神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
108 / 507
第7章 お姉ちゃんと美少女

第99話 出会いと謝罪

しおりを挟む

(はぁ……怒らせちゃった)

 着替えを終え、鏡の前に座ったあかりは、腰近くまである長く髪をとかしながら、深くため息をついた。

 鏡に映る自分の顔は、なんとも気落ちした顔をしていた。なぜならあかりは、昨日飛鳥を怒らせて閉まった。

 もっと、言葉を考えるべきだった。

 とはいえ、今更ながらに後悔しても、出てしまった言葉を取り消すことはできないのだが、相手を不快にさせてしまったのも確かで、それは、あまり気持ちのよいものではなかった。

(……どうしよう)

 このまま疎遠になるなら、あかりにとっては、むしろありがたいことのはずだった。

 だが──

(……ケンカ別れ、みたいなのは、なんか嫌だなぁ)

 相手を怒らせたまま、謝らずにいるのは、どうにも後腐れが悪く、スッキリしない。

 あかりは、いつものようにサイドの髪を編み込みバレッタでハーフアップにすると、再び深くため息をつく。

 もう、何度目のため息だろうか?

『そんなに"大切な人"、増やしてどうすんの?』

 すると、ふとあの時の飛鳥の言葉を思い出し、あかりは、更にその表情を曇らせた。

「……エレナちゃん、大丈夫かな?」

 エレナとあかりが出会ったのは、あかりがこちらに引っ越してきた3月下旬のことだった。

 あかりが住むこの部屋のベランダからは、あの公園がよく見渡せる。

 そしてそれは、あかりが引っ越してきた翌日。昼頃、なにげなく外を見ると、公園のベンチに、エレナが一人座っているのが見えた。

 一際目立つ少女だった。

 だが、引っ越しのあとと言うこともあり、あかりも片付けや荷ほどきの作業で忙しかったからか、その後、気にとめることもなかったのだが、夕方また、また外をみると、エレナは、まだそこに、たった一人座ったままだった。

 一人寂しそうに座るエレナをみて、ほっとけなかったのは、あかりにも"同じ年の弟"がいたからかもしれない。

 あかりは、お節介とは知りつつも、エレナに声をかけにいった。


 ◇◇◇


「ねぇ、どこか具合悪いの?」
「……」

 あかりが声をかけると、エレナは一瞬あかりと目を合わせたあと、無表情で言葉を返してきた。

「いえ、別に……大丈夫です」
「……」

 警戒されていたのかもしれない。

 だが、ずっと一人で何時間も──

 あかりは、ベンチに座るエレナの前に、ゆっくりとしゃがみ込むと

「もうすぐ暗くなるよ? お家、帰らなくていいの?」
「……っ」

 その言葉に、エレナは表情を曇らせる。すると、何か訳ありらしいことを察したあかりは、エレナを見上げながら、優しく声をかけた。

「私ね、昨日そこのアパートに引っ越ししてきたの? お昼から、ずっとここにいたよね? なにか、あったの?」

「……お姉ちゃん、引っ越してきたの?」

「うん、私、倉色くらしきあかりっていうの、お名前聞いてもいい?」

「………紺野……エレナ」

「エレナちゃんか……クッキー食べられる? ずっとここにいたし、お腹すいてるんじゃない?」

 そういうと、あかりはポケットから個包装されたクッキーをいくつか取り出した。だが

「ごめんなさい……私、お菓子とか食べちゃダメなの」

「あ。もしかして、アレルギーとかだった?」

「うんん。モデル目指してるから、食べるものとか色々制限されてるの」

「モデル?」

 するとエレナは、あかりに少しずつ、自分のことを話し始め、すると、しばらく話を聞いてあげると、次第に打ち解けてきたのか、エレナの表情に、少しずつ笑顔が見え始めた。

 だが──

「…ぅ……ひく……っぅ……」
「エレナちゃん?」

 笑顔を見せ始めたエレナに、あかりがホッとした束の間、なぜかエレナは泣き出してしまった。
 そして、その後エレナは、しゃくりあげるように涙を流し始めると、モデルのことだけじゃなく、学校のことや母親のことなど、あかりに泣きながら話はじめた。

 きっと、誰にも相談できず、ずっと一人で抱え込んでいたのだろう。それからは、時おりエレナと会って、話をするようになった。


 ◇◇◇


「"大切な人"が増えるのは……そんなに悪いことかな?」

 飛鳥の言葉を思い出し、あかりは鏡に映る自分自身止めを合わせる。

 確かにエレナとは、出会ったばかりだ。

 だが、エレナの話を聞いて、力になってあげたいと思ったのも、そして自分を姉のように慕うエレナを大切に思ってるのも確かなことだった。

 それに──

 ピンポーン!

「!」

 瞬間、物思いにふけっていると、インターフォンがなった。
 あかりは、慌ててドレッサーの前から立ち上がると、室内モニターで玄関先の人物を確認する。

 するとそこには、一人の男性が立っていた。

 その相手にあかりは疑問を抱きつつも、玄関に移動すると、ガチャリと音を響かせて、玄関の扉を開ける。

「おはようございます、大野さん。あの……なにか?」
「おはよう、あかりちゃん」

 インターフォンを鳴らした相手は、あかりの隣に部屋に住むの大野さんだった。
 大野は、少し恥ずかしそうにはにかむと、あかりにむけ、ひとつ提案を投げ掛けてきた。

「あのさ、今日よかったら、お昼一緒にどうかな? 近くに、美味しいって評判の店があるんだけど、二人で行ってみない?」

「…………」

 突然のお誘いに、あかりは一瞬思考をとめる。

「え……と……?」

 だが、その提案の意図を察すると、あかりは、顔には出さないが、その心の中でひどく困惑し始めた。

「ぁ、あの……すみません。今日は、 先約がありまして……っ」

「あ、そっか。突然こんなこと言って、ごめんね。迷惑だったかな?」

「あ、いえ……」

 突然のことに、当たり障りない断り文句しか浮かばなかった。

 だが、大野はもともと人柄のよい人で「いいよ、気にしないで!」と笑いながら手を振ると、あっさりと引き下がってくれた。

 あかりは、去っていく大野を見送り、玄関の戸を閉めると、ドアに寄りかかり

「なに、今の……っ」

 予想外の出来事に、あかりは酷く動揺した。
 あれは、明らかに"デート"のお誘いだろう。そういえば、最近よく声をかけられるとは思っていた。だが、まさか恋愛対象として見られていたとは、微塵も思わなかった。

(どうしよう。今日はなんとかなったけど、お隣さんだし……このまま、ずっと断り続けると、凄く気まずくなりそう……)

 大野は、決して悪い人ではない。
 むしろ、人当たりもよく、仕事だってまじめにしているようだったし、おまけに見た目もイケメンと言われる部類の人だろう。

 そんな、優しくてイケメンなお隣さんが好意を寄せてくれる。本来なら、とても、ありがたいことなのだが──

(……大野さん、このまま、諦めてくれないかな?)

 あかりにとっては、そんなお隣さんとの甘い恋の駆け引きなんかより、今後の近所付き合いのほうがよっぽど重要だった。

 好意を向けられるのは、ありがたいことだと思う。だが、あかりは、他人からむけられる、その好意に答える気など────全くない。

「………あはは、神木さん……きっと、こんなの日常茶飯事なんだろうなー」

 あかりは、昨日の飛鳥が『断るのも大変』と言っていたのを思い出した。

 確かに、人から向けられた好意を断るのは、なかなか大変なことだと思う。

 それに断った方だって、心を痛める。

 きっと彼は、こんな思いを、ずっと繰り返しているのだろう。

 それなのに、彼が彼女を作っていないと、安藤たちから聞いていたにもかかわらず

 なぜ、作らないのか?

 その理由は一切考えもせず言葉を発し、あげく、彼を傷つけて

 ──怒らせてしまった。


「……バカみたい、私……っ」

 そのまま玄関に座り込み、膝をかかえると、あかりは顔を埋めた。




  《あかり、嘘ついてゴメン》



 古い記憶が脳裏によぎると、あかりは、その瞳に、かすかに涙を滲ませた。

「大切な人を増やしたくない」なんて、思わない。

 だけど、あかりは──は、どうしてもできなかった。


「っ……ちゃんと……謝らなきゃ……っ」

 なんであんなことを、言ってしまったんだろう。

 誰かに好意向けられて、しまうのは

 他人を好きにれないのは


 私だって、同じはずなのに……っ



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

伊賀忍者に転生して、親孝行する。

風猫(ふーにゃん)
キャラ文芸
 俺、朝霧疾風(ハヤテ)は、事故で亡くなった両親の通夜の晩、旧家の実家にある古い祠の前で、曽祖父の声を聞いた。親孝行をしたかったという俺の願いを叶えるために、戦国時代へ転移させてくれるという。そこには、亡くなった両親が待っていると。果たして、親孝行をしたいという願いは叶うのだろうか。  戦国時代の風習と文化を紐解きながら、歴史上の人物との邂逅もあります。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

女の子が地面に突き刺さっている

藤田 秋
キャラ文芸
マジかよ。

純喫茶カッパーロ

藤 実花
キャラ文芸
ここは浅川村の浅川池。 この池の畔にある「純喫茶カッパーロ」 それは、浅川池の伝説の妖怪「カッパ」にちなんだ名前だ。 カッパーロの店主が亡くなり、その後を継ぐことになった娘のサユリの元に、ある日、カッパの着ぐるみ?を着た子供?が訪ねてきた。 彼らの名は又吉一之丞、次郎太、三左。 サユリの先祖、石原仁左衛門が交わした約束(又吉一族の面倒をみること)を果たせと言ってきたのだ。 断れば呪うと言われ、サユリは彼らを店に置くことにし、4人の馬鹿馬鹿しくも騒がしい共同生活が始まった。 だが、カッパ三兄弟にはある秘密があり……。 カッパ三兄弟×アラサー独身女サユリの終始ゆるーいギャグコメディです。 ☆2020.02.21本編完結しました☆

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...