43 / 289
第5章 二人だけの秘密
甘さと苦さと
しおりを挟む「ごめんね、五十嵐。結局、出してもらっちゃったわ……あと、飲み物も」
そよそよと風が吹く中、ベンチに腰掛けた結月は、レオに買ってもらった缶ジュースを飲みながら、ため息をついた。
スチール製の缶に入ったミルクティーは、近くの自販機で販売されていて、メロンパンと同じく、レオが買ってくれたものだ。
口に含めば、思いのほか冷たい、そのミルクティーは、とても甘くて、どこか優しい味がした。
「気にしなくていいですよ。それに、デートなんですから、もっと甘えてください」
結月の横に腰掛けると、レオも同じく自販機で買った缶コーヒーを開け、一口。
だが、デートと言ったその言葉に、結月は顔をしかめる。
「そのデートって言い方、何とかならないの? 五十嵐には、彼女がいるんでしょ?」
「でも、男と女が二人きりなら、それはデートになるのでは?」
「なりません! 執事とデートなんてありえません! だから、これはあくまでも、お散歩です!」
(お散歩……)
頑なに散歩といいはる結月をみて、レオは苦笑いを浮かべた。
なんだか、全く意識されてないような?
「……でなくては、彼女さんに申し訳ないわ」
だが、その後、不安げに俯く結月を見て、レオは単に、彼女に気遣っているだけなのだと分かった。
「お嬢様は、自分の彼氏が、よそでこんなことしてたら嫌ですか?」
「それは嫌よ。やっぱり好きな人には、自分だけを見てほしいと思うもの」
意外な反応を示す結月に、レオの心は、ほっこり温かくなる。そして、その姿は、あまりにも可愛らしいもので
(見てるよ、ずっと……)
──結月だけを。
そんな言葉を心の中だけで呟くと、レオは手にした缶コーヒーをまた一口、喉に流し込んだ。
どこかほろ苦いその味は、まるで今の心境を映し出すようだった。
近くて遠い、二人の関係を……
「あ! でも、私の場合は、いずれ、うちの会社を継ぐ次期社長的な人と結婚するだろうから、そんなこと言ってられないんだけどね! やっぱり、社長ともなれば、妾の一人や二人いるでしょうし」
(……悟りきってる)
だが、さすがに未来を予期しているのか、どこか諦めきった表情をする結月に、レオは、口元を引き攣らせた。
確かに、社長なら愛人くらいいても、おかしくはないだろうが……
「へー、それは、もったいないですね」
「もったいない?」
「はい。もし俺が、お嬢様と結婚したら、可愛すぎて溺愛してしまいそうです」
「な……ッ」
一人分開いていた距離が半分になり、近い距離で視線が合わさった。
真っ直ぐに見つめる瞳と、艶のある声。そして、その言葉に、身体がカッと熱くなるのを感じて、結月は慌ててレオから視線をそらす。
「じょ、冗談をいうのは、やめて」
「冗談ではありませんよ。本当に可愛いと思ってるんです」
「だから、そう言う……っ」
「あはは。それより、どうぞ。温かいうちに食べてしまいましょうか?」
からかいつつ、レオはニッコリと笑うと、その後、袋の中で半分にしたメロンパンを結月に差し出ししてきた。
結月は、赤ら顔のまま、それを袋ごと受け取ると、ミルクティーの缶をベンチに置き、恐る恐るそのメロンパンにかぶりつく。
すると、口の中にメロンパンの甘さが広がった瞬間、結月は思わず声を上げた。
「ん、美味しい……!」
もはや100円とは思えない美味しさだった。
店主の言った通り、外はサクサクで、中はふんわりと柔らかく、それでいてクリームも程よい甘さで、これなら大きくても一個ペロリと食べられそうだった。
「これ、本当に100円なの? もっと、高くてもいいんじゃないかしら?」
「生粋のお嬢様にそう言って頂けるなんて、店主が聞いたら喜びますね」
結月の反応を確かめると、レオもそのメロンパンをパクリと口にした。
二人ベンチに並んで、メロンパンを食べる。
その何気ない一時は、ただベンチに座ってパンを食べているだけなのに、不思議と心が温かくなって、結月は、ふと隣に座るレオの横顔を見つめた。
「五十嵐って、変わってるわね?」
「そうですか?」
「うん。私の言うこと全く聞かないし、冗談言ったり、からかってきたり、ハッキリ言って、何考えてるのか、よく分からないわ」
──ん?
なんか、すごい言われようなんだけど?
ていうか、それって執事としては、かなり致命的なのでは?
「ねぇ、五十嵐は、私とメロンパン食べてて、嫌じゃないの?」
「え?」
すると、結月は少し表情を暗くしたあと
「昔、お父様とお母様に言われたことがあるの……私と一緒に食事をとると、料理が不味くなるって」
3
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる