神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第15章 オーディション

第202話 喫茶店とコスプレ

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 夏休みが終わり、今日から9月に入った。

 華と蓮は二学期がはじまり、朝、眠い目をこすりながら高校に向かい。一方、飛鳥は、10日頃までは、まだ夏休みのため、今日は隆臣と大河に呼び出され、喫茶店にむかっていた。

 暦の上では秋だが、まだまだ日差しは強い。

 飛鳥は、ふと足を止めると、自身の髪に触れた。

 細くて長いその髪は、光に反射すればキラキラと輝き、相変わらず綺麗な色をしていた。

 だが、暑い時は、この髪が、たまに鬱陶しく感じる。

 だけど、切ろうにも、なかなか切る決心がつかないのは、自分の中で、まだ『克服』出来た実感がないから。

(……いっそ、バッサリ切れば)

 気持ちも変わるのだろうか──?

 数ヶ月前に遭遇した『自分の産みの親』の事を思い出し、飛鳥は考える。

 目にしたのは、ほんの少しの間だけ。

 でも、あの人の醸し出す雰囲気は、あの頃と何も変わらなかった。

 あの冷たい瞳も、あの髪の長さも、あの声も。

 変わったとしたら、少し、年老いたことと

 自分の身長が

 あの人より、高くなったこと──




 ◇◇◇



 カランカラン……!

 喫茶店につくと、扉を開け中に入った。

 ベルが鳴ると、顔見知りの店員が「いらっしゃいませー」と声をかけてきて、飛鳥は軽く挨拶をする。

 平日の昼下がり。

 お昼を過ぎた喫茶店の中は、客も少なく、落ち着いていた。

 暑いなか歩いてきたからか、少し汗ばんだ体に、店内のクーラーがひんやりと心地よい。

 飛鳥は、そのまま店内を広く見回したあと、隆臣と大河を見つけると、席へと移動する。

 いつもは、パーティーションで仕切られた奥の席だが、今日は空いてなかったのか、珍しく窓際の席だった。

 外からはまる見えだが、景色を眺めるにはいい席。

「お待たせ!」

 いつも通りにこやかに声をかけると、飛鳥は、4人がけのテーブルで大河と向かい合わせに座っていた、隆臣の横に腰掛けた。

 その後、通りすがりの店員にアイスコーヒーを一つ頼むと、待ってましたと言わんばかりに大河が飛鳥に話しかける。

「神木くん! 今日は大事な話があって!」

「大事な話?」

 突然呼び出され、半信半疑ながらもここに来た。だが、目の前で子供のように目を輝かせる大河をみて、飛鳥は首を傾げる。

「今日は、神木くんが着たい服を聞いておきたくて!! 女装するなら、どんなのがいいですか!?  俺、神木くんが着たいなら、どんな服でも調達してきますから!!」

「いや待って、なんで俺が着たいみたいな話になってんの?」

 大河の言葉に、すかさずツッコむ。

 先日、華と蓮が遊園地に行くのに、ラビットランドのチケットを飛鳥は大河に奢ってもらった。だが、その埋め合わせとして、なぜか「女装」することになってしまった。

 しかも、そんな経緯など全く知らない隆臣は、隣に座る飛鳥をみて

「お前、女装したいの?」

「したいわけないだろ!」

 飛鳥が、笑顔で反論れば、そのタイミングで、アイスコーヒーが運ばれてきて、飛鳥はミルクを注ぎながら、深くため息をついた。

「華と蓮が遊園地行くっていうから、武市くんに聞いてみたら、チケットを奢ってくれたんだけど、埋め合わせに、何してほしいかって話になったら、なんでか俺の女装姿が、もう一回見たいって」

