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第20章 復讐の先
心を繋いで
しおりを挟む一夜明け、まだ未明の朝。日が昇り始める前の室内で、レオは一人、目を覚ました。
広々としたベッドの中には、衣類を全く身につけていない結月がいて、レオは、そんな結月を抱きしめる形で眠っていた。
朝の光は、まだ弱く、真冬の空気は、とても冷たい。
だが、快適な室温と人肌のおかげか、風邪をひくことはなく、むしろ、心地よい疲労感と幸福感に包まれた朝となった。
だが、そんな癒しとも言える状況に置かれながら、レオはじわりと汗をかいた。
腕の中にいる結月を起こさぬよう、そ~っと腕を抜く。すると、上半身だけ起こしたレオは
(俺は、なんてことを……っ)
やってしまった!
これは完全にやってしまった!
いくら理不尽なことを言われたからって、感情のままに求めてしまうなんて……っ
(かなり、無理させたよな?)
昨夜の事を思い出し、レオは酷く自己嫌悪する。
しかも、問題はそれだけではなかった。なぜなら、今この屋敷には、相原と冨樫もいるのだから!
(俺がこの部屋に来たのは、二人が別館に戻った後だから、大丈夫だとは思うけど……夕べ別館に戻らなかったことには、多分、気づいてるよな? だとしたら、何か言い訳を考えておかないと……っ)
いくら公認の仲とはいえ、流石に節度がなさすぎる。だが、この後の結月の状態次第では、その言い訳も意味をなすかどうか……
「でも……まさか、結月が、あんなことを考えていたなんて」
眠る結月をみつめ、レオは、ポツリと呟いた。
結月が、あんなにも自分の未来を案じていたとは思わなかった。
だが、確かに、結月の言う通りかもしれない。
復讐を果たしたとしても、その復讐に罪のない人たちを巻き込んだとなれば、その後悔や罪悪感を、一生抱えて生きていくことになるのだろう。
そして、その罪悪感に縛られた人生は、果たして『幸せ』と言えるのか?
「俺の未来を、守りたい……か」
結月の言葉が、何度と頭に響く。
『本当に救いたかったのは、あなたのお父様でしょ!』
その通りだった。
父を助けたかった。
だけど、何もかもが遅かった。
気づいた時には、もう父はいなくて、俺は、ただ泣くことしかできなかった。
だからこそ、今度は、手遅れにならないよう、結月だけは、絶対に救いたいと思った。
そして、結月を、連れ戻されないためなら、なんだってやる。あの一族を潰すことだって──
だけど、色々調べるうちに、巻き込まれる人たちがいることに気づいて、生ぬるい方法をとっていたのも確かだった。
できるだけ、犠牲者は出したくなかった。
だけど、それにも限界があった。
どうしたって、犠牲者は出てしまう。
でも、結月は、そんな俺の気持ちに気づいていて、俺を必死になって止めてくれた。
俺が、後で後悔しないように。
俺が、父と同じように苦しんでいる人達を、一族ごと潰してしまわないように──…
「っ……ありがとう、結月」
そこまで思われていることが、素直に嬉しかった。
すると、レオは、眠る結月の髪に触れ、そっとキスを落とした。
結月といると、時折、愛とは何なのかを考えさせられる。
愛する人のためなら、どんな犠牲も後悔も、いとわない。そう、心に決めていた。
そして、それが愛だとすら思っていた。
だけど、それは、単なる自己満足にすぎなかったのかもしれない。
本当に、愛する人のことを思うなら、二人で幸せになれる方法を、模索していかなければならないのかもしれない。
『心の平穏』は、生きていく上で、最も欠かせないものだから──
(不思議だな、あんなこと言われたのに、心は凄く穏やかだ……それに、俺に嫌われるのが嫌で、言えなかったなんて、結月、そんなに俺のことが好きだったのか?)
正直、忘れられていたのもあり、熱を上げているのは、自分だけだと思っていた。
自分の好きが100だとしたら、結月の好きは60くらいな?
たけど、同じように悩んでいたということは、自分が思っていた以上に、結月は俺のことを、愛してくれているのかもしれない。
「ん~…」
「……!」
すると、結月が、もそもそと目を覚ました。
惚けた顔で、結月がレオを見上げる。するとレオは、すぐさま、昨夜のことを謝罪した。
「結月。昨日は、すまない。酷いことをして……」
「?」
寝起き早々、謝るレオに、結月はキョトンと首を傾げると
「なにが、酷かったの?」
「え?」
「だって、別に痛い思いは何もしてないわ。それに、ちゃんと避妊もしてくれてたし、なにより、その……とても、気持ちよかったから……別に、謝る必要は…っ」
「……っ」
恥じらいながらも発された言葉は、予想外の言葉で、その瞬間、レオは、身体がカッと熱くなるのを感じた。
そして、なによりも思ったのは──
(結月のやつ、どれだけ俺のことが好きなんだ!?)
「レオ? 顔が真っ赤よ?」
「あ、いや、これは……結月が、変なこと言うからだろ」
「変なこと?」
「き……気持ちいい、とか」
「へ? あ! もしかして、こんなことを言うのは"はしたない"ことだったりする? ごめんなさい、私まだ、良く分かってなくて……でも、小説の中のお嬢様はこんな感じだったような……っ」
小説の中──その言葉には、なんだか懐かしさを覚えた。まさに、いつも通りの結月で、思いのほか、気持ちが和らぐ。
なにより、顔を真っ赤にして、ぶつくさと呟く結月は、とても可愛い。
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結月がふわりと微笑む。
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「優しいのは、結月の方だろ。あんなこと、いつから考えてたんだ?」
すると、レオが真面目な顔で問いかた。
あんなこと──とは、復讐をやめさせるという話。
すると結月は、少し、申し訳なさそうな顔をしながら
「記憶を思い出した後からよ……冬弥さんが、私を突き落とした記憶と一緒に、レオのお父様のことも同時に思い出していたの」
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