神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
232 / 508
第15章 オーディション

第216話 問題と解決策

しおりを挟む

「さて──」

 その後、気を取り直すと、飛鳥は、再びデスクのイスに腰掛け、ベッドに座るエレナとあかりを見つめた。

 とりあえず、一通りの話をし、エレナの気持ちを落ち着かせたはいいが……

(問題は、オーディションをどうするかだな?)

 飛鳥は顎に手を当て、ふむと考え込む。

 オーディションの開始時刻は、午後1時。
 受けよう思えば、受けられなくはないのだが……

「ねぇ、エレナちゃん。そういえば、携帯はどうしたの?」

 すると、飛鳥が悩む側で、今度は、あかりがエレナに問いかけた。確かに、携帯をもっているかは、気になる所。すると、エレナは、少しだけ不安そうな顔をしたあと

「携帯は……事務所から電話くると思ったら、怖くなって……家に、置いてきちゃった……っ」

 どうやら、エレナは、家に鍵だけかけて、何も持たず出てきたらしい。

 まぁ、担当が迎えにくるのに、無断ですっぽかしたのだ。気持ちは分からなくはない。

「そうなんだ」

「う、うん。どうしよう……やっぱり、もうお母さんに、連絡いってるかな?」

 最悪な事態が脳裏に過ぎり、エレナが声を震わせた。

 そして、その姿を見て、飛鳥は再び考え込む。

 確かに今日のオーディション、受けよう思えば受けられなくはなかった。

 だが、どのみち、こんな泣き腫らした顔で受けても結果は見えてるし、なによりも今のエレナに、オーディションを受けるだけの精神的余裕はない。

「まぁ……担当と待ち会わせていた時刻から、しばらくたつし、連絡もつかずに、いきなりいなくなったら、まずは母親に連絡するだろうね」

「そ、そうだよね……!」

「ちょっと、神木さん! なにも、そんなに、はっきり言わなくても……っ」

「そんなこと言ったって、そうなるのは目に見えてるだろ? もし、あの人に連絡がいってるとしたら、今頃エレナを探し回っててもおかしくないよ」

 大体、それを見越して、わざわざこの家で匿っているわけで……

 だが、実際に今、事務所がどのような対応をとっているのか、携帯もなく情報も手に入らないこの状況では、まさに八方塞がりだった。

 それに、あまり時間をかけると、警察沙汰になる可能性もある。

 まぁ、最悪、誘拐で警察沙汰になったとしても、捜査一課には知り合いがいるので、なんとかなりそうではあるが……

「どうしよう……今頃、狭山さん、困ってるのかな?」

「え?」

 すると、エレナがポツリと呟き、飛鳥が反応する。

「サヤマ?」

「うん。私のモデル事務所の担当さん。今日、迎えに来てくれるはずだったの」

 迷惑をかけてしまった……と、エレナは申し訳なさそうに呟く。だが、飛鳥には、その『サヤマ』というモデル事務所の社員に、一人だけ覚えがあった。

「あのさ。そのサヤマさんって、もしかして、下の名前『まこと』だったりする?」

「え?……うん。確か、そんな名前」

「そう。……えーと、どこにやったかな?」

「「?」」

 すると、飛鳥は一度デスクに向き直ると、引き出しを開け、その中を漁り始めた。

 エレナとあかりが、何事かと首を傾げると、それから暫くして、目的の物をみつけたらしい。

 飛鳥は、引き出しの奥にしまっていた小さな箱の中から『名刺』を一枚取り出した。

「もしかして、エレナの担当って、この人?」

「え?」

 差し出された名刺には『狭山 誠』と書かれた名前と顔写真、そして、今エレナが所属しているモデル事務所の名前が印字されていた。エレナは、それを見ると

「う、うん! そう、狭山さん!! でも、なんで、飛鳥さんが、狭山さんの名刺持ってるの?!」

「去年のクリスマスに、このお兄さんに、スカウトされたんだよ。まぁ、スカウトは断ったけど、その後ちょっとした知り合いになって……そっか、狭山さんね」

 飛鳥が、手にした名刺を再び確認すると、その名刺には、事務所の電話番号と一緒に、携帯の番号も記されていた。

 飛鳥はそれを見て、机の上に置いていた自分のスマホを手に取ると

「もしかしたら、なんとかなるかもしれないよ?」


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...