44 / 63
・第四十四話「機動戦と騎兵戦の事(前編)」
しおりを挟む
「よかかお前等。今回は会戦ではなか。派手な鎧下と陣羽織と外套ば捨て、こいば着ろ。鎧も、表面ば砂で擦って輝きを消した物に泥を塗るど。会戦の時にゃちゃんとしたものば着せっ故今回はそうせい。新しい鎧の心配はせんでよかど。こんレーマリアには物資だけは売っ程あるからのう」
教帝近衛隊と執政官親衛隊の騎兵部隊、そして剣闘士部隊から馬に乗れる者達を選り出して、アルキリーレは泥と朽葉を混ぜたような色の布を突きつけそう命じた。
教帝近衛隊と執政官親衛隊は平均的な部隊と比較して騎兵の比率が高く、兵力は合計して一個大隊六百名程か。数こそ少ないが、これはレーマリアが有する軍の中では最精鋭部隊と言って良いだろう。
「泥を……?」
その命令に、騎兵達は戸惑った。騎兵は伸るか反るかの突撃に命を賭け、戦局を一変させる戦場の華で、騎兵は女に特にモテるし、華やかに着飾り磨き上げられた鎧を輝かせるものだった。
教帝近衛隊や執政官親衛隊より遙かに戦いの場数を踏んでいる剣闘士やそれを率いるアントニクスですら少々戸惑っていた。剣闘士は見られてこその商売故に。
だがアルキリーレは本気だ。大体、アルキリー自身隠密用の黒灰色の鎧を纏っていた。色こそ地味だが、アルキリーレの体にぴったりと合い、その引き締まった美しいボディラインを強調するかのような鎧。美しい金細工を施した鎧を造っていたレオルロに、追加注文してもう一領造らせたのだ。
それ故に、注文した時は……
「えーっ、鎧をもう一領!? それも汚して使うの!?」
芸術家だけに美しい鎧に拘りのあるレオルロは驚いた。というか、フルオーダーメイドの全身鎧というのは、神秘を使っても造るのに手間がかかるものなのに、という所もあったが。
チュッ。
「頼むど」
「はいやります!なんだったら三領でも!」
「二領で十分たい」
だがアルキリーレはレオルロの頬に口付けをして頼んだ。レオルロは発憤した。徹夜はいい加減にしろとアルキリーレが諭す必要がある程発憤して、鎧は完成した。
ともあれ、場面を出撃時に戻して。
「派手な鎧は、戦場での活躍と手柄ば輝かせ、名声ば得る為のものじゃ」
それは、アルキリーレにも分かる。だが。
「ヒロス・モデルトゥス」
「は、はい!?」
アルキリーレは人の名を呼んだ。それは教帝近衛隊に所属する騎兵の名前だった。急に名を呼ばれた彫りの深い男は目を白黒させる。
「ポルトス・マクシムス」
「お、俺!?」
続いて、執政官親衛隊の騎兵である、レーマリア人としては珍しくごつくて大柄な男が名をばれた。
「ゴンサロ・コルサロ」
「お、おう!?」
続いてレーマリア風でない名前は呼ばれたのは西馳人の剣闘士だ。西馳では支配階級以外馬に乗れないので一応上流階級出身だが、剣闘士をやっている経緯を聞けば、上流階級といっても上の下どころか上の下の下、貧乏騎士で、収入は中流並みだが出費は上流並、体面と貧乏と誇りに引き裂かれてこんな所までやってきたと言う。
「お主達の名は皆知っちょっ。お主達が手柄も活躍も、皆俺が見っど。俺が知いど。俺が称えさすど。俺がお前達と共に突撃すっでな。派手な出で立ちをしなくても、俺は見ちょっど。前後左右をしかと掌握出来んようでは北摩の深け森での野戦は生き残れんからな。故に華美な装いは今は不要じゃ。よかな?」
「「「「「「はい!!!!!!」」」」」」
教帝親衛隊や執政官親衛隊からすれば自分達をしごきにしごいた鬼教官、剣闘士からすれば自分達をギタギタにぶちのめした恐るべき戦士。
それだ、一兵卒に至るまで名を覚えている。これは強烈に騎兵達の心を掴んだ。既によく従うよう訓練されていたが、それ以上に強い戦意が燃え上がる。
「よか! 行くど、敵の騎兵ば狩る!」
そんな騎兵達に、アルキリーレは宣言した。
「収穫が足りない。足を伸ばす前にもう少し漁るぞ、次の村へ向かう」
