137 / 289
第14章 夢を叶えるために
別館のお仕事
しおりを挟む
「わー、美味しそう!」
それから、数日が経った頃。ルイは、女の子と二人で、レストランの中にいた。
オープンテラスのある、オシャレなカフェレストラン。そのテラス席ではなく、店内に入ったルイは、今まさに、意中の女の子と食事をしていた。
女の子の名前は、紺野 サキ。
ルイがいるモデル事務所で、カメラマン見習いをしている女の子だ。
年齢は、ルイと同じ22歳。
明るくて気さくで、話しやすいタイプの女の子だが、カメラマンになるいう夢を叶えるため、日々努力を欠かさない。
そんなひたむきな姿に惹かれて、ルイはサキに恋をしているのだが、残念ながらサキは、恋よりも仕事!結婚よりも夢!を地で行くタイプの人間で、ルイがどんなに口説いても、いつも軽くあしらわれてしまう。
「ルイくん。本当に、ご馳走になっていいの?」
「うん。好きなだけ食べて。パフェ、もうひとつ頼もうか?」
「そんなに食べないよ。太りたくないし」
「太っても、可愛いと思うけどな」
「もう、相変わらず、ルイくんは、女の子褒めるのが上手いよね~。フランス人って、みんなそうなの?」
(……紺野ちゃんだから、可愛いって意味なんだけどなぁ)
デザートのイチゴパフェを、幸せそうに食べるサキを見つめながら、ルイは呆れたように笑う。
これだけ綺麗で、さんざんモテ散らかしてきたルイだが、サキは、そんなルイに全く見向きもしなかった。
だが、それが逆に心地よく、ルイはサキを見つめながら、柔らかく微笑む。
母親が、有名な舞台女優だったからか、ルイは子供の頃から何かと特別視されてきた。しかも、家柄も良く、容姿もよく、それ故に、あまり本音で話せる友人はいなかった。
だからか、レオと出会った時は、まるで運命のようにも感じた。自分の親やフランスのことを何も知らない、まっさらな日本人。
でも、レオといる時、すごく楽しかったのは、親の遺伝や七光りなどとは言わず、ルイという一人の人間として扱ってくれたから……
そして、それは、目の前にいるサキも同じで
「それより、私に、なにかお願いがあるって言ってたけど……」
「え?」
すると、今度はサキの方から話しかけてきた。
パフェは、もう半分ほど平らげていた。
どうやら、気に入ったらしい。
「やっぱり、パフェ、もうひとつ頼もうか?」
「っ……だからいいってば! それより、お願いってなに? 何か悩みごと?」
「悩みごとってほどのことじゃ……とりあえず、それ全部食べ終わってから話すよ」
「なにそれ。なんか、すごく気になるから、今言ってよ!」
ちょっとばかし、不安げなサキ。
すると、ルイは、仕方ないとばかりに、その後ニッコリと笑って、サキにあるお願いをする。
「あのさ、紺野ちゃん……後で僕に、ビンタしてくれない?」
「……はい?」
✣
✣
✣
「ふぁ~~」
結月が、学校へ行って数時間後、メイドの恵美は、庭の掃除をしながら、大きく欠伸をしていた。
今、この屋敷には、愛理と恵美の二人しかいない。だからか、ついつい気が抜けてしまい、口元を隠すことなく、あくびをしてしまう。
(はぁー、寝不足ヤバいなー。夕べは、ずっと描いてたからなー。気をつけなきゃ……)
昨晩、遅くまで起きていたからか、今日は一段と眠い。
(そういえば……五十嵐さんも、昨日は遅くまで起きてたけど、大丈夫なのかな?)
ふと、執事のことを思い出す。執事の仕事は、ただでさえハードなのに、昨夜も遅くまで起きているようだった。
だが、あの執事の凄いところは、寝不足とか疲労とか、そんな素振りを一切見せないこと。
(でも、さすがに働きすぎだよね。だけど、私が変わるって言っても、変わってくれないし)
ちなみに、執事は今、別館に行っている。
最近よく別館の戸狩に、呼び出されるのだ。
(なんの仕事してるんだろう。それとも、面接とか? 誰か増えるのかな?)
