神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
105 / 507
第7章 お姉ちゃんと美少女

第96話 大切な人と拒絶

しおりを挟む

「……簡単なことじゃないよ」

「え?」

「確かに俺こんな見た目だから、女の子からよく声もかけられるし、他にもいろんな誘い受けるけど……でも正直、断るのも結構大変なんだよね?」

「え? 断るんですか?」

「当たり前だろ。俺、もう……」

 飛鳥は目を細め、また呆れたように笑う。

「良く言われるよ。なんで彼女作らないのとか、女の子選び放題なのに、もったいないとか。外見がいいから、良く告白もされるし、彼女になりたい子もいっぱいいるみたいだけど……俺、もう彼女つくる気になれないっていうか……どうすれば──赤の他人を好きになったりできるんだろう……っ」

「……え?」

 瞬間、あかりは瞠目する。

 弱々しく放たれたその言葉は、あまりにも、彼に似つかわしくない言葉だった。

 春の風が揺らすその髪の隙間からは、どこか悲しげな瞳が見えた。

 それはまるで、何かに怯えているような、そんな色を秘めているようにもみえて、あかりは、その瞳から目が離せなくなった。

「神木さん……?」

「──エレナちゃん」

「え?」

「まだ、出会ったばかりの子なんだよね……なのに、なんで、そんなに親身になれんの?」

「……」

 だが、次に放たれた言葉は、どこかイラついているような、そんな棘のある言葉だった。

 まるで責めているようなその声色に、あかりは反論もできず、ただただ飛鳥を見つめる。

「"大切な友達"とかいってたけどさ。友達つくったり、恋人作ったり、そんなに簡単に"大切な人"増やしてどうすんの? 許容範囲ってあるだろ、自分の……自分の手から取りこぼした人はどうなるの? 彼女作れなんて言われても、好きにもなれない子、守ってあげられるほど、俺も暇じゃないんだよね」

「……」

「っ……それに"守る"って、そんなに簡単なことじゃないだろっ……それなのに、わざわざ人を好きになってまで、大切な人を増やすなんて──」

?」

「!?」

 刹那、ハッキリと声が聞こえた。
 穏やかだが、どこか心を射抜くような凛とした声。

 その声に、飛鳥は咄嗟に息を詰める。

「……は?」

「ですから……あなたが人を好きになれないのは、大切な人を増やすのが怖いからですか? 今のあなたはまるで……

「…………」

 瞬きひとつ出来ず、飛鳥はあかりを見つめた。

 ザァァァと木々が揺れる音が吹き荒れれば、それは同時に二人の頬を撫で、髪を揺らし、言葉を攫った。


 ─────怖い?




「はは……俺、君のこと、嫌いだな」

 その後、長い長い沈黙が続いた後、薄く口角をあげた飛鳥は、どこか貼り付けたような笑みを浮かべてそう言った。

「まーいっか。 もう、話すこともないだろうし。それ、確かに渡したよ。じゃぁね───

 荷物を手にベンチから立ち上がると、飛鳥は軽く小首を傾げて、別れの挨拶をする。

 にこやかに笑う姿は、特段普段と変わりなく見えた。

 だが、背を向けた彼の声は、決して好意的な声ではなく……

 それは明らかな


 『拒絶』を意味していた。





「……あかりさん……か」

 一人ベンチに残って、あかりが小さく呟く。

 怒らせてしまったのだと思った。

 今の言葉は、きっと彼の逆鱗にふれてしまうものだったのだろう。

 だけど、あまりにも悲しそうに

 あまりにも、泣き出しそうな声で、言葉を放つものだから

 ──つい、気になってしまった。



「図星……だったのかな?」


 大切な人を
 増やしたくないだなんて


 大切な人を
 増やすのが怖いだなんて




 失ったことがあるのかな?







 『大切な人』を────…


 


 ◇

 ◇

 ◇



 ────バタン!!

「ひっ!?」

 その後、飛鳥が自宅に帰り、リビングの扉を開けると、その瞬間、華と蓮がビクリと肩を弾ませた。

 いつもより乱暴に開かれた扉。

 見ればそこには、帰宅した兄が酷く神妙な面持ちで立っていて、それを見て、ただならぬ雰囲気を察した双子は、ただただ硬直する。

「……あ、飛鳥兄ぃ?」

「どう、したの? 兄貴」

「別に……はい、これ頼まれてた漫画とノート」

「え? あ、ありがとう……」

 恐る恐る問いかけたが、飛鳥は蓮に頼まれていた荷物をさしだすと、早々にリビングから出て行った。

 そして、その姿を見た双子は

「ちょっと、何あれ!?」

「知るかよ、俺が……っ」

「蓮! アンタが漫画とか頼んでパシリに使ったからじゃないの!?」

「はぁ!? 出るときは、いつも通りにこやかだったっての。俺にせいにすんな!」

「じゃぁ、何であんなに機嫌悪いの?」

 今の兄は、一切笑顔を浮かべていなかった。

 あんなにも余裕のなさそうな兄は、なんだかとても

 久しぶりに見たような気がした。

(何か……あったのかな?)

 兄が出ていった扉を見つめ、華はいつもと違う兄の姿に、少しだけ胸の奥がざわつくのを感じたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

推理小説家の今日の献立

東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。 その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。 翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて? 「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」 ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。 .。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+ 第一話『豚汁』 第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』 第三話『みんな大好きなお弁当』 第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』 第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

処理中です...