僧侶将軍シディナン師は、東吼第一軍の騎兵部隊の半数たる軽騎兵部隊三千五百を率いて、各地を略奪して回っていた。正確に言えば内五百は小分けにして各地の偵察に出している為この場には三千。仮面の将軍に率いられる角付兜に毛皮外套を羽織った軽騎兵を率いる様は、さながら災厄の化身のようであった。事実、各地の村々を襲い、兵糧を略奪して回っているのだから、災厄そのものであった。
僧侶でありながら何て事してやがると言いたくなるが、天教の神秘による兵や家畜の統率能力を持つシディナンだからこそ、東吼軍の中でも一際野蛮で放っておけば統率の取れた軍事行動では無く欲望の赴くままに振る舞いかねない軽騎兵を効率的に動かせるのだ。寧ろそれを専門の仕事としている為に、恨まれる事を前提に復讐を避けるた為に仮面をつけているのだ。シディナンという名も偽名の、汚れ屋仕事である。
「羊共め、大人しく毛を刈られる事も出来んのか」
軽騎兵を率いて新しい村を目指して馬を進め、征服する事で天教に基づく正しい上下関係をもたらしてやるのだ、と汚れ屋仕事を寧ろ正しく誇りある事と思いながら、シディナンは弱いレーマリア人を羊に例え吐き捨てた。
シディナンに与えられた任務は二つ。一つは物資の略奪による自活を行う事での兵糧の節約。そして本命のもう一つは、戦略的な奇襲と言うべき機動戦闘である。
即ち、大きく回り込み、第一軍を迎撃しに出てくるであろうレーマリア軍の後方を遮断し襲いかかる事である。
東吼軍は、今度こそ完全にレーマリアを征服するつもりでいる。前の戦争で、レーマリア軍が恐ろしく弱体である事は知れ渡っていた。あの時は第一軍だけで西東吼の駐屯軍を撃破し、更にレーマリア第三正規軍団と幾つかの地方軍団を撃破出来た。
だがレーマリア軍は簡単に負けるが中々滅ばない。物凄く弱いが兵士は死ぬより先に物凄い勢いで逃げ出す為だ。第三正規軍団が半減したのは兵士達がもう兵士はこりごりだ! と田舎に逃げた為だ。故に逃げ出させない為に後方を遮断する。
楽な戦だと認識していたし、シディナンの上役にあたる第一軍を率いる筆頭将軍ガルジュンは、第一軍でレーマリア軍を倒してみせると考えていた。
何となれば、第二軍、第三軍には別の戦う相手があるからである。それは、各地を守っている地方軍団達だ。
レーマリアと東吼、彼我の兵力差には、実はトリックが存在する。それはレーマリア側の兵数が〈野戦に投入できる戦力〉である事だ。それ以外に数に入れられていない、各地を守って動かない地方軍団がいる。数はそれなりに。だが、故郷以外の地で戦わせるとすぐ逃げ出す弱兵、戦力として勘定するには微妙な存在として。
故にアルキリーレの命令で、はなから自分達の街を守る時以外戦意が薄く野戦に連れ出しても戦力的にあてにならない地方軍団には、正規軍団と合流して野戦をするのではなく、それぞれに防衛戦を行わせていた。
だが、その防衛戦というものが前回とは違っていた。それぞれの地方領土全てを守ろうとするのではなく、領民を連れ持てる限りの物資を以て、最寄で一番強固な拠点に立て籠もるのだ。長期の籠城に耐える程の兵糧を、国家から分け与えられて。
北摩では戦時平時問わず略奪が盛んな為それへの対策を知っていたアルキリーレの指示だ。とはいえ北摩ではもっと物資が逼迫し住民が不満を貯めるのだが、レーマリアでは民衆が従順に従う範囲で済んでいた。それはカエストゥスの仁政の結果であり、物資的には恐ろしく潤沢なレーマリアならではだ。
更に、海戦で地方艦隊が奮戦したように、東吼に考え無しに降伏する事が如何に拙い事態を招くかをチェレンティが触れ回った結果、籠城はかなり頑固に行われていた。第二軍と第三軍が攻撃しても短時間では陥落しない程には。
自分達の街を守る為以外の理由で戦う時は腰抜けの地方軍団だが、故郷を守る時くらいは結構頑張れるのだ、降伏する事を考えなければ。鍵をかけ忘れたり夜中に見張りも立てずに寝呆けたりするなも、ちゃんと伝えた。
「だが、野戦軍が崩れれば士気も崩壊し、雪崩を打って屈するだろう」
