お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

文字の大きさ
上 下
229 / 289
第21章 神隠し

お嬢様の護衛

しおりを挟む

「こっちだよ」

 結月と恵美が、町を歩いていると、奥ゆかしい日本家屋の中から、ルイの声が聞こえてきた。

 輝かしい異国の髪色ではなく、日本人らしく黒髪姿になったルイは、一見、ルイとは分からない。

 だが、その女性に見間違うほどの美しさは、黒髪のカツラを被ったくらいでは衰えず、恵美と結月は、それがルイだとわかった瞬間、ホッと息をつく。

「ルイさーん! よかった。無事にたどり着いて~」

「お疲れ様。二人とも上手く紛れこめたみたいだね。男装もサマになってるし」

 冠木門かぶきもんを抜け、ルイ宅の敷地内に入ると、ずっと口を閉ざしていた恵美と結月が、口々に話し始める。

「恵美さん、本当にありがとう。真夜中に町を歩くのは、初めてのことだったし、私一人だったら、きっと不安で仕方なかったわ」

「そんな、お嬢様は、門限が厳しかったんですから、仕方ありませんよ。でも、こうして、ルイさんの家について、私もほっとしました。五十嵐さんから、お嬢様の護衛を任された時は、正直どうなるかと」

 この計画を練る際、レオから一任された恵美の役目は、"お嬢様の護衛"だった。

 深夜0時、明かりが消えたと同時に、屋敷から抜けだすお嬢様を、ルイの家まで、無事に送り届けること。

 だが、いくらショッピングモールで、一緒に庶民に成りすましたとはいえ、今回は男装をしていたため、あの時とは勝手が違う。
 だからか、恵美には荷が重く、気が気ではなかった。

「はぁ~、緊張したー。護衛なんて、私には、責任が重すぎます……っ」

「ホント、お疲れ様。わかるよ、レオは怒らせたくないタイプだしね」

「そうなんですよー! わかってくれますか、ルイさん! 五十嵐さん、お嬢様の事が好きすぎて、万が一、何かあったらと思うと!」

 恵美とルイが『執事は恐ろしい』と口々に話す。すると結月は、いまいちピンとこない様子で

「レオって、そんなに怖いかしら?」

「あぁ、お嬢様は大丈夫ですよ」

「うん。結月ちゃんは、何しても怒られないと思うよ」

「え! なにをしても!?」

 確かに、レオに愛されてる自覚はある。
 だが、さすがに、なにをしてもは。

「そうだ。屋敷の方は、どうだった? 上手くいきそう?」

 すると、ルイが更に問いかけてきて、恵美が答える。

「はい、屋敷の方は問題なく。愛理さん達が、しっかりウワサ話を流してくれてました!」

「そっか、じゃぁ、明日には更に広がるかもね」

 恵美の言葉に、ルイがニコリと微笑む。
 どうやら、計画は順調のようだ。
 すると、ウワサをすればなんとやら、そのタイミングで、愛理と谷崎もやってきた。

「お嬢様~。よかった。無事にルイさんの家についたんですね!」

「えぇ、恵美さんのおかげよ。愛理さんたちも、寒い中、ありがとう」

「いいえ。みんな屋敷の明かりが消えて、驚いていましたよ。五十嵐くんが言った通り、すぐに広まりそうです」

 謎多き話に、人は興味をひかれるもので、あの執事は、そんな人間心理を利用して、町中にウワサを広めるつもりらしい。

 この町一の名家・阿須加家。そのお屋敷の主人と従者たちが、一夜にして姿を消したと──

「愛理さん、そちらの方が、愛理さんとご結婚なさる方?」

 すると、愛理の隣にいる谷崎を見て、結月が問いかける。すると愛理は、珍しく恥じらいながら

「そ、そうです。彼氏の雅文です」

「は、初めまして、阿須加さん! その節は、御屋敷の前で騒いでしまい、すみませんでした!」

「いいえ、気になさらないでください。お二人の誤解が解けて、本当によかったです。この度は、ご結婚おめでとうございます」

 別れたあとのイザコザで、谷崎が屋敷に押しかけた件。結月は、それを責めることなく、おおらかに受け止め、二人を祝福した。

 その姿は、男装をしていても、お嬢様で、その気品と優雅さは、隠すに隠せないほど。

 すると愛理は、谷崎と顔を見合せたあと

「ありがとうございます。でも次は、お嬢様の番ですよ」

「え?」

 愛理の言葉に、結月が目を見開く。

 次は──確かに、レオが戻ってきたら、二人は、この町から旅立つ。

 お嬢様でも、執事でもなくなり、やっと本当の『家族』になれる。

「うん、そうね……っ」

 結月の目に、微かに涙が滲んだ。

 こんなに、喜ばしいことはない。
 だって、やっと結ばれるのだ。

 好きな人と、やっと結ばれる。
 そしてそれは、屋敷を出たからこそ、より実感する。

「結月ちゃん、風邪をひくといけないし、話は中でしようか」

 すると、ルイが自宅の玄関を開けながら、そう言った。

 真冬の深夜は、冷え込みも厳しい。

 レオを待つ間、風邪をひかせる訳にはいかないと、ルイは、愛理や恵美たちと一緒に、結月を家の中に招き入れた。

 中にはいれば、ルイの家は、とても趣のある家だった。結月が暮らしていた西洋風の屋敷とは、全く違う和風の家。

 その古風な日本家屋の中は、落ち着きある畳の香りに満ちていて、どこかのどかで優しい雰囲気を漂わせていた。

 そして結月は、当然、ルイの家に来るのは初めてのことで、物珍しそうに家の中を見回す。

 すると──

「この家、レオが、子供の頃に住んでいた家なんだよ」

「え?」

 
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...