お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

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第5章 二人だけの秘密

甘さと苦さと

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「ごめんね、五十嵐。結局、出してもらっちゃったわ……あと、飲み物も」

 そよそよと風が吹く中、ベンチに腰掛けた結月は、レオに買ってもらった缶ジュースを飲みながら、ため息をついた。

 スチール製の缶に入ったミルクティーは、近くの自販機で販売されていて、メロンパンと同じく、レオが買ってくれたものだ。

 口に含めば、思いのほか冷たい、そのミルクティーは、とても甘くて、どこか優しい味がした。

「気にしなくていいですよ。それに、デートなんですから、もっと甘えてください」

 結月の横に腰掛けると、レオも同じく自販機で買った缶コーヒーを開け、一口。

 だが、デートと言ったその言葉に、結月は顔をしかめる。

「そのデートって言い方、何とかならないの? 五十嵐には、彼女がいるんでしょ?」

「でも、男と女が二人きりなら、それはデートになるのでは?」

「なりません! 執事とデートなんてありえません! だから、これはあくまでも、お散歩です!」

(お散歩……)

 頑なに散歩といいはる結月をみて、レオは苦笑いを浮かべた。

 なんだか、全く意識されてないような?

「……でなくては、彼女さんに申し訳ないわ」

 だが、その後、不安げに俯く結月を見て、レオは単に、彼女に気遣っているだけなのだと分かった。

「お嬢様は、自分の彼氏が、よそでこんなことしてたら嫌ですか?」

「それは嫌よ。やっぱり好きな人には、自分だけを見てほしいと思うもの」

 意外な反応を示す結月に、レオの心は、ほっこり温かくなる。そして、その姿は、あまりにも可愛らしいもので

(見てるよ、ずっと……)

 ──結月だけを。

 そんな言葉を心の中だけで呟くと、レオは手にした缶コーヒーをまた一口、喉に流し込んだ。

 どこかほろ苦いその味は、まるで今の心境を映し出すようだった。

 近くて遠い、二人の関係を……


「あ! でも、私の場合は、いずれ、うちの会社を継ぐ次期社長的な人と結婚するだろうから、そんなこと言ってられないんだけどね! やっぱり、社長ともなれば、めかけの一人や二人いるでしょうし」

(……悟りきってる)

 だが、さすがに未来を予期しているのか、どこか諦めきった表情をする結月に、レオは、口元を引き攣らせた。

 確かに、社長なら愛人くらいいても、おかしくはないだろうが……

「へー、それは、もったいないですね」

「もったいない?」

「はい。もし俺が、お嬢様と結婚したら、可愛すぎて溺愛してしまいそうです」

「な……ッ」

 一人分開いていた距離が半分になり、近い距離で視線が合わさった。

 真っ直ぐに見つめる瞳と、艶のある声。そして、その言葉に、身体がカッと熱くなるのを感じて、結月は慌ててレオから視線をそらす。

「じょ、冗談をいうのは、やめて」

「冗談ではありませんよ。本当に可愛いと思ってるんです」

「だから、そう言う……っ」

「あはは。それより、どうぞ。温かいうちに食べてしまいましょうか?」

 からかいつつ、レオはニッコリと笑うと、その後、袋の中で半分にしたメロンパンを結月に差し出ししてきた。

 結月は、赤ら顔のまま、それを袋ごと受け取ると、ミルクティーの缶をベンチに置き、恐る恐るそのメロンパンにかぶりつく。

 すると、口の中にメロンパンの甘さが広がった瞬間、結月は思わず声を上げた。

「ん、美味しい……!」

 もはや100円とは思えない美味しさだった。

 店主の言った通り、外はサクサクで、中はふんわりと柔らかく、それでいてクリームも程よい甘さで、これなら大きくても一個ペロリと食べられそうだった。

「これ、本当に100円なの? もっと、高くてもいいんじゃないかしら?」

「生粋のお嬢様にそう言って頂けるなんて、店主が聞いたら喜びますね」

 結月の反応を確かめると、レオもそのメロンパンをパクリと口にした。

 二人ベンチに並んで、メロンパンを食べる。

 その何気ない一時は、ただベンチに座ってパンを食べているだけなのに、不思議と心が温かくなって、結月は、ふと隣に座るレオの横顔を見つめた。

「五十嵐って、変わってるわね?」

「そうですか?」

「うん。私の言うこと全く聞かないし、冗談言ったり、からかってきたり、ハッキリ言って、何考えてるのか、よく分からないわ」

 ──ん?
 なんか、すごい言われようなんだけど?

 ていうか、それって執事としては、かなり致命的なのでは?

「ねぇ、五十嵐は、私とメロンパン食べてて、嫌じゃないの?」

「え?」

 すると、結月は少し表情を暗くしたあと

「昔、お父様とお母様に言われたことがあるの……私と一緒に食事をとると、料理が不味くなるって」
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