけのこの状況で、メイド服を着るとは、果たしてなにがあるだろうか?

 飛鳥と隆臣は、苦笑いを浮かべつつ、弁解の言葉を探る。すると──

「えーと……隆ちゃんと武市くんが、嫌がる俺に無理矢理……っ」

「お前は、俺を助けたいのか、おとしいれたいのか、どっちなんだ?」

 結局、正当な理由など見つからず、飛鳥にあっさり手の平を返された隆臣は、なんとも言えない複雑な心境になったのだった。
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