94 / 289
第10章 餅津木家とお嬢様
同級生
しおりを挟む「あれ、モチヅキくん!?」
「「!?」」
不意に呼びかけられ、レオと美結は同時にそちらに目を向けた。
見ればそこには、若い女性が一人立っていて、その女性は、レオと目が合うなり、明るい声を発しながら近寄ってきた。
「やっぱり、望月君だ! 久しぶり~、私のこと覚えてる? 小学校の時一緒のクラスだった桂木! びっくりしちゃった~、望月君、中学上がってすぐに外国行っちゃったから、もう会えないと思ってたのに、まさかこんな所で会えるなんて……!」
「…………」
桂木の甲高い声が、脳内を支配する。
まるで、懐かしい級友に会えたかの如く『望月』と言いながら、表情を輝かせる桂木を見て、レオは思わず息を詰めた。
「いつ、日本に戻ってきたの!? そうそう、あの時、望月君からもらった──」
「五十嵐、その方は?」
「え? 五十嵐?」
瞬間、美結が口を挟み、桂木が目をぱちくりさせながら、レオを見つめる。するとレオは
「申し訳ありませんが、どなたかと人違いをなさっているのでは? 私の名前は、"望月"ではなく、"五十嵐"です」
「え!? ウソ!?」
瞬間、桂木は顔を真っ赤にしたあと青ざめた。無理もない。別人相手に話しかけていたのだから。
「あ、あの、失礼しました!!」
すると桂木は、深く深く頭を下げると、逃げるように立ち去っていった。
そして、レオはそれを見送り、改めて美結に語りかける。
「では、奥様。別邸の方へ」
だが、そう言ったレオに美結は
「いいわ」
「え?」
「やっぱりいいわ。車は、黒沢に出してもらうから。あなたはここにいなさい」
「……!?」
あんなにも「車を出せ」と豪語していたにもかかわらず、いきなり掌を返され、レオは一驚する。
──どうして、いきなり?
だが、それはレオにとって、好都合でもあった。
「それと、結月は、明日学校があるのよね?」
だが、続けざまに意味のわからないことを質問され、レオは困惑する。
学校があるからなんだと言うのか。おかしな言動を繰り返す美結に、レオは不信感を抱きつつも、会話を続ける。
「はい。明日は月曜日なので、早朝授業もございます」
「そぅ……じゃぁ、明日は休ませてあげて」
「休ませる?」
「えぇ、きっと疲れているでしょうから」
「…………」
なんだろう。
先程から、何かが腑に落ちない。
疲れるとは、どういうことだろう?
それも、わざわざ学校を休ませるほど?
「それじゃ、結月は21階のスイートルームにいるはずだから、あとのことは頼んだわよ」
「……はい、畏まりました」
モスグリーンのドレスがひらりと揺れて、美結はレオの元から立ち去ると、黒沢を呼び出し、会場を後にした。
(21階……か)
だが、結月の行先が分かり安堵するも、漠然とした不安がよぎる。
レオは、その後、急ぎ足でその場をあとにすると、21階に向かうべく、エレベーターを探した。
✣
✣
✣
その後、黒沢の車で別邸へと帰る美結は、後部座席に一人座り、先程のことを思い出していた。
五十嵐と同じ年くらいの女性が「望月」と言って、五十嵐に語りかけていた。
それを、五十嵐自身は、人違いだと否定していたが……
「──ねぇ、黒沢」
「はい、奥様」
後部座席から、美結が運転席の黒沢に声をかける。
「昔、うちのホテルに、事故死した従業員がいたでしょ。名前は──望月 玲二」
美結がそう言えば、黒沢は古い記憶を思い起こす。
「はい、確かそんな名前の従業員だったかと……ですが、それが如何いたしました?」
「その男の親類縁者、洗いざらい調べてくれる。ちょっと気になることがあるの」
「気になることですか?」
「えぇ……」
闇の中を走行する車の中、美結は外を見つめながら、ふと数年前のこと思い出した。
『お前達のこと、絶対に許さないからな!』
そう言って、美結の前に立ちはだかった、小学生くらいの男の子のことを
(まさか、あの子……)
五十嵐の顔は、あの時のあの少年に、とてもよく似ている気がした。
あの日、自分たちを『人殺し』扱いした
望月 玲二の息子に──
1
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる