3 / 289
第1章 執事来訪
新しい執事
しおりを挟む「え?」
だが、その箱の中をみて、恵美は目を丸くした。
「ふふ、驚いた? この箱、空っぽなのよ?」
「え!? 空っぽって!? じゃぁ、お嬢様は、空の箱を見て、あんなに嬉しそうにしてたってことですか!?」
「あら? 私、嬉しそうだった?」
「はい、それはそれは嬉しそうに……ですから、てっきり、どなたかからのプレゼントで、中に大切の物が入っているとばかり」
そう、結月はこの箱を、とても愛おしそうに見つめていた。
それなのに、まさか中身が空っぽだなんて……
「そうよね。おかしいわよね? 空の箱をみて喜んでるなんて」
「い、いいえ! おかしいなんてことは」
「いいのよ。だって、私にも分からないの」
「わからない?」
「うん。この箱が、いつからあって、中に何が入っていたのか、全く覚えてないの。でも、不思議とこの箱を見ていると元気が出て。だから、なかなか手放せなくて」
その箱を優しく握りしめ、結月は目を閉じた。
とてもとても、大切なものだとでも言うように──
「そうなんですね」
「変な話でしょう?」
「いいえ、変ではありませんよ。しかし、いったい中には、何が入っていたのでしょう?」
「そうね。サイズ的にはアクセサリーだと思うけど? でも、改めてみたら、うちにはあまり似つかわしくない箱よね?」
「まぁ、どこでもありそうな紙製の箱ですからね。阿須加家のご令嬢へのプレゼントにしては、ちょっと。──あ、でも、物の価値は、見た目や金額ではありません! お嬢様が大切だと思うなら、それは、どんな高価な宝石よりも価値のある」
「ふふ。そうね。ありがとう、恵美さん」
拳を握り力説する恵美をみて、結月は嬉しそうに微笑む。
すると、恵美は、香り豊かなモーニングティーを差し出しながら
「お嬢様、お茶をどうぞ。お砂糖はいつも通り、二ついれてごさいます」
「ありがとう」
「それと本日、新しい執事が、この屋敷にやって参ります」
「執事?」
「はい。それも、かなりのイケメン執事さんですよ! お嬢様が、学校から戻られましたら、挨拶に伺わせますので、そのつもりでいらしてください」
「……えぇ、分かったわ」
「では、私はお召し物を、お持ちしますので」
一礼した恵美が、部屋の奥にある小部屋へと消えていく。
すると、結月は、淹れたてのモーニングティーを口にしながら
(執事ってことは、男性が増えるのね……今度は気をつけなくちゃ)
✣
✣
✣
──ピンポーン。
その後、結月が学校に行き、数時間がたった頃、屋敷の前に立った青年は、高い塀の外にあるインターフォンを鳴らしていた。
阿須加家は、この町・星ケ峯では、かなり名の通った名家だった。
広大な敷地の中に佇むのは、一軒の西洋風の建物。
ヨーロッパの洋館のような外観から、中にはアンティークの家具や食器が所せましと並んでいるような、そんな印象をうけた。
そして、この屋敷に住む一人娘・阿須加 結月の父親は、明治から続く老舗リゾートホテルの社長だった。
手を変え品を変え、今は、手広くやっているらしいが、数年前まで栄華を極めていたこの阿須加家も、少しずつ衰退し始めていると聞く。
『どうぞ、お入りください』
暫くして、インターフォン越しに声が響くと、格子状になった門が自動的に開きだした。
トランクを手に敷地の中に入る。
すると、数分進んだ先に、屋敷の玄関が見えてきた。
両開きの木製の扉だ。
そして、その玄関の前では、メイドが二人、青年を待ち構えていた。
「お待ちしておりました」
メイド長の矢野 智子が深々と頭を下げると、その隣にいた相原 恵美も同時に頭をさげた。
すると青年は柔らかく微笑み、同じように頭を下げる。
「お出迎え、ありがとうございます。本日より、この屋敷の『執事』として、お嬢様にお仕えすることになりました『五十嵐レオ』と申します」
「奥様より伺っております。私は、メイド長の矢野 智子です。この後、いくつか説明をした後、屋敷の中を案内致します。宜しいですか?」
「勿論」
矢野の指示を快く承諾すると、レオは、恵美に軽く会釈し、矢野のあとに続いた。
だが、そんなレオの後ろ姿を見つめ、恵美が頬を赤らめる。
(じ、実物は、更にイケメン……っ)
恵美は先日、矢野から、彼の履歴書を見せてもらっていた。
履歴書に添付された写真も、なかなかのイケメンだったが、実物は、それを更に凌駕していた。
少し長めに整ったサラサラの黒髪に、均整の取れた身軽そうな体躯。
身長もスラリと高く、立ち姿も、とても様になっていた。
その上、どこか甘く品のある顔立ちと、耳に心地よい声。
仕事ぶりはまだ分からないが、あの見た目なら執事特有の燕尾服も、さぞかし似合うことだろう。
(五十嵐さんて、確か、私と同い年だったよね?)
恵美はそれを思い出し、再び頬を赤くする。
レオの年齢は、恵美と同じ二十歳。
その上、まさか、あんなイケメンと一緒に、住み込みで働くとことになるなんて……!
(ひゃ~、慣れるまで大変そう~!)
恵美は、頬を赤らめつつも、自身の胸がドキドキと脈打つのを、必死になって押さえたのだった。
6
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる