お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

文字の大きさ
上 下
140 / 289
第14章 夢を叶えるために

3人目

しおりを挟む

「いい加減にしてください!」
「?」

 次の日、レオが部屋を出ると、玄関モニターの前で、声を荒らげている恵美の姿が目に入った。

 どうやら、来客らしい。
 モニターには、男性が映っていた。

 この屋敷には、基本、お嬢様の知り合い以外入れない決まりになっている。

 そして、その男の身なりを見れば、明らかに、結月の知り合いでないことがわかった。

「相原さん、どうしました?」
「あ、五十嵐さん」

 レオが声をかければ、恵美は困った顔をして、レオを見上げた。

「実はこの人、愛理さんの元カレらしくて……さっきから『愛理と話がしたいから入れてくれ!』って煩いんです」

「…………」

 それを聞いて、レオは再び画面の男を見つめた。

 別れた元彼が、今さら何の用なのか? レオは警戒しつつも、モニター越しに話しかける。

「失礼ですが、お名前をお伺いしても?」

「た、谷崎雅文です! あなたは、執事さんですか!」

「そうですが……」

「ジュ、レアリーズ……モ、モン レーヴ?」

「?」

 唐突に、何かを言われた。
 まるで、呪文のような──何か。

「もう、さっきからなんなんですか! 怖いからやめてください! それに、愛理さんは会いたくないと言ってるんです!」

「そこをなんとか!」

「………」

 意味のわからない言葉を羅列に、恵美が悲鳴をあげる。

 言うなれば今の状況は、元カレが彼女の職場に押しかけて来て、喚き散らしている、ある意味、修羅場だ。

 下手をすれば、別れ話がもつれて、元彼がストーカーになったという可能性もある。

 もしここで、屋敷に招き入れて、万が一のことがあれば、取り返しがつかない。

 のだが……

(Je réalise mon rêve……か)

 先程の谷崎の言葉を難なく理解したレオは、モニターを見つめたまま眉をひそめた。

「Je réalise mon rêve.」は、フランス語で「夢を叶えたい」という意味だ。

 ということは──

(ルイか……)

 このフランス語は、ルイが谷崎に教えたのだろう。自分に伝えるために──

 つまり、この言葉の本当の意味は

『彼には、叶えたい夢があるみたいだから、中にいれてあげてね?』

 という事──

「わかりました。数分だけなら許します」

「え!? ちょっと五十嵐さん! ダメですよ! 部外者ですよ!」

「大丈夫ですよ。直接、伝えたいことがあるようですし……ただ、正門から招く訳にはいかないので、裏口に回って、別棟の方で話をしてください」

「は、はい! ありがとうございます!」

 レオがそう言うと、谷崎はその後、裏口に移動した。だが、モニターから谷崎が消えたのを確認して、恵美が不安げにレオをみつめる。

「本当に大丈夫なんですか? 旦那様にしられたら……」

「何かあれば、私が責任を取ります」

「でも、お嬢様には、なんと?」

「今は自室で勉強中ですし、後で、私から報告しますよ」

 その後、レオが見守る中、谷崎は愛理と話をして、無事にお互いの誤解をといた。

 始めは、レオや恵美に迷惑をかけたことを怒っていた愛理だったが、谷崎の気持ちがしっかり伝わったのか、最終的には、谷崎のプロポーズを受けいれ、嵐のように訪れた痴話喧嘩はあっさり終息した。

「五十嵐くん、恵美、ごめんね。今日は雅文が迷惑かけて……」

 谷崎が帰り、再び平穏が訪れた屋敷の中で、愛理が頭を下げた。だが、それをみてレオと恵美は、表情を緩ませる。

「よかったですね、冨樫さん。別れたまま終わらずに」

「そうですよ! 一時は、どうなることかと思ったけど、結婚して、お店も持てるなんて、愛理さんの夢、どっちも叶うんですね!」

「うん、ありがとう……!」

 嬉しそうに笑う愛理の手を、恵美が握りしめた。

 これも全て、ルイのおかげだ。そう思いながら、レオは恵美に目を向ける。

(あと、一人……)

 そして、"最後のターゲット"をみつめ、レオは、また目を細めた。

 恵美を辞めさせるためには、どうするべきか?

 実家の両親とは、どうやら仲が悪いらしい。

 だが、調べても、その不仲の原因は、よく分からなかった。

(なかなか、骨が折れそうだな……)

 だが、あと一人。

 あと一人だけ、追い出すことができれば、この屋敷から、出ていくことが出来る。

(急がないと──)

 ──時間がない。

 結月を守るためにも、彼女を早く、追い出さなければ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...