お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

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第10章 餅津木家とお嬢様

同級生

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「あれ、モチヅキくん!?」

「「!?」」

 不意に呼びかけられ、レオと美結は同時にそちらに目を向けた。

 見ればそこには、若い女性が一人立っていて、その女性は、レオと目が合うなり、明るい声を発しながら近寄ってきた。

「やっぱり、望月君だ! 久しぶり~、私のこと覚えてる? 小学校の時一緒のクラスだった桂木かつらぎ! びっくりしちゃった~、望月君、中学上がってすぐに外国行っちゃったから、もう会えないと思ってたのに、まさかこんな所で会えるなんて……!」

「…………」

 桂木の甲高い声が、脳内を支配する。

 まるで、懐かしい級友に会えたかの如く『望月もちづき』と言いながら、表情を輝かせる桂木を見て、レオは思わず息を詰めた。

「いつ、日本に戻ってきたの!? そうそう、あの時、望月君からもらった──」

「五十嵐、その方は?」

「え? 五十嵐?」

 瞬間、美結が口を挟み、桂木が目をぱちくりさせながら、レオを見つめる。するとレオは

「申し訳ありませんが、どなたかと人違いをなさっているのでは? 私の名前は、"望月"ではなく、"五十嵐"です」

「え!? ウソ!?」

 瞬間、桂木は顔を真っ赤にしたあと青ざめた。無理もない。別人相手に話しかけていたのだから。

「あ、あの、失礼しました!!」

 すると桂木は、深く深く頭を下げると、逃げるように立ち去っていった。

 そして、レオはそれを見送り、改めて美結に語りかける。

「では、奥様。別邸の方へ」

 だが、そう言ったレオに美結は

「いいわ」

「え?」

「やっぱりいいわ。車は、黒沢に出してもらうから。あなたはここにいなさい」

「……!?」

 あんなにも「車を出せ」と豪語していたにもかかわらず、いきなり掌を返され、レオは一驚する。

 ──どうして、いきなり?

 だが、それはレオにとって、好都合でもあった。

「それと、結月は、明日学校があるのよね?」

 だが、続けざまに意味のわからないことを質問され、レオは困惑する。

 学校があるからなんだと言うのか。おかしな言動を繰り返す美結に、レオは不信感を抱きつつも、会話を続ける。

「はい。明日は月曜日なので、早朝授業もございます」

「そぅ……じゃぁ、明日は休ませてあげて」

「休ませる?」

「えぇ、きっと疲れているでしょうから」

「…………」

 なんだろう。
 先程から、何かが腑に落ちない。

 疲れるとは、どういうことだろう?
 それも、わざわざ学校を休ませるほど?

「それじゃ、結月は21階のスイートルームにいるはずだから、あとのことは頼んだわよ」

「……はい、畏まりました」

 モスグリーンのドレスがひらりと揺れて、美結はレオの元から立ち去ると、黒沢を呼び出し、会場を後にした。

(21階……か)

 だが、結月の行先が分かり安堵するも、漠然とした不安がよぎる。

 レオは、その後、急ぎ足でその場をあとにすると、21階に向かうべく、エレベーターを探した。



 ✣

 ✣

 ✣



 その後、黒沢の車で別邸へと帰る美結は、後部座席に一人座り、先程のことを思い出していた。

 五十嵐と同じ年くらいの女性が「望月」と言って、五十嵐に語りかけていた。

 それを、五十嵐自身は、人違いだと否定していたが……

「──ねぇ、黒沢」
「はい、奥様」

 後部座席から、美結が運転席の黒沢に声をかける。

「昔、うちのホテルに、事故死した従業員がいたでしょ。名前は──望月もちづき 玲二れいじ

 美結がそう言えば、黒沢は古い記憶を思い起こす。

「はい、確かそんな名前の従業員だったかと……ですが、それが如何いたしました?」

「その男の親類縁者、洗いざらい調べてくれる。ちょっと気になることがあるの」

「気になることですか?」

「えぇ……」

 闇の中を走行する車の中、美結は外を見つめながら、ふと数年前のこと思い出した。

『お前達のこと、絶対に許さないからな!』

 そう言って、美結の前に立ちはだかった、小学生くらいの男の子のことを

(まさか、あの子……)

 五十嵐の顔は、あの時のあの少年に、とてもよく似ている気がした。

 あの日、自分たちを『人殺し』扱いした


 望月 玲二のに──

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