故に、どうにも略奪が進まない。持って行けなかった分の物資は回収できたが。しかしそれも、一勝すれば崩せる薄氷の持久に過ぎぬと、シディナンだけでなく東吼軍全体が考えていた。そして、捕捉さえすれば確実に勝てると。
……この手の後方に回り込む機動は、東吼が遊牧民だった頃からの得意の手段だ。だがそれは、だだっ広い平原が何処までも続く東吼で育まれた戦術で、東吼や近い環境であるサバンナや砂漠の多い西南黒や北南黒でこそ最大の効果を発揮する手だ。
だがレーマリアには丘もあれば森もある。加えて、山と森の深い北摩出身のアルキリーレの騎兵戦は、東吼の戦略機動とは全く違う答えを出した。即ち、戦術奇襲。戦術で戦略を凌駕するという常識の転倒。
「むっ……!?」
「穿ち抜けェォオオオオオオァッ!!」
即ち直後、仮面の奥でシディナンが目を細めるのと同時。軽騎兵隊が近づいた村に近い丘の横にある森から、爆発するが如き勢いと、凄まじいアルキリーレの叫びと共に彼女が率いるレーマリア騎兵隊が襲いかかった!
「敵襲!(だが何故ここまで的確な!?)」
奇襲だ。シディナンは理解する。だがどうやってだ。こちらの偵察はレーマリア軍主力の位置を把握している。どうやってそれを掻い潜った? そしてどうやって此方の位置を正確に捕捉した? 疑問を感じながらも即座にシディナンは配下に叫んだ。
ここに第二次レーマリア・東吼戦争の最初の騎兵戦が始まった。
教帝近衛隊と執政官親衛隊の騎兵部隊、そして剣闘士部隊から馬に乗れる者達を選り出して、アルキリーレは泥と朽葉を混ぜたような色の布を突きつけそう命じた。
教帝近衛隊と執政官親衛隊は平均的な部隊と比較して騎兵の比率が高く、兵力は合計して一個大隊六百名程か。数こそ少ないが、これはレーマリアが有する軍の中では最精鋭部隊と言って良いだろう。
「泥を……?」
その命令に、騎兵達は戸惑った。騎兵は伸るか反るかの突撃に命を賭け、戦局を一変させる戦場の華で、騎兵は女に特にモテるし、華やかに着飾り磨き上げられた鎧を輝かせるものだった。
教帝近衛隊や執政官親衛隊より遙かに戦いの場数を踏んでいる剣闘士やそれを率いるアントニクスですら少々戸惑っていた。剣闘士は見られてこその商売故に。
だがアルキリーレは本気だ。大体、アルキリー自身隠密用の黒灰色の鎧を纏っていた。色こそ地味だが、アルキリーレの体にぴったりと合い、その引き締まった美しいボディラインを強調するかのような鎧。美しい金細工を施した鎧を造っていたレオルロに、追加注文してもう一領造らせたのだ。
それ故に、注文した時は……
「えーっ、鎧をもう一領!? それも汚して使うの!?」
芸術家だけに美しい鎧に拘りのあるレオルロは驚いた。というか、フルオーダーメイドの全身鎧というのは、神秘を使っても造るのに手間がかかるものなのに、という所もあったが。
チュッ。
「頼むど」
「はいやります!なんだったら三領でも!」
「二領で十分たい」
だがアルキリーレはレオルロの頬に口付けをして頼んだ。レオルロは発憤した。徹夜はいい加減にしろとアルキリーレが諭す必要がある程発憤して、鎧は完成した。
ともあれ、場面を出撃時に戻して。
「派手な鎧は、戦場での活躍と手柄ば輝かせ、名声ば得る為のものじゃ」
それは、アルキリーレにも分かる。だが。
「ヒロス・モデルトゥス」
「は、はい!?」
アルキリーレは人の名を呼んだ。それは教帝近衛隊に所属する騎兵の名前だった。急に名を呼ばれた彫りの深い男は目を白黒させる。
「ポルトス・マクシムス」
「お、俺!?」
続いて、執政官親衛隊の騎兵である、レーマリア人としては珍しくごつくて大柄な男が名をばれた。
「ゴンサロ・コルサロ」
「お、おう!?」
続いてレーマリア風でない名前は呼ばれたのは西馳人の剣闘士だ。西馳では支配階級以外馬に乗れないので一応上流階級出身だが、剣闘士をやっている経緯を聞けば、上流階級といっても上の下どころか上の下の下、貧乏騎士で、収入は中流並みだが出費は上流並、体面と貧乏と誇りに引き裂かれてこんな所までやってきたと言う。
「お主達の名は皆知っちょっ。お主達が手柄も活躍も、皆俺が見っど。俺が知いど。俺が称えさすど。俺がお前達と共に突撃すっでな。派手な出で立ちをしなくても、俺は見ちょっど。前後左右をしかと掌握出来んようでは北摩の深け森での野戦は生き残れんからな。故に華美な装いは今は不要じゃ。よかな?」
「「「「「「はい!!!!!!」」」」」」
教帝親衛隊や執政官親衛隊からすれば自分達をしごきにしごいた鬼教官、剣闘士からすれば自分達をギタギタにぶちのめした恐るべき戦士。
それだ、一兵卒に至るまで名を覚えている。これは強烈に騎兵達の心を掴んだ。既によく従うよう訓練されていたが、それ以上に強い戦意が燃え上がる。
「よか! 行くど、敵の騎兵ば狩る!」
そんな騎兵達に、アルキリーレは宣言した。
「収穫が足りない。足を伸ばす前にもう少し漁るぞ、次の村へ向かう」
僧侶将軍シディナン師は、東吼第一軍の騎兵部隊の半数たる軽騎兵部隊三千五百を率いて、各地を略奪して回っていた。正確に言えば内五百は小分けにして各地の偵察に出している為この場には三千。仮面の将軍に率いられる角付兜に毛皮外套を羽織った軽騎兵を率いる様は、さながら災厄の化身のようであった。事実、各地の村々を襲い、兵糧を略奪して回っているのだから、災厄そのものであった。
僧侶でありながら何て事してやがると言いたくなるが、天教の神秘による兵や家畜の統率能力を持つシディナンだからこそ、東吼軍の中でも一際野蛮で放っておけば統率の取れた軍事行動では無く欲望の赴くままに振る舞いかねない軽騎兵を効率的に動かせるのだ。寧ろそれを専門の仕事としている為に、恨まれる事を前提に復讐を避けるた為に仮面をつけているのだ。シディナンという名も偽名の、汚れ屋仕事である。
「羊共め、大人しく毛を刈られる事も出来んのか」
軽騎兵を率いて新しい村を目指して馬を進め、征服する事で天教に基づく正しい上下関係をもたらしてやるのだ、と汚れ屋仕事を寧ろ正しく誇りある事と思いながら、シディナンは弱いレーマリア人を羊に例え吐き捨てた。
シディナンに与えられた任務は二つ。一つは物資の略奪による自活を行う事での兵糧の節約。そして本命のもう一つは、戦略的な奇襲と言うべき機動戦闘である。
即ち、大きく回り込み、第一軍を迎撃しに出てくるであろうレーマリア軍の後方を遮断し襲いかかる事である。
東吼軍は、今度こそ完全にレーマリアを征服するつもりでいる。前の戦争で、レーマリア軍が恐ろしく弱体である事は知れ渡っていた。あの時は第一軍だけで西東吼の駐屯軍を撃破し、更にレーマリア第三正規軍団と幾つかの地方軍団を撃破出来た。
だがレーマリア軍は簡単に負けるが中々滅ばない。物凄く弱いが兵士は死ぬより先に物凄い勢いで逃げ出す為だ。第三正規軍団が半減したのは兵士達がもう兵士はこりごりだ! と田舎に逃げた為だ。故に逃げ出させない為に後方を遮断する。
楽な戦だと認識していたし、シディナンの上役にあたる第一軍を率いる筆頭将軍ガルジュンは、第一軍でレーマリア軍を倒してみせると考えていた。
何となれば、第二軍、第三軍には別の戦う相手があるからである。それは、各地を守っている地方軍団達だ。
レーマリアと東吼、彼我の兵力差には、実はトリックが存在する。それはレーマリア側の兵数が〈野戦に投入できる戦力〉である事だ。それ以外に数に入れられていない、各地を守って動かない地方軍団がいる。数はそれなりに。だが、故郷以外の地で戦わせるとすぐ逃げ出す弱兵、戦力として勘定するには微妙な存在として。
故にアルキリーレの命令で、はなから自分達の街を守る時以外戦意が薄く野戦に連れ出しても戦力的にあてにならない地方軍団には、正規軍団と合流して野戦をするのではなく、それぞれに防衛戦を行わせていた。
だが、その防衛戦というものが前回とは違っていた。それぞれの地方領土全てを守ろうとするのではなく、領民を連れ持てる限りの物資を以て、最寄で一番強固な拠点に立て籠もるのだ。長期の籠城に耐える程の兵糧を、国家から分け与えられて。
