お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

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第20章 復讐の先

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「ルイさん、どうでしょうか? 男性に見えますか?」

 その後、何回か衣装チェンジを繰り返したあと、奥の衣装部屋から出てした結月と恵美を見て、ルイはしばらく考え込んだ。

 フード付きのダウンジャケットとジーンズを穿いた恵美と、紺のコートを着て、髪を帽子の中にまとめ上げた結月。

 その姿を見れば、やっと男の子らしくなってきた。だが、まだ完全に男と言いがたいのは……

「うーん……結月ちゃんは、やっぱりコートの上からでもが目立っちゃうね?」

「え、そうですか?」

「うん。当日は、レオにサラシを巻いてもらうといいよ」

「さらし?」

「そう、ちょっと苦しいかもしれないけどね。それが嫌なら、腹部にクッションを詰め込んで、ちょっと恰幅かっぷくのいい男になるって方法もあるけど……でも、それだと顔がほっそりしてたら違和感がでるし、特殊メイクが必要」

「だ、大丈夫です! 胸は、レオに何とかしてもらいます!」

 特殊メイク!?そんなことまで!?
 どうやら、男装一つするのも、なかなかに大変らしい。

 しかも、結月は、ただでさえ女らしい体系をしているからか、スレンダーな恵美と比べると、隠さなければならないところが多かった。

 だが、お嬢様育ちの結月は、これまでサラシを巻いた経験など一度もなく

(サラシって、どうやって巻くのかしら? それに、レオに巻いてもらうってことは、もしかして、胸を見られちゃう?)

 それはそれで、ちょっと恥ずかしい。いくら一線をこえた仲とはいえ、まだ一度しか見られてないのだ。

「……っ」

 すると、恥ずかしさから、微かに頬が赤くなった。だが、これも、完全な男になりきるためと割り切る。

「お嬢様、当日は私が、しっかりお守りしますね!」

「……!」

 すると、恵美が結月の手を取り、真剣な表情で見つめてきた。

 繋がった恵美の手は、とても温かく、結月は、そのぬくもりに、表情をほころばせた。

 こうして、力を貸してくれる人たちがいる。自分たちの幸せを願い、協力してくれる人たちがいる。

 だからこそ、絶対に失敗はできない。

「ありがとう、恵美さん。何としてもバレないように、私も頑張るわ!(サラシ巻くのも!)……それに、ルイさんも、ありがとうございます。当日は、途中まで、ついてきてくれるんですよね?」

「うん、レオと結月ちゃんが、男女二人で行動するよりは、に偽装した方が気付かれにくいだろうしね。当日は、僕も付き添おうよ」

 だが、そんなルイの話に、恵美が言及する。

「でも、五十嵐さんとルイさんみたいな神レベルのイケメンが一緒にいたら、それこそ目立つっちゃうんじゃないですか?」

 片や高身長の正統派イケメンと、片や金髪碧眼の美青年。そんな二人が一緒にいたら、別の意味で目立ってしまう!

「あはは。確かに、そうかもね。でも、大丈夫だよ。僕は黒髪にして日本人に成りすますつもりだし、レオだって、メガネかけて変装するし」

「え! 五十嵐さん、メガネ男子になるんですか!? それは、すごく気になります!」

「だよねー。実は僕も気になってるんだー。レオって、目が良すぎるからさ。メガネかけてるところなんで、一生、お目にかかれないかも」

「じゃぁ、大晦日には、メガネをかけた貴重な五十嵐さんが拝めるってことですね!」

「うん、そうだね!」

「ふふっ」

 すると、二人の賑やかな会話を聞き、結月がくすくすと笑いだした。だが、思わず笑ってしまった結月は、その後、申し訳なさそうに口元を押さえる。

「あ……ごめんなさい」

「別に、笑っていいよ。レオのメガネ姿を想像して笑っちゃった?」

「ふふ、そういうわけじゃ……ただ、こうして皆さんと一緒に準備をするのが、なんだか、すごく楽しくて」

 変わりばえのしない屋敷での暮らし。親に決めれたことをするだけの自主性のない生活。それは、なんとも味気ない日常だった。

 だけど、それがレオが来てから、少しずつ変わり始めた。

 凍っていた心が、感情が、ゆっくりと動き出し、生きていることの喜びを感じられるようになった。

 でも──

「でも、こんなに楽しい時間が、あと少しで終わりだなんて……そう思うと、寂しいです」

 全てを打ち明けた後、それでも、受け入れてくれた人々。幸せを願ってくれる人たち。

 その人達との別れが、もうそこまで近づいている。そう思うと、とてもとても──寂しい。

「大丈夫ですよ、お嬢様。なにもこれが、今生こんじょうの別れになるわけじゃないんですから」

「え?」

「だって、生きていれば、いつか、また会えますよ」

 手を握りしめたまま、恵美が優しく微笑んだ。するとルイも、恵美に続き、言葉を繋げる。

「そうだね。またどこかで縁が巡ってくるかもしれない。それに、行った先で、また新しい出会いもあるよ」

「新しい出会い……ですか?」

「うん。人は、出会いと別れを繰り返しながら、生きてるからね。だから、別れがきた分、また新しい出会いもうまれる。それに、仮に僕らが、この先、一生会えなかったとしても、ここで繋がった、僕らのはなくならないよ。だから、毎年、大晦日がくるたびに、僕は、君たちのことを思い出すだろうね」

「……っ」

 ルイの言葉は、結月の心にジワリと響いた。

 ここで培ったキズナは、全てかりそめのモノばかりだった。

 親とのキズナも、友達とのキズナも、引けばあっさり切れてしまうの糸ようなもので。

 だけど、レオとの絆を通じて、今はこうして、心から繋がった仲間たちがいる。

 忘れずに、思い出してくれる人たちがいる。

「っ……はい。私も、皆さんのこと、何度でも思い出します」

 例え、また記憶をなくしたとしても、この心には、しっかりと刻まれた。

 決して、忘れない。
 忘れられない、大切な思い出として──…


 バタン!!!

「!?」

 だが、その瞬間、突然、部屋の扉が開いた。

 強引に開かれた音に、一気に空気が変わり、三人が、同時に部屋の扉を見つめる。

 すると、そこには、執事姿のレオがいた。

「レオ? おかえりなさい。お母様の話……わッ!」

 だが、結月が声をかけると同時に、足早にやってきたレオは、人目も憚らず、結月を抱きしめた。

 強引に抱き寄せられ、恵美やルイの目の前で、レオと身体が密着する。

 すると、結月は──


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