中心蔵

博元 裕央

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・阿久里

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 酷い人生だったわこれは、全部終わってからの事

 夫は狂う、家中の者達は仇討に狂う落飾して瑤泉院、彼女は浅野内匠頭の妻である

 挙句の果てに仇討を為しても結局切腹。

 切腹にならず伊豆へ流された者達の赦免活動にばかり時間を注ぎ込んで、人生を棒に振る羽目になったわ。尤も、夫が狂った時点で人生を棒に振ったも同然、二度棒に振った、と言うべきなのかしら。

 そう考えれば、恵まれた人生だったのかもしれないわね。贅沢なのかも。二度も棒に触れる人生なんて滅多にない。大半、一度棒に振ったら人生はおしまいなのだから。

 勝手な男どもへの恨みは、山ほどあるわ。

 持ち上げてくれる世の者たちも、勝手に話を盛っちゃうし。

 だけど、それに取りつかれて怨霊になってしまったら、討ち入りした者を尊び、討ち入りしなかった者達を罵る、浅ましい者達と同じになってしまう。それは嫌だわ。

 勿論、贅沢なのかもと言っておめおめと引っ込んでいては、世は改まらない。それも尤もね。

 尤もだし、持ち上げられるのも複雑な気分だけど。

 せめて美しい物語として死ぬほうが、まだましじゃないかしら? 世の改めは、美しい物語として為せばいい。怨恨で世を改めては、際限の無い反撃と反撃で、再評価と批判、再評価と批判で、世は乱れ改まらない。だから美しい物語がいい。それで為せなければ人はそれまでじゃないかしら。

 私はそう思い。そう死ぬ。それだけは、好きにさせてもらうわ。
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