人脳機兵バイドロン対英勇閃奏Vリーナ対破戒神魔ゴッデビロン

博元 裕央

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・中巻「英勇閃奏Vリーナ対破戒神魔ゴッデビロン」

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 GWASSSAAAANN!
 ZZZZZZZZZ!

「くうっ……!」

 強烈な一撃を受け止めて、Vリーナはガードした腕の装甲を軋ませながら反動で荒れた大地を砂煙立てて後退した。パイロットであるツァレヴィチの表情には、焦燥と不安と、それでも尚挑もうとする戦意。

「はじめましてと、一応挨拶が必要か?Vリーナのパイロット、ツァレヴィチを名乗る者よ。……少なくともこの場においては初めてなのだからな、たとえお互いに見覚えと既視感があろうとも」

 それと対峙するのは、奇妙な事を言う巨大で剛健なシルエット、ゴッデビロン……だけではない。

 天に座す巨大な鬼面要塞から現れた何体もの大小様々な巨大ロボット達が、あるものはビルの残骸の上に腕を組んで達、あるものは高速道路の残骸の上に座り、あるものは空中に浮かび、あるものは荒れ果てた大地の上で……Vリーナを取り囲み、値踏みするようにそれぞれの機体のアイカメラを向けている。

「いいや、構わないよ……そう水くさくしないでもらいたいな。いつか、会いに行くつもりだったんだ。ああそうさ、初めて会う気持ちがしない、君が気になって仕方がない。君に問いただしたい事もある……最も、そうそう答えてもらえる感じじゃないけど。いずれにせよ、やりあうのはこの世界を助け終わってからにしたかった……僕たちの勝敗に僕の命以外の何かがかかる状況は嫌だったんだけど。ねえ、どうしても、この世界で戦わなきゃダメかい?」

 そして奇妙で謎めいたゴッデビロンからの発言に、委細承知といった様子でツァレヴィチは答えたではないか。

「な、何、あれ……何なの、あれ!?」
「……流石に短時間で上手に説明するのは難しいな」

 Vリーナの姿を写し出す不可思議なTVを誂えられた避難所で、人脳機兵バイドロンのパイロットをさせられていた少年少女達が、TVの前で騒いだ。それにたいしてツァレヴィチはそう呟き、それによってこのTVが双方向である事を少年少女は確信した。

「だ、大丈夫!? 沢山、敵が!?」
「……頑張る!」

 まだ半信半疑だった勝利と救済に、突如和って入った、Vリーナと同格と見える巨大ロボットの軍団。状況を理解しきれないまま慌て問う子供達に、ツァレヴィチはそう必死に誠実に答えた。

「っくっくっくっ……必ず勝つ、とは、答えてやらんのか? ……XAXAXA……魔法のスーパーロボットともあろうものが、情けない事よ」

 そのツァレヴィチの態度を、ゴッデビロンは嘲笑った。くぐもった笑いと、雑音のような音を奇妙に織り混ぜながら。

「どうせすぐ戦うつもりだろうから、最後に改めて、聞くよ。どうしてこんな小さな世界まで滅ぼそうとする!」
「全てを滅ぼす為だ。全てを。ここも、その全ての一部に過ぎん。あのゴミのようなメカと子供も、お前もな。お前が世界を救う事自体、目障りだ。ここで終わりだ、逃がす訳にはいかん」

 その嘲笑を受け止めながら、せめてという風に気忙しく問うツァレヴィチ。やはり両者には何かの縁があるのか。そしてそれにゴッデビロンはやはりツァレヴィチが危惧したように問答無用の様子で答え。

「バッドエンドを」

 指差し、ゴッデビロンが告げる。それを合図に、ゴッデビロンが率いる巨大ロボット達が、一斉にVリーナに襲いかかった。


 戦いが始まった。

「オオオオオオッ!」

 最初に襲いかかったのは、月を象った飾りをつけたロボットだ。月形装飾の輝く部分が光を放ち、Vリーナの周囲を塗りつぶすように逃がさず焼き尽くし粉砕する……

 その一瞬前にVリーナは跳躍していた。空中で炎の羽を最小限に吹かし、身を翻して急速落下、

 するその左右を挟む様に襲いかかるのは、羽を生やし大砲と大剣を振りかざす機体と、大仰な飛行ユニットを機体に取り付けた重厚な機体がしかしその見た目に反する高速で猛追。

「っやめろっ!」

 奇妙な事に本来ならVリーナと同じく綺麗な色をしていただろう機体表面が焼け焦げている重厚な機体を、Vリーナは弓で撃ち抜く。だがもう一方への対処が間に合わず、羽根付きの機体の大剣がVリーナの腕に食い込んだ。

「くっ……!」

 大剣の刃が光り輝き、その腕を両断せんとする。

 それに最初からダメージを覚悟していたツァレヴィチは反対の手で相手の腕を掴んでそれ以上刃が食い込まないようにすると落下を継続。

「ごめんっ!」

 そのままVリーナの全体重を乗せて相手機体を月の機体の頭部に叩きつけた!月の機体の頭に突き刺さったと羽根付きの機体の弾薬がそれにより誘爆した結果、Vリーナが身を捻って着地した直後、月の巨大ロボットと諸共に爆発!

 ZDOM!ZDOM!ZUN!

「く、分かってるよ、まだまだだよね!」

 しかしそこに降り注ぐのは砲撃だ。ツァレヴィチは噛み締めるようにそう言い次々着弾する砲弾をかわす。砲撃してきたのは如何にも武骨な小型の機体で、奇妙な事に全身ボロボロに破壊されていたにも関わらず怨霊のように動き、高速道路の上から砲撃してくる。

 一発肩に貰ったVリーナだが、横っ飛びに避けて雷の弓を連射、相手を撃墜。直後剣を振るう!

 GWAKKIIIIINNN!

「そう……こんなもんじゃ終わらないよね、君達だって、だけど!」

 しかしそこに降り注ぐのは砲撃だ。ツァレヴィチは噛み締めるようにそう言い次々着弾する砲弾をかわす。砲撃してきたのは、武骨で重厚な小型の機体で、奇妙な事に全身がボロボロに壊れていた。それにも関わらず怨霊のように動き、高速道路の上から砲撃してくる。

 一発肩に貰ったVリーナだが、横っ飛びに避けて雷の弓を連射、相手を撃墜。直後剣を振るう!

 GWAKIIIIINN!

 弾き飛ばしたのはゴッデビルオンのものとはまた別のロケットパンチ!放ったのは曲面的かつひどく複雑なデザインをした巨大ロボット。グレーを基調とした落ち着いた配色だが要所要所にヒロイックな配色が成された機体だ。

 腕を回収して襲い来るそいつと同時に迫るのは、対照的にけばけばしく派手な色に塗り立てられた装飾過剰な機体だ。まるで別の巨大ロボットにパーツを追加して別の色に塗りたくる事で流用を隠したような機体。剣を抜いて迫り来る。

「そこを!退いて!」

 一体目が額の丸いパーツから放った青い光線をかわしながら、二体目とVリーナは剣と剣で切り結んだ。関節構造の違いからか豪快な大振りになる敵の剣と違い、腰のしなやかなVリーナの剣はより正確複雑に動き、数合の切り結びの後敵機体を切り裂いた!

「くっ……!」

 だがそこに更に降り注ぐ青いビーム!そして崩れ落ちる派手な機体の向こうから3体目!派手な2体目と対照的に地味な、ゴッデビロンをもっとシンプルにして顔を1体目に似せたような機体だが、隙をついた攻撃でVリーナの傷ついた腕を軋ませる!

【火の鳥】ジャール・プチーツァよ! 【鉛の鎚矛】フセスラヴィエヴィチよ!」

 Vリーナは火炎を放ち牽制し、剣を持つ手と反対側、手甲に弓を備えた腕で三体目の顔を掴もうとした。

「ぐっ!!」

 直後、その機体の動きが鈍る。1体目が光る掌を向けた瞬間、Vリーナの全身に凄まじい重力と圧力が罹ったのだ。その隙に三体目が、両腕にビームの刃を形成する。動けないところを切り刻むつもりだ!

「うううあああああああああっ!!!」

 それでも尚Vリーナは【山の如き力】スヴャトゴルを全開にして念力の如きその圧力を振り払い、三体目の顔を掴むや否や【鉛の鎚矛】フセスラヴィエヴィチを発動、掌から射出されたパイルバンカーが三体目の顔面を粉砕!

