お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

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第17章 恋人たちの末路

娘と住処

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「ルナ、今どうしてるの?」

 結月が、不安げに呟いた。

 女の子だからと、一匹だけ残されたあの仔猫を、レオが飼うと言って、引き取ってくれた。

 とても可愛いらしい黒猫だった。
 人一倍、結月に懐いていた仔猫。

 あの子は、今どうしているのだろう。
 すると

「大丈夫だよ」

 そう言って、レオが結月をみつめ、優しく微笑んだ。

「ルナは今、ルイの家にいるよ。結月のことを待ってる」

「本当?」

「あぁ、今度は会わせてあげる。俺たちの大事なに」

「っ……うん」

 ずっと沈んでいた結月の顔が、やっと華やいだ。

 あの日、共に家族になった仔猫。その子が元気だと知り、結月が嬉しそうに微笑めば、それを見て、レオもまた頬をゆるめた。

 ずっと、会わせたいと思っていた。
 この屋敷に来てから、ずっと。

 そして、それは、結月があの"黒猫のぬいぐるみ"に『ルナ』と名付けた時に、よりいっそう強くなった。
 
「ルナ、大きくなった?」

「うん、大きくなったよ。今は、大人の猫と変わらない。それに、結月が選んでくれたキャットタワーで、よく遊んでるよ」

「本当? 私が選んだオモチャ、気に入ってくれてるの?」

「あぁ、とてもね。まぁ、あれはオモチャというよりは、遊び場だけど」

 結月が、オモチャではなく立派な遊び場を選んだ時のことを思い出し、レオがクスクスと微笑めば、そのほんわかとした空気に、恵美と愛理が頬を赤くする。

(ッ……五十嵐くんが、また執事らしくない顔してる!)

(あぁ、お嬢様! 前は、恋なんて無意味なものだと仰っていたのに、今は、ちゃんと恋をしてらっしゃるんですね……!)

 なんだが、胸が熱くなってきた。

 まるで、チョコレートのように甘い二人の雰囲気に、不思議と目が離せない。

 むしろ、このまま、キスの一つでもしてしまえばいいのに!
 そんな気持ちにすらなってくる!

 だが、そこに──

「レオー、そろそろ話を戻したほうがいいんじゃない?」

 と、ルイが割って入れば、レオは、すぐさま、皆に視線を戻した。

「すみません。とにかく、先に話したように、住居の件は、全て白紙に戻りました。早急に手を打たないと」

「ていうか、なんでその住居、つかえなくなったの?」

 すると、今度は、愛理が疑問符を浮かべながら問いかけた。レオは、少しばかり顔を暗くすると

「来夏、餅津木家が所有するデパートが、新しく建つことになりました。そして、そのデパートが建つ場所が、その家のがある町で」

「え!? 餅津木家のデパートが!?」

「はい。俺も婚約者の話をきいたのは、屋敷に来てからなので、さすがに相手まで予測するのは……ですが、駆け落ちをする以上、阿須加家と関わりのある人間の側には、あまりいたくありません。いくら、こちらが弱みを握っているとはいえ、所在を知られるのは極力避けておきたい。だから、その住居は潔くことにしました」

「す、捨てるって!」

「家をですか!? なんか、もったいない!」

「そうかもしれませんが、仕方ありません。厄介事の芽は、早々に摘んでおかないと」

「確かにそうですけど……五十嵐さんて、すごいですね。お嬢様のために、そこまでできるなんて……!」

「…………」

 恵美が感嘆のため息を漏らせば、レオは小さく苦笑する。

 確かに、一人の女性のために、ここまでするのは、少し異常かもしれない。

 だけど、結月を救うことは、自分にとって『生きがい』だった。

 ただ、死にたいと思っていた人生に、結月が光を与えてくれた。

 生きる喜びを
 想い、惹かれ合う尊さを

 そして、また『家族』を持つという──優しい未来を。

 だからこそ、絶対に失敗はできない。

 もう二度とあいつらに

 家族を奪われたくないから──…


「しかし、住むところがないのは、厄介ですね」

 すると、そんな中、また矢野が口を挟む。
 椅子に腰掛け厳しい顔をする矢野は、事態の深刻さに気づいているようだった。

「落ち着ける場所がないのは、不慣れなお嬢様には、酷なことです」

「わかっています」

「あ! ねぇ、五十嵐くんの親、確かにフランスにいるっていってたよね! もういっそフランスに移住しちゃうとか」

 瞬間、愛理が閃いた。だが、レオは

「いや、海外に出れば、警察沙汰になったときに、すぐに足がつきます。なにより、結月はパスポートをもっていません。今から作るにしても時間がかかるし、なにより、行く予定もないのにそんなものを作ったら、あの親たちに怪しまれる」

「えー、じゃぁ、どうするの? お嬢様に野宿とか絶対ダメだからね!」

「わかってますよ」

「あの、私なら大丈夫よ! 野宿だってなんだってするわ」

 すると、今度は結月が口を挟んだ。

 レオの足は引っ張りたくない。
 そう思ったのだが

「バカ言うな、結月」

「そうですよ、お嬢様! 野宿を舐めないでください!!」

「え!?」

 瞬間、レオと恵美から辛辣な言葉が返ってきて、結月は軽く狼狽えた。

 野宿とは、そんなに過酷なものなのだろうか!?

「で、でも大丈夫よ! だって私、本で読んだことあるもの! と同じでしょ!?」

((キャンプ!!?))

 
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