お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

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第14章 夢を叶えるために

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「着きましたよ、お嬢様」

 その後、結月を学校に送り届けたレオは、いつも通り、車の後部座席にいる結月に、手を差し出していた。

 その立ち振る舞いは、まさに執事!

 朝、あんなにも甘い言葉を囁き、困らせてきたくせに、この変わり様には、結月も驚いていた。

(……まるで別人ね)

「どうかなさいましたか?」

「いえ……それじゃぁ、行ってきます!」

「はい。行ってらっしゃいませ、お嬢様」

 ニコリと笑って、その後、頭を下げた執事に見送られるまま、結月は、そそくさと学校の中に入った。

 あれから、自分の世界はガラリと変わった。

 執事と、あの五十嵐と、恋人同士になった。

 まだ信じられないし、正直、自分でもどうかしていると思う。

 なぜなら、五十嵐は執事。

 その上、自分はまだ、彼のことを、よく知らない。

(どうしたら、思い出せるかしら、五十嵐のこと……)

 教室につき、自分の席につくと、結月は深くため息をついた。

 自分はいつ、五十嵐の彼女になったのだろう。どのように出会って、どんな話をして、どういう経緯で、恋人同士になったのだろう。

 思い出したい。
 今の彼だけじゃなく、昔の彼のことも知りたい。

 それなのに、記憶はまったく繋がらない。


「阿須加さん!」
「!」

 瞬間、クラスメイトの有栖川が声をかけてきて、結月は顔を上げた。

 有栖川は、いつも明るくて、その姿を見ると、不思議と周りの空気も明るくなる。

 結月は、そんな有栖川をみて、サッと気持ちを切り替えると、また、にこやかに挨拶をする。

「おはよう、有栖川さん」

「おはよう。先日の婚約者の本、どう? 阿須加さんの好みにあったかしら?」

「えぇ、まだ読み切ってはいないけど、とても面白いわ」

「そう、よかった。読みおわったら、また感想聞かせてね!」

「え!? あ、そうね!」

 明るく話す有栖川。だが、そんな彼女の返答に、結月は苦笑いをうかべた。

 実は、前に借りた、お嬢様と執事の文庫本の時も、有栖川を始めとし、何人かの女子と感想を語り合った。

 多少、刺激的な内容ではあったが、ここは女子高。男性の目がないからか、少しくらい話が過激になっても、あまり問題はない。

 だが、今回の『婚約者』の文庫本に関しては、ちょっと困った事になっていた。

 なぜなら──


(どうしよう……あの本、五十嵐が、もう読んじゃダメって……っ)

 そう、実はあの後、結月は、執事にあの本を読むのを禁止された。

 それも、下巻の後半。
 クライマックスに入ったところだというのに

『もう、このような本で勉強する必要はありませんよね。なので、すぐに有栖川様にお返しください』

 そんなことを言われた。
 物語の結末を読まずに、とっとと返せと!

 だが、友人たちと本の内容を語り合うなら、完結まで読まずして、話せるはずがない。

(……うーん、五十嵐には読むなって言われたけど、やっぱり、借りといて読まずに返すのは失礼だし)

 こうなったら、執事にバレないように、こっそり読もう!
 うん、それしかない!!

 そう、結月は決意するが、結月知らないのだ。

 あの物語の後半に、婚約者とお嬢様の官能的なシーンがあることを──!




 ✣✣✣



 一方、結月を送り届けたレオは、その足で、ルイの家に向かった。

 ──ピンポーン!

 悠然とした武家屋敷。それとは、少し不釣り合いなインターフォンをならすと、中から、これまた不釣り合いな、金髪の美青年が出てきた。

「やぁ、レオ、いらっしゃい」

 にっこり笑って、出迎えてくれたルイ。先日あった時は、女装していたからか、いつも通りの姿に少し安心する。

「悪いな。こんな朝早く」

「別にいいよ。僕とレオの仲でしょ。それに、結月ちゃんを学校に送り届けて、そのまま来たんじゃないの?」

「あぁ……お前、今日仕事は?」

「モデルの仕事は、午後からだから、午前中は家にいるよ」

 ルイに通され、家の中を進む。ちょうど、朝食の時間だったのか、お味噌汁の香りがした。

 どこか懐かしくも、悲しくも感じる、香り──

「にゃーん」
「ルナ」

 すると、客間に前まで来た瞬間、レオに気づいたルナが、飛びかかってきた。

 可愛い愛猫の出迎えに、レオはその背を撫で、頬を緩ませる。

「ごめんな、なかなか来てやれなくて」

「にゃー」

「はは、くすぐったい……あ、そうだ。今日はいい報告がある」

「いい報告?」

 じゃれつくルナに笑いかけながら、レオが言った言葉に、今度はルイが反応する。

 結月とのことを話したら、ルイはどんな反応をするだろう?

 そう思いつつ、レオは改めてルイを見つめた。

「あぁ、実は──」
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