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第15章 オーディション
第212話 母と妹
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「あの人は、俺の母親でもあるから──」
その言葉と同時に、辺りはシンと静まり返った。
時刻は10時半を回り、時計の音だけが静かに響く中、エレナとあかりは、微動だにせず飛鳥を見つめていた。
無理もない。いきなり、こんなことを告げられたら、どんな反応をすればいいのか、わからなくもなる。
「……っ」
「えぇ!?」
だが、そんな中、あかりが驚くような声をあげた。
深刻だった場の空気が途絶え、飛鳥とエレナが同時にあかりを見つめると、不意に出てしまった声を恥じらい、あかりは自分の口元を押さえた。
「あ、ごめんなさい。その……続けてください」
「てか、なんで、お前が驚くの?」
「あ……それは……っ」
飛鳥の言葉に、あかりは、バツが悪そうに顔をそむけた。
あかりとて、二人(飛鳥とミサ)に何かしらの関りがあるのは気づいていた。
だが、この状況を理解するには、幾分か情報が足りな過ぎる。
「あの……一つ、聞いても良いですか?」
「……なに?」
「その、つまり今のは……ミサさんが、神木さんのお母さん……ってことですよね?」
「…………」
恐る恐る問いかけるあかりの言葉に、飛鳥は沈黙する。
「お母さん」と言ったあかりの言葉が、ひどく重く感じた。
だが、どんなに否定したくても、それは紛れもない事実で──
「まぁ……そう言うことだよ」
「あの、ミサさんて、いくつなんですか?」
「は?」
だが、あまりに的はずれなことを聞かれ、今度は飛鳥が困惑する。
今、年齢とか関係あるか?
ていうか、あの人、今いくつだ?
遠い記憶になりすぎて、年齢がはっきりとわからない。
「ね、年齢って言われても……っ」
「41歳だよ」
すると、悩む飛鳥に助け船を出すように、エレナがミサの年齢を告げた。
「41? じゃぁ、神木さんは、21歳の時の……」
すると、どうやら納得したらしい。
あかりは、再び飛鳥を見つめると、申し訳なさそうに謝罪の言葉を投げかけた。
「あの、すみません。私てっきり、まだ30代前半の方だと思ってて……まさか、こんなに大きなお子さんがいるなんて、思わなくて……っ」
「…………」
30代前半!?
流石の飛鳥も、その返答には顔を引きつらせた。
前に公園で見かけたときも、40代には見えなかったが、まさか10歳近く若く見られているとは!
だが、確かに30前半だと思ってた人に、いきなり20歳の息子が現れれば、驚くのも無理はない。
(てか、あの人……どんだけ若く見られてんの?)
自分だって、未だに高校生に間違えられるため、人のことは言えない。
だが、まさか実年令より若く見られるところも似ているなんて、何故か、予期せぬところで血のつながりを感じてしまい、飛鳥の複雑な心境になる。
だが、ここで親子だと信じてもらえなければ、話もすすまない。
「はぁ……まぁ、顔見れば分かるとは思うけど、信じられないなら、母子手帳あるよ? 名前が『神木ミサ』って書いてある」
「あ、別に疑ってるわけでは! ただ」
「お兄さんのお母さんって、亡くなってるんじゃないの?」
すると、今度はエレナが、飛鳥に問いかけた。
飛鳥は、エレナと初めてあった時、エレナに
『お兄さんのお母さんて、どんな人?』
と聞かれた。
あの時は、まさか目の前の少女が、自分と血のつながりがある子だなんて思いもせず、飛鳥は素直に自分の『母親』である『ゆり』のことを話したのだが──
「……あーそっか。ごめん。それは、育ての母親の方だよ。俺の父親、あの人と……君の母親と別れた後、再婚したから」
「再婚?」
「うん。だから、さっきの双子の妹弟も、その再婚相手の子供で、俺とは『母親違いの妹弟』だよ」
「…………」