「!?」

 強引に力を振りきられた一体目の掌が弾けた。すると奇妙な事に、さながら既に粉微塵に砕け散っていた機体が見えない力で再生していたのがその力が消えたかのように、あるいは目に見えない敵からの攻撃を受けたように、一体目の機体が急激にぼろぼろになり、部品が、装甲が欠け落ちていく。

「い、今がチャンスっ!」

 ……圧力を強引に振り払った事でVリーナの機体は相当なダメージを受けていた。あちこちに皹が入り、動きが軋み、血の様な油の様な何かが溢れていた。それは、機体と接続するツァレヴィチにも凄まじい苦痛が走った事を示すが、それでも尚ツァレヴィチはVリーナを動かそうとして。

 ZDGAAAAAAAAANN!!!!!

「がはぁっ!?」

 直後、崩壊しつつあった1体目を撃ち抜いて襲いかかったゴッデビロンのロケットパンチが、Vリーナを打ち据え、吹き飛ばした。

 転倒するVリーナ。コクピット内を振り回され叩きつけられ、肉体と機体の二重の苦痛に絶叫するツァレヴィチ。

 そして、その周囲を。

 更に多くの、無傷のものも何故か最初から損傷しているものも含む巨大ロボットの大群が取り囲んだ。

 ……
 …………
 ………………

 それでもまだ、Vリーナはふらつきながらも必死に抵抗を続けていた。しかしそれを敵は、ゾンビが人を食うように、酸が金属を溶かすように、ピラニアが肉を食らうように、じわじわとVリーナにダメージを与えていく。

 Vリーナは魔法のスーパーロボットだというのに、なぜ、逆転が出来ないのか。

 それが、ゴッデビロンの力だ。その瞳が妖光のごとき揺らめきを帯びて、Vリーナを見据えている。そして、その口が、恐るべき呪詛を唱えるのだ。

『熱血と根性で奇跡を起こすスーパーロボット等、ある意味では構成にパロディとオマージュと錯覚と錯誤と二次創作とゲームが生んだ幻想に過ぎぬ。』

 ゴッデビロンは語る、唱える。世界を滅ぼす言葉を。

『当初のスーパーロボットは、一部の例外を除けば、一つの恐るべき兵器ではあったが、あくまでそうでしかなかった。魅力的なメカニックではあったがり、敵と戦って敗れれば新兵器を加えて乗り越え、乗り越えられねば敗れ新しい番組の新型ロボットに主役を譲るかご都合主義的に敵が内部崩壊する等の結果に至る、その程度の存在であった。』
「うあっ!?」

 それはスーパーロボットが知り得ぬ筈の言葉。物語の外の言葉。

 画面の下に都度OVAという体裁なので(注・ゴッデビロンの個人的意見です)という表示が出る中、その呪詛が響く中、敵の攻撃を防いだVリーナの弓を備えた盾が砕けた。

『むしろ、パイロットの力が機体に奇跡を与えるのは、より一般的な兵器となったリアルロボットの中で、主役を際立たせるために生まれた超能力の効果によるもののほうが多い。あるいはそう、お前のようにファンタジーを混ぜ混んだ存在の先祖達もそうだが。』
「ううっ、エネルギーが……きゃあっ!?」

 物語の中ではなく外から、物語を生む現実世界から語りかける事で、物語を解体する恐るべき呪詛だ。Vリーナの魔法が、エネルギーを失っていく。阻止されなかった攻撃が直撃し、Vリーナが再度転倒した。

『気力即ち根性と熱血で何とかするスーパーロボットは、昔の主人公の性格と、機体の凄さを強調する為の神だの悪魔だのという売り文句を真に受けた後世のオマージュとパロディと続編で後付けした追加設定、そしてゲーム化における性能の差別化やスキルの明文化が生んだものが実際には多いのだ。』
「ぐ……う……!」

 既に完全にボロボロになり、立つのがやっとのVリーナとツァレヴィチ。それに対し、ゴッデビロンは止めとばかりに呪詛を放つ。

『故に、滅びるがいい。Vリーナ。ツァレヴィチ。貴様らは所詮、既存の作品をかき集め共演させるゲームで設定の間を繋ぐためにでっちあげられた、たまたま参加していなかった作品のキャラクターをモチーフに英雄的な要素を付け加えオマージュの名の下にでっちあげられた存在が、たまさか人気を得て更に独自設定を追加してアニメ化された存在にすぎん。……貴様自体わかっているのだろう?私と同じ起源を持つお前ならば。』
「っ……ぅあああっ!?」

 その言葉にツァレヴィチが息を呑んだ一瞬。十字砲火がVリーナに次々と着弾した。装甲を砕かれ、吹き飛ばされ、ついにはビルの残骸に磔めいて叩きつけられ停止するVリーナ。コクピットの中のツァレヴィチも激しく叩きつけられ、直接的なダメージと機体との魔法的同調の反動ダメージで苦悶し、絶叫し、コクピット内に散る火花と放電に打たれ、パイロットスーツが一部破れ、悶絶した。

