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・第二十一話「捜査大いに進み執政官と蛮姫黒幕を見定める事」
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「これ程の勢いで威迫者の捜査が進むのは初めてではないかな? 流石だよアルキリーレ」
執政官としての元老院議事堂に設えられた執務室で、衛士から上がった報告書類を纏め、カエストゥスは心底感心した。今や留置所と牢獄が悲鳴を上げそうな程だ。今までの如何なる威迫者対策でもこれだけの成果は上げられなかったと言ってもいい。
……それはある意味では情けない事でもあるが、今正にその情けない過去が払拭されているのだ。アルキリーレの実力と、彼女を適切に働かせたカエストゥスの手腕によって。
「お主も中々どうして大したもんたい。流石執政官殿は大した知恵者にごつ」
アルキリーレもまたカエストゥスの行いに感心しにやりと笑った。
カエストゥスも、〈お前にはお前しか出来ん事もあっで〉というアルキリーレの助言を受けて、衛士たちに協力し成果を上げていた。執政官親衛隊が関わった事件では自ら逮捕した者達を問い質し、その普段は女を口説く事と元老院での演説に使われる口の上手さを十全に用いて、誘導尋問から証言の矛盾指摘、嘘の見破りやハッタリ、司法取引まで舌が三枚以上あるかのような華麗な弁舌で犯人から情報を引き出していたのだ。仲間を売らせたり情報を吐かせたりした結果アルキリーレが殴り込むまでもなく捜査の手が及んで逮捕された例もどんどんと増え始めている程だ。
「ふふ、君に褒められるのはめったにない事だね……」
「可愛いのう。まあ、俺の最初の考げと比べても効率は悪るないどころかいいかもしれん。有難い事じゃ」
「……」
珍しく褒められて、正直凄く嬉しい。どんな相手を口説き落としたよりもこの一言の達成感の方が大きいと内心欣喜雀躍したい所を大人の男なんだからと頑張って押さえつけ洒脱な返事に留めるが口角がどうしても上がり頬が上気するカエストゥスだけど、アルキリーレにはそんな内心はお見通しだったようで。
からかうように笑われてちょっと恥ずかしく思い落ち着くカエストゥス。あとその後の発言で、落ち着いて考えればカエストゥスの適切な抑制がなければ現実には逮捕されたこいつら全員挽肉みたいな死体を晒していたという事も改めて思い出されて、少々肝が冷えて頭も冷静になる。
「で、じゃ。肝心の情報じゃが」
「……(おお、これ程の美を間近で見られる事は、金銀の報酬に勝るな)」
だがすぐ冷静さが飛ぶ。アルキリーレも書類を覗き込んだのだ。この女、色々無頓着なせいか距離感が近い。男同士くらいの距離感を出してくる。レーマリア女と違い化粧の習慣はないようだが、それでも尚凄まじい美しさだ。執政官親衛隊では彼女を勝利の天使と崇拝する者すら出始めているというのも納得だが、例え己の親衛隊とはいえ絶対渡したくないという我欲がムラムラと湧いてくる。
(あれ? 故郷で男装してた時こんな距離感だったので大丈夫だったんだろうか?)
故郷で最終的にばれてしまったとはいえは流石にそこらへん用心してなかった筈が無いと思い、という事は、実は私は凄く気を許されているのではないか!? と、内心浮かれまくるカエストゥスだったが。
「……おい! こら! 話ば聞いちょっとか!?」
「す、すまん君に見とれてた!」
「馬鹿!」
アルキリーレが書類を見ながら言っていたあれこれを夢中になって聞き逃ししかも勢いでアルキリーレに見とれていた事まで白状してしまい怒られた。流石に反省するカエストゥスだ。
「まあよか。兎に角、威迫者の捜査が進んじゃらんかった理由も、お前ば暗殺せんとした例の貴族のせいぞ。こや、かなりの謀略家、陰謀家、策士じゃ」
「仮面の御方、か」
報告書に改めて真剣に向き合う。明らかになった情報の中で大事なのはこれだ。正体を隠し、威迫者の組織の一つにいつの間にか絡んでいて、短期間で金をうまく使い主君と臣下の関係に持ち込み、そこから幾つかあった組織を金で抱き込んだり裏稼業の商売で上回り相手への資金の流れを断ったり醜聞を暴いたり時に相手を通報したり表裏様々の手を用い一大犯罪帝国を作り上げた者がいる。威迫者達に仮面の御方と呼ばれる、正体不明の存在。
「こしこん手並んがあるなら、俺の方が優れている、俺が国ん頂点に立っべきぞ、ち思も理由にもなるか。……どけでもいるもんじゃ、自分ん方が上手くやいがなっと思ている奴ちゅうものはな」
己を追い落とそうとした奴等を思い出してか、やや獰猛な気を帯びた後。
「さて、ここからもまた、お主にしか出来ん事、じゃ」
アルキリーレは問う。視点が違うからこそ見えるものがあると。
「衛士にも威迫者にも分からんが、お主には分かる筈じゃ。お主にそげな感情を向くっじゃろ、こげな事の出来っ貴族は誰じゃ」
「…………」
衛士も威迫者も元老院内部や貴族社会を肌身で知ってはいない。肌身で知っている者だからこそ分かる事がある筈だと。それに対して長い思考の沈黙の後、カエストゥスは答えた。仮面の御方の正体と思しき男の名を。
