神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第13章 双子と遊園地

第187話 双子と恋人

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 その後、ラビットランドで一日楽しんだ華と蓮は、また電車に乗り、桜聖市に戻ってきていた。

 兄に言われた通り、葉月をしっかりと家に送り届け、航太と別れあと、少しだけ薄暗くなり始めた歩道を、華と蓮は二人並んで歩く。

「今日は楽しかったねー」
「そりゃ、良かったな」

 あの後も、何度とお化け屋敷に入れられて、酷く疲れた顔をした蓮。

 そんな蓮の顔を見て、華は蓮の腕にしがみつくと、ふがいないばかりに、弟を叱咤する。

「もう、情けないなー、せっかく榊君が付き合ってくれたのに!」

「悪かったな。情けなくて」

「……あ」

 だが、何を思ったのか、華は蓮の腕に、今一度ぎゅーっと抱きつくと、その感触を確かめるように、ふにふにと腕を触り始めた。

「何してんの? くすぐったいんだけど」

「……うーん。なんか、榊君の方が筋肉ついてたかなって」

「………………」

 その言葉を聞いて、蓮はしばらく沈黙すると

「悪かったな、貧相な腕で!?」

「あはは! まー、蓮は中学の頃、ずっと帰宅部だったしね。最近バスケはじめた蓮と榊くんとじゃ、身体の鍛え方が違うよねー」

「俺だって、これからつくんだよ」

「あ、でも……この腕で、今まで守ってくれてたんだよね?」

「え?」

 その言葉に、蓮の歩みがピタリととまる。いきなりどうしたのかと、蓮が華の方に視線を向けると、華の表情は、どこか愁いを帯びていた。

「私ね、前にナンパされた時、もう二人に頼らないようにしようって決めたのに……全然成長出来てなくて……ほんと、ダメだね、私」

 無意識に助けを求めてしまうのは、いつも側にいてくれた、優しい兄と弟だった。

 助けてもらうのが「当たり前」になってる。

 そんな自分が、たまらなく嫌で、たまらなく、情けなくて──

「仕方ないだろ。華はガサツでも、一応、女の子なんだし、男相手じゃ無理な時もあるだろ」

 悲しそうな顔をする華のおでこを軽く小突くと、蓮はそう言って、呆れたような声を発する。

「痛! ちょっと、ガサツって何よっ!?」

「それに、華はちゃんと成長してるよ」

「……そうかな?」

「うん……」

 成長してる。俺よりも前に進めてる。

 そして、いつかきっと、こうして俺の腕を掴むことも、俺や兄貴に助けを求めることも、なくなるんだろう。

 なら───

「華は、榊のこと、どう思ってる?」
「え?」

 その言葉に、華は瞠目する。
 それは昼間、葉月からも聞かれた言葉で

「榊、あれで結構いいやつだよ。華の事も何かと気にかけてくれてるし、まー、お似合いと言えば、お似合い……だとおもう」

「え?! ちょっと、なに言ってんの!? あ、もしかして、蓮も勘違いしてるの!? あの、違うよ! 私、榊君が好きで、腕組んだとかそんなんじゃなくて」

「それは、分かってるけど。でも、華もいつか、彼氏作ったりするだろ? なら、榊とかどうなの?」

「ど、どうなのって……っ」

 真面目な顔をして話す蓮を見て、華は顔を赤くしたまま口籠る。

「な、なんで、そこで榊くんになるの! それに、彼氏なんて……まだ、先の話だし」

「そうか? 俺たち、もう高校生なのに?」

「……っ」

 顔を赤くし、困り果てる華をみて、蓮は目を細めた。

 自分はすごく、ずるい奴だと思った。

 自分からは、華の手を離すことができないから、あえて華をけしかけて、華の方から離れていくように仕向けてる。

 今日、華と榊の姿をみて、自分の気持ちがはっきり分かった。

 嫌なんだ、まだ。

 今の「幸せ」が、今の兄妹弟としての関係が、壊れてしまうのが。

 そして、先に進んでしまえば、今のこの時間、この場所には、もう二度と、戻ってこれないのだと。

 でも、もう、そんなこと言ってられない。

 いつか来る未来に、目を背けたままじゃ、きっと、誰も───幸せになれない。

「華……」

 自分の腕を掴む華の手を掴むと、蓮はその手を離し、自分より一回り小さな華の手を、ギュッと握りしめた。

「お前が、俺たちの幸せを願ってるように、俺達も、華の幸せを誰よりも願ってるよ。だから、別に榊じゃなくても、今日助けてくれたお兄さんでも、隆臣さんでも、華が好きになった奴なら誰でもいい。でも選ぶなら、ちゃんとしたやつ選べよ。に、華の事を守ってくれそうな、そんな奴」

「……え?」

 俺たちの……代わりに?

「だから、家族だけじゃなくて、もう少し周りの奴にも目を向けてみろ。華のことが好きで、守ってくれてたのは、きっと俺達だけじゃないだろ?」

 そう言うと、蓮は華の手を離し、一人、前に歩き始めた。華は、そんな蓮の後ろ姿を見つめ、一人思う。

(私の事が好きで、守ってくれてたのはって……榊くんとって……なに、それ……っ)

 それじゃぁ、まるで、榊くんが私のことを、好き……みたいな──

(なんで? なんで、そんなこというの?)

 榊くんは、蓮の友達で、同級生で、私にとっても、ただの友達でしかないのに。

 それに、もしかしたら、榊くんは

 葉月の好きな人かもしれないのに──…っ




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