お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

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第7章 夢の中の男の子

懐柔

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「では、本日の業務は先程お話した通りです。今日も一日、宜しくお願いします」

 朝──執務室では、ミーティングを行うためレオを中心とし、恵美、冨樫、矢野の四人が一堂に会していた。

 手帳片手にレオが本日のスケジュールを確認しながら指示すれば、残る三人は「はい」と素直な返事を返す。

「それにしても、昨日は斎藤さんが来てくれて良かったね。お嬢様、凄く喜んでたし」

 すると、昨日のことを思い出し、冨樫が言葉を挟んだ。恵美は、その横で『あ!』と声をあげると、思い出したとばかりにレオに語りかける。

「そうですよ、五十嵐さん! 実は昨日、斎藤さんが来て」

「はい。存じております。昨日、帰宅した時に、屋敷の庭で会いましたから」

「そうだったんですか。よかった~。斎藤さん、五十嵐さんにも、お礼を言いたいって言ってたんです! それと、旦那様たちの事は、お嬢様には、お伝えしてないそうです。斎藤さんの奥さんのことも……」

「はい。それも伺っています。妻のことは、退院したとだけ伝えてあると」

「じゃぁ、このまま、お嬢様には」

「そうですね。あえて、お心を痛めるようなことを伝える必要はないかと……話したところで、結果は変わりませんから」

 両親の非情な行いも、斎藤の妻が、もう助からないということも、あえて、告げる必要はない。

 伝えたら、きっと、結月を泣かせてしまうだけから──

「でも、奥さんのことは辛いけど、斎藤さん、良かったね。最期は奥さんの側にいてあげられるんだもん」

 すると、悲しそうに視線を落としつつも、今度は冨樫がそう言って、改めて、レオに頭を下げた。

「五十嵐君、私たちからもお礼を言わせて、斎藤さんから奥さんのこと聞いていたのに、私たちではどうすることも出来なくて」

「そうですよ。これも全部、五十嵐さんのおかげです! 本当にありがとうございました!」

 レオの行いに感服したのか、冨樫と恵美が感謝の言葉をのべる。すると、今度は、その横にたつ矢野もまた、レオの身体を案じ始めた。

「しかし、執事の業務に加えて、斎藤さんの仕事まで肩代わりするなんて、本当に大丈夫なのですか?」

「心配してくれるのですか?」

「そ、そういうわけでは」

「大丈夫ですよ。この屋敷は滅多に来客もありませんから、要領よくやれば、まだ余裕があるくらいです」

「さすがですね、五十嵐さん! でも、絶対に無理はしないでくださいね」

「そうだよ。この屋敷は、五十嵐君で回ってるようなものなんだから~」

「そうですね。ありがとうございます」

 今回の一件で、三人は見事レオのことを信用しきってしまったようだった。

 まさか屋敷から追い出されるなんて、微塵も思ってもいないのだろう。

 執事の目論見など知りもせず、真摯に執事の身体を気にかける三人に、レオは少しばかり罪悪感を抱く。

 だが、目的に遂行するには、むしろ都合がいい。レオは、手にしていた手帳をパタンと閉じると、その後、小さく笑みを浮かべる。

 屋敷を牛耳りさえすれば、なにかと動きやすくなる。

 それに、この屋敷を『空っぽ』にしない限り、自分の欲しいひとは、絶対に手に入らない──


「あ、そう言えば、昨日はゆっくり出来た?」
「え?」

 すると、再び冨樫に話を振られ、レオは我に返った。

 昨日は夕方まで、ルイの家にいた。
 まー、それなりにゆっくりは出来たとは思う。

「はい。お陰様で」

「もしかして、彼女さんの所に行ってたんですか!?」

「二人っきりでラブラブだったとか~」

「え?」

「いきなり、なにを聞いているんですか、あなた達は」

 興味津々にレオに詰め寄る冨樫と恵美を見て、矢野が突っ込む。

 だが、なぜいきなり、そんなプライベートな話をしなくてはならないのか?

「いえ、昨日はの家に……」

「えー、ほんとに~? なんか信じられないな~」

「そうですよ~。それに、気になってたんですが、五十嵐さんの彼女って日本人ですか? それとも外国人?」

「えーと……」

 根掘り葉掘りと、彼女について聞き出され、さすがのレオは苦笑いを浮かべた。

(マズイな……)

 このまま、あれこれ聞かれたら、いつか絶対ボロがでる。レオはそう思うと

「さぁ、どっちでしょうね?」

「「ッ!?」」

 瞬間、顔を近づけ妖しく微笑むと、その表情をみて、恵美と愛理は顔を赤くする。

 心なしか近くなった距離に、ドキッとした。

 整った顔立ちと、どこか清潔感のある香り。こんなにも美形な執事に、近い距離で見つめられば、もはや何も言えなくなってしまう。

「では、俺はこれで……そろそろお嬢様を、起こしに行く時間なので」

 すると、黙り込んだ二人から離れ、サッと話をそらしたレオは、その後、執務室からでていった。

「~~~なにあれぇぇ! イケメンの笑顔、恐るべし!」

「てか、私たち、絶対はぐらかされましたよ!?」

「あなたたち、早く仕事に移りなさい」

 まんまとレオの笑顔にあてられた恵美と冨樫。そんな二人を、矢野は呆れ顔で見つめていた。



 ✣✣✣

 そして、その後、執務室をあとにしたレオはと言うと

(……参ったな)

 結月の部屋に向かう廊下で、深くため息をついていた。

 執事として屋敷に来た当日。矢野に「お嬢様に恋心を抱くな」と忠告されたこともあり「彼女がいる」と言っておいた方が、使用人達の警戒が薄れると思っていた。

 だが、思いのほか自分の彼女について、興味を持たれてしまったようだった。

 だが、その彼女が、お嬢様だなんてバレるワケにはいかないし、なにより記憶を失ってる今『結月が彼女』だなんて言ったら、完全にヤバイやつだ。

 しかし、あれでは国籍だけではなく、いつか住んでいる場所や名前まで問いただされそうで……

(とりあえず……マジでヤバくなったら、ルイにさせて乗り切ろう)

 国籍を誤魔化したのだ。相手が、フランス人でも何とかなるだろう。

 持つべきものは、女顔の友人!

 レオはこの時初めて、ルイと友人になったことに感謝したとか?


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