「……あー、なるほど」

 横でぶつくさ言う飛鳥を見つめ、隆臣は小さく相槌をうつ。すると

「つまりお前は、妹弟のために身体を売ったと」

「その言い方やめて!」

 だが、あながち間違ってない。

 チケット奢ってくれたお礼に、わざわざ自分の身もプライドも犠牲にして、身体を差し出しているわけだ。

 ならば、ある意味、身体を売るわけで…

「あのさ、武市くん。今から他のことに変えられないの?」

「逃げるな飛鳥。男なら、約束したことはちゃんと守れ」

「っ……お前、楽しんでるだろ?」

 女装から、なんとか逃げようとする飛鳥を、隆臣が横から追撃する。

 どうやら、もう逃げられそうにない。

「それでは、神木くん! 衣装は何にしますか! いくつか候補は上がってるんですが!」

「候補?」

 大河がキラッキラと目を輝かせると、向かいに座る飛鳥と隆臣は、同時に首を傾げた。

「色々ありますよ~。セーラー服に、メイド服に婦人警官、ナース、浴衣、チャイナ服、巫女さん、チアガール、あとは、キャリアウーマン風のスーツとか!!」

「なんで、そんなマニアックなやつばかり候補にあがってんの?」

「ほぼ、コスプレだな」

 前の文化祭でした女装(女子高生)とは比べ物にならないガチなラインナップに、飛鳥は蒼白する。

「……ちょっと待って、まさか、その中から決めるの?」

「そうですよ! こんな機会滅多にないですし!」

「ていうか、わざわざ調達してこなくても、女装させたいなら、また高校のブレザーでもいいんじゃないのか?」

「まー、神木くんが着てくれるなら、俺はなんでもいいけど……」

「てか、隆ちゃん。なんでブレザーなら調達しなくて済むの?」

 わざわざ調達してこなくても…と言った隆臣に、なにか当てでもあるのかと、飛鳥が問いかける。

「ブレザーなら、華のがあるだろ」

「馬鹿なの!? 妹の制服、兄が着てたら、それただの変態だよね!?」

 まさかの、華から借りてこい!?
 そんな手段でくるとは思わなかった。

「借りるわけないだろ! 大体、華は女子の中でも小柄なほうだから、サイズ合わないよ」

「小柄なほうじゃなければ、女子の服も着れるみたいな言い回しだな」

「あー!! 確かに神木くん! 普通に女物いけそう! Lサイズくらいなら難なく入りそう!」

「………」

 自分で言った言葉に、更なるツッコミが来て、飛鳥は口ごもる。

 そして「入るかもしれない…」と思ってしまった自分に更に泣きたくなった。

「で、飛鳥。どうするんだ?」

「え?」

「ブレザーが嫌なら、さっきの中から選ばないといけないだろ?」

「ど、どうするっていわれても…」

 飛鳥はその後、うーんと考え込んだ。

 はっきりいうと、どれも着たくない。

 だが、着なくてはならない以上、どれかを選ばなくてはならない。

「スーツとかは? まだ、マシなんじゃないか?」

 すると、横から隆臣が、無難なものを提案してきた。

 だが、スーツと言われて、飛鳥は女性用のスーツを着た自分の姿を想像する。

 だが…

「いや、待って無理。スーツだけは無理。俺たぶん吐く。お願いだから、それ以外にして!」

「なんで、そんなにスーツ毛嫌いしてんの?」

 口元を押さえ、ひどく気持ち悪そうにした飛鳥を見て、隆臣が再びツッコむ。

 だが、ちょっと想像したら、とんでもなかった。

 幼い時、モデル事務所に連れていかれる時に、よく「ミサあの人」がスーツを着ていた。

 女装用のスーツ着て、髪を下ろそうものなら、確実に激似する!

「じゃぁ、神木くん! チアガールとかどうですか?」

「えー、なんかスカート短そう。あまり露出しないのがいい」

「ていうか、これ男に着せて何が楽しいんだ? 普通は女の子に着せて楽しむもんだろ?」

「え!? 何言ってるんだよ橘?! この見た目に、この美しさなら、神木くんは性別を凌駕するよ!! ハッキリ言って神木君なら、俺いくらでもいけるとおもう!!」

「「…………」」

 何が?
 何がいけるの?

 ご飯か?
 ご飯何杯でも、いけるよって意味か?

 それとも、別の?

 その先を問うのがあまりに怖くて、飛鳥と隆臣は、ひたすら硬直する。

「そ、そう言えば……女装って、どこでするの?」

 すると、飛鳥が不意に気になったことを、ポツリと呟いた。すると、それを聞いた大河は

「あ。俺の家とかどうですか? 俺一人暮らしだから、家には誰にもいれませんし」

「……え? 武市くんの家で? 二人っきりで?」

「はい! ダメですか?」

「…………」








***

皆様、いつも閲覧頂き、誠にありがとうございます。この度、新作を公開しました。

↓↓↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/655382051/180593932

第2回次世代ファンタジーカップの参加作品です。内容は現代ファンタジーですが、世界観が同じで、高校時代の飛鳥や隆臣たちも出てきます。

結構、重要な役どころなので、もし、ご興味がありましたら、応援頂けると嬉しいです!宜しくお願いします。
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