お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

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第1章 執事来訪

新しい執事

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「え?」

 だが、その箱の中をみて、恵美は目を丸くした。

「ふふ、驚いた? この箱、なのよ?」

「え!? 空っぽって!? じゃぁ、お嬢様は、からの箱を見て、あんなに嬉しそうにしてたってことですか!?」

「あら? 私、嬉しそうだった?」

「はい、それはそれは嬉しそうに……ですから、てっきり、どなたかからのプレゼントで、中に大切の物が入っているとばかり」

 そう、結月はこの箱を、とても愛おしそうに見つめていた。

 それなのに、まさか中身が空っぽだなんて……

「そうよね。おかしいわよね? からの箱をみて喜んでるなんて」

「い、いいえ! おかしいなんてことは」

「いいのよ。だって、私にも分からないの」

「わからない?」

「うん。この箱が、いつからあって、中に何が入っていたのか、全く覚えてないの。でも、不思議とこの箱を見ていると元気が出て。だから、なかなか手放せなくて」

 その箱を優しく握りしめ、結月は目を閉じた。

 とてもとても、大切なものだとでも言うように──

「そうなんですね」

「変な話でしょう?」

「いいえ、変ではありませんよ。しかし、いったい中には、何が入っていたのでしょう?」

「そうね。サイズ的にはアクセサリーだと思うけど? でも、改めてみたら、うちにはあまり似つかわしくない箱よね?」

「まぁ、どこでもありそうな紙製の箱ですからね。阿須加あすか家のご令嬢へのプレゼントにしては、ちょっと。──あ、でも、物の価値は、見た目や金額ではありません! お嬢様が大切だと思うなら、それは、どんな高価な宝石よりも価値のある」

「ふふ。そうね。ありがとう、恵美さん」

 拳を握り力説する恵美をみて、結月は嬉しそうに微笑む。

 すると、恵美は、香り豊かなモーニングティーを差し出しながら

「お嬢様、お茶をどうぞ。お砂糖はいつも通り、二ついれてごさいます」

「ありがとう」

「それと本日、が、この屋敷にやって参ります」

「執事?」 

「はい。それも、かなりのイケメン執事さんですよ! お嬢様が、学校から戻られましたら、挨拶に伺わせますので、そのつもりでいらしてください」

「……えぇ、分かったわ」

「では、私はお召し物を、お持ちしますので」

 一礼した恵美が、部屋の奥にある小部屋へと消えていく。

 すると、結月は、れたてのモーニングティーを口にしながら

(執事ってことは、男性が増えるのね……今度は気をつけなくちゃ)


 
 ✣

 ✣

 ✣
 


 ──ピンポーン。

 その後、結月が学校に行き、数時間がたった頃、屋敷の前に立った青年は、高い塀の外にあるインターフォンを鳴らしていた。

 阿須加家は、この町・星ケ峯ほしがみねでは、かなり名の通った名家だった。

 広大な敷地の中にたたずむのは、一軒の西洋風の建物。

 ヨーロッパの洋館のような外観から、中にはアンティークの家具や食器が所せましと並んでいるような、そんな印象をうけた。

 そして、この屋敷に住む一人娘・阿須加 結月の父親は、明治から続く老舗リゾートホテルの社長だった。

 手を変え品を変え、今は、手広くやっているらしいが、数年前まで栄華を極めていたこの阿須加家も、少しずつ衰退し始めていると聞く。

『どうぞ、お入りください』

 暫くして、インターフォン越しに声が響くと、格子状になった門が自動的に開きだした。

 トランクを手に敷地の中に入る。

 すると、数分進んだ先に、屋敷の玄関が見えてきた。

 両開きの木製の扉だ。

 そして、その玄関の前では、メイドが二人、青年を待ち構えていた。

「お待ちしておりました」

 メイド長の矢野やの 智子ともこが深々と頭を下げると、その隣にいた相原 恵美も同時に頭をさげた。
 
 すると青年は柔らかく微笑み、同じように頭を下げる。

「お出迎え、ありがとうございます。本日より、この屋敷の『執事』として、お嬢様にお仕えすることになりました『五十嵐いがらしレオ』と申します」

「奥様より伺っております。私は、メイド長の矢野 智子です。この後、いくつか説明をした後、屋敷の中を案内致します。宜しいですか?」

「勿論」

 矢野の指示を快く承諾すると、レオは、恵美に軽く会釈し、矢野のあとに続いた。

 だが、そんなレオの後ろ姿を見つめ、恵美が頬を赤らめる。

(じ、実物は、更にイケメン……っ)

 恵美は先日、矢野から、彼の履歴書を見せてもらっていた。

 履歴書に添付された写真も、なかなかのイケメンだったが、実物は、それを更に凌駕りょうがしていた。

 少し長めに整ったサラサラの黒髪に、均整の取れた身軽そうな体躯。

 身長もスラリと高く、立ち姿も、とても様になっていた。

 その上、どこか甘く品のある顔立ちと、耳に心地よい声。

 仕事ぶりはまだ分からないが、あの見た目なら執事特有の燕尾服も、さぞかし似合うことだろう。

(五十嵐さんて、確か、私と同い年だったよね?)

 恵美はそれを思い出し、再び頬を赤くする。

 レオの年齢は、恵美と同じ二十歳。

 その上、まさか、あんなイケメンと一緒に、住み込みで働くとことになるなんて……!

(ひゃ~、慣れるまで大変そう~!)

 恵美は、頬を赤らめつつも、自身の胸がドキドキと脈打つのを、必死になって押さえたのだった。

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