「……チェレンティ・ボルゾ」
執政官としての元老院議事堂に設えられた執務室で、衛士から上がった報告書類を纏め、カエストゥスは心底感心した。今や留置所と牢獄が悲鳴を上げそうな程だ。今までの如何なる威迫者対策でもこれだけの成果は上げられなかったと言ってもいい。
……それはある意味では情けない事でもあるが、今正にその情けない過去が払拭されているのだ。アルキリーレの実力と、彼女を適切に働かせたカエストゥスの手腕によって。
「お主も中々どうして大したもんたい。流石執政官殿は大した知恵者にごつ」
アルキリーレもまたカエストゥスの行いに感心しにやりと笑った。
カエストゥスも、〈お前にはお前しか出来ん事もあっで〉というアルキリーレの助言を受けて、衛士たちに協力し成果を上げていた。執政官親衛隊が関わった事件では自ら逮捕した者達を問い質し、その普段は女を口説く事と元老院での演説に使われる口の上手さを十全に用いて、誘導尋問から証言の矛盾指摘、嘘の見破りやハッタリ、司法取引まで舌が三枚以上あるかのような華麗な弁舌で犯人から情報を引き出していたのだ。仲間を売らせたり情報を吐かせたりした結果アルキリーレが殴り込むまでもなく捜査の手が及んで逮捕された例もどんどんと増え始めている程だ。
「ふふ、君に褒められるのはめったにない事だね……」
「可愛いのう。まあ、俺の最初の考げと比べても効率は悪るないどころかいいかもしれん。有難い事じゃ」
「……」
珍しく褒められて、正直凄く嬉しい。どんな相手を口説き落としたよりもこの一言の達成感の方が大きいと内心欣喜雀躍したい所を大人の男なんだからと頑張って押さえつけ洒脱な返事に留めるが口角がどうしても上がり頬が上気するカエストゥスだけど、アルキリーレにはそんな内心はお見通しだったようで。
からかうように笑われてちょっと恥ずかしく思い落ち着くカエストゥス。あとその後の発言で、落ち着いて考えればカエストゥスの適切な抑制がなければ現実には逮捕されたこいつら全員挽肉みたいな死体を晒していたという事も改めて思い出されて、少々肝が冷えて頭も冷静になる。
「で、じゃ。肝心の情報じゃが」
「……(おお、これ程の美を間近で見られる事は、金銀の報酬に勝るな)」
だがすぐ冷静さが飛ぶ。アルキリーレも書類を覗き込んだのだ。この女、色々無頓着なせいか距離感が近い。男同士くらいの距離感を出してくる。レーマリア女と違い化粧の習慣はないようだが、それでも尚凄まじい美しさだ。執政官親衛隊では彼女を勝利の天使と崇拝する者すら出始めているというのも納得だが、例え己の親衛隊とはいえ絶対渡したくないという我欲がムラムラと湧いてくる。
(あれ? 故郷で男装してた時こんな距離感だったので大丈夫だったんだろうか?)
故郷で最終的にばれてしまったとはいえは流石にそこらへん用心してなかった筈が無いと思い、という事は、実は私は凄く気を許されているのではないか!? と、内心浮かれまくるカエストゥスだったが。
「……おい! こら! 話ば聞いちょっとか!?」
「す、すまん君に見とれてた!」
「馬鹿!」
アルキリーレが書類を見ながら言っていたあれこれを夢中になって聞き逃ししかも勢いでアルキリーレに見とれていた事まで白状してしまい怒られた。流石に反省するカエストゥスだ。
「まあよか。兎に角、威迫者の捜査が進んじゃらんかった理由も、お前ば暗殺せんとした例の貴族のせいぞ。こや、かなりの謀略家、陰謀家、策士じゃ」
「仮面の御方、か」
報告書に改めて真剣に向き合う。明らかになった情報の中で大事なのはこれだ。正体を隠し、威迫者の組織の一つにいつの間にか絡んでいて、短期間で金をうまく使い主君と臣下の関係に持ち込み、そこから幾つかあった組織を金で抱き込んだり裏稼業の商売で上回り相手への資金の流れを断ったり醜聞を暴いたり時に相手を通報したり表裏様々の手を用い一大犯罪帝国を作り上げた者がいる。威迫者達に仮面の御方と呼ばれる、正体不明の存在。
「こしこん手並んがあるなら、俺の方が優れている、俺が国ん頂点に立っべきぞ、ち思も理由にもなるか。……どけでもいるもんじゃ、自分ん方が上手くやいがなっと思ている奴ちゅうものはな」
己を追い落とそうとした奴等を思い出してか、やや獰猛な気を帯びた後。
「さて、ここからもまた、お主にしか出来ん事、じゃ」
アルキリーレは問う。視点が違うからこそ見えるものがあると。
「衛士にも威迫者にも分からんが、お主には分かる筈じゃ。お主にそげな感情を向くっじゃろ、こげな事の出来っ貴族は誰じゃ」
「…………」
衛士も威迫者も元老院内部や貴族社会を肌身で知ってはいない。肌身で知っている者だからこそ分かる事がある筈だと。それに対して長い思考の沈黙の後、カエストゥスは答えた。仮面の御方の正体と思しき男の名を。
「……チェレンティ・ボルゾ」
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