ゆりの事を思い出しながら、飛鳥が事の真相を話すと、エレナはそんな飛鳥の話を黙って聞いていた。
エレナなりに、必死に理解しようとしているのだろう。
スカートをぎっと握りしめたまま、ただひたすら、飛鳥の話に集中しているのが分かる。
「ごめんね。急にこんな話して、俺も前にあった時は知らなくて……」
「あの、じゃぁ、お兄さんは……」
飛鳥を見上げ、エレナが再び問いかける。
だが、どうやら戸惑っているのか、その先の言葉を口にするのを躊躇しているようだった。
母親が同じなのだ。
いくら小学生でも、自分たちがどんな関係なのかくらい、自ずと理解できるだろう。
飛鳥はそんなエレナの気持ちをくむと、その場から立ち上がり、エレナの前に膝をつきくと、まっすぐにエレナを見つめた。
「……そうだよ」
「え?」
「父親は違うけど、俺と君はあの人の……紺野ミサの子供で──正真正銘、血のつながった"兄妹"だよ」
「……っ」
兄妹──そう告げた瞬間、エレナが息を詰める。
正直、少し酷なことをしていると思った。
オーディションの事でいっぱいいっぱいな今のエレナに、いきなり『異父兄妹』だと伝えるなんて──
「……驚かないの?」
「…………」
だが、案外賢い子なのか、思いのほか冷静なエレナを見て、飛鳥が問う。
すると、エレナは
「驚い……てるよ……っ」
そう、小さく声を発したあと、キュッと唇を噛み締めた。
それが意味するものが、受諾なのか、拒絶なのか全く検討もつかないまま、飛鳥はその先の言葉を静かに待つ。
「ねぇ、お兄さん…」
「ん?」
「その……名前、なんていうの? 神木……」
「あー、ちゃんと話してなかったね。飛鳥だよ。飛ぶ鳥で『飛鳥』」
「そ、そっか……」
改めて名前を聞くと、エレナは、また黙り込んだ。
考えてみれば、まともに自己紹介すらせず、話してしまった。
飛鳥はエレナのことを、あかりづてに聞いていても、エレナは、まだ飛鳥の苗字しか知らず、エレナにとって飛鳥は『仲のいいお姉さんが通っている大学の先輩』くらい認識だったのだろう。
そんな人間が、いきなり『兄』と名乗るわけだ。
そう簡単に、心の整理がつくはずがない。
「あのね、私のお母さん……いつも大事に持ち歩いてる『写真』があってね」
「……え?」
だが、暫くの沈黙を経た後、エレナがまたぽつりぽつりと話し始めた。
「その写真にはね、お母さんと一緒に、男の人と赤ちゃんが写ってて、初めて見た時には、その男の人が私のお父さんで、その赤ちゃんは私なのかなって思った」
「………」
「でも、よく見たら、その赤ちゃんの目の色、私とは違って青い色してたから、その男の人は、私のお父さんじゃなくて、お母さんの前の旦那さんなんだって気づいた」
写真に纏わる話をするエレナの顔は、とても寂しそうだった。
そして、飛鳥は、その写真に覚えがあった。
あの人に、再会したあの日の夜、クローゼットの中から取り出した缶ケースにしまっていたあの写真。
きっと、エレナが話しているのは、自分が幼い頃、3人で撮った、あの写真だと思った。
「でも、その赤ちゃんが私じゃないって分かった時に、もしかしたら、この世界のどこかに、兄妹がいるかもしれないって思ったの」
「え?」
「会えるなら会ってみたいって、ずっと思ってた。でも、お母さんは、赤ちゃんの名前も性別も、生きてるのか死んでるのかも全く教えてくれなくて……でも、前に飛鳥さんにあった時、飛鳥さんが、お母さんにそっくりだったから『もしかしたら』って思ったの……っ」
「……」
「そっか…じゃぁ、やっぱり飛鳥さんが……私の……"お兄ちゃん"だったんだ……っ」
「……っ」
その言葉に、飛鳥は目を見開いた。
さっきまで、寂しそうだったエレナの表情は、涙を浮かべてはいたが、どこか嬉しそうにも見えて……
きっと、あの日
『お兄さんのお母さんって、どんな人?』
エレナが問いかけたあの言葉には、色々な期待が込められていたのかもしれない。
どこにいるのか、生きているか、死んでいるかすら分からない、自分の兄妹。
だけど、そのエレナの気持ちは、なんとなくだけどわかる気がした。
自分も幼い頃、ひどく兄妹に憧れたことがあった。
独り閉じ込められた部屋の中で、誰もいない場所に話しかけては、来るはずのない返事をまっていた。
そんな独りきりの時間が、あまりにも耐え難くて、兄妹がいれば、この寂しさも少しは紛れるかもしれないと思った。
自分が「いるはずもない兄妹」に憧れたくらいだ。
エレナが「いるかもしれない兄妹」を思うのは、当然のことだったのかもしれない。
(お兄ちゃん……か)
目の前で、今にも泣きだしそうなエレナをみて、飛鳥は思いのほか、ホッとしていた。
まだ、実感は薄いだろうけど
それでも一応
"兄"として、認めてくれた気がしたから──
「でも、なんでそんなこと、話してくれたの?」
「…………」
すると、再び声を掛けられ、飛鳥が顔を上げた。
泣き出しそうなエレナは、あかりにハンカチを差し出されていて、エレナは、そのハンカチで涙を拭いながら、再び問いかけてきた。
そして、その言葉を聞いて、飛鳥は思う。
今、話さなければ、このまま何事もなく過ごせたのかもしれない。
エレナのことは、まだ誰も知らない。
誰にも話してない。
父にも、華にも、蓮にも──
なら、このまま打ち明けず、自分の胸に閉まってさえおけば、もう「あの人」に関わることもないはずなのに……
「俺も……同じだから」
「え?」
「俺も昔、モデルをしてたことがある。子供の時に──」
「……っ」
打ち明けたと同時に、あかりとエレナが同時に息をのんだ。
瞠目する二人の表情と、自分の言葉に反応してか、記憶の底から、あの頃の思い出したくもない出来事が、一気に蘇ってくる。
────あぁ、重い。
でも……
「ここから先は、かなり辛い話になるけど……俺の昔話、聞いてくれる?」
その言葉と同時に、辺りはシンと静まり返った。
時刻は10時半を回り、時計の音だけが静かに響く中、エレナとあかりは、微動だにせず飛鳥を見つめていた。
無理もない。いきなり、こんなことを告げられたら、どんな反応をすればいいのか、わからなくもなる。
「……っ」
「えぇ!?」
だが、そんな中、あかりが驚くような声をあげた。
深刻だった場の空気が途絶え、飛鳥とエレナが同時にあかりを見つめると、不意に出てしまった声を恥じらい、あかりは自分の口元を押さえた。
「あ、ごめんなさい。その……続けてください」
「てか、なんで、お前が驚くの?」
「あ……それは……っ」
飛鳥の言葉に、あかりは、バツが悪そうに顔をそむけた。
あかりとて、二人(飛鳥とミサ)に何かしらの関りがあるのは気づいていた。
だが、この状況を理解するには、幾分か情報が足りな過ぎる。
「あの……一つ、聞いても良いですか?」
「……なに?」
「その、つまり今のは……ミサさんが、神木さんのお母さん……ってことですよね?」
「…………」
恐る恐る問いかけるあかりの言葉に、飛鳥は沈黙する。
「お母さん」と言ったあかりの言葉が、ひどく重く感じた。
だが、どんなに否定したくても、それは紛れもない事実で──
「まぁ……そう言うことだよ」
「あの、ミサさんて、いくつなんですか?」
「は?」
だが、あまりに的はずれなことを聞かれ、今度は飛鳥が困惑する。
今、年齢とか関係あるか?
ていうか、あの人、今いくつだ?
遠い記憶になりすぎて、年齢がはっきりとわからない。
「ね、年齢って言われても……っ」
「41歳だよ」
すると、悩む飛鳥に助け船を出すように、エレナがミサの年齢を告げた。
「41? じゃぁ、神木さんは、21歳の時の……」
すると、どうやら納得したらしい。
あかりは、再び飛鳥を見つめると、申し訳なさそうに謝罪の言葉を投げかけた。
「あの、すみません。私てっきり、まだ30代前半の方だと思ってて……まさか、こんなに大きなお子さんがいるなんて、思わなくて……っ」
「…………」
30代前半!?
