神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第8章 遭遇

第115話 隣人とご飯

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 ザーザーと強い雨が降りそそぐ、夕方6時半すぎ、あかりの部屋に突如インターフォンが鳴り響いた。

 突然、響いたその音に、飛鳥とあかりは、一瞬顔を見合わせると、玄関の方へ視線をおくる。

「お客さん?」
「あ、はい……」

 あかりが、立ち上がり玄関モニターを確認する。すると、その画面をみて、心なしか表情を曇らせた。

 モニターに写し出されたのは、どうやら男性のようだった。20代前半くらいの男性。飛鳥はそれを見て、ふと、あかりに問いかける。

「え? お前、まさか彼氏いるの? 俺、勘違いで修羅場迎えるとか嫌なんだけど」

「ち、違います。彼氏とかいません。この人は、隣に住んでる、大野さんといって……」

 どうやら、お隣さんらしい。

 飛鳥は、とりあえず修羅場にならずにすみそうだと分かると、我関せずを決め込み、玄関に歩いていく、あかりの後ろ姿を横目で追いかけた。

 テーブルの上の紅茶をとると、極力気配を消し、部屋の奥で一人待つ。

 すると暫くして、あかりが玄関を開けたのか、その先の声が聞こえ漏れてきた。

「こんばんは、大野さん。どうしたんですか?」

「こんばんは、あかりちゃん。実は実家から野菜がおくられてきたから、おすそわけしようかと思って、カボチャとか、ニンジンとか?」

「え? あ……」

(……あれ? あかり、カボチャ苦手だったような)

 どうやら、その男は野菜をおすそわけするために訪ねてきたらしい。

 今どき、珍しいな……などと飛鳥が思っていると、男の目的が段々見えてきた。

「あかりちゃんさ。今度、いつなら空いてる?」

「え?」

(あー、なるほど……あの人、あかりに気があるのか?)

 どうやら、男はあかりをデートに誘いたいようで、野菜はそのためのきっかけ作りのようだった。

 なんとも分かりやすい。

 すると飛鳥は、紅茶を飲みながらじっと耳をすます。聞けば、あかりは好きでもない男に、一方的に好意を寄せられているのか、返事に困っているようだった。

 しかも、相手は隣に住む男。
 はっきりいってあかりは、危機管理が全くなっていない。

 助けてもらって偉そうなことは言えないが、今日だって、いくら具合が悪かったとはいえ、逃げ場もない女一人の家の中に、男(飛鳥)を招き入れているわけで、そんな、あかりが、隣の男に好意を寄せられているなんて、下手したら部屋に押し入られるのではなかろうか?

 ──なんて、思考が一瞬だけよぎる。

「あの、すみません。まだ予定がわからなくて…」

「そっか、あ。じゃぁさ、今からうちにご飯食べにこない?」

「え?」

「ちょっと作りすぎて、こまってたんだ」

 そしてこの男、なかなか積極的だった。

 デートを断られ、最終手段にでも出たのか、それは食事を理由に、あかりを自分の部屋に招き入れようとしていた。

「まだ、夕飯作ってないみたいだし、今からおいでよ!」

「あ、いえ、いいです。ご迷惑ですし……っ」

 そして、無駄に人がいいあかりやつは断りかたも下手だった。

 相手を傷つけまいと言葉を選ぶ結果。

 相手には迷惑していることが一切伝わらず、結果ドツボにはまっていく。

(アイツ、大丈夫か?)

 なんか、ちょっと、聞いていられなくなってきた。

「迷惑だなんて、そんなことないよ。あかりちゃん、この前シチュー好きだとかいってたよね?」

「え?! そんなこと、言いました?」

「俺、そこそこ料理上手なんだよ! それに一人で食べるより、二人で食べたほうが美味しいしさ~」

「あの……っ」

 あかりは、顔をひきつらせた。

 ここ最近、大野からの誘いを断り続けていたせいか、はじめの頃はあっさり引いてくれていた大野も、次第に食い下がるようになってきた。

(どうしよう……っ)

 必死に断る口実を探す。だが──

「じゃぁ、準備して待ってるから、すぐ来てね!」

「え!? あの、大野さ──」

「あかり」

「!?」

 瞬間、有無を言わさず約束させようとしてきた大野に会話を遮り、飛鳥が声をかけた。

 ずっと奥に引っ込んでいた飛鳥が、部屋から出て顔を覗かせると、金髪碧眼の異常に整った顔だちをした、その美青年を見た瞬間、大野は硬直する。

「え? あかりちゃん……こ、この人は?」

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