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第6章 死と絶望の果て
第82話 死と絶望の果て 2
しおりを挟む葬儀が終わってからも、心が休まる暇はなかった。
まだ小さい華と蓮の子守りに加えて、仕事に復帰するために、俺はひたすら華と蓮の預け先を探していた。
だけど、保育園はどこも空きがなく、仕事を辞めるかも考えたけど、再就職にも明らかに不利なこの状況で、辞めるのは得策じゃなかった。
『神木、お前いつから出勤できるんだ?』
そんな時、上司から電話がかかってきた。それは、妻が亡くなって二週間後のことだった。
「すみません。子供達の預け先がまだ見つからなくて、だから、もう暫く……」
『何を言ってるんだ。お前が働かないと、それこそ子供たち食わせていけないだろう。親でも親戚でも預けて、早く仕事に戻れ。それが、無理なら子供は』
「……ッ」
電話先の上司の声に、酷く絶望した。
働けるなら、働いてる。
預けられるなら、預けてる。でも──
「それが出来ないから、こんなに悩んでんだろッ!!」
受話器を叩きつけるようにして切ったあと、膝から崩れ落ちると同時に、そう叫んだ。
味方など、誰もいないように感じた。
誰もがみな「子供には母親が必要だ」と「子供は手放せ」と、そう俺に語りかけてくるようだった。
上手くいかないことばかり続いて、イライラすることも増えて、それと同時に、体が思うように動かず、部屋で呆然とすることも増えた。
何を食べていたかも、よく覚えていない。
だけど、そんな俺のもとに、飛鳥はよく声をかけにきた。
◆
「お父さん、なにか食べて……」
「…………」
薄暗い部屋の中で、呆然と座り込む俺のそばで、飛鳥が語りかける。
「ねぇ、お父さん」
まだ小学二年生の、女の子みたいなか細い声をした飛鳥の……とてもとても不安そうな声。
お父さん、お父さん、と。
なんでもいいから食べてほしい……と。
だけど、その時の俺には、そんな飛鳥の言葉すら心には響かず。
「……なぁ、飛鳥」
「?」
「子供には、母親がいなくちゃダメなんだってさ……お前も……そう思うか?」
「……」
「会いたいか……?」
──お母さんに。
ただ漠然と、そうと問いかけた。
今思えば、なんて残酷な問いかけだろう。
だけど、俺は、無性に会いに行きたくなった。
また、あの声を聞きたい。
あの優しくて透き通るような、彼女の声を聞きたい。
あの笑顔も、あのぬくもりも、あの心地良さも、何もかも全て取り戻したい。
「みんなで……会いにいくか……?」
ぽつりぽつりと、亡霊のように呟いて、再び飛鳥に問いかけた。
そうだ。みんな、会いたがってる。
華も、蓮も、飛鳥も、俺も、みんなみんな、アイツに会いたがってる。
なら、会いに行けば、きっと
─────みんな、幸せだ。
「会えないよ。お母さんは……もう、死んじゃったから」
「…………」
だけど、静かな部屋の中に、また飛鳥の言葉が響いて、俺の思考は、再び現実へと引き戻された。
妻が亡くなった現実を、再度叩きつけられて、目の前が真っ暗になる。
まるで闇の中に、一人置いてきぼりにされたような
この先、どうすればいいのか
どうなるのかすらわからない
────不安。
『侑斗と一緒にいたら、みんな不幸になっちゃうね』
すると、その瞬間、また母のあの言葉が、俺の中に蘇ってきた。
みんな、不幸になる?
だから、アイツは死んだのか?
俺と一緒にいたら、みんな不幸になって、辛い思いをするんだろうか?
みんな、みんな、みんな、この子達も、みんな
───────────不幸になる。
「……飛鳥」
ずっと、流せていなかった涙が、不意に頬を伝って溢れだした。
この子達の幸せを考えた時、もう、どうするのが一番いいのか、俺には分からなかった。
だけど──
「飛鳥……今度、華と蓮を……施設に……預けに行くから……っ」
だけど、きっとこれが
誰もが望む
────"最善策"なのだと、思った。
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