流石の飛鳥も、その返答には顔を引きつらせた。
前に公園で見かけたときも、40代には見えなかったが、まさか10歳近く若く見られているとは!
だが、確かに30前半だと思ってた人に、いきなり20歳の息子が現れれば、驚くのも無理はない。
(てか、あの人……どんだけ若く見られてんの?)
自分だって、未だに高校生に間違えられるため、人のことは言えない。
だが、まさか実年令より若く見られるところも似ているなんて、何故か、予期せぬところで血のつながりを感じてしまい、飛鳥の複雑な心境になる。
だが、ここで親子だと信じてもらえなければ、話もすすまない。
「はぁ……まぁ、顔見れば分かるとは思うけど、信じられないなら、母子手帳あるよ? 名前が『神木ミサ』って書いてある」
「あ、別に疑ってるわけでは! ただ」
「お兄さんのお母さんって、亡くなってるんじゃないの?」
すると、今度はエレナが、飛鳥に問いかけた。
飛鳥は、エレナと初めてあった時、エレナに
『お兄さんのお母さんて、どんな人?』
と聞かれた。
あの時は、まさか目の前の少女が、自分と血のつながりがある子だなんて思いもせず、飛鳥は素直に自分の『母親』である『ゆり』のことを話したのだが──
「……あーそっか。ごめん。それは、育ての母親の方だよ。俺の父親、あの人と……君の母親と別れた後、再婚したから」
「再婚?」
「うん。だから、さっきの双子の妹弟も、その再婚相手の子供で、俺とは『母親違いの妹弟』だよ」
「…………」
ゆりの事を思い出しながら、飛鳥が事の真相を話すと、エレナはそんな飛鳥の話を黙って聞いていた。
エレナなりに、必死に理解しようとしているのだろう。
スカートをぎっと握りしめたまま、ただひたすら、飛鳥の話に集中しているのが分かる。
「ごめんね。急にこんな話して、俺も前にあった時は知らなくて……」
「あの、じゃぁ、お兄さんは……」
飛鳥を見上げ、エレナが再び問いかける。
だが、どうやら戸惑っているのか、その先の言葉を口にするのを躊躇しているようだった。
母親が同じなのだ。
いくら小学生でも、自分たちがどんな関係なのかくらい、自ずと理解できるだろう。
飛鳥はそんなエレナの気持ちをくむと、その場から立ち上がり、エレナの前に膝をつきくと、まっすぐにエレナを見つめた。
「……そうだよ」
「え?」
「父親は違うけど、俺と君はあの人の……紺野ミサの子供で──正真正銘、血のつながった"兄妹"だよ」
「……っ」
兄妹──そう告げた瞬間、エレナが息を詰める。
正直、少し酷なことをしていると思った。
オーディションの事でいっぱいいっぱいな今のエレナに、いきなり『異父兄妹』だと伝えるなんて──
「……驚かないの?」
「…………」
だが、案外賢い子なのか、思いのほか冷静なエレナを見て、飛鳥が問う。
すると、エレナは
「驚い……てるよ……っ」
そう、小さく声を発したあと、キュッと唇を噛み締めた。
それが意味するものが、受諾なのか、拒絶なのか全く検討もつかないまま、飛鳥はその先の言葉を静かに待つ。
「ねぇ、お兄さん…」
「ん?」
「その……名前、なんていうの? 神木……」
「あー、ちゃんと話してなかったね。飛鳥だよ。飛ぶ鳥で『飛鳥』」
「そ、そっか……」
改めて名前を聞くと、エレナは、また黙り込んだ。
考えてみれば、まともに自己紹介すらせず、話してしまった。
飛鳥はエレナのことを、あかりづてに聞いていても、エレナは、まだ飛鳥の苗字しか知らず、エレナにとって飛鳥は『仲のいいお姉さんが通っている大学の先輩』くらい認識だったのだろう。
そんな人間が、いきなり『兄』と名乗るわけだ。
そう簡単に、心の整理がつくはずがない。
「あのね、私のお母さん……いつも大事に持ち歩いてる『写真』があってね」