そんなことを考えながら、箒で落ち葉をあつめる。
執事の負担を思えば、あと一人くらいは使用人が欲しい。だが、そうだったとしても、ここ最近、呼び出しの頻度が多すぎる気もする。
(五十嵐さん、倒れたりしなきゃいいけど……)
✣
✣
✣
(はぁ……さすがにきついな)
そして、その頃レオは、まさに今、別館で戸狩から説明を受けていた。
今日は、重要書類の管理など。
屋敷の方でも、書類の管理は行っていたから、管理自体はなれたものだが、さすがに、その量が膨大すぎた。
「というわけで、この部屋では、とても重要な書類を管理しています。鍵の隠し場所は、先程話した通りです。ここまでで、何かと分からなかったことは?」
「いえ、特には……」
軽くメモをとりながら、部屋の中を見回す。
この部屋には、会社関係の資料に、得意先の顧客情報、そして、株主や上客の好みや趣味に、使用人たちの個人情報まで、ありとあらゆる情報が管理されていた。
そして、レオは、この膨大な資料を、たった数ヶ月で、全て頭に叩き込まなくてはならない。
(……無駄な作業だな)
執事としては当然のことだが、あの母親の執事になる気が全くないレオにとって、これは果てしなく無意味な作業だった。
しかも、この部屋の資料は、持ち出し禁止。
となれば、レオは自ずと別館に足を運ばなくてはならず、ただでさえ、手が足りていない本館の仕事が、後押しされてしまい、結果的に、結月の傍にいる時間が減ってしまう。
(……やっと両思いになれたのに)
出来るなら、もっと傍にいたい。
だが、これも二人の将来のためには必要なこと。
阿須加家から、結月を奪うためにも、今は、従順な執事のままでいなくては……
「では、次の部屋を案内します」
「次はどちらに」
「ワインセラーです。お嬢様は、まだ未成年なので必要なかったでしょうが、こちらでは、旦那様と奥様が嗜む、ワインやお酒の種類も覚えてもらいます」
「………左様でございますか」
笑顔を浮かべながらも、心の中で愚痴る。
(ワインに、毒でもまぜてやろうかな?)
そうしなくては、いつか自分が激務に殺されてしまうのでは?
そんなことを、軽く思ったレオだった。
それから、数日が経った頃。ルイは、女の子と二人で、レストランの中にいた。
オープンテラスのある、オシャレなカフェレストラン。そのテラス席ではなく、店内に入ったルイは、今まさに、意中の女の子と食事をしていた。
女の子の名前は、紺野 サキ。
ルイがいるモデル事務所で、カメラマン見習いをしている女の子だ。
年齢は、ルイと同じ22歳。
明るくて気さくで、話しやすいタイプの女の子だが、カメラマンになるいう夢を叶えるため、日々努力を欠かさない。
そんなひたむきな姿に惹かれて、ルイはサキに恋をしているのだが、残念ながらサキは、恋よりも仕事!結婚よりも夢!を地で行くタイプの人間で、ルイがどんなに口説いても、いつも軽くあしらわれてしまう。
「ルイくん。本当に、ご馳走になっていいの?」
「うん。好きなだけ食べて。パフェ、もうひとつ頼もうか?」
「そんなに食べないよ。太りたくないし」
「太っても、可愛いと思うけどな」
「もう、相変わらず、ルイくんは、女の子褒めるのが上手いよね~。フランス人って、みんなそうなの?」
(……紺野ちゃんだから、可愛いって意味なんだけどなぁ)
デザートのイチゴパフェを、幸せそうに食べるサキを見つめながら、ルイは呆れたように笑う。
これだけ綺麗で、さんざんモテ散らかしてきたルイだが、サキは、そんなルイに全く見向きもしなかった。
だが、それが逆に心地よく、ルイはサキを見つめながら、柔らかく微笑む。
母親が、有名な舞台女優だったからか、ルイは子供の頃から何かと特別視されてきた。しかも、家柄も良く、容姿もよく、それ故に、あまり本音で話せる友人はいなかった。
だからか、レオと出会った時は、まるで運命のようにも感じた。自分の親やフランスのことを何も知らない、まっさらな日本人。
でも、レオといる時、すごく楽しかったのは、親の遺伝や七光りなどとは言わず、ルイという一人の人間として扱ってくれたから……
そして、それは、目の前にいるサキも同じで
「それより、私に、なにかお願いがあるって言ってたけど……」
「え?」
すると、今度はサキの方から話しかけてきた。
パフェは、もう半分ほど平らげていた。
どうやら、気に入ったらしい。
「やっぱり、パフェ、もうひとつ頼もうか?」
「っ……だからいいってば! それより、お願いってなに? 何か悩みごと?」
「悩みごとってほどのことじゃ……とりあえず、それ全部食べ終わってから話すよ」
「なにそれ。なんか、すごく気になるから、今言ってよ!」
ちょっとばかし、不安げなサキ。
すると、ルイは、仕方ないとばかりに、その後ニッコリと笑って、サキにあるお願いをする。
「あのさ、紺野ちゃん……後で僕に、ビンタしてくれない?」
「……はい?」
✣
✣
✣
「ふぁ~~」
結月が、学校へ行って数時間後、メイドの恵美は、庭の掃除をしながら、大きく欠伸をしていた。
今、この屋敷には、愛理と恵美の二人しかいない。だからか、ついつい気が抜けてしまい、口元を隠すことなく、あくびをしてしまう。
(はぁー、寝不足ヤバいなー。夕べは、ずっと描いてたからなー。気をつけなきゃ……)
昨晩、遅くまで起きていたからか、今日は一段と眠い。
(そういえば……五十嵐さんも、昨日は遅くまで起きてたけど、大丈夫なのかな?)
ふと、執事のことを思い出す。執事の仕事は、ただでさえハードなのに、昨夜も遅くまで起きているようだった。
だが、あの執事の凄いところは、寝不足とか疲労とか、そんな素振りを一切見せないこと。
(でも、さすがに働きすぎだよね。だけど、私が変わるって言っても、変わってくれないし)
ちなみに、執事は今、別館に行っている。
最近よく別館の戸狩に、呼び出されるのだ。
(なんの仕事してるんだろう。それとも、面接とか? 誰か増えるのかな?)
そんなことを考えながら、箒で落ち葉をあつめる。
執事の負担を思えば、あと一人くらいは使用人が欲しい。だが、そうだったとしても、ここ最近、呼び出しの頻度が多すぎる気もする。
(五十嵐さん、倒れたりしなきゃいいけど……)
✣
✣
✣
(はぁ……さすがにきついな)
そして、その頃レオは、まさに今、別館で戸狩から説明を受けていた。
今日は、重要書類の管理など。
屋敷の方でも、書類の管理は行っていたから、管理自体はなれたものだが、さすがに、その量が膨大すぎた。
「というわけで、この部屋では、とても重要な書類を管理しています。鍵の隠し場所は、先程話した通りです。ここまでで、何かと分からなかったことは?」
「いえ、特には……」
軽くメモをとりながら、部屋の中を見回す。
この部屋には、会社関係の資料に、得意先の顧客情報、そして、株主や上客の好みや趣味に、使用人たちの個人情報まで、ありとあらゆる情報が管理されていた。
そして、レオは、この膨大な資料を、たった数ヶ月で、全て頭に叩き込まなくてはならない。
(……無駄な作業だな)
執事としては当然のことだが、あの母親の執事になる気が全くないレオにとって、これは果てしなく無意味な作業だった。
しかも、この部屋の資料は、持ち出し禁止。
となれば、レオは自ずと別館に足を運ばなくてはならず、ただでさえ、手が足りていない本館の仕事が、後押しされてしまい、結果的に、結月の傍にいる時間が減ってしまう。
(……やっと両思いになれたのに)
出来るなら、もっと傍にいたい。
だが、これも二人の将来のためには必要なこと。
阿須加家から、結月を奪うためにも、今は、従順な執事のままでいなくては……
「では、次の部屋を案内します」
「次はどちらに」
「ワインセラーです。お嬢様は、まだ未成年なので必要なかったでしょうが、こちらでは、旦那様と奥様が嗜む、ワインやお酒の種類も覚えてもらいます」
「………左様でございますか」
笑顔を浮かべながらも、心の中で愚痴る。
(ワインに、毒でもまぜてやろうかな?)
そうしなくては、いつか自分が激務に殺されてしまうのでは?
そんなことを、軽く思ったレオだった。
1
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる