172 / 289
第17章 恋人たちの末路
構想
しおりを挟む「お久しぶりでーす! レオの恋人役やってたルイでーす!」
黒髪のカツラをとり、いつもの金髪姿に戻ったルイは、使用人たちが集まる食堂の中で、にっこり笑って挨拶をした。
だが、そんなルイを見て、恵美と愛理と、そして、結月は驚いていた。
先日、ここに招かれた、麗しのフランス人女性!
だが、その女性と顔立ちはそっくりなのに、三つ編みにした長い髪は、すっぱり短くなり、豊満な胸もぺったんこになっていた。
つまりは、体型が──男!!
「うえええぇぇぇ!! 本当に男の人なんですか!?」
「そうだよー。ごめんね、嘘ついて。ついでにいうと、18歳でもないんだー、22歳!」
「22歳!? 五十嵐さんより、年上じゃないですか!?」
「あはは」
もう完全に開き直ったらしい。
皆を前で、てへっと可愛らしく笑いルイ。
だが、あの日、恵美と結月は、一瞬だがルイのことを『男性かも?』と思ったことがあった。
結月は、ルイに抱き寄せられた時に。そして、恵美は、ルイがレオと一緒に執務室にいる時に。
だが、実際に男だと言われると、やはり、困惑してしまう。
「ちょ、ちょっとまってください! じゃぁ、あの時、執務室で聞こえてきた淫らな声は!?」
「え? 淫らな?」
なにやら意味不明な返答をした恵美に、ルイが首を傾げれば、恵美は顔を赤くしながら答えた。
「し、しらばっくれないでください!! 私聞いたんです! 執務室の中で、ルイさんと五十嵐さんが……その、あの……っ」
口をパクパクさせながら話す恵美は、明らかに変な想像をしていた。
すると、レオがすぐさま察したらしい。呆れたように息をついたレオは
「もしかして、サラシを巻いていた時のことですか?」
「え? サラシ?」
「はい。あの時ルイは、胸にタオルを詰めて、サラシを巻いていたんです。でも、巻が甘く崩れたらしく、俺が、執務室で巻き直しました。でも、その時ルイが、変な声を」
「え!? ちょっと、僕のせいにしないでよ!? あれは、レオの巻き方が酷すぎたからでしょ!?」
「バカ言うな。俺は執事だ。サラシの巻き方くらい熟知してる」
「どこが!? ほぼ息できなかったよ!」
「あ、あの!」
すると、そんなルイとレオをみて、今度は結月が口を挟んだ。
「もしかして、ルイさんのサラシが崩れたのって、私のせいですか? あの時、私を抱き寄せたりしたから」
「!?」
だが、思わぬ所から、予想外の言葉が飛び出してきて、レオが眉をひそめた。
無理もない。今、結月は、ルイに抱き寄せられたといったのだから!
「ルイ、どういうことだ」
「ぅ……っ」
すると、じっと睨みつけてきたレオに、ルイは軽く冷や汗をかいた。はっきりいって、こうなったレオは、ちょっとめんどくさい。
「えーと、違うよレオ。抱き寄せたんじゃなくて、引き寄せただけ。カップが割れて怪我をしそうだったから、ちょっとだけね。うん、本当にちょっとだけ!」
「…………」
あくまでも、逆鱗に触れないよう、的確に状況を説明するルイ。だが、レオはそれでも、視線を緩めることがなかった。
長い仲だ。ルイに限ってやましいことはないのは、わかってる。だが、内緒にされていたのが、ちょっとだけ癪に障る。
「本当よ、レオ……!」
すると、そこに、また結月が口をはさんだ。
「ルイさんは、怪我をしないように守ってくれただけなの! だから、ケンカしないでね?」
「………」
そう言って、上目遣いで見げる結月。
だが、そうな風に見つめられると、レオは途端に弱くなる。
「ケンカなんてしないよ」
「本当に? 怒っちゃダメよ。元はと言えば、私が悪いんだから」
「(助かった……)」
まさに、鶴の一声!
結月のおかげで助かったルイは、ほっと胸をなでおろした。
だが、その後、改めてルイみた結月は、少し落ち込んだ表情した。
「結月、どうした?」
「ぁ、いえ……実は、ルイさんが男性だと分かって、ちょっとショック言うか」
「ショック?」
「だって、私、ルイさんのこと、女性として完璧だと思っていたの。ルイさんには全然敵わないって……それなのに、そのルイさんが、女性どころか男性だったなんて……っ」
どうやら、女として敵わないと思っいた相手が、男だったことに、打ちひしがれているらしい。
確かに、男相手に、女として劣っているとなれば、ショックなのは確かだ。
「結月ちゃん、そんなに落ち込まないでよ。あの時は、僕もレオの顔を立てて、あえてイイ女を演じてたのもあるし」
「そうだ、結月が落ち込む必要はない。なにより、ルイなんて、結月の足元にも及ばないよ」
「え? それは、ちょっといいすぎじゃ……っ」
「言い過ぎなものか。結月は、とても素敵な女性だよ。この先、どんな相手が現れても、俺にとっては、結月が世界でもっとも、愛しい女性だから」
「っ……レオ」
結月の手を取ったレオざ、甘く囁く。
見つめあえば、レオのことを思い出した結月が、かわいらしく頬を染めていた。
だが、手を取り、うっとりと甘い雰囲気をかもし出したその恋人たちを、残りの者たちは、じーーーーっと、食入るように見つめていた。
お嬢様と執事が、愛を確かめあっている。こんな光景、これまで一度も見たことがない!
だが、それからややあって、我にかえったらしい。結月の手を離したレオは
「おほん、失礼。……話を戻しましょう」
(照れてる……! 五十嵐くんが、照れてる!?)
(ちょっと、五十嵐さん! あなた、恋人の前ではあんな顔するんですか!?)
(どうやら、お嬢様を愛しているというのは、本当みたいですね)
(あはは。いいなー、若いって……)
愛理、恵美、矢野、斎藤と、各々感想をめぐらせる中、皆の前で、恥ずかしいことを口走ってしまったレオは、結月と共に再び席につくと、その空気を消し去ろうとばかりに、また話し始めた。
「それで、いかがですか、ソレを読んだ感想は?」
すると、そのたった一言で、まさに流れが一変する。
ソレ──と言われ、皆は静まり、再び机に並んだ証拠品を見つめた。
夕日が傾き出した頃、ルイを交えた屋敷の中では、二人を駆け落ちさせるため、その構想をねっていた。
レオが取り出したジュラルミンケースの中には、阿須加家が、これまで従業員たちに行った悪行の数々が記された書類。
それは、使用人を全て追い出したあと、阿須加家を脅すつもりで、これまでレオが集めてきた証拠品。
そして、その書類には、まさに目を疑うようことばかりが書かれていて、使用人達は、苦渋の表情でレオを見つめる。
「人使いの荒い方々だとは思ってましたが、まさか、ここまで酷いなんて……」
「まぁ、納得もしたけどね。実際、斉藤さんにも酷いことしてたし」
「しかし、これだけの証拠を集めましたね。ですが、これをマスコミにリークすると脅したところで、本当にお嬢様を諦めるでしょうかか?」
レオがあつめた証拠や被害者たちの署名は、阿須加家を脅す道具としては申し分ない。
だが、その脅しに、あの二人が屈するのかが、甚だ疑問だった。
「確かに、これは証拠品としてはなかなかなものです。でも、どれも労働基準法に違反している程度。犯罪までいかないグレーゾーンです。マスコミ側が、これを大々的に取り上げるかどうかは」
「そうですね。それだけでは、弱いかと」
「それだけ?」
「はい。マスコミへのリークだけでは、阿須加家に揉み消される可能性がありますし、仮に、とりあげられても週刊誌の片隅に載る程度ですよ。だから、こちらは、もっと──直接的な人質を取ります」
「人質?」
1
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる