188 / 554
【番外編】 お兄ちゃんと修学旅行
お兄ちゃんと修学旅行 ②
しおりを挟む夜8時──それは自由行動後、旅館に戻り夕食をすませた後のことだった。
「橘!!頼む!!」
部屋に入るなり、パンと勢いよく手を合わせてきたのは、クラスメイトの星野。
隆臣は、部屋の隅で、大浴場へ行く準備をしていた手を止めると、何事かと首を傾げた。
「何だよ、星野?どうした?」
「あのさ、今夜、俺と寝る場所変わってくれない?」
「え?」
星野からきた奇妙なお願い。隆臣はそれを聞いて
「いや、寝る場所変わるって、星野の部屋、隣だろ?」
並々ならぬ事情があるのなら、変わってやるのは別に構わない。だが、星野と隆臣は、部屋が違った。
星野は「椿の間」隆臣は「桜の間」
基本、自分が割り当てられた部屋以外で寝るのは、禁じられている。そう思った隆臣は、星野の頼みをすっぱりと断ることにした。
「変わってほしいなら、同じ班の奴に変わってもらえよ」
「それが、同じ班の奴にこぞって拒否られたんだよ!! 頼むよ、橘~!! 俺、神木の隣に寝るの嫌なんだって!!」
「!?」
その瞬間、聞き覚えのある名字が聞こえた。
(神木……?)
どんなに思い返しても、この学年に「神木」と名のつく名字のやつは、一人しかいない。
確か、飛鳥は星野と同じ椿の間だった。だが、何故、飛鳥の隣に寝るのが嫌なのか?
「なんだ? 飛鳥、寝相でも悪いのか?」
「いや、寝相とかそういうのじゃなくて…なんていうか……神木が可愛すぎて、眠れない、というか」
「…………」
とても真剣な顔をしているのに、星野の放った言葉は、あまりにもバカっぽい発言で
「お前、大丈夫か?」
「そうなんだよ!!大丈夫じゃないんだよ!?神木、髪下すと、もう女の子にしか見えないんだよ!!俺の横に女の子が、それも、ものスッッゴイ美少女が寝てるんだよ!?なにアレ、本当に男!?なんかスゲーいい匂いするし、妙に色っぽい声出すし、マジで助けて!!神木の隣にいたら俺、犯罪犯しそうで怖い!修学旅行で事件起こしそうで怖い!!だから頼む!!部屋変わって!!」
目の前で泣きつかんばかりの声をあげる星野をみつめ、隆臣はなんとも言えない表情を浮かべた。
確かに飛鳥は、髪を下ろせば女の子みたいだが、あれでも中身も身体もしっかりとした男。
何を、そんなに必死になっているのかは知らないが、はっきりいって、男子の部屋に、男子が雑魚寝してるだけの話でしかない。
「全く、なにかと思えば、事件なんて起こらねーよ。星野は男が好きなわけじゃないだろ?」
「いや、でも……文化祭の女装姿見て、神木ならいけるかも?なんて思った俺は、本当に男が好きじゃないと言いきれるんだろうか?」
「いいきれ。血迷うな」
星野が、飛鳥の女装姿を思いだし、微かに顔を赤らめると、隆臣がピシャリと言葉を放つ。
確かに、あの時の飛鳥は可愛かった。
どこから見ても女の子で、現に文化祭を見に来た一般客の男が何人か、女と勘違いして、飛鳥をナンパしに来たくらいだ。
「確かにアレは、異常なくらい似合ってたけど、惑わされるな。てか、なんで俺なんだよ」
「だって橘、いつも神木と一緒にいるし、あの顔見ても、あの寝顔みても、変な気起こさないだろ!!俺の班のやつら、神木が気になって、みんなして極限状態なんだよ!!俺達、神木と同じ班になったことマジで後悔してるからな!!」
「なにそれ。逆に飛鳥が可哀想だわ。てか、あと一晩だろ?目とじて、耳塞いで、鼻もふさいで、布団頭から被って、何も考えずに寝たら、大丈夫だって」
「いや、それどこが大丈夫!?苦しいだろ!!どの道、眠れないだろ!?」
「考えすぎ。男相手に何言ってんだよ」
「そうだけど!でも、ホントに神木はヤバいんだって!お前も、神木の横に寝てみればわかるって!」
「はいはい。分かった、わかった!悪いけど、俺まだ風呂入ってないんだよ。この話は終わりな」
「えー!?」
そう言うと、隆臣は着替えを持ち、星野にひらひらと手をふると、部屋をあとにする。
旅館の少し肌寒い廊下と進むと、風呂上がりの生徒と何人かすれ違った。
今の時刻は8時13分。
入浴は9時までにすませることになっていた。
(しかし、昔から、女みたいな顔はしてたけど、飛鳥のあの見た目は、もはや凶器だな?)
ごく普通の男子高校生を、あそこまで惑わすとは。
昼間聞いた、男にも告白されるという話。それが、星野のあの姿をみたことで、更に現実味を帯びてくる。
あれでは、いつか本当に、男に襲われる日が来るのではなかろうか?
あの悪魔のような美しさ、マジで厄介すぎる。
「先生!何とかしてくださいよ!!」
「?」
すると、隆臣が廊下を曲がろうとしたその時、突然張り上げるような声が響いた。
隆臣が足を止め、声の方に視線を向けると、職員用の部屋の前で、引率の藤本先生に、何かを訴えている男子生徒の姿が三人ほど目に入った。
「あの……もう1回いって?」
「だから俺達、神木と風呂入るの嫌なんだって!!」
「あいつだけ、部屋の風呂使うとかさせてくださいよ!!」
本日二回目の『神木君、嫌!』発言!
日頃、人当たりがよく、男女問わず人気者の飛鳥が、こんな発言をされなんて滅多にない。
(どうなってんだ。今回の修学旅行)
隆臣は、何やら不穏な空気を感じ取って、その場にとっさに身を隠すと、会話の内容に耳を傾ける。
「なんで神木と入るのが嫌なんだ。昨日は、一緒に入ったんだろ?」
「だって、神木、マジで女の子みたいなんだよ!!」
「男だってわかってんだけどさ、それでもアイツは綺麗すぎるんだって!!落ち着いて入れねーよ!!」
「だから、神木君だけ別にしてください!!」
口をそろえて「女の子が男湯に入ってるようでヤバイ」という内容の訴える三人。
それを聞いて、藤本先生とその会話を盗み聞きしていた隆臣は絶句する。
男が男湯に入るな!という、まさかの苦情!!?
流石に理不尽すぎる苦情に、隆臣は言葉を失った。
「あのなぁ……おまえたち」
すると、その言葉に、藤本先生は深くため息をつくと、腕を組み、静かに語り始めた。
「女の子に見えるって、それでも神木は男の子だろ。人の容姿に対して、そういうことを言うものじゃない。それに、入りたくないとか、仲間外れにするようなことを言うな。それじゃぁ、イジメと一緒だ」
「……っ」
藤本先生の至極まっとうな回答。それを聞いて、生徒たちは口を噤む。
(……藤さんて、あれで意外といい先生なんだよなー)
そんな藤本の言葉に、隆臣は一人感心していた。藤本先生は、少し強面だが、中身はとても朗らかで熱い先生だった。
たまに失敗して、生徒からからかわているが、なんだかんだ人気があるのは、こうして叱るときはしっかりと叱ってくれるからかもしれない。
「そう、だけど……マジで事件が起きたらどうすんの、先生」
「ホント、神木はヤバいって……俺達だけじゃないって、他の男子も噂してたし」
すると、生徒たちが口々に不安の言葉をつぶやき始めた。藤本先生は、それを見て軽く口角を上げると
「あはは、確かに神木は可愛いし美人だが、いくら何でも考えすぎた!」
「笑い事じゃねーって、藤さん!髪纏めてる姿とか、マジで女なんだぞ!」
「いや、でもな~、よし、じゃぁ俺が一つ、対処法をさずけてやろう!」
(……対処法?)
隆臣が首捻ると、藤本先生は、腕を組んだまま自信ありげに話し始めた。
「いいか、お前達。要は神木の顔を見るから、女の子に見えるんだ。だから、神木の上半身は見るな。下半身だけ見てなさい」
──下半身?!
なんか、とんでもない対処法が飛び出してきた!てか、藤さん、もっと他にいい対処法なかった!?
「あーなるほど……確かに、下半身だけ見てたら、大丈夫……なのか?」
「男なら、付くもん付いてるし、要は顔さえ見なけりゃ」
「そうだ。男同士なんだから、なにも心配することは無い。ほら、分かったら、早く風呂入ってこい!」
そう言うと、男子生徒たちは藤本先生にせかされるまま、大浴場に向かい、藤本はそのまま職員の部屋へと戻って行った。
そして隆臣は、誰もいなくなった廊下で、一人顔を引きつらせる。
いやいや
下半身見られるとか、嫌だろ!?
正直、今、飛鳥がいたたまれなくて仕方ない!!
「あれ、隆ちゃん?」
「!?」
すると、丁度そのタイミングで、隆臣の背後から、聞きなれた声が聞こえた。
嫌な予感がして、隆臣が恐る恐る振り返ると、そこには、荷物を手にして、不思議そうにこちらを見つめる美少女──ではなく
「そんなところで、何してんの?」
セミロングの髪を下ろし、見た目女の子と化した、飛鳥が立っていた。
③につづく…
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる