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第8章 遭遇
第114話 雨と危機感
しおりを挟む「ねぇ蓮。ここの公式、どうやって解くの?」
夕方5時半をすぎた頃──神木家では、リビングのテーブルの上に勉強道具を一式を広げ、華と蓮がテスト勉強をしていた。
数学は兄に教えてもらおうと思ったのだが、肝心の兄は今日は遅くなるらしい。華は、厄介な公式にぶち当たり、仕方なく蓮に助けを求めたのだが……
「自分で解け。俺、今大事なところ」
「えー、蓮は榊くんに教えてもらってるんでしょー。なら、その頭脳私にも少しは分けてよー」
「俺の頭脳は俺だけのもんだから……てか今スゲー途中なんだから、コレ解き終わるまでまってろ」
「はいはい。邪魔してすみませんでしたー」
どうやら、難しい問題を解いてる最中に話しかけてしまったようで、華は解き終わったら教えてくれるのだと理解すると、シャーペンを机の上に置きジッと待つことにした。
「飛鳥兄ぃ……まだ帰ってこないのかな?」
窓の外を見れば、雨が降っていた。
そのせいか、外は仄かに薄暗い。
「今頃、女の子とお楽しみ中だったりしてな?」
「はぁ!?」
すると、蓮がボソリとそう言って、華はギョッと目を見開く。
「ちょっと! まだ、女の子と一緒だって決まったわけじゃないでしょ!? 本貸した後にどこかでかける用事があったのかもしれないし!」
「まーあくまでも、もしかしたらだけど……でも、さっきLIME送ったのに、まだ既読つかないし、これほぼ"クロ"だろ?」
「なに、試すようなことしてんの!?」
雨が降ってきたのもあり、蓮は兄が傘を持っているかLIMEをしたようだった。だが、5時ごろ送ったそれは、未だに既読なし。
「スマホ見れない何かはしてんじゃない?」
「やめて、なんか生々しいから……っ」
すると、微かに頬を赤らめた華は、再び窓の外に目をを向けた。
「でも、雨さっきより強くなってるよ? 飛鳥兄ぃ、本当に大丈夫かな?」
外を見れば、雨はますます強くなり、未だに止む気配がない。
「ちゃんと、雨宿りできてればいいんだけど……」
第114話 雨と危機感
◇◇◇
その後、飛鳥は、ずっとあかりの家で雨宿りをしていた。
ベランダに続く掃き出し窓の前に立ち外をみれば、ザーザーと降る雨は、一向にやむ気配がなく、空はどんよりと暗いままだった。
「雨、やみそうですか?」
外を眺める飛鳥にむけて、あかりが背後から声をかけた。
振り返ると、どうやらあかりは、新しく紅茶を入れてきてくれたようで、テーブルに膝をつくと、にこやかを笑って「どうぞ」とすすてきた。
飛鳥は、そんなあかりの誘いに、言われるままテーブルの前に移動し、先程腰掛けていたベッドの上に座るて、差し出された紅茶を手に取った。
温かいそれは、程よく甘く、夕方少しだけ雨に晒され冷えた体に染みるように溶けていく。
「少しは、落ち着きましたか?」
「……うん」
あかりが、カーペットの上に正座し、飛鳥を見上げて声をかければ、飛鳥は素直に返事を返し、さっきまでの自分に苦笑する。
思い返してみると、なんと恥ずかしいことだろう。あかりの前で醜態をさらしたのは、これで2度目だ。
自分のふがいなさを憂い、深くため息をつきそうになるのをこらえると、飛鳥は、再びあかりから視線を反らす。
するとその先に、本棚があるのが目についた。なんとなく、読む本の趣味が似ているのか、読んだことがあるようなタイトルの本が、いくつか目についた。
狭いながらも、その部屋はしっかりと整理整頓されていて、白を基調とした淡い色合いの内装に、アイボリーのカーテンと円形のカーペット。
目の前のテーブルやチェストは全て木製のもので統一されていて、改めて部屋を見回せば、なんとも女性らしい部屋だった。
「あのさ、あかり……」
「はい」
「お前、一人暮らしなんだよね?」
「? そうですが?」
「ダメだろ、男連れ込んじゃ」
そういえば、コイツ一人暮らしだった!
ふと、そのことを思い出すと、飛鳥はさすがに危機感が無さすぎるのではないかと、あかりに忠告の言葉を投げ掛ける。すると、あかりは一瞬たじろいたあと
「っ……仕方なかったんです! タクシーで送ろうにも、私、神木さんの家知らないし! それに雨までふってきて……いっそ、気を失ってくれたら救急車でも何でも呼べたんですけど」
「なにそれ。勝手に連れ込んどいて、よく言うよ」
「連れ込んだとか人聞きの悪いこと言わないでください! それに私、あなたをここに連れてくるときに、ご近所さん数名に目撃されたんですよ。明日から、どんな顔して会えばいいか……っ」
飛鳥を部屋に連れてきた時のことを思い出したのか、酷く困った顔をするあかりを見て、飛鳥はふーんと目を細めた。
確かにタクシーを呼ぼうにも、家はしらない。雨はふりそう。だが、救急車を呼ぶほどではない。……となれば、家が近いなら、自宅につれていくのが手っ取り早いかもしれない。
だが、ふらついてる男(イケメン)を、部屋に連れ込んだとなれば、変な噂が立ってもおかしくはない。
「へ~、なんかゴメンねー」
「……謝る気あります?」
「あはは、じゃぁ、なにか聞かれたら、俺のこと"彼氏"だとでも言っとけば?」
あかりの反応をみて、飛鳥がクスクスとからかいまじりにそう答えると、あかりはおもむろに顔を顰《しか》めた。
「やめてください。あなたのファンに刺されるくらいなら、ふしだらな女のレッテル貼られた方が、まだマシです!」
「お前、本当可愛くないよね……」
相変わらずのあかりの反応に、飛鳥は一変乾いた笑みを浮かべた。
もっと恥ずかしがるとか、可愛い反応はできないのだろうか?
いや、出来なりだろうけど、あかりなら──
「あ、そうだ。悪いけど、傘貸してくれない?」
すると、ふと話を変え、飛鳥がそう問い掛ける。
「あ、そう言えば傘もってないんでしたよね。女物の傘しかないですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
時計をみれば、もう6時半。
雨のせいもあり、外はとても薄暗く、いつまでも女の子の部屋に居座るわけにはいかないと飛鳥がそう尋ねれば、あかりは傘を用意するため、その場から立ち上がる。
だが、その時だった。
──ピンポーン!
「「!?」」
突如室内に、インターフォンの音が鳴り響いたのだ!
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