ドリムリーパー

博元 裕央

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・第二話「承夢」

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 いつからか、私は列車の来ない錆びた線路の横を歩いていた。カンカンの日差し、高く雲一つ無い青空。蝉の鳴く声。夏だ。暑い。

 線路の左右には、木造の壁、赤い瓦屋根の古い民家が沢山だ。

 左手のほうが民家の数は多く、遠くを見れば丘になっている。

 右手のほうが民家の数は少なく、その向こうには海岸線が見えた。

 先は果ても無く、後ろも果ても無い。

 あっ、と、そして私は気づいた。

 大変だ。服を着るのを忘れてきた。私は今、裸だ!

 恥ずかしい!慌てて身を隠そうとした。使えるのは鞄しかなかった。とりあえず、隠さなければいけない所は隠せた。

 これで何とか誤魔化せればいいのだが。常識的に考えて誤魔化せる筈がないだろう、とは、何故か思わなかった。

 大慌てで、しかし恥ずかしくてちょこまかと小股で歩く。暑くて人通りがないのが幸いだ。

 行く手に、線路に覆い被さるような構造の、表面の白いペンキが古くなってひび割れ剥がれかけた、やはり赤い屋根を持つ放棄された駅舎があった。

 慌てて中に入って隠れる。ふう、危ないところだった。

 細長い駅舎の中を歩きながら、硝子窓の外を見た。

 ひいっ!?

 思わず私は叫んでいた。そこには化け物がいたのだ。黒い瞳孔のある黄色い単眼、緑の毛、赤い鱗、ひび割れた褐色の肌。昔何かのTV番組に出てきた丸い体型のクリーチャーに似ているようなそれに何かが混ざったような何かを、蛇のように長く引き伸ばしたような巨大怪獣。

 だがテレビの中にいるのではない、薄い硝子の窓越しだ。凄く近く、凄く大きい。海から這い出してきた。

 ばぎばぎばぎ!と、駅舎が壊される中、壊れていく駅舎の中を必死に歩いた。ああああああ!と、叫びながら。鞄が手放せなかったから、走れなかった。

 追い付かれ、怪物と目があった。

 もうダメだ。

「COCKADOOOLEDOOOOO!!!」

 そう高く叫びながら、怪獣の横面に女が飛びかかり、鳥の骨を組み合わせて作った大きな鎌で殴り飛ばした。虹色の髪と目を持つ、時計を纏う女。そうとしか言えない人だった。その人は言った。ドリムリーパーというのだと、夢だから何故か分かった。

「いいから裸で走りなさいっ!!」
「はっはいっ!!」

 叫んで答えた瞬間目が覚めた。昨日、色々と面子に関してくよくよと悩んでいたのが、なんだかすっきりした気分だった。 
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