104 / 289
第11章 執事の誘惑
夢と復讐
しおりを挟む
「にゃーん」
穏やかな朝、朝食をすませたルイは、和室でルナと戯れていた。
ルナが来てから、約半年。
月日が流れるのは早いものだが、ルナとの生活にも慣れ、今では、本当に家族のように感じるようになってきた。
とはいっても、ルナは友人から預かっている大切な愛猫だ。
いつかルナとお別れする日が来るのかと思うと、無償に寂しさを感じてしまう。
ピンポーン!
すると、突然インターフォンがなって、猫じゃらしが持つ手が止まる。
(こんな朝から誰だろう?)
そんなことを考えていると、あっさり猫じゃらしをルナに奪われた。
ルイは、じゃれつくルナに「ちょっと、まっててね」と声をかけると、立ち上がり、玄関へと急ぐ。
すると──
「あれ? レオ?」
「………」
そこにいたのは友人の五十嵐レオだった。
だが、いつもの私服姿ではなく黒のスーツを着たレオは、どう見ても仕事中なのがわかる。
「わー執事さんだー! いらっしゃい! 平日に来るなんて珍しいね?」
「お前のその笑顔、何とかならないのか?」
「あれ~? お客様を笑顔で出迎えて、怒られたのは初めてだなー」
どうやら、すこぶる機嫌が悪いらしい。
それに、いつも来るのは、休日の土日のみ。
それが一変、平日の朝、しかも勤務中にやってきたレオに、ルイは何かしらを察した。
(うーん、これは、かなりストレス溜まってるな)
その後、レオを家にあげると、ルイは真っ先にルナがいる和室に通した。
すると、中で寛いでいたルナを見るなり、レオはスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めると
「ルナ!」
と、自分の愛猫の名を呼び、その後駆け寄ってきたルナをギュッと抱きしめた。
まるで精神を落ち着かせるかのように、一息つくレオ。それを見て、ルイが話しかける。
「どうしたの? 結月ちゃんに、何かあったの?」
「…………」
その後、少しばかり深刻な表情をしたレオは、その「なにか」をゆっくりゆっくり話し始めた。
✣
✣
✣
「何、その婚約者、最低だね」
その後、和室の中で、ひとしきり話を聞いたルイは、結月の婚約者の話を聞いて眉をひそめた。
女の子を酔わせて無理やり手篭めにしようとしただけでなく、それを揉み消し、なかったことにしたのだ。
しかも、あろう事かそんな男との仲を、レオは取り持たなくてはならないらしい。
「また、色々と辛い立場だね」
「あぁ、なんで俺が、わざわざ、あんな男と結月を……っ」
ルナを撫でながら苛立つレオは、相当参っているようだった。
無理もない。
好きな女の子に、自分以外の男を好きになるよう仕向けろと言われたのだから。
「その縁談、破談に出来ないの?」
「無理だろうな。今の阿須加家には餅津木の財力が必要だ。ホテルが経営不振に陥ってる」
「だから、お金のために娘を結婚させるって? まるで人身御供だね」
「そうだな。でも、結月は親には逆らえない。それに、餅津木にも何かしらの得があるはずだ。子供が出来てから籍を入れるなんて、そんな条件を承諾するくらいだからな」
「……なるほどね。つまり餅津木家としては、早く結月ちゃんとの間に子供を作って結婚したいわけだ。それで、手っ取り早く手を出そうとしたと?」
「あぁ、だから、これから先はあまりここには来れなくなる。今はできるだけ、結月の傍にいてやりたい」
そう言って真剣な表情で呟いたレオの言葉に、ルイは小さく息をついた。
つまり、会いに来れなくなるから、それを詫びるために、ルナに会いに来たのだろう。
結月が学校に行ってる今の時間帯に……
「ルナのこと頼む」
「うーん、僕はかまわないけど、ルナちゃんは寂しいんじゃないかな。それに、まさか休みなしで働く気なの?」
レオにルイが問いかければ、レオに抱かれているルナはぴくりと耳を動かした。
まるで、主人を心配しているとでも言うように……
