お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

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第17章 恋人たちの末路

再考

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「大丈夫よ! だって私、本で読んだことあるもの! と同じでしょ!?」

((キャンプ!!?))

 すると、少し的はずれなことを言い出した結月に、皆は絶句する。なぜなら野宿とは、キャンプのように楽しいものではないからだ!

「お嬢様~~、私たちは、心配でたまりません!!」

「え!? 私なにか、変なこと言った!?」

「五十嵐さん、本当に大丈夫ですか? はっきりいって、お嬢様は、かなり」

「大丈夫です。十分わかってます」

 矢野の忠告に、レオがピシャリと返せば、結月は、その後、恥ずかしそうに俯いた。

(あれ? 野宿とキャンプって違うの? どちらも外で寝るから同じなんじゃないの?)

 違いが分からず、結月がパニックになっていると、そんな結月をみつめながら、斎藤が朗らかに話しかけた。

「はは、確かに、お嬢様に野宿は無理だろうなぁ」

「そ、そんなにダメ?」

「ダメというか、いくら五十嵐くんと一緒でも、危険すぎますよ」

「そ、そう……っ」

 斎藤に諭され、結月は自分の不甲斐なさに縮こまった。
 自分は、世の中のことを知らなすぎる。ちゃんと、本で学んできたつもりでも、それは、ただの知識でしかない。そして、その知識も全て本当と限らない。

「それより、住む場所が決まらなければ、仕事にもつけない。生活費の方は、大丈夫なのかい?」

 すると、続けざまに斎藤がそう言って、レオが答える。

「それは大丈夫です。ある程度の貯えはあるので、暫くは働かなくても生活できます。ただ、ホテルを利用するにしても、宿泊費がバカにならないので、できるなら屋敷を出る前に住処は決めておきたいです。ルナも……飼い猫も連れていきたいですし」

「そうか……実は、私に一つだけ、アテがあるんだが」

「え?」

「私の妻の実家が、今、空き家でね。妻が、ずっと誰かに譲りたいと言っていたんだ。自分が死んだあとは、手入れする人が誰もいなくなっとしまうからと……ただ、この屋敷と違って和風の作り出し、田舎にあるから、買い出しなどは少し不便かもしれない。そこで良ければの話になるが」

 話によれば、その家は一軒家で、人里離れた場所にあるらしい。だが、田舎にあるため、買い手はつかず、定期的に妻が実家に行き手入れをしていたらしい。
 物件として、あまり優良とは言い難いが、猫も一緒に住める住居を探しているレオにとっては、またとない話だった。

「いえ、むしろ助かります。人目につきにくい田舎の方が、こちらとしてはありがたいですし」

「そうか、なら、妻に話してみよう。五十嵐くんの事は妻にも話してあるから、君に譲るなら、きっと喜ぶ」

 斎藤の計らいにより、なんとか住居の目処がたち、皆が、ほっと胸をなでおろした。

 だが、そこに──

「それで、駆け落ちは、いつ決行するのですか?」

 そう、恵美が問いかければ、その言葉に、また緊張が走った。

 二人を駆け落ちさせるその日まで、絶対に、このことを阿須加家の人間に知られてはいけない。

 すると、場が緊迫する中、レオが静かに口を開く。

「結月が、餅津木家に行くのは、高校を卒業したあとです。だから、卒業式が行われる3月1日までには、決行しなければなりません」

「じゃぁ、今は12月だから、あと三ヶ月」

「はい。ですが、あまりギリギリに動くのはリスクが高すぎるので、決行は、2月頭かと」

 そう言って、大まかな期日を話し合う。だが、その後、ルイが、レオの傍に歩み寄ってきた。

 壁際に寄りかかり、話を聞いていたルイ。だが、そこからいきなり離れたルイに、レオは何事かと顔をあげる。

「ルイ、どうし……」

「ねぇ、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないんじゃない?」

「!?」

 瞬間、ルイがレオの額に触れた。不意をつかれ、止める間もなく、触れられた手にレオは、じわりと汗をかいた。

「ル……ッ」
「あー、やっぱり」

 すると、その額のを感じとり、ルイの青い瞳が、見透かすように細められた。

「レオ、ずっと熱があるよね。屋敷の業務に加えて、別邸の仕事、その上、夜な夜な資料をまとめてたんじゃ、明らかな過重労働だ。2月まで待っていたら、君の身体が持たない」

「……っ」

 その言葉に、レオは小さく唇を噛み締める。
 確かに、休めていないからか、37度台の微熱がずっと続いている。そしてそれが、疲れから来るものなのも分かっていた。

 だが、今このタイミングで、無様に倒れる訳にはいかない。

「大丈夫だ。あと二ヶ月くらい」

「そんなこと言って、肝心な時にぶっ倒れたらどうするの? どうせ、みんなにはバレちゃったんだし、ここは素直に甘えて、体調を戻すべきだと思うけどな~。で、早々に駆け落ちしちゃおう!」

「早々にって、何を考えてる?」

「んー」

 すると、ルイは、そのまま斎藤に目を向けた。

「ねぇ、その家には、いつ頃から住めますか?」

「え? そうだなぁ、掃除や手入れさえすめば、いつからでも……ただ、妻が病気になってから一度も行けていなくてね。その上、かなり遠方にある。私が妻を連れて行ったところで、一人で住める状態にするまでに何日かかるか」

「あ、じゃぁ、私も手伝いますよ! 家の掃除なら、任せてください!」

「私も手伝うよ。なんなら、車も出してもいいし! 雅文を連れていけば、男手もあるし」

「では、私は生活用品や食料の手配をしましょうか。その辺は、主婦である私の方が適任でしょうし」

 恵美と愛理がたて続けに挙手すれば、その後、矢野も追言し、話は、あれよあれよと進んでいく。

「あはは、みんな頼もしいね! じゃぁ、住処や食料の準備は、三週間以内に終わらせてもらって」

「ちょっ…まて、ルイ! なにも、そこまでしてもらわなくても」

「何言ってんの、レオ。みんな手伝ってくれるって言ってるのに」

「そうですよ! だいたい、五十嵐さんは、働きすぎなんです! こういう時くらい、ちゃんと頼ってください!」

「ですが……っ」

「全く、レオは相変わらず真面目すぎるなー。ねぇ、レオ、君はもう

「……っ」

 すると、ルイがレオの目を見て、再度語りかけた。

「みんなが、君たちの幸せを願ってる。でも、それは、君たちが、彼らのために、それだけのことをしてきたからだよ。それに、レオは、昔から無理をしすぎる。一人で何でも背負い込んで、全部一人で解決しようとして……だけど、君が無理をして、、よく考えて」

「………」

 そう言われ、レオはゆっくりと結月に視線を向けた。
 目があえば、これまでにも時折目にした、結月の不安げな瞳が見えた。

 わかってはいた。
 結月が、どれほど自分を心配しているか。

 だが、大事な時だからこそ、大丈夫だと言い聞かせた。

 でも……その瞳と、皆の言葉を聞いてしまえば、もう何も言えなくなった。

「……わかった」

 その後、小さく頷き、レオが、改めて使用人たちにお礼をいえば、その姿をみて、結月が安心したように息をつき、ルイはニッコリと微笑んだ。

「よし! じゃぁ、レオはまず体調を戻すことを優先に、来たるべき日に備えてね!」

「来たるべき日?」

「うん。アイツらに見つからずに逃げなきゃいけないんでしょ? なら、逃げるなら、もっとうってつけの日があるよ。このにはね」

「日本には?……て、まさか」

「うん、そのまさか。レオには、に合わせて、また計画の再考をお願いしたいんだけど、いいよね?」

「………」

 ルイが微笑むと、レオはその意志を読み取り、呆れたように苦笑する。まさか、今日一日で、ここまで覆されるとはおもわなかった。

 でも……

「あぁ……任せろ」

 そう言って、レオが不敵に微笑めば、その二人の姿を、皆が勇み立つような面持ちで、見つめていた。





 この屋敷が『空』になるまで


 残り、数週間




 決行の日は




 人々が、もっとも『夢』を願う




 あの










 ────始まりの夜




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