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第14章 夢を叶えるために
3人目
しおりを挟む「いい加減にしてください!」
「?」
次の日、レオが部屋を出ると、玄関モニターの前で、声を荒らげている恵美の姿が目に入った。
どうやら、来客らしい。
モニターには、男性が映っていた。
この屋敷には、基本、お嬢様の知り合い以外入れない決まりになっている。
そして、その男の身なりを見れば、明らかに、結月の知り合いでないことがわかった。
「相原さん、どうしました?」
「あ、五十嵐さん」
レオが声をかければ、恵美は困った顔をして、レオを見上げた。
「実はこの人、愛理さんの元カレらしくて……さっきから『愛理と話がしたいから入れてくれ!』って煩いんです」
「…………」
それを聞いて、レオは再び画面の男を見つめた。
別れた元彼が、今さら何の用なのか? レオは警戒しつつも、モニター越しに話しかける。
「失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「た、谷崎雅文です! あなたは、執事さんですか!」
「そうですが……」
「ジュ、レアリーズ……モ、モン レーヴ?」
「?」
唐突に、何かを言われた。
まるで、呪文のような──何か。
「もう、さっきからなんなんですか! 怖いからやめてください! それに、愛理さんは会いたくないと言ってるんです!」
「そこをなんとか!」
「………」
意味のわからない言葉を羅列に、恵美が悲鳴をあげる。
言うなれば今の状況は、元カレが彼女の職場に押しかけて来て、喚き散らしている、ある意味、修羅場だ。
下手をすれば、別れ話がもつれて、元彼がストーカーになったという可能性もある。
もしここで、屋敷に招き入れて、万が一のことがあれば、取り返しがつかない。
のだが……
(Je réalise mon rêve……か)
先程の谷崎の言葉を難なく理解したレオは、モニターを見つめたまま眉をひそめた。
「Je réalise mon rêve.」は、フランス語で「夢を叶えたい」という意味だ。
ということは──
(ルイか……)
このフランス語は、ルイが谷崎に教えたのだろう。自分に伝えるために──
つまり、この言葉の本当の意味は
『彼には、叶えたい夢があるみたいだから、中にいれてあげてね?』
という事──
「わかりました。数分だけなら許します」
「え!? ちょっと五十嵐さん! ダメですよ! 部外者ですよ!」
「大丈夫ですよ。直接、伝えたいことがあるようですし……ただ、正門から招く訳にはいかないので、裏口に回って、別棟の方で話をしてください」
「は、はい! ありがとうございます!」
レオがそう言うと、谷崎はその後、裏口に移動した。だが、モニターから谷崎が消えたのを確認して、恵美が不安げにレオをみつめる。
「本当に大丈夫なんですか? 旦那様にしられたら……」
「何かあれば、私が責任を取ります」
「でも、お嬢様には、なんと?」
「今は自室で勉強中ですし、後で、私から報告しますよ」
その後、レオが見守る中、谷崎は愛理と話をして、無事にお互いの誤解をといた。
始めは、レオや恵美に迷惑をかけたことを怒っていた愛理だったが、谷崎の気持ちがしっかり伝わったのか、最終的には、谷崎のプロポーズを受けいれ、嵐のように訪れた痴話喧嘩はあっさり終息した。
「五十嵐くん、恵美、ごめんね。今日は雅文が迷惑かけて……」
谷崎が帰り、再び平穏が訪れた屋敷の中で、愛理が頭を下げた。だが、それをみてレオと恵美は、表情を緩ませる。
「よかったですね、冨樫さん。別れたまま終わらずに」
「そうですよ! 一時は、どうなることかと思ったけど、結婚して、お店も持てるなんて、愛理さんの夢、どっちも叶うんですね!」
「うん、ありがとう……!」
嬉しそうに笑う愛理の手を、恵美が握りしめた。
これも全て、ルイのおかげだ。そう思いながら、レオは恵美に目を向ける。
(あと、一人……)
そして、"最後のターゲット"をみつめ、レオは、また目を細めた。
恵美を辞めさせるためには、どうするべきか?
実家の両親とは、どうやら仲が悪いらしい。
だが、調べても、その不仲の原因は、よく分からなかった。
(なかなか、骨が折れそうだな……)
だが、あと一人。
あと一人だけ、追い出すことができれば、この屋敷から、出ていくことが出来る。
(急がないと──)
──時間がない。
結月を守るためにも、彼女を早く、追い出さなければ。
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