お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

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第14章 夢を叶えるために

別館のお仕事

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「わー、美味しそう!」

 それから、数日が経った頃。ルイは、女の子と二人で、レストランの中にいた。

 オープンテラスのある、オシャレなカフェレストラン。そのテラス席ではなく、店内に入ったルイは、今まさに、意中の女の子と食事をしていた。

 女の子の名前は、紺野こんの サキ。

 ルイがいるモデル事務所で、カメラマン見習いをしている女の子だ。

 年齢は、ルイと同じ22歳。

 明るくて気さくで、話しやすいタイプの女の子だが、カメラマンになるいう夢を叶えるため、日々努力を欠かさない。

 そんなひたむきな姿に惹かれて、ルイはサキに恋をしているのだが、残念ながらサキは、恋よりも仕事!結婚よりも夢!を地で行くタイプの人間で、ルイがどんなに口説いても、いつも軽くあしらわれてしまう。

「ルイくん。本当に、ご馳走になっていいの?」

「うん。好きなだけ食べて。パフェ、もうひとつ頼もうか?」

「そんなに食べないよ。太りたくないし」

「太っても、可愛いと思うけどな」

「もう、相変わらず、ルイくんは、女の子褒めるのが上手いよね~。フランス人って、みんなそうなの?」

(……紺野ちゃんだから、可愛いって意味なんだけどなぁ)

 デザートのイチゴパフェを、幸せそうに食べるサキを見つめながら、ルイは呆れたように笑う。

 これだけ綺麗で、さんざんモテ散らかしてきたルイだが、サキは、そんなルイに全く見向きもしなかった。

 だが、それが逆に心地よく、ルイはサキを見つめながら、柔らかく微笑む。

 母親が、有名な舞台女優だったからか、ルイは子供の頃から何かと特別視されてきた。しかも、家柄も良く、容姿もよく、それ故に、あまり本音で話せる友人はいなかった。

 だからか、レオと出会った時は、まるで運命のようにも感じた。自分の親やフランスのことを何も知らない、まっさらな日本人。

 でも、レオといる時、すごく楽しかったのは、親の遺伝や七光りなどとは言わず、ルイという一人の人間として扱ってくれたから……

 そして、それは、目の前にいるサキも同じで

「それより、私に、なにかお願いがあるって言ってたけど……」

「え?」

 すると、今度はサキの方から話しかけてきた。

 パフェは、もう半分ほど平らげていた。
 どうやら、気に入ったらしい。

「やっぱり、パフェ、もうひとつ頼もうか?」

「っ……だからいいってば! それより、お願いってなに? 何か悩みごと?」

「悩みごとってほどのことじゃ……とりあえず、それ全部食べ終わってから話すよ」

「なにそれ。なんか、すごく気になるから、今言ってよ!」

 ちょっとばかし、不安げなサキ。
 すると、ルイは、仕方ないとばかりに、その後ニッコリと笑って、サキにあるお願いをする。

「あのさ、紺野ちゃん……後で僕に、してくれない?」

「……はい?」














「ふぁ~~」

 結月が、学校へ行って数時間後、メイドの恵美めぐみは、庭の掃除をしながら、大きく欠伸をしていた。

 今、この屋敷には、愛理と恵美の二人しかいない。だからか、ついつい気が抜けてしまい、口元を隠すことなく、あくびをしてしまう。

(はぁー、寝不足ヤバいなー。夕べは、ずっと描いてたからなー。気をつけなきゃ……)

 昨晩、遅くまで起きていたからか、今日は一段と眠い。

(そういえば……五十嵐さんも、昨日は遅くまで起きてたけど、大丈夫なのかな?)

 ふと、執事のことを思い出す。執事の仕事は、ただでさえハードなのに、昨夜も遅くまで起きているようだった。

 だが、あの執事の凄いところは、寝不足とか疲労とか、そんな素振りを一切見せないこと。

(でも、さすがに働きすぎだよね。だけど、私が変わるって言っても、変わってくれないし)

 ちなみに、執事は今、別館に行っている。
 最近よく別館の戸狩とがりに、呼び出されるのだ。

(なんの仕事してるんだろう。それとも、面接とか? 誰か増えるのかな?)

 そんなことを考えながら、箒で落ち葉をあつめる。

 執事の負担を思えば、あと一人くらいは使用人が欲しい。だが、そうだったとしても、ここ最近、呼び出しの頻度が多すぎる気もする。

(五十嵐さん、倒れたりしなきゃいいけど……)












(はぁ……さすがにきついな)

 そして、その頃レオは、まさに今、別館で戸狩から説明を受けていた。

 今日は、重要書類の管理など。

 屋敷の方でも、書類の管理は行っていたから、管理自体はなれたものだが、さすがに、その量が膨大すぎた。

「というわけで、この部屋では、とても重要な書類を管理しています。鍵の隠し場所は、先程話した通りです。ここまでで、何かと分からなかったことは?」

「いえ、特には……」

 軽くメモをとりながら、部屋の中を見回す。

 この部屋には、会社関係の資料に、得意先の顧客情報、そして、株主や上客の好みや趣味に、使用人たちの個人情報まで、ありとあらゆる情報が管理されていた。

 そして、レオは、この膨大な資料を、たった数ヶ月で、全て頭に叩き込まなくてはならない。

(……無駄な作業だな)

 執事としては当然のことだが、あの母親の執事になる気が全くないレオにとって、これは果てしなく無意味な作業だった。

 しかも、この部屋の資料は、持ち出し禁止。

 となれば、レオは自ずと別館に足を運ばなくてはならず、ただでさえ、手が足りていない本館の仕事が、後押しされてしまい、結果的に、結月の傍にいる時間が減ってしまう。

(……やっと両思いになれたのに)

 出来るなら、もっと傍にいたい。
 だが、これも二人の将来のためには必要なこと。

 阿須加家から、結月を奪うためにも、今は、従順な執事のままでいなくては……

「では、次の部屋を案内します」

「次はどちらに」

「ワインセラーです。お嬢様は、まだ未成年なので必要なかったでしょうが、こちらでは、旦那様と奥様が嗜む、ワインやお酒の種類も覚えてもらいます」

「………左様でございますか」

 笑顔を浮かべながらも、心の中で愚痴る。

(ワインに、毒でもまぜてやろうかな?)

 そうしなくては、いつか自分が激務に殺されてしまうのでは?

 そんなことを、軽く思ったレオだった。
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