「ねぇレオ。ただでさえ休み少ないのに、これ以上働いたら、ぶっ倒れるよ。だいたい、そんなネタ持ってるならさ、とっととリークしちゃえばいいのに、僕、出版社に勤めてるお友達ならたくさんいるよ?」
「………」
まるで、甘い誘惑のような、そのルイの声に、微かに心を揺さぶられる。
翻訳家とモデル。
二足の草鞋を履くルイだ。
出版業界にそれなりのツテがあるのは、理解出来る。
だが──
「いや、大手企業を敵に回すとなると、何かしらリスクが高まる。お前に迷惑はかけたくない」
「……迷惑かけてもいいって言ってるのがわからないのかな?レオは一人で抱え込みすぎなんだよ」
「一人でいい。これは俺にとって、復讐も兼ねてるんだ。そんな俺の復讐に、お前を巻き込むわけにはいかない」
「……」
瞬間、ルイは悲しげに目を伏せた。
復讐──その重い言葉に、幼い頃、レオから聞いた話を思い出す。
レオは今、結月を奪うことで『夢』と『復讐』どちらも、叶えようとしているから。
「望月 玲二さんだっけ? 8年前に亡くなった、レオの本当のお父さん」
「……」
「阿須加家のホテルで働いてたんだよね。それで、この家で一緒に暮らしてた」
ルイが問いかければ、レオはその後、家の中を見回しながら答えた。
「あぁ……俺は全く気づけなかった。あの時、親父が苦しんでたこと」
この家には、色々な感情がつまってる。
喜びも、哀しみも、そして、腹の底から込み上げてくるような、怒りですら──
「結月も親父と同じだ。あいつらに利用されて苦しんでる、俺はもう、二度と奪われたくないんだ」
自分の"大切な人"を──
だからこそ、なにがなんでも奪うと決めた。
心から愛した、大切な大切な女の子を──
「……はぁ、わかったよ。止めて聞くような男じゃないもんね、レオは。そこまでいうなら、もうなにもいわない。でも、僕はレオの味方だから、困ったことがあったら、なんでも力になるよ」
「……あぁ、ありがとう、ルイ」
ルナを撫でながら、レオは微笑する。
心強く、そして、温かい、この友人に感謝しながら───
穏やかな朝、朝食をすませたルイは、和室でルナと戯れていた。
ルナが来てから、約半年。
月日が流れるのは早いものだが、ルナとの生活にも慣れ、今では、本当に家族のように感じるようになってきた。
とはいっても、ルナは友人から預かっている大切な愛猫だ。
いつかルナとお別れする日が来るのかと思うと、無償に寂しさを感じてしまう。
ピンポーン!
すると、突然インターフォンがなって、猫じゃらしが持つ手が止まる。
(こんな朝から誰だろう?)
そんなことを考えていると、あっさり猫じゃらしをルナに奪われた。
ルイは、じゃれつくルナに「ちょっと、まっててね」と声をかけると、立ち上がり、玄関へと急ぐ。
すると──
「あれ? レオ?」
「………」
そこにいたのは友人の五十嵐レオだった。
だが、いつもの私服姿ではなく黒のスーツを着たレオは、どう見ても仕事中なのがわかる。
「わー執事さんだー! いらっしゃい! 平日に来るなんて珍しいね?」
「お前のその笑顔、何とかならないのか?」
「あれ~? お客様を笑顔で出迎えて、怒られたのは初めてだなー」
どうやら、すこぶる機嫌が悪いらしい。
それに、いつも来るのは、休日の土日のみ。
それが一変、平日の朝、しかも勤務中にやってきたレオに、ルイは何かしらを察した。
(うーん、これは、かなりストレス溜まってるな)
その後、レオを家にあげると、ルイは真っ先にルナがいる和室に通した。
すると、中で寛いでいたルナを見るなり、レオはスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めると
「ルナ!」
と、自分の愛猫の名を呼び、その後駆け寄ってきたルナをギュッと抱きしめた。
まるで精神を落ち着かせるかのように、一息つくレオ。それを見て、ルイが話しかける。
「どうしたの? 結月ちゃんに、何かあったの?」
「…………」
その後、少しばかり深刻な表情をしたレオは、その「なにか」をゆっくりゆっくり話し始めた。
✣
✣
✣
