132 / 289
第14章 夢を叶えるために
報告
しおりを挟む「着きましたよ、お嬢様」
その後、結月を学校に送り届けたレオは、いつも通り、車の後部座席にいる結月に、手を差し出していた。
その立ち振る舞いは、まさに執事!
朝、あんなにも甘い言葉を囁き、困らせてきたくせに、この変わり様には、結月も驚いていた。
(……まるで別人ね)
「どうかなさいましたか?」
「いえ……それじゃぁ、行ってきます!」
「はい。行ってらっしゃいませ、お嬢様」
ニコリと笑って、その後、頭を下げた執事に見送られるまま、結月は、そそくさと学校の中に入った。
あれから、自分の世界はガラリと変わった。
執事と、あの五十嵐と、恋人同士になった。
まだ信じられないし、正直、自分でもどうかしていると思う。
なぜなら、五十嵐は執事。
その上、自分はまだ、彼のことを、よく知らない。
(どうしたら、思い出せるかしら、五十嵐のこと……)
教室につき、自分の席につくと、結月は深くため息をついた。
自分はいつ、五十嵐の彼女になったのだろう。どのように出会って、どんな話をして、どういう経緯で、恋人同士になったのだろう。
思い出したい。
今の彼だけじゃなく、昔の彼のことも知りたい。
それなのに、記憶はまったく繋がらない。
「阿須加さん!」
「!」
瞬間、クラスメイトの有栖川が声をかけてきて、結月は顔を上げた。
有栖川は、いつも明るくて、その姿を見ると、不思議と周りの空気も明るくなる。
結月は、そんな有栖川をみて、サッと気持ちを切り替えると、また、にこやかに挨拶をする。
「おはよう、有栖川さん」
「おはよう。先日の婚約者の本、どう? 阿須加さんの好みにあったかしら?」
「えぇ、まだ読み切ってはいないけど、とても面白いわ」
「そう、よかった。読みおわったら、また感想聞かせてね!」
「え!? あ、そうね!」
明るく話す有栖川。だが、そんな彼女の返答に、結月は苦笑いをうかべた。
実は、前に借りた、お嬢様と執事の文庫本の時も、有栖川を始めとし、何人かの女子と感想を語り合った。
多少、刺激的な内容ではあったが、ここは女子高。男性の目がないからか、少しくらい話が過激になっても、あまり問題はない。
だが、今回の『婚約者』の文庫本に関しては、ちょっと困った事になっていた。
なぜなら──
(どうしよう……あの本、五十嵐が、もう読んじゃダメって……っ)
そう、実はあの後、結月は、執事にあの本を読むのを禁止された。
それも、下巻の後半。
クライマックスに入ったところだというのに
『もう、このような本で勉強する必要はありませんよね。目障りなので、すぐに有栖川様にお返しください』
そんなことを言われた。
物語の結末を読まずに、とっとと返せと!
だが、友人たちと本の内容を語り合うなら、完結まで読まずして、話せるはずがない。
(……うーん、五十嵐には読むなって言われたけど、やっぱり、借りといて読まずに返すのは失礼だし)
こうなったら、執事にバレないように、こっそり読もう!
うん、それしかない!!
そう、結月は決意するが、結月知らないのだ。
あの物語の後半に、婚約者とお嬢様の官能的なシーンがあることを──!
✣✣✣
一方、結月を送り届けたレオは、その足で、ルイの家に向かった。
──ピンポーン!
悠然とした武家屋敷。それとは、少し不釣り合いなインターフォンをならすと、中から、これまた不釣り合いな、金髪の美青年が出てきた。
「やぁ、レオ、いらっしゃい」
にっこり笑って、出迎えてくれたルイ。先日あった時は、女装していたからか、いつも通りの姿に少し安心する。
「悪いな。こんな朝早く」
「別にいいよ。僕とレオの仲でしょ。それに、結月ちゃんを学校に送り届けて、そのまま来たんじゃないの?」
「あぁ……お前、今日仕事は?」
「モデルの仕事は、午後からだから、午前中は家にいるよ」
ルイに通され、家の中を進む。ちょうど、朝食の時間だったのか、お味噌汁の香りがした。
どこか懐かしくも、悲しくも感じる、香り──
「にゃーん」
「ルナ」
すると、客間に前まで来た瞬間、レオに気づいたルナが、飛びかかってきた。
可愛い愛猫の出迎えに、レオはその背を撫で、頬を緩ませる。
「ごめんな、なかなか来てやれなくて」
「にゃー」
「はは、くすぐったい……あ、そうだ。今日はいい報告がある」
「いい報告?」
じゃれつくルナに笑いかけながら、レオが言った言葉に、今度はルイが反応する。
結月とのことを話したら、ルイはどんな反応をするだろう?
そう思いつつ、レオは改めてルイを見つめた。
「あぁ、実は──」
2
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる