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第7章 お姉ちゃんと美少女
第96話 大切な人と拒絶
しおりを挟む「……簡単なことじゃないよ」
「え?」
「確かに俺こんな見た目だから、女の子からよく声もかけられるし、他にもいろんな誘い受けるけど……でも正直、断るのも結構大変なんだよね?」
「え? 断るんですか?」
「当たり前だろ。俺、もう……」
飛鳥は目を細め、また呆れたように笑う。
「良く言われるよ。なんで彼女作らないのとか、女の子選び放題なのに、もったいないとか。外見がいいから、良く告白もされるし、彼女になりたい子もいっぱいいるみたいだけど……俺、もう彼女つくる気になれないっていうか……どうすれば──赤の他人を好きになったりできるんだろう……っ」
「……え?」
瞬間、あかりは瞠目する。
弱々しく放たれたその言葉は、あまりにも、彼に似つかわしくない言葉だった。
春の風が揺らすその髪の隙間からは、どこか悲しげな瞳が見えた。
それはまるで、何かに怯えているような、そんな色を秘めているようにもみえて、あかりは、その瞳から目が離せなくなった。
「神木さん……?」
「──エレナちゃん」
「え?」
「まだ、出会ったばかりの子なんだよね……なのに、なんで、そんなに親身になれんの?」
「……」
だが、次に放たれた言葉は、どこかイラついているような、そんな棘のある言葉だった。
まるで責めているようなその声色に、あかりは反論もできず、ただただ飛鳥を見つめる。
「"大切な友達"とかいってたけどさ。友達つくったり、恋人作ったり、そんなに簡単に"大切な人"増やしてどうすんの? 許容範囲ってあるだろ、自分の……自分の手から取りこぼした人はどうなるの? 彼女作れなんて言われても、好きにもなれない子、守ってあげられるほど、俺も暇じゃないんだよね」
「……」
「っ……それに"守る"って、そんなに簡単なことじゃないだろっ……それなのに、わざわざ人を好きになってまで、大切な人を増やすなんて──」
「怖いですか?」
「!?」
刹那、ハッキリと声が聞こえた。
穏やかだが、どこか心を射抜くような凛とした声。
その声に、飛鳥は咄嗟に息を詰める。
「……は?」
「ですから……あなたが人を好きになれないのは、大切な人を増やすのが怖いからですか? 今のあなたはまるで……大切な人を失うのが怖くて、人を好きになるのを拒んでるみたい」
「…………」
瞬きひとつ出来ず、飛鳥はあかりを見つめた。
ザァァァと木々が揺れる音が吹き荒れれば、それは同時に二人の頬を撫で、髪を揺らし、言葉を攫った。
─────怖い?
「はは……俺、君のこと、嫌いだな」
その後、長い長い沈黙が続いた後、薄く口角をあげた飛鳥は、どこか貼り付けたような笑みを浮かべてそう言った。
「まーいっか。 もう、話すこともないだろうし。それ、確かに渡したよ。じゃぁね───あかりさん」
荷物を手にベンチから立ち上がると、飛鳥は軽く小首を傾げて、別れの挨拶をする。
にこやかに笑う姿は、特段普段と変わりなく見えた。
だが、背を向けた彼の声は、決して好意的な声ではなく……
それは明らかな
『拒絶』を意味していた。
「……あかりさん……か」
一人ベンチに残って、あかりが小さく呟く。
怒らせてしまったのだと思った。
今の言葉は、きっと彼の逆鱗にふれてしまうものだったのだろう。
だけど、あまりにも悲しそうに
あまりにも、泣き出しそうな声で、言葉を放つものだから
──つい、気になってしまった。
「図星……だったのかな?」
大切な人を
増やしたくないだなんて
大切な人を
増やすのが怖いだなんて
失ったことがあるのかな?
『大切な人』を────…
◇
◇
◇
────バタン!!
「ひっ!?」
その後、飛鳥が自宅に帰り、リビングの扉を開けると、その瞬間、華と蓮がビクリと肩を弾ませた。
いつもより乱暴に開かれた扉。
見ればそこには、帰宅した兄が酷く神妙な面持ちで立っていて、それを見て、ただならぬ雰囲気を察した双子は、ただただ硬直する。
「……あ、飛鳥兄ぃ?」
「どう、したの? 兄貴」
「別に……はい、これ頼まれてた漫画とノート」
「え? あ、ありがとう……」
恐る恐る問いかけたが、飛鳥は蓮に頼まれていた荷物をさしだすと、早々にリビングから出て行った。
そして、その姿を見た双子は
「ちょっと、何あれ!?」
「知るかよ、俺が……っ」
「蓮! アンタが漫画とか頼んでパシリに使ったからじゃないの!?」
「はぁ!? 出るときは、いつも通りにこやかだったっての。俺にせいにすんな!」
「じゃぁ、何であんなに機嫌悪いの?」
今の兄は、一切笑顔を浮かべていなかった。
あんなにも余裕のなさそうな兄は、なんだかとても
久しぶりに見たような気がした。
(何か……あったのかな?)
兄が出ていった扉を見つめ、華はいつもと違う兄の姿に、少しだけ胸の奥がざわつくのを感じたのだった。
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