「……え?」
だが、暫くの沈黙を経た後、エレナがまたぽつりぽつりと話し始めた。
「その写真にはね、お母さんと一緒に、男の人と赤ちゃんが写ってて、初めて見た時には、その男の人が私のお父さんで、その赤ちゃんは私なのかなって思った」
「………」
「でも、よく見たら、その赤ちゃんの目の色、私とは違って青い色してたから、その男の人は、私のお父さんじゃなくて、お母さんの前の旦那さんなんだって気づいた」
写真に纏わる話をするエレナの顔は、とても寂しそうだった。
そして、飛鳥は、その写真に覚えがあった。
あの人に、再会したあの日の夜、クローゼットの中から取り出した缶ケースにしまっていたあの写真。
きっと、エレナが話しているのは、自分が幼い頃、3人で撮った、あの写真だと思った。
「でも、その赤ちゃんが私じゃないって分かった時に、もしかしたら、この世界のどこかに、兄妹がいるかもしれないって思ったの」
「え?」
「会えるなら会ってみたいって、ずっと思ってた。でも、お母さんは、赤ちゃんの名前も性別も、生きてるのか死んでるのかも全く教えてくれなくて……でも、前に飛鳥さんにあった時、飛鳥さんが、お母さんにそっくりだったから『もしかしたら』って思ったの……っ」
「……」
「そっか…じゃぁ、やっぱり飛鳥さんが……私の……"お兄ちゃん"だったんだ……っ」
「……っ」
その言葉に、飛鳥は目を見開いた。
さっきまで、寂しそうだったエレナの表情は、涙を浮かべてはいたが、どこか嬉しそうにも見えて……
きっと、あの日
『お兄さんのお母さんって、どんな人?』
エレナが問いかけたあの言葉には、色々な期待が込められていたのかもしれない。
どこにいるのか、生きているか、死んでいるかすら分からない、自分の兄妹。
だけど、そのエレナの気持ちは、なんとなくだけどわかる気がした。
自分も幼い頃、ひどく兄妹に憧れたことがあった。
独り閉じ込められた部屋の中で、誰もいない場所に話しかけては、来るはずのない返事をまっていた。
そんな独りきりの時間が、あまりにも耐え難くて、兄妹がいれば、この寂しさも少しは紛れるかもしれないと思った。
自分が「いるはずもない兄妹」に憧れたくらいだ。
エレナが「いるかもしれない兄妹」を思うのは、当然のことだったのかもしれない。
(お兄ちゃん……か)
目の前で、今にも泣きだしそうなエレナをみて、飛鳥は思いのほか、ホッとしていた。
まだ、実感は薄いだろうけど
それでも一応
"兄"として、認めてくれた気がしたから──
「でも、なんでそんなこと、話してくれたの?」
「…………」
すると、再び声を掛けられ、飛鳥が顔を上げた。
泣き出しそうなエレナは、あかりにハンカチを差し出されていて、エレナは、そのハンカチで涙を拭いながら、再び問いかけてきた。
そして、その言葉を聞いて、飛鳥は思う。
今、話さなければ、このまま何事もなく過ごせたのかもしれない。
エレナのことは、まだ誰も知らない。
誰にも話してない。
父にも、華にも、蓮にも──
なら、このまま打ち明けず、自分の胸に閉まってさえおけば、もう「あの人」に関わることもないはずなのに……
「俺も……同じだから」
「え?」
「俺も昔、モデルをしてたことがある。子供の時に──」
「……っ」
打ち明けたと同時に、あかりとエレナが同時に息をのんだ。
瞠目する二人の表情と、自分の言葉に反応してか、記憶の底から、あの頃の思い出したくもない出来事が、一気に蘇ってくる。
────あぁ、重い。
でも……
「ここから先は、かなり辛い話になるけど……俺の昔話、聞いてくれる?」
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