北摩では戦時平時問わず略奪が盛んな為それへの対策を知っていたアルキリーレの指示だ。とはいえ北摩ではもっと物資が逼迫し住民が不満を貯めるのだが、レーマリアでは民衆が従順に従う範囲で済んでいた。それはカエストゥスの仁政の結果であり、物資的には恐ろしく潤沢なレーマリアならではだ。
更に、海戦で地方艦隊が奮戦したように、東吼に考え無しに降伏する事が如何に拙い事態を招くかをチェレンティが触れ回った結果、籠城はかなり頑固に行われていた。第二軍と第三軍が攻撃しても短時間では陥落しない程には。
自分達の街を守る為以外の理由で戦う時は腰抜けの地方軍団だが、故郷を守る時くらいは結構頑張れるのだ、降伏する事を考えなければ。鍵をかけ忘れたり夜中に見張りも立てずに寝呆けたりするなも、ちゃんと伝えた。
「だが、野戦軍が崩れれば士気も崩壊し、雪崩を打って屈するだろう」
故に、どうにも略奪が進まない。持って行けなかった分の物資は回収できたが。しかしそれも、一勝すれば崩せる薄氷の持久に過ぎぬと、シディナンだけでなく東吼軍全体が考えていた。そして、捕捉さえすれば確実に勝てると。
……この手の後方に回り込む機動は、東吼が遊牧民だった頃からの得意の手段だ。だがそれは、だだっ広い平原が何処までも続く東吼で育まれた戦術で、東吼や近い環境であるサバンナや砂漠の多い西南黒や北南黒でこそ最大の効果を発揮する手だ。
だがレーマリアには丘もあれば森もある。加えて、山と森の深い北摩出身のアルキリーレの騎兵戦は、東吼の戦略機動とは全く違う答えを出した。即ち、戦術奇襲。戦術で戦略を凌駕するという常識の転倒。
「むっ……!?」
「穿ち抜けェォオオオオオオァッ!!」
即ち直後、仮面の奥でシディナンが目を細めるのと同時。軽騎兵隊が近づいた村に近い丘の横にある森から、爆発するが如き勢いと、凄まじいアルキリーレの叫びと共に彼女が率いるレーマリア騎兵隊が襲いかかった!
「敵襲!(だが何故ここまで的確な!?)」
奇襲だ。シディナンは理解する。だがどうやってだ。こちらの偵察はレーマリア軍主力の位置を把握している。どうやってそれを掻い潜った? そしてどうやって此方の位置を正確に捕捉した? 疑問を感じながらも即座にシディナンは配下に叫んだ。
ここに第二次レーマリア・東吼戦争の最初の騎兵戦が始まった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
悪役令嬢には、まだ早い!!
皐月うしこ
ファンタジー
【完結】四人の攻略対象により、悲運な未来を辿る予定の悪役令嬢が生きる世界。乙女ゲーム『エリスクローズ』の世界に転生したのは、まさかのオタクなヤクザだった!?
「繁栄の血族」と称された由緒あるマトラコフ伯爵家。魔女エリスが魔法を授けてから1952年。魔法は「パク」と呼ばれる鉱石を介して生活に根付き、飛躍的に文化や文明を発展させてきた。これは、そんな異世界で、オタクなヤクザではなく、数奇な人生を送る羽目になるひとりの少女の物語である。
※小説家になろう様でも同時連載中
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
悪役令嬢が死んだ後
ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。
被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢
男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。
公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。
殺害理由はなんなのか?
視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は?
*一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる