212 / 289
第20章 復讐の先
絆
しおりを挟む「ルイさん、どうでしょうか? 男性に見えますか?」
その後、何回か衣装チェンジを繰り返したあと、奥の衣装部屋から出てした結月と恵美を見て、ルイはしばらく考え込んだ。
フード付きのダウンジャケットとジーンズを穿いた恵美と、紺のコートを着て、髪を帽子の中にまとめ上げた結月。
その姿を見れば、やっと男の子らしくなってきた。だが、まだ完全に男と言いがたいのは……
「うーん……結月ちゃんは、やっぱりコートの上からでも胸が目立っちゃうね?」
「え、そうですか?」
「うん。当日は、レオにサラシを巻いてもらうといいよ」
「さらし?」
「そう、ちょっと苦しいかもしれないけどね。それが嫌なら、腹部にクッションを詰め込んで、ちょっと恰幅のいい男になるって方法もあるけど……でも、それだと顔がほっそりしてたら違和感がでるし、特殊メイクが必要」
「だ、大丈夫です! 胸は、レオに何とかしてもらいます!」
特殊メイク!?そんなことまで!?
どうやら、男装一つするのも、なかなかに大変らしい。
しかも、結月は、ただでさえ女らしい体系をしているからか、スレンダーな恵美と比べると、隠さなければならないところが多かった。
だが、お嬢様育ちの結月は、これまでサラシを巻いた経験など一度もなく
(サラシって、どうやって巻くのかしら? それに、レオに巻いてもらうってことは、もしかして、胸を見られちゃう?)
それはそれで、ちょっと恥ずかしい。いくら一線をこえた仲とはいえ、まだ一度しか見られてないのだ。
「……っ」
すると、恥ずかしさから、微かに頬が赤くなった。だが、これも、完全な男になりきるためと割り切る。
「お嬢様、当日は私が、しっかりお守りしますね!」
「……!」
すると、恵美が結月の手を取り、真剣な表情で見つめてきた。
繋がった恵美の手は、とても温かく、結月は、そのぬくもりに、表情をほころばせた。
こうして、力を貸してくれる人たちがいる。自分たちの幸せを願い、協力してくれる人たちがいる。
だからこそ、絶対に失敗はできない。
「ありがとう、恵美さん。何としてもバレないように、私も頑張るわ!(サラシ巻くのも!)……それに、ルイさんも、ありがとうございます。当日は、途中まで、ついてきてくれるんですよね?」
「うん、レオと結月ちゃんが、男女二人で行動するよりは、男の三人組に偽装した方が気付かれにくいだろうしね。当日は、僕も付き添おうよ」
だが、そんなルイの話に、恵美が言及する。
「でも、五十嵐さんとルイさんみたいな神レベルのイケメンが一緒にいたら、それこそ目立つっちゃうんじゃないですか?」
片や高身長の正統派イケメンと、片や金髪碧眼の美青年。そんな二人が一緒にいたら、別の意味で目立ってしまう!
「あはは。確かに、そうかもね。でも、大丈夫だよ。僕は黒髪にして日本人に成りすますつもりだし、レオだって、メガネかけて変装するし」
「え! 五十嵐さん、メガネ男子になるんですか!? それは、すごく気になります!」
「だよねー。実は僕も気になってるんだー。レオって、目が良すぎるからさ。メガネかけてるところなんで、一生、お目にかかれないかも」
「じゃぁ、大晦日には、メガネをかけた貴重な五十嵐さんが拝めるってことですね!」
「うん、そうだね!」
「ふふっ」
すると、二人の賑やかな会話を聞き、結月がくすくすと笑いだした。だが、思わず笑ってしまった結月は、その後、申し訳なさそうに口元を押さえる。
「あ……ごめんなさい」
「別に、笑っていいよ。レオのメガネ姿を想像して笑っちゃった?」
「ふふ、そういうわけじゃ……ただ、こうして皆さんと一緒に準備をするのが、なんだか、すごく楽しくて」
変わりばえのしない屋敷での暮らし。親に決めれたことをするだけの自主性のない生活。それは、なんとも味気ない日常だった。
だけど、それがレオが来てから、少しずつ変わり始めた。
凍っていた心が、感情が、ゆっくりと動き出し、生きていることの喜びを感じられるようになった。
でも──
「でも、こんなに楽しい時間が、あと少しで終わりだなんて……そう思うと、寂しいです」
全てを打ち明けた後、それでも、受け入れてくれた人々。幸せを願ってくれる人たち。
その人達との別れが、もうそこまで近づいている。そう思うと、とてもとても──寂しい。
「大丈夫ですよ、お嬢様。なにもこれが、今生の別れになるわけじゃないんですから」
「え?」
「だって、生きていれば、いつか、また会えますよ」
手を握りしめたまま、恵美が優しく微笑んだ。するとルイも、恵美に続き、言葉を繋げる。
「そうだね。またどこかで縁が巡ってくるかもしれない。それに、行った先で、また新しい出会いもあるよ」
「新しい出会い……ですか?」
「うん。人は、出会いと別れを繰り返しながら、生きてるからね。だから、別れがきた分、また新しい出会いもうまれる。それに、仮に僕らが、この先、一生会えなかったとしても、ここで繋がった、僕らの絆はなくならないよ。だから、毎年、大晦日がくるたびに、僕は、君たちのことを思い出すだろうね」
「……っ」
ルイの言葉は、結月の心にジワリと響いた。
ここで培ったキズナは、全てかりそめのモノばかりだった。
親とのキズナも、友達とのキズナも、引けばあっさり切れてしまうの糸ようなもので。
だけど、レオとの絆を通じて、今はこうして、心から繋がった仲間たちがいる。
忘れずに、思い出してくれる人たちがいる。
「っ……はい。私も、皆さんのこと、何度でも思い出します」
例え、また記憶をなくしたとしても、この心には、しっかりと刻まれた。
決して、忘れない。
忘れられない、大切な思い出として──…
バタン!!!
「!?」
だが、その瞬間、突然、部屋の扉が開いた。
強引に開かれた音に、一気に空気が変わり、三人が、同時に部屋の扉を見つめる。
すると、そこには、執事姿のレオがいた。
「レオ? おかえりなさい。お母様の話……わッ!」
だが、結月が声をかけると同時に、足早にやってきたレオは、人目も憚らず、結月を抱きしめた。
強引に抱き寄せられ、恵美やルイの目の前で、レオと身体が密着する。
すると、結月は──
1
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる