神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第10章 涙の向こう側

第160話 隆臣くんと双子

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 夕方5時すぎ──

 朝から降り続いた雨があがり、少しずつ晴れ間が見え始めたころ、華は、隆臣にコーヒーをさしだし、そのテーブルの向かいに腰掛けた。

「隆臣さん、今日はごめんね」

 学校に行く前、華と蓮は、隆臣の自宅まで、鍵て届けにいった。

 今日は一日、兄が心配で、あまり勉強には身が入らなかった。

 だが、それを察してか、学校が終わったタイミングで、ちょうど隆臣からメールが入った。

《大丈夫だから、ゆっくり帰ってこい》

 そんなメールに、こころなしか安心した華と蓮は、兄から頼まれたものや、夕飯の買い出しをして、3時頃帰宅した。

 そして、帰宅した後は、兄の顔を見て、少しだけ話をした。

 朝、あんな事があったからか、華は少しだけモヤモヤとしたものがあったが、兄のいつも通りの表情に安心してか、おぼつかない気持ちも、少しだけ落ち着いた。

 そして、そのあとは「もう少しだけ寝る」といった兄は、また眠りについて、双子は、宿題をしたり、隆臣にテスト勉強を見てもらったりして──今にいたる。

「あやまらなくていい。何かあったら、これからも遠慮なくいえよ」

「うん、ありがとう、隆臣さん。飛鳥兄ぃ、私が休むっていっても全然聞いてくれなくて……でも、隆臣さんが見ててくれてたから、安心して買い物も行けたし、本当に助かりました!」

 にっこりと、可愛らしくお礼を言う華。それをみて、隆臣は小さく息をつく。

(飛鳥も、このくらい素直に甘えられたらいいんだけどな)

 華と蓮とは、二人がまだ五歳の頃からの付き合い。なにかと世話を焼いてきたのもあってか、困ったときには素直に頼ってきてくれる。

 ある意味、第二のお兄ちゃんにでもなった気分だ。

「まぁ、昼の時点で、熱は下がってたし、食欲もあったから、もう大丈夫だろう」

「よかった~。じゃぁ、目が覚めたら、精のつくものいっぱい食べてもらわなきゃ!」

 隆臣の話を聞いて、華がホッとしたように微笑む。

 ──ガチャ

 すると、そのタイミングで、リビングの扉が開いた。どうやら、兄の様子を見に行っていた蓮が戻ってきたらしい。

「蓮、飛鳥兄ぃ、どうだった?」
「ぐっすり寝てたよ」

 華が問いかければ、蓮がすぐさま答えた。

 その後、ダイニングテーブルに座る隆臣と華をみて、蓮もいつもの席に腰掛けると、先程、華がいれてくれたのだろう、目の前に置かれた、コーヒーを手に取った。

「そうだ、隆臣さん。良かったら、夕飯食べてけば? 帰っても、美里さん帰り遅いし、いつも一人だって聞いたよ?」

 すると、蓮が、隆臣に夕飯を進め、華も、同時に賛同し、詰め寄った。

 隆臣は、父の正樹と母の美里との、3人暮らし。

 だが、父の帰りはいつも一定の時刻ではなく、母の美里は夜8時まで喫茶店を営業しているため、隆臣が平日夕飯をとる時は、大抵一人だった。

「そうだよ! せっかくだし、食べていって! 色々お世話になったし!」

「良いのか? ご馳走になっても」

「もちろん! 」

「まぁ、華の手料理で、悪いけどね」

「ちょっと、蓮! あんたは、また余計なことを!」

「なら、失敗するなよ」

「しないし!」

「はは、ありがとな、二人とも。じゃぁ、せっかくだし、頂いて帰る」

 目の前で、いつものやりとりをする華と蓮をみて、隆臣は、まるで幼子を見るような目で、優しく微笑んだ。

 高校生とはいえ、こんなところは、まだ子供っぽい。

「あ、そうだ、隆臣さん」
「ん?」

 だが、その後、華が少しだけ困った顔をして尋ねてきた。

「あ、あのね……飛鳥兄ぃのことで、一つ聞きたいことがあるんだけど?」

「飛鳥のこと?」

 急に飛び出した質問に、隆臣は首を傾げた。そして華と蓮は、同時に顔を見合わせると

「その……飛鳥兄ぃって、今……彼女とか、いるの?」

「え?」

 その言葉に、隆臣は困惑する。

(……彼女?)

 どうしたんだ、いきなり?
 いやいや、ないだろ。飛鳥《あいつ》今、彼女を作る気すらないし。

「いや……いないけど」

 率直に、ありのままを伝えた隆臣。
 だが

「そ、そうなんだ。やっぱり……いないんだ?」

「?」

 すると、その返事に、華と蓮は表情を歪めた。

 昨夜のことを思いだす。

 兄は「名前もしらない後輩」の家に上がり込んだばかりか、子供には言えないようなアダルトな隠し事があるらしい。

 だが、それを受け入れられない華と蓮は、もしかしたら彼女がいて、それを知られたくないばかりに、嘘をついたのかも?と思っていた。

 そう、兄の言っていた「後輩」が「彼女」なら、家に上がりこもうが、そこで何をしてようが、なんの問題もないのだ。

 だが、この兄の友人である隆臣が「いない」ということは、確実に、その後輩は──彼女ではない。

 ということは、やはり兄は、名前も知らない女の家にあがりこんで───

「あぁぁぁぁ~、黒か」
「黒だな」
「え? なにが黒??」

 どこか、確信したかのように華と蓮が項垂れると、隆臣は意味が分からないとばかりに、頭をひねる。

「なんだ? 飛鳥が、どうかしたのか?」

「あ、あのね、隆臣さん、実は──」

 こんなこと相談できるのは、絶大な信頼を誇る隆臣さんしかいない!

 そう考えたのか、華は、兄に対する疑惑を隆臣に打ち明ける決意をした。

 だが───

 ガチャン!

「「!?」」

 瞬間、玄関から、物音が聞こえた。

 まるで鍵を開けようとでもするかのような、不気味な音。

 3人は、すぐさま話を中断すると、隆臣と蓮が、神妙な面持ちでリビングから玄関を覗き見る。

 すると──

「ただいまー」

 といって、玄関を開けたのは、なんと、海外にいるはずの神木家の父──神木《かみき》 侑斗《ゆうと》だった。
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