神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第14章 家族の思い出

第191話 狭山さんと坂井さん

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 8月末、もうすぐ夏休みが終わろうという頃、エレナは今日もモデルの撮影に大忙しだった。

 真夏のこの時期に撮影するのは、真冬の衣装撮影だ。

 エレナは、撮影スタジオの中で、今年の冬のトレンドになりそうな、コートやブーツ、ベレー帽を着込んで、カメラマンの前に立っていた。

「よし、エレナちゃん。次は笑顔で、何パターンか、いってみよーか!」

「は、はい」

 最近になり、小学生向けのファッション誌に掲載されることになった。まだ、枠は小さいが、ファッション誌に載るのは、それなりに大きな成果とも言える。

 エレナはカメラマンの指示どおりに、ポージングを取りながら、笑顔をむける。

「エレナちゃん、笑顔ねー。笑顔!」

 だが、再度笑顔と指示され、エレナは更に笑顔を作るが

「ごめん、エレナちゃん、少し疲れちゃったかな?」

「え? そ、そんなことないです!」

「うーん」

 すると、カメラマンは、ポリポリと頭をかき、苦笑いを浮かべた。

「でもね、さっきから、全然笑えてないんだよ」

「え?」

 その言葉に、エレナは驚き、目を見開く。

 笑えて……ない?

「ちょっと、休憩してまた後で撮ろう。半田~次の子、連れてきてー」

「はい!」

「…………」

 ざわざわと騒がしくアシスタントたちが動き始める中、エレナはその光景を、酷く青い顔をして見つめていた。

 そして、そんなエレナを担当である狭山と坂井は、撮影スタジオの端から傍観する。

「おい、狭山」

「は、はい。なんすか、坂井さん」

「お前、エレナちゃんのメンタルケアどうなってんだよ!来週には、オーディションもあるってのに、あれじゃ、受かるもんも受からねーじゃねーか!」

「そ、そんなこと言われても!」

 坂井に、じっと睨みつけられ、狭山はバツが悪そうに視線をそらした。

 最近、エレナの様子が極端におかしいのは気づいていた。

 だが、エレナは何を問いかけても、決して話そうとはしないのだ。

「少し前まではちゃんと笑えてたのに、今の笑い方は、ぎこちなさすぎる。カメラマンの指示に答えられないモデルは、すぐ消えていくぞ」

「わかってますよ……! でも、あの親子の間には、なかなか踏み込めないというか」

「はぁ~」

 すると、坂井は深いため息をもらすと

「まぁ、確かに……あの母親は、ちょっと厄介だよな」

 そして言葉に、今度は狭山が反応する。

 そう、坂井は前に、狭山に「あの母親には気をつけろ」と忠告してきたことがあったのだ。

「坂井さん、何か知ってるんですか?」

「あー、んー……まぁ、いいか。あんまり他言するなよ。ほら、エレナちゃん、前の事務所やめて、うちに来たっていってただろ?」

「はい」

「実は、その事務所でアシスタントしてる知り合いがいてな。担当になった時に少し話聞いたんだよ。エレナちゃん、それなりにいい線いってたみたいなんだけど、ある時、撮影中にアシスタントが誤って、照明機材ストロボ倒しちまったらしくて、エレナちゃんが、その下敷になりかけたらしい」

「え?! なんすか、それ!? ストロボって時間たつと、かなり熱くなって」

「ああ、それに、エレナちゃんみたいに小柄な子供の上に倒れてきたら、下手したら火傷だけじゃすまない」

「それで、どうなったんですか?」

「ミサさんが咄嗟にかばって、エレナはちゃんは無事だったんだけど、それからが大変だったらしい。ミサさん、酷く怒り出して、照明倒したアシスタントに掴みかかって、怪我までさせたらしくてな。日頃、温厚な人だったから、みんな驚いたらしいよ」

「…………」

 その話を聞いて、狭山は息をのむ。

 確かにいつも温厚で物腰も柔らかいため、人に怪我をさせるほど、怒り狂うような人には見えなかった。

 だが、娘が照明の下敷きになりかけたのなら、親が怒るのも仕方ないと思う。

 それも、ミサにとっては、唯一の家族である一人娘だ。そんな子を失う恐怖を垣間見たとなれば、気持ちは分からなくもない。

「そ、そうなんですか」

「まぁ、備品管理を怠って、モデルに怪我させかけたんだ。あれは事務所も悪い。だが、どの道、あの母親は怒らせると手に負えない。だから、狭山も機嫌損ねないように、うまく状況変えろよ。来週までに、エレナちゃん、何とかしとけ!」

「な、なんとかって、簡単に言わないで下さいよ!?」

「とりあえず、笑えるようになればいいんだよ!あと、エレナちゃんが、次の撮影で気落ちしないように、気持ちもちゃんとほぐしといてやれよ。俺も今日、残業したくねーし」

「え? 何か用事でも?」

「彼女と夏祭り行く約束してんだよ。榊神社の」

「へーへー、いいっすね!リア充は!」

「はは、僻むなよ狭山。今度、可愛い子紹介してやるから!」

 そういうと、坂井は「タバコ吸ってくる」と狭山の横をすり抜けると、スタジオからでていった。

「来週までに、ねぇ」

 狭山は、片隅で沈んた顔をしているエレナを見つめると

(難題すぎるだろ……っ)

 と、口元を引き攣らせたのだった。

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