神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
160 / 508
【過去編】死と絶望の果て

第148話 死と絶望の果て⑥

しおりを挟む

 それから4年後──
 それは、まだ寒い、2月下旬のことだった。

 その頃の神木家は、双子が生まれる少し前のタイミングで、マンションから一軒家へと引っ越していた。

 閑静な住宅街の中にある、少し古びた3LDKの平屋。和室と洋室が混在する少し和風のその家は、築年数はそこそこ経っているため外観は古いが、内装はそうでも無く、小さな子供がいるその頃の神木家にとって、そこそこ過ごしやすい家でもあった。

「「にーい!あちょぼー遊ぼう」」

 だが、そんな過ごしやすい我が家で、一際騒がしいのが、当時2歳の華と蓮だった。

 華と蓮は、居間にある長テーブルで、プリントを広げ宿題をしていた飛鳥(8歳、小学2年生)に、後ろからのしかかりながら、大きく声を上げていた。

「痛いよ、髪引っ張るな。俺、今宿題してるっていっただろ!」

 そして、そんな双子に、勉強の邪魔をされた飛鳥が、二人を押し退けながら声を荒らげる。だが……

「ああぁーやだぁぁ!! にーにぃのばか~~~ッ」
「うわぁぁぁぁぁん!」
「……っ」

 兄から邪険に扱われ、華と蓮が再びけたたましい声を発する。そして、それを見て、飛鳥は深くため息を着いた。
 学校から帰ってから、ずっとこの繰り返しなのだ。さすがの飛鳥も、そのイライラがピークに達したらしあ。

「あーもう、泣くなって!? 近所迷惑になるだろ!」

「「えーーん!!」」

「もう! ねぇーお母さーん、華と蓮が邪魔するー!」

 すると、台所で夕飯を作っていたゆりに飛鳥が泣きつくと、その声を聞きつけ、ゆりが居間に顔を出した。

(相変わらず、うちは騒がしいなー)

 見ればそこには、華が飛鳥の腕に抱きつき、蓮は飛鳥の筆箱で机をバンバン叩きながら、飛鳥を困らせていた。

 子供が3人もいると、なかなか静かになる暇もない。

「ほーら、華、蓮! 飛鳥の邪魔しちゃだめよー」

 飛鳥にまとわりつく華と蓮に、ゆりが近寄り声をかけると、2人は「ままー」と叫びながら、ゆりにを抱きついつきた。

「にーにが、あじゅんべぶべなぃ!遊んでくれない

「あはは、お兄ちゃんは、お勉強してるんだよ? 華と蓮はお絵かきおわったの?」

「もーちないのー」

「そっか~……(もう、飽きたのか)」

 子供とは気まぐれなものである。先程までクレヨンで大人しくお絵かきをしていたかと思えば、飛鳥が帰るなり、このありさま。

「飛鳥は、宿題はあとどのくらいかかるの?」
「邪魔されなきゃ、すぐ終わるよ」

 ゆりが、飛鳥の側で、華と蓮をなだめながら問いかける。すると飛鳥は少し不機嫌そうに返事を返してきた。それを見て、ゆりは

「飛鳥~」

「!? ちょっ、いきなり何っ?」

「だって、飛鳥今日は少しイラついてるみたいだから」

「……」

 どうやら、息子の様子がいつもと少し違う事に気づいたのか、ゆりは後ろからギュッと飛鳥を抱きしめ声をかけた。

「学校で、何かあった?」

 その言葉に、飛鳥は少しだけバツが悪そうな顔をした。

 だが、母に抱きしめられると、凄く安心する。
 それは、出会ったあの時から

 ──ずっと変わらない。

「あのね、お母さん……」

「ん?」

「……」

 だが、一瞬喉まで出かかった言葉を、飛鳥は再び飲み込むと

「……うんん。やっぱり、何でも無い」

 そう、呟くと、明日香はまたプリントに視線を戻した。ゆりは、そんな飛鳥をみて、どこか不安げな表情を浮かべた。

 最近少し、様子がおかしい気がする。

「……飛鳥。私はね、飛鳥が楽しそうに笑ってる顔が大好きだから辛そうにしてると、やっぱり心配になるよ。だから、もし何かあるなら、ちゃんと話してね?」

 ──楽しそうに笑う顔が大好き。

 それは、飛鳥の顔が大好きよと言っといた産みの母の言葉とは対照的で、飛鳥は自分を抱きしめる母の手を掴み、嬉しそうな笑みを浮かべる。

「……うん、ありがとう」

 母がいる。父がいる。妹も弟もいる。
 家族みんなで笑っていられる。

 それは、飛鳥にとって、何よりも幸せなことだった。

 でも、だからこそ──


(言ったら……きっと、心配する)