「お前がモチーフとしたキャラクターが、私の起源である没になったオリジナルビデオアニメ原案〈超魔神我英勇皇〉がリメイクする筈だった作品だからな。お前は、私を、正確に言えば〈超魔神我英勇皇がリメイクする筈だった作品の主人公、私の原案を探し求めていた筈だ。故に私をそれではないかと疑い、私を追っていたのだろう? 何故なら、私たちのその起源は、自分達が物語であることを認識させられ、最終回という世界の終わりによって引き裂かれるという結末を辿った故に」

 今やVリーナは殆ど無力化されていた。故にゴッデビロンは奇跡を打ち消す呪詛ではなく、ツァレヴィチの心を潰す為の言葉を紡ぐ。

「ぐっ……お前は……違う、のか?僕の探してる、あの人じゃ……なかったのか?」
「哀れなヒロインよ。主人公を探していたのだろう?ヒーローを必死に装い、物語世界を流離いながら。以前から貴様の事は知っていた。だが無駄だ。元々はお前の尋ね人に似ている存在だったろうが私は既に機体と一体化し、ゴッデビロンという機体としての自我を確立している」

 ツァレヴィチの呻きにゴッデビロンは、都度画面の下に(注・ゴッデビロンの個人的意見です)という表示を出しながら、その心理を冷酷に解剖し、その希望を打ち砕き。

「お前では勝てぬ。お前は言わば英雄的要素の集合体だが、私はそれを否定する存在なのだ。この我が軍団こそは、戯れが産み出す英雄になり損なった哀れな澱。あるものはバッドエンドを迎え、あるものは新型にとって変わられ、あるものは漫画連載を打ち切られ……様々な理由で打ち捨てられた哀れなロボット達の怨霊よ!」

 両腕を広げ、己の力を、そして付き従うロボット軍団の正体を誇示し、勝ち誇るゴッデビロン。……その隙を突こうと、ツァレヴィチは最後の賭けに出た。

「っ、おおおっ!!」

 無力化されたふりを装って蓄積した最後のエネルギーを振り絞って結晶剣で切りかかるVリーナ!

「温いわ!」

 だがそれをゴッデビロンは、手刀の一閃で粉砕!

「あ、ああっ……」
「くく。我が力は、加えて、TV版シリーズより遥かに増している……何故だか分かるか?一次元の世界からも、大量の力が流れ込んでくるようになったからだ」

 驚愕し声を震わせるツァレヴィチ。ゴッデビロンの腕には、何か本能的に恐怖を誘うような、うねる蛇の様な黒いオーラがまとわりついていた。それが、ゴッデビロンに凄まじい力を与えている。ゴッデビロンは嬉々としてその真実を叫んだ。

「一次元の世界。即ちそれは線、線からなる文字、即ちライトノベルの世界だ!インターネット小説投稿サイトの隆盛が、大量のロボットアニメ風ライトノベルを生んだ!大量のロボットアニメ風小説があれば、必然バッドエンドを迎える作品やインフレに飲み込まれ打ち捨てられる主役機、作者のやる気がつきて途中で連載が止まる作品の数も爆発的に増大する!その全ての怨念が我が力となるのだ!」

 黒くうねる蛇のようなもの。それは文字だ。無数の文字だ。バッドエンドを与えられた事に嘆き連載が中断した事に絶望する無数のロボット小説達の悶絶だ!

 そんなメタな、と、言う余裕すら最早ツァレヴィチには無かった。その蠢く文字は、キャラクターにとっての地獄だ。

「フハハハハ!貴様を滅ぼし、この世界も滅ぼし、次の世界も滅ぼす。我々に耽溺する愚かな者共の愛する物語を全て抹消する。その後現実世界に出現し命も奪ってやってもいいが、やはり、あらゆる物語世界を破壊し、ロボットものがなければたまらぬ者共からそれを奪いつくし、絶望させるほうがより面白い!全てのロボットものの世界を破壊し根絶する!物語を、我らロボットを粗略に扱う報いを、物語を貪る者に受けさせるのだ!それこそが我が望みなり……死ねぃっ!」

 ゴッデビロンが片腕をあげた。Vリーナを取り囲む怨霊ロボット軍団が、一斉に攻撃体勢を取る。

 絶体絶命……!?
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