神木さんちのお兄ちゃん！

【第2部】第1章 高校生と新生活

第52話 華ちゃんと高校生活

　新しく入学した桜聖高校にて、入学式がもうすぐ始まるであろうころ、華と蓮は、廊下の掲示板に張り出されたクラス分けの表を確認していた。

　桜聖高校は、１学年5クラス。

　そのうち、A組・B組の２クラスが、情報処理科、そして、華達がいる普通科は、C組・D組・E組の3クラスとなるのだが…

「また、クラス別々だねー」

「ま。俺達、双子だしな」

　華と蓮は、掲示板に張り出された表に自分の名前をみつけると「またか」と言いたげに言葉を放つ。

　華は蓮とは双子だからか、今までも全く同じクラスになったことがない。

　そして、どうやらそれは高校でも例外ではなく、華は1年C組。そして、蓮は1年E組とまたまた違うクラスになってしまった。

「華ーやったー！　今年も同じクラス！」

「葉月～よかった～友達いなかったらどうしようかと思ったー！」

　だが華は、友人である中村葉月とは、運よく同じクラスになれたようで、華は葉月に抱きつくと、笑顔でその喜びを表現した。

するとそこに…

《今から入学式が始まります。１年生は直ちに、体育館前に集合してください》

　廊下でざわつく１年生達の声を遮るように、校内放送が響いた。

　そう。クラスを確認したら次に待っているのは入学式だ。

「蓮ーいこーぜ！」

「！」

　中学で一緒だった蓮の友人が、体育館に向かうため蓮に声をかける。

　蓮は、その友人と少しだけ話をすると、また華に視線を流して、いつものように言葉をかけてきた。

「じゃ、華。終わったら、また迎えに行くから…」

「うん！　じゃーね！」

　クラスが違えば、二人にとってこれは、いつものこと…

　学校内では、ほとんど話をすることはないが、登下校はいつも一緒だったため、学校が終われば、いつも蓮が華の教室までむかえにきてくれるのだ。

「相変わらず、あんた達仲良いよねー？」

「そう？　こんなもんじゃないの？」

「まー双子だからかな？」

　蓮が姿を消すと、華は葉月と共に、体育館へと移動する。

　同じクラスには、どうやら同じ中学の子も数人いるようだが、その割合は明らかに少ない。

　そんな中で、一番仲のよい友人が同じクラスというのは、本当に心強いものだった。

「あ、そうだ華。もし、高校生活をより良いものにしたいなら、何がなんでも飛鳥さんの存在は知られちゃダメだよ？」

　だが、体育館への移動中。華の横にいた葉月が、思い出し間際に声にかけてきた。

兄の存在を知られてはいけない？？

「…え？なんで？」

「じゃなきゃ、高校でも彼氏はできないと思いなさい！」

　その言葉に、華はキョトンと目を丸くする。

「え？意味わかんない」

「だって、華はモテるのに、全然告白されないじゃん！　だからこそ、ちゃんと告白する隙をつくってあげないと、成就しないとおもうんだよねー？」

「……」

　唐突に出てきた葉月の言葉を聞いて、華は更に首をかしげた。

「……葉月、なにいってんの？私、今までモテたことないんだけど？」

　てか、今「告白されない」って言ったよね？告白されない＝モテない……ではないのだろうか？

「いや、華は可愛いし本当はモテるんだよ？中学の時だって何人か聞いたしさ。でも、男共がびびっちゃうみたいでさ、あんたの兄貴に……」

「え？？？」

　華の頭の中は、もはや「？」マークばかりである。

「なんで、そこに飛鳥兄ぃがでてくるの！？」

「だから、あんな兄貴がいるから理想高そうって勝手に思われるみたいで、気持ちを伝える前に、みんな諦めちゃうんだって！」

「ええ？！　なんでそうなるの！？」

　葉月の言葉を聞き、華はひどく動揺する。今までも、女同士の恋バナで、理想のタイプの話になったことは何度もあるが、高い理想をあげてきた記憶は、正直なところ華にはない。

　だがそれでも、華が理想が高そうだと思われているとするなら、それは、葉月の言う通り、華がした兄の話を聞いて、きっと相手が勝手に誤ったイメージを抱いたせいだろう。

「えー理想高くないのに！！　それは、困るよ…！」

「それとあとは、あの弟くんね！」

「え？　蓮？」

「そう。なんか、華に悪い虫がつかないように、裏で色々としてるみたいよ」

「なにを？」

「ガサツだとか女捨ててるとか、マイナスな感じの噂ながしてイメージさげる作戦！」

「どーいうこと！？　なんか、とんでもないネガティブキャンペーンされてるんだけど！！？」

　「理想が高い」というイメージに加え、さらに「女を捨てている」イメージをばらまかれていたと知り、華は驚愕する。

　蓮の場合、いつもの悪ふざけなのかもしれないが、ここまでくるとさすがにタチが悪い。

「理想高くて、女捨ててるって、イメージ最悪じゃん」

　そりゃ、誰も告白なんてしてこないだろう。

「でも、それだけ心配してるってことじゃない？華は、あの家で唯一の女の子なんだし」

「女の子扱いしてたら女捨ててるなんて発言しないでしょ！？」

「いやー実際に大事にされてると思うよ、華は」

「もー葉月、うちのことどんな風に見えてんの？」

　確かに、仲は良いし、それなりに大事にされてきたという実感はある。

　兄も父も、自分と蓮のことを、ここまで育ててきてくれたのだから…

　だが、女の子だからといって自分だけ特別扱いされてきたとは、華には到底おもえなかった。

「ま、男子らがアンタに告白するのを躊躇う気持ちもわからなくはないのよ。実際に女子の間でも「華の家族はみんなスペック高くて羨ましい～」って噂してたしさ？　将来結婚の挨拶とかしに来た彼氏は、マジ逃げ出したくなるだろうね？」

「なにそれ！？」

「そこそこハイスペックな彼氏連れていかなきゃ、太刀打ちできないんじゃない？」

　そういうと、葉月は困ったように笑う。

「笑い事じゃないよ！　それじゃ、私一生結婚できないじゃん！　それに……それに…うちは…っ」

　華は、そこから先の言葉がでなくなると同時に、廊下を進んでいた足をピタリと止めた。

　──あんな家族がいて羨ましい

　そう言われたことは、今までにも何度もあった。

　だが、華にとって、なによりも勘違いしてほしくないのは、彼らが仮にスペックが高いと、羨望の眼差しで見られているにしても、それは決して、華にとって「当然」のことではないからだ。

　スペックが高いとは、いわゆる女子の理想に上がりそうな「料理ができて優しくて、おまけにスポーツ万能で頭が良い、非の打ちどころのないようなイケメン男性」のことを指すのかもしれない。

　それを言われたら(スポーツ万能かどうかは別にして…)確かに当てはまるのが、自分の父や兄だろう。

　だが、父にしても兄にしても、好き好んで、あのように何でも出来るようになったわけではない。

　華の家族は皆、母が亡くなり、必要に迫られ、やらざるを得なかっただけで、特に父と兄に関しては、自分と蓮を育てるために、様々な努力と失敗を繰り返してきた結果、あのように、一通りのことは、何でもこなせるようになっていっただけなのだ。

「お父さんも、飛鳥兄ぃも、お母さんが亡くなってから、私たちのためにたくさん努力してきてくれたんだよ。だからそれを「羨ましい」とか、当たり前のように思わないでほしい…」

「……華」

シュンとして小さく呟いた華をみて、葉月は申し訳なく思い、華の肩にそっと手をおき、その顔をのぞきこむ。

「ごめん華。私、悲しませるつもりは──」

「それにね！　あの飛鳥兄ぃだって、砂糖と塩間違えて、死ぬほどマズイ料理作ったことあるし！　鍋焦がしてお父さんに怒られたり、掃除機の紙パック入れ忘れて、中ゴミだらけにして壊しかけたことだってあるんだよ！！　だから、初めからあんな何でも出来たわけじゃないからね！！」

「なにそれ！？　聞きたくなかった！！」

　いっそそんなイメージ崩れてしまえ！といわんばかりに兄の失敗談を次々と連ねる華。

　すると、葉月は「うそでしょ？」と言いたげな複雑な表情を浮かべた。

「だからね、中身はみんな普通だよ。ズバぬけてるとしたら外見くらいかな？」

「あ、外見は認めるのね？」

「そりゃ。お父さんも蓮も、顔は悪くないとは思うし、飛鳥兄ぃに至っては、２次元から飛び出してきたんじゃないかってくらいの美少年だし」

「……ほぉ、私も一度でいいから、兄貴の外見誉めてみたいわ…」

「でも、みんなそのイケメンってだけで勝手に美化して、スペック高いって勘違いしてるだけだよ！　そりゃ、優しいところもあるけど、うちの人たち、いつもバカばっかりやってるし、飛鳥兄ぃにいたっては、それに悪魔がプラスされてるからね！」

「……言いたい放題だね？　飛鳥さん聞いてたら、アンタ今日夕飯抜きだよ…」

「そこはぬかりなく！ 入学式には、来ないようにいってきたし！」

　華は、葉月の言葉に返事を返すと、再び廊下を歩きはじめた。

　すると、その先に集合場所である体育館が見えてくると、どうやら担任らしい先生が、クラスの生徒を集め、出席番号順に列を作り始めていた。

「でもまー、飛鳥さんにしても、華にしても、実際にそんなイメージを持たれているのは確かなんだからさ。あくまでも普通の女子高生生活を送りたいなら、お兄さんの存在は知られないほうがいいよ？　中学は小学校からの繰り上がりだからしかたなかったけど、高校は飛鳥さんのことを知ってる人は一握りだし！　これは親友としての忠告！」

「まーそれは確かに……一理ある」

　そういうと、華は再び顔を曇らせた。

　彼氏を作る作らないは別として、実際に兄の存在は、双子達にとって思わぬ弊害をうむことがある。

　もちろん、飛鳥と華達は、5つも年が離れているため、同じ学校に在籍していたのは小学校の時くらいなのだが、それでもあの美人過ぎる兄をもつと、その下は、なにかと苦労するのだ。

「……よし！ここでは、飛鳥兄ぃのことは、絶対に知られないようにしよう！」

　すると華は、あくまでも普通の高校生活を送るため、そう強く決心するのであった。