「何、その婚約者、最低だね」
その後、和室の中で、ひとしきり話を聞いたルイは、結月の婚約者の話を聞いて眉をひそめた。
女の子を酔わせて無理やり手篭めにしようとしただけでなく、それを揉み消し、なかったことにしたのだ。
しかも、あろう事かそんな男との仲を、レオは取り持たなくてはならないらしい。
「また、色々と辛い立場だね」
「あぁ、なんで俺が、わざわざ、あんな男と結月を……っ」
ルナを撫でながら苛立つレオは、相当参っているようだった。
無理もない。
好きな女の子に、自分以外の男を好きになるよう仕向けろと言われたのだから。
「その縁談、破談に出来ないの?」
「無理だろうな。今の阿須加家には餅津木の財力が必要だ。ホテルが経営不振に陥ってる」
「だから、お金のために娘を結婚させるって? まるで人身御供だね」
「そうだな。でも、結月は親には逆らえない。それに、餅津木にも何かしらの得があるはずだ。子供が出来てから籍を入れるなんて、そんな条件を承諾するくらいだからな」
「……なるほどね。つまり餅津木家としては、早く結月ちゃんとの間に子供を作って結婚したいわけだ。それで、手っ取り早く手を出そうとしたと?」
「あぁ、だから、これから先はあまりここには来れなくなる。今はできるだけ、結月の傍にいてやりたい」
そう言って真剣な表情で呟いたレオの言葉に、ルイは小さく息をついた。
つまり、会いに来れなくなるから、それを詫びるために、ルナに会いに来たのだろう。
結月が学校に行ってる今の時間帯に……
「ルナのこと頼む」
「うーん、僕はかまわないけど、ルナちゃんは寂しいんじゃないかな。それに、まさか休みなしで働く気なの?」
レオにルイが問いかければ、レオに抱かれているルナはぴくりと耳を動かした。
まるで、主人を心配しているとでも言うように……
「ねぇレオ。ただでさえ休み少ないのに、これ以上働いたら、ぶっ倒れるよ。だいたい、そんなネタ持ってるならさ、とっととリークしちゃえばいいのに、僕、出版社に勤めてるお友達ならたくさんいるよ?」
「………」
まるで、甘い誘惑のような、そのルイの声に、微かに心を揺さぶられる。
翻訳家とモデル。
二足の草鞋を履くルイだ。
出版業界にそれなりのツテがあるのは、理解出来る。
だが──
「いや、大手企業を敵に回すとなると、何かしらリスクが高まる。お前に迷惑はかけたくない」
「……迷惑かけてもいいって言ってるのがわからないのかな?レオは一人で抱え込みすぎなんだよ」
「一人でいい。これは俺にとって、復讐も兼ねてるんだ。そんな俺の復讐に、お前を巻き込むわけにはいかない」
「……」
瞬間、ルイは悲しげに目を伏せた。
復讐──その重い言葉に、幼い頃、レオから聞いた話を思い出す。
レオは今、結月を奪うことで『夢』と『復讐』どちらも、叶えようとしているから。
「望月 玲二さんだっけ? 8年前に亡くなった、レオの本当のお父さん」
「……」
「阿須加家のホテルで働いてたんだよね。それで、この家で一緒に暮らしてた」
ルイが問いかければ、レオはその後、家の中を見回しながら答えた。
「あぁ……俺は全く気づけなかった。あの時、親父が苦しんでたこと」
この家には、色々な感情がつまってる。
喜びも、哀しみも、そして、腹の底から込み上げてくるような、怒りですら──
「結月も親父と同じだ。あいつらに利用されて苦しんでる、俺はもう、二度と奪われたくないんだ」
自分の"大切な人"を──
だからこそ、なにがなんでも奪うと決めた。
心から愛した、大切な大切な女の子を──
「……はぁ、わかったよ。止めて聞くような男じゃないもんね、レオは。そこまでいうなら、もうなにもいわない。でも、僕はレオの味方だから、困ったことがあったら、なんでも力になるよ」
「……あぁ、ありがとう、ルイ」
ルナを撫でながら、レオは微笑する。
心強く、そして、温かい、この友人に感謝しながら───
1
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる