211 / 508
第14章 家族の思い出
第195話 妹と女子大生
しおりを挟むその後、大河から、たこ焼きを買ったあと、箸巻きやポテト、そのほかに飲み物などを買った三人は、空いていた脇道のベンチに腰掛けた。
二人がけのベンチに、華を真ん中に、三人寄り添って座る。
「華、最後の食べていいよ」
すると、最後に残ったたこ焼きを、飛鳥が華の口元に持ってきた、華はそれをパクッと口にした。
「ん、ありがとう」
「それより、兄貴、あんな友達がいたんだ」
すると、蓮が飛鳥にポテトを差し出しながらそう言って、飛鳥はそれを一本手に取りながら、大河のことを思い出す。
「武市くん、アレさえなければ、いい人なんだけどね」
さっきの会話を思い出し、飛鳥は苦笑いを浮かべた。まさか、また女装しなくてはならないなんて!
もはや罰ゲームみたいなものだ。
「でも残念! 私、珍しく家族以外に助けられたから、一瞬、運命の人かと思っちゃったのに!」
「はぁ!? 運命って、武市くんと!? それだけは絶対やめて!?」
華の言葉に、飛鳥が珍しく慌てふためく。
勝手に人の妹と、どんなフラグ立ててるんだ。
申し訳ないが、あの信者だけは認めたくない!
「大丈夫だよ、兄貴。華の好きなタイプは、隆臣さんだし、たぶん武市さんとは真逆のタイプだよ」
「うーん。それは、大丈夫なのか、大丈夫じゃないのか、イマイチ複雑な回答かな」
「ご馳走様でした~」
すると、飛鳥が苦笑いを浮かべる隣で、華がパンと手を合わせた。そして、たぶ終わったトレイを、綺麗に纏めると
「はい、蓮! ゴミ宜しく♡」
「はぁ、なんで俺が!?」
「だって、私ひとりじゃない行かせてくれないし、飛鳥兄ぃが行ったら、絶対捕まるし」
「…………」
捕まる──とは、言わずとも分かるだろう。兄のこの美貌に見せられた、お姉様方にだ。
「はぁ。わかったよ」
すると、それを受けとった蓮は、境内の脇に設置された屑籠まで走っていった。
そして残された華と飛鳥は、二人ベンチに腰掛け、のんびり雑談。
「ねぇ、飛鳥兄ぃ、花火って何時から?」
「えーと、9時」
「ふーん、今何時?」
「今は、8時すぎかな。あと、1時間くらいあるけど、どうする? 帰る?」
「はぁ!? せっかく来たんだし、花火見ていこうよ!」
兄の腕にぎゅっと抱きつき、華が顔を近づけそう言うと、飛鳥はいつも通り「まー、そうだね」と、相槌を打った。すると
「ねー、あの人、かっこいい~」
と、飛鳥を見つめヒソヒソと話す声が聞こえてきた。
例のごとく、兄はよく目立つ。しかも、今日は浴衣姿。金髪で浴衣が似合うなんて、なかなかないのだが、なぜか似合ってしまうのが、この兄!
きっと兄にかかれば、和洋折衷どんな服でも着こなしてしまうのだろう。
「ねぇ、写真、お願いしてみる?」
「えー、ダメだよ。だって、隣に彼女いるじゃん!」
((え? 彼女?))
こそこそと聞こえて漏れてきた声。だが、その声に、飛鳥と華は、同時に首を傾げた。
「あ!? 私か!!」
すると、やっとのこと、その彼女が、自分のことだと気づいたらしい、華は、抱きついていた兄から離れようと、手を離すが……
「いいよ、このままで」
「え?」
だが、そんな華の手を掴んで、飛鳥が華を見つめた。
「こうしてた方が、ナンパ避けになるし」
「何それ!?」
まさかのナンパ避け!?
確かに、彼女が横にいる男を、わざわざナンパしてくる人はいないだろうが
「私、妹だよ。バレるに決まってるじゃん」
「大丈夫だよ。俺たち全然似てないし、兄妹には見えないよ」
「っ……」
──兄妹には見えない。
その言葉に、なぜか胸の奥がズキリとなった。
そんなの子供の頃から、言われてきたことだ。
こうして腕でを組んでいたら、恋人同士に間違われてしまうほど、自分と兄は──似ても似つかない。
「神木くーん!!」
「……!」
すると、またもや、黄色い声が聞こえてきて、華と飛鳥が、二人揃ってそちらをみれば、女子大生くらいの女の子たちが4人、わらわらと飛鳥の元に、駆け寄ってきた。
「こんばんは~! まさか神木くんに会えるなんて」
どうやらその子達は、飛鳥が通う大学の学生だったようだった。飛鳥は、その見知った顔に、にこやかに挨拶を返す。
「みんな、こんばんは」
「神木くんの浴衣姿、素敵。ちょう似合ってる~」
「そうかな。ありがとう」
「ねえねぇ、今から、うちらと回らない?」
「え?」
四人が、綺麗な浴衣姿で飛鳥に擦り寄ると、華は咄嗟に兄の隣から離れた。
兄がモテるのは、何度と見てきた。
ある意味、見慣れた光景だ。
だけど、こうして女の子たちが擦り寄ってきても、兄は、いつも、その誘いを断って、家族との約束を優先させる。
「ゴメンね、今日は、妹たちと一緒だから」
すると、案の定、兄は断って、華はその光景をただただ見つめた。
「妹たちって、双子の?」
「うん」
「もう高校生なんでしょ? うちらと回ったあと、また合流すればいいじゃん!」
「ちょ……っ」
だが、女子たちは、しつこく誘ってきて、飛鳥は、表情を曇らせた。そして、そのタイミングで、今度は蓮が戻って来た。
「なにこれ。兄貴、結局捕まってるじゃん?」
目の前の光景を見て、顔を青くする蓮。だが、蓮の問いかけに、華は一切答えることはなく。
「ねぇ、神木くん、一緒に回ろうよー」
「だから、一緒には回れないって」
「あの!」
すると、思ったよりしつこい女の子たちを飛鳥がなだめる中、ずっと黙っていた華が急に声を上げた。
いきなり、どうしたのか。飛鳥と蓮が華を見やれば、華は、とんでもない提案をしてきた。
「私たちなら、大丈夫です! だから、お兄ちゃん、その人達と回ってくれば!」
「は?」
「わー、いいの! ありがとう!」
「……いこう、蓮!」
「ちょ、華!?」
蓮の腕を強引に引くと、華は、その場から駆け出した。そんな華の後ろ姿をみつめ、飛鳥は眉をひそめる。
(華のやつ、なんで……っ)
0
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?


病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる