128 / 507
第8章 遭遇
第116話 誤解と誘惑
しおりを挟む「あ、あかりちゃん……この人は?」
ずっと奥に引っ込んでいた飛鳥が部屋から顔を出せば、その姿を見た瞬間、大野はひどく驚いたようだった。
無理もない。いきなり、こんな美青年が意中の女の部屋から現れたら、そりゃ目も点になるだろう。
「あ、あの……君は?」
困惑しつつ、大野が飛鳥に問いかける。
すると、飛鳥は大野を凝視したあと、一瞬だけ考えると、その後、にこりと笑って、あかりを自分の方へと引き寄せた。
「あのさ、お兄さん。悪いけど、こいつ俺のなんだ!」
「「!?」」
その言葉には、大野のみならずあかりも驚いたようだった。だが飛鳥は更に「それと……」と言って付け加えると
「俺たち、今からすっごく楽しいことするから……邪魔しないでね?」
あかりを抱き寄せ、まるで挑発するように言ったその飛鳥言葉に、大野は瞠目する。
すっごく楽しいこと──そんなの、もう一つしか思い浮かばない!
「あ、あかりちゃん! 彼氏いるならいってくれたらよかったのに!?」
「えぇ!? あ、あの……っ」
────バタン!!
「!?」
すると、あかりの肩を抱く飛鳥の姿をみて、何かしらの敗北感を感じた大野は、手にした野菜を渡すのも忘れて慌てて逃げ去った。そしてあかりは、その光景に見て、呆然と立ち尽くす。
「お前、断るの下手すぎ」
「だ、だからって、なんなんですか今の!?」
「だってお前、俺に『彼氏』って名乗られるのは嫌なんでしょ?」
「いや、あれじゃ、似たようなもんでしょ!?」
「仕方ないだろ。それに、あーいう強引に尽くしてくるタイプの男ってストーカーになりやすいし、しっかり現実見せつけてあげなきゃ多分諦めないよ? いつまでも、今みたいにだらだら断ってたら、どんどんエスカレートするし……」
「え?……そうなんですか?」
ストーカー。そんな物騒な言葉な聞こえてきて、あかりは不安げに飛鳥を見上げた。
どうやら、大野を撃退するために一芝居うってくれたようだ。あかりが、大野が去ったことにホッとしていると、飛鳥はあかりの肩から手を離し、また部屋のなかに戻る。
あかりは、そんな飛鳥のあとに続くと、ここ最近の大野の襲撃には、ほとほと悩んでいたのだろう、べッドに腰掛けた飛鳥にむけて、お礼をのべてきた。
「あの、ありがとうございました。大野さんには困ってたので、助かりました」
そういって、あかりが頭を下げると、それをみて飛鳥は優しく微笑みかける。
「いや、いいよ。俺も今日は、色々と迷惑かけたし」
飛鳥が、にっこりと笑ってそういうと、あかりもそれを聞いて、またいつものようにふわりと笑う。
だが、その後、飲みかけの紅茶を手に取った飛鳥は
「あ。でも俺、あんなこと言っちゃったけど、今帰ったら怪しまれるかな?」
「あんなこと?」
「楽しいことするからってやつ」
そう言って視線を合わせると、あかりもふむと考え込む。
「……うーん。確かに今帰ったら、嘘だってばれちゃいますよね?」
すると、あかりは暫く考えたあと……
「じゃぁ、本当にします? 楽しいこと」
「……は?」
瞬間、あかりから飛び出した予想外の提案に、飛鳥は耳を疑った。
「……お前、なに言ってんの?」
「だ、だって、もし大野さんに嘘だとバレたら、それはそれで怖いですし……どうせ、時間潰すなら2人で楽しめることした方がいいかなって……あ、でも、嫌なら無理にとは……っ」
「…………」
飛鳥はひどく困惑した。
男と女(恋人同士)が、密室で行う楽しいこといえば、つまりそういうことなわけで。
さっきのは、あかりに彼氏がいると大野に分かりやすく理解させ諦めさせるための、あくまでもデマカセだ。
なのに、その「楽しいこと」を……する?
これは、誘ってるのだろうか?
「っ……別に嫌ではないけど……お前、もっと自分の身体、大事にしろよ」
「え? 体?」
だが、さすがにそんなことはできないと、飛鳥が真面目な顔をしてかえすと、その返事を聞いて、今度はあかりが首をかしげた。
「神木さん、体を動かせるような遊びがしたいんですか? 申し訳ありませんが、うちにあるのは、いたって普通のゲームとか、トランプしかなくて……」
「…………」
マジで「普通」の楽しい事だった。
さすがの飛鳥も、その発言にひどく脱力した。
どうやらあかりは、大野に言ったあの言葉の"正確な意味"には気づかなかったのか、いたって真面目に、時間潰しになる楽しいことを考えているようだった。
正直、一瞬でも邪なことを考えてしまった自分が、今たまらなく恥ずかしい。
とはいえ、なんて危なっかしいやつだ。
大体、男と二人っきりだというのに、全く警戒してないし、スキだらけだし、オマケにあんな勘違いするようなことまでいってくるなんて……っ
「あかり。お前、次まぎらわしいこと言ったら、マジで押し倒すよ」
「え!? いきなり、なに言い出すんですか!?」
「だから、お前もっと危機感もてよ!? そんなんじゃ、いつか危ない目にあうよって、俺前にも言ったよ!ね? つーか、絶対、俺以外の男、家に入れるなよ!?」
(あれ? もしかして私、怒られてる?)
あまりにも無防備なあかりを見て、飛鳥が怒り交じりに忠告すると、それを聞いて、あかりはひどく困惑したそうな?
***
そして、その後──
「はい。また俺の勝ち~♪」
「っ……あそこでアイテム使うの反則じゃないですか?」
「なに言ってんの。俺の作戦勝ちでしょ?」
「ていうか、神木さん、強すぎません?」
「まー、俺よく妹弟とやってるからね~」
それから暫く、テレビゲームをして二人で楽しく時間を潰したとか?
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる