神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第7章 お姉ちゃんと美少女

第92話 飛鳥と頼み事

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「いらっしゃいませー」

 書店員の挨拶が響く店内にて、飛鳥はコミックコーナーで、蓮から頼まれた漫画の最新刊を、新刊コーナーの平台の中から選び出すと、自分用の文庫本と一緒に、レジへと進んだ。

「あれ~神木くん、この前の本もう読んじゃったの?」

「あー読み出すと早いんだよね俺。また、オススメの本あったら教えてよ♪」

 するとレジ前で、顔見知りの店員に声をかけられ、飛鳥はにこやかに返事を返した。

 声をかけてきた店員は、30代くらいの眼鏡をかけた好青年だ。どうやら、読む本の趣味が合うらしく、飛鳥は時折この店員から、オススメの本を紹介してもらっていた。


「ありがとうございました~」

 やらその後、その店員と何気ない会話をかわし、会計をすませると、飛鳥は本屋をあとにする。

 外にでれば、そこはショーウィンドーが立ち並ぶ街の中。土曜日ということもあり、ここに来るまでに、既に一人スカウトに捕まり、一人にナンパされた。

 相も変わらず、自分の容姿は目立つ。

(また変なのに捕まる前に、帰るかな……)

 足早に人込みをすり抜け先にすすむと、飛鳥は、いつも利用する商店街に差し掛かった。中を通れば、見慣れた顔の人たちが、飛鳥に向けて代わる代わる声をかけてきた。

「飛鳥くーん! 最近、よく双子ちゃんたちがお買い物しにくるわよー」

「こんにちは。最近は、華が家事するようになってきたから」

 八百屋の前を通りかかった際に、店のおばさんに声をかけられた。

 この商店街は、高校からの帰り道のため、最近は、華や蓮が買い出しをしてきてくれる。

 今までは、飛鳥がしていたことを、あの双子たちは、ここ最近、率先して協力してくれるようになった。

「もう高校生だもの。いつまでも飛鳥くんに、甘えてられないわよねー」

「…………そうだね」

 家事を分担する分、飛鳥の負担は前に比べたら、大分かるくなった。

 だが、本来なら喜ばしいことなのに、なぜか

 ──素直に喜べない。

「でも、いい機会じゃない。飛鳥くんだって、いつかは結婚して家をでていくんだし、手が離れたほうが、安心できるってものよ! あ! なんなら、うちの娘を嫁にもらってくれてもいいのよ! 飛鳥くんが義理の息子になるなら、おばさん大歓迎~」

「あはは。俺はやめたほうがいいんじゃないかな?」

 グイグイと迫るおばさんを前に、飛鳥は苦笑い。
 見た目が良いのもあり、こういう打診はよくあるのだ。特に自分と同じ年頃の娘をもつ親には。

 だが、彼女すら作る気がないのに、結婚なんて、どう考えても無理な話だ。

 飛鳥は適当にかわし、八百屋のおばさんに手をふると、再び商店街の中を進み始めた。

 だが、そこに──

「あら、あなたこの前の!!」
「!?」

 突然の背後から服を引っ張られた。

 何事かと振り向けば、たまたますれ違った70代くらいのおばあさんが、なぜか飛鳥の服を掴んでいた。

「??」

 突然のことに驚き、飛鳥は、その相手をマジマジと確認する。
 すると、そのおばあさんが、少し前にあかりに重い荷物を持たせ立ち去った、あの時のおばあさんだと気がついた。

「あー、あの時の……大根とカボチャの、おばあちゃん?」

「あらヤダねー。私そんな風に言われてんのかい? はずかしいねー」

 そう、このおばあさんは、飛鳥があかりを自宅まで送り届けるきっかけを作った、あのおばあさん。

 白髪混じりの小柄なおばあさんは、飛鳥が振り向いたのを確認すると、掴んでいた服から手をはなし、明るくはなしかけてきた。

「それにしても、君とってもイケメンなのね~、もしかして、あかりちゃんの彼氏?」

「いえ、違います」

「あらまぁ、じゃーお友達ね!」

「友達、とも……違うような?」

 グイグイと迫るおばあさんに、飛鳥はもはやタジタジだ。

「あのね。あなた、あかりちゃんの家知ってる?」

「? まぁ……一応」

「やっぱり! 良かったわ~! じゃこれ、あかりちゃんに渡してくれないかしら!」

「!?」

 そう言うと、おばあさんは、いきなり小ぶりの紙袋を手渡してきた。その突然の頼みごとに、飛鳥は酷く動揺する。

「ちょっ……なんで、俺が!?」

「だって、あかりちゃん親元離れて一人で暮らししてるって言うじゃない。なんだか、うちの娘を思い出してね~」

(いやいや、思い出してねじゃないだろ。なんで俺が、あかりに荷物もってかなきゃならないんだよ)

 笑顔を浮かべつつも、心は笑っていなかった。どうやらおばあさんは、自分のことを"あかりのお友達"だと勘違いしているらしい。

 だが、正直、こんな面倒ごとを押し付けらるのはゴメンだ。

「……それなら、その"娘さん"に送ってやればいいと思うよ? その方があかりも喜ぶと思うし(←適当)」

「それがね~うちの娘は、もう死んじゃってるのよ」

「…………」

 瞬間、飛鳥は笑顔のまま硬直する。

 あれ? 俺もしかして
 今めちゃくちゃ重い扉叩いた?

 おばあさんから飛び出した、まさかまさかの一言。それを理解した途端、飛鳥はサーと血の気が引く。

「あ……あの、すみません……っ」

「いいのよ、気にしないで。もうね、30年も昔の話なの。あの子、社会人になって一人暮らししてたんだけど、風邪をこじらせたみたいでねー」

「……」

「電話してくれたら、すぐに駆けつけたのに、親に心配かけたくなかったのかねー。でも、今でも思うのよ。もっと連絡してたら良かったとか、すぐに駆けつけたかったとか……だから、あかりちゃんを見ていたら、なんだか、ほっとけなくてねー……でも、やっぱりこんなことしたら……迷惑かしらねー」

 娘のことを思い出したのか、悲しそうに笑ったおばあさんを見て、飛鳥は目を細めた。

 自分の娘とあかりを重ねて、少しでもあかりの役に立ちたいと思ったのだろうか?

 その、おばあさんの姿は、まるで──


「……そんなことないよ」

「え?」

「あかり、すごく喜ぶと思う。だからこれ、ちゃんと渡しときます」

 優しく微笑むと、飛鳥はおばあさんが手にした荷物を受けとり、その頼み事を快く承諾した。

 すると、おばあさんも、そんな飛鳥を見て嬉しそうに顔を綻ばせた。

 その後、また少しだけ、おばあさんと話をすると、飛鳥は一つ増えた荷物を手に、あかりの自宅へ向かうべく歩き始めた。

 おばあさんから手渡されたそれは、和菓子のようだった。

 家の場所も知らない、そんなあかりへの手土産をあらかじめ用意していたとは思えない。

 多分これは、もともと自分で食べるために、買ったものなのだろう。

 それを、たまたま自分を見かけたことで、あかりを思い出し、なんの躊躇いもなく、あかりに渡してくれと差し出してきた。

(もう、死んじゃってる……か)

 そう言った、おばあちゃんの気持ちは、何となくだけど、わかる気がした。

 俺も、母を亡くしているから──

 あの日、俺がもっと早く帰っていたら、母は助かったかもしれないとか、今になっても


 考えてしまうことがあるから──



 ◇

 ◇

 ◇



(えーと……確かこの辺だったよね?)

 それから、自宅前を素通りして、暫く歩くと、飛鳥は、辺りを確認しながら、あかりのアパートを目指す。

(でも、まさかパシリに使われるとはね……あ。そう言えば俺、あかりの名字も連絡先も知らないけど、アパートについたら、どうするかな?)

 荷物を受け取ったはいいが、アパートの場所しか知らず、そのあとのことを考えていなかったことに気づく。

「ま。なんとかなるか……」

 だが、行けばなんとかなるだろうとそのまま住宅街を進めば、その少し先に、あかりが住むアパートが見えてきた。

「……あれ?」

 だが、ふとその視線を向かいの公園の中に移すと、ベンチに座っている"目的の人物"の後ろ姿が目に入った。

 飛鳥が、改めて、その公園に視線を向けると、そこには──

 あかりと、"金色の髪をした少女"が座っていた。


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