 飛鳥は、そう強く思う。

 笑っていられる今を壊したくない。

 だから、家族に心配をかけたくない。


「「にーにー、あちょぶー」」

 すると、華と蓮が再び飛鳥に抱きつき遊びの催促をしてきた。そんな二人に飛鳥は

「華、蓮、今は無理だよ。後で遊んであげるから、少しだけ待ってて」

 押し倒す勢いで抱きつく2人に優しく声をかけると、じゃれあう3人をみて、ゆりは顔をほころばせた。

(ふふ、やっぱり飛鳥は、華と蓮に甘いなー)

 何だかんだ言いながら、飛鳥はとても面倒見が良い。華と蓮がいたずらをして、ゆりが叱ると、いつも飛鳥が、かばいに来る。

 このままいけば、華と蓮はいつかブラコンになるのでは……と、ゆりは思う。

(まー、こんな優しいお兄ちゃんなら、仕方ないか)

 少し前まで、ただただ可愛いかった飛鳥も、最近めっきり男の子らしくなってきた。

 まだ、見た目は女の子みたいではあるが、やっぱり喋り方も考え方も男の子。

 成長とは嬉しくもあり、少し切なくもある。



「ただいまー」

 すると、そのタイミングで、侑斗が仕事から帰ってきた。

「「とーと!」」

「おかえり、侑斗さん」

「あはは、もしかして、この2人、また飛鳥の邪魔してるのか?」

 見れば、宿題をしている飛鳥にまとわりつく双子の姿。侑斗は苦笑いを浮かべながら居間に入ると、仕事用のビジネスバッグをおき、テーブルの前に座り飛鳥に声をかける。

「飛鳥、分からないところはないか?」

「ないよ」

「とーとぉ!、はなとれんもねー」

「かきかきちたよー」

 すると、華と蓮が侑斗に画用紙をもって押しかけてきた。見ればその画用紙には、〇やら△やらが、たくさん書いてあった。

「へー上手いな~♪(何を描いたんだ、これ?)」

 見た目でなにかは変わらないが、一生懸命描いたのは伝わってきた。すると、その瞬間、ゆりが、侑斗に向けて手を合わせた。

「ねぇ、侑斗さん。悪いけど、華と蓮みてて! 私、まだ料理の途中なのー」

「ああ、べつにいいよ」

「本当! ありがとう~、後でサービスして、肩揉んであげるね♪」

「あはは、それは嬉しいなー、でも、どうせならもっと大人なサービスのほうが」

「子供の前でなに言ってんの?」

 侑斗の言葉に、少し顔を赤らめながら、ゆりが迷惑そうに答えた。

 昔は、ゆりの方がそう言ったネタで、侑斗をからかっていたが、どうやら最近、立場が逆転しているようだった。

 だが、ゆりはその後、侑斗に「子供たちが寝たらね…」と、耳うちすると、パタパタと居間から出ていった。

 初めは12歳も離れた歳の差に、不安を感じた時もあったが、今も変わらず、二人は仲が良い。

「とーと!」
「!」

 すると、華がニッコリと笑いながら、侑斗に抱きついてきて、その無邪気な笑顔を見て、侑斗は目を細めた。

 一度、うしなったからなのか?

 こうした、なんでもない普通の幸せが


 やけに胸に染みる──



「お父さん、幸せだな~」

「ねえ、お父さん」

 すると、今度は宿題をしている飛鳥が、侑斗に声をかけてきた。

「ん? なんだ飛鳥?」

「蓮が、お父さんのバッグあけてる」

「!?」

 飛鳥の言葉に、侑斗が振り向くと、そこでは蓮が侑斗のバッグからノートパソコンを取り出し、なぜかバシバシと叩いていた。

「あああ?! 蓮やめろ!! パソコンは勘弁して!?」

「まね~」

「え!? それ俺のマネなの!? お父さん、パソコン破壊してるように見える!?」

「はなもー」

「いや、華ちゃん!? コラ! ちょ、待って!?」

(……うるさい)

 そして、父が増えたことにより、更に騒がしくなったと、飛鳥は黙々と宿題をしながらそう思ったのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...