博元裕央巨大ロボット作品アイディア短編集

博元 裕央

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・娯楽~処刑玩具デスブンドドVS廃課金ソシャゲリオン

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 これは、皆が選択を誤った未来の物語だ。

 WAAAAA……
 WAAAAA……

 一本調子な録音された合成音声の歓声が響き渡る。

 客席ではロボットというのもおこがましい自動マネキンが、かちかちとプラスチックの掌で拍手をしている。

 観客の全ては人形、何処にも中継されてすらいない。病原菌が蔓延している訳でもないのに行なわれる無観客試合というにはあまりにもおぞましいそれは、このコロッセオを仕立てた者達の意思だ。お前達は無価値だ、いや、お前達は無観客無中継試合で隔離されるべき病原菌なのだと示す為の。誰も、お前達を見ないのだと。ただそれだけの為の仕掛け。

 巨大な鍋底を思わせる金属のコロッセオの中、建物が巨大すぎて小さく見える、一応それでも巨大ロボットなシルエットがあった。身長は皆5m、基本的に同一のフレームなのに、機体によって全然違う形になるよう飾り付けられた、過去の様々なロボットアニメを思わせる装飾を元の身長が10mの機体風の装飾も50mの機体風の装飾もサイズもプロポーションも無視して施された機体達。

「くそ、酷い出来映えだ。俺に作らせりゃ、この十倍はマシな姿に出来るんだがな」
「……大した余裕だな、あんた」

 剣を装備させられた赤青金の塗装にでかい飛べない羽を背負った機体を操縦させられる少年が呻き、銃を装備させられた白い二本角の機体を操縦させられる少年が苦笑した。これから死ぬかもしれないのにこの糞機体の外見に拘るなんて、と。

 そう。この巨大ロボット達は、高確率で破壊され死に至るデスゲームの為のツールだ。人呼んで処刑玩具デスブンドド。

 そしてそのデスブンドドを処刑する為の機械、乗り込み式人型ロボットを実用化出来るレベルの技術を応用しデスブンドドに遥かに勝る予算を投じて圧倒的に上回る戦闘力を与えられた自動戦車は、課金ゲーム根絶の為禁止され奪われ破棄され破壊されたスマートフォンの部品を一部回路に再利用されている事から、彼らが否定圧殺する文化に対する最大限の嘲笑を込めてこう名付けられた。廃課金ソシャゲリオンと。

 ……人類社会は激変した。暴走し行き過ぎた思想があらゆる要素を差別として否定するようになり、それに呼応して娯楽を否定する様々な勢力が結託し、一見否定しにくいが故に過激化した狂気の情熱によって勝者となり、全ての娯楽を規制し娯楽を愛する人間を惨たらしく処刑する管理社会を生んだ。

 ファンタジーを愛した人間は騎士やゴブリンを象ったアンドロイドに魔法の出ない杖やなまくらの剣を持たされた状態で殺され、ラブコメを愛する人間は異性を象ったアンドロイドに性的暴行を受け殺され、ゲームを愛する人間は飲食を禁じられ画像の前に磔にされてゲームが必要ならゲームから栄養を得てみせろという理不尽な狂気をぶつけられ餓死した。

 そんな中、巨大ロボットが出てくる物語を愛する者達は、巨大ロボット等無意味である事を教育した上で殺す為として、このコロッセオに投じられる。

 そしてこれらの処刑は、娯楽めいて演出されながら決して誰にも見られない。ただ、黙殺されるのだという事実を更に処刑対象者に突きつける為だけに、人形の観客に見せられるのだ。

「俺のは、唯の自棄だよ……そういうお前こそ、どうなんだ」

 剣を装備した機体の少年は通信端末の画面越しに銃を装備した機体の少年に語り掛ける。極東における反娯楽主義の拠点であるこの島では珍しい白人種の少年だ。

 海の向こうでは白人男性は存在そのものが女性と有色人種への差別だとされて民族の罪を償う為に奴隷階級に落とされたという。無論差別の解消は正しいが、そこまで行ってしまえばそれはもう新たな支配と差別でしかない。皮肉にも、対象の一部と対象の同胞の異性すらそれを望んだと言うが。だがそれでも新しい世界は走り出した修正の習性を止める事が出来ず、こうなってしまった。

 もしこうなる前に止められていれば。これがあくまで、極めて極端な例を挙げる事によりまだ行き過ぎになっていない事の将来的な行き過ぎを危惧して風刺的に提言を行なう小説で済んでいたら。最早遅い話だが。

 もしこうなる前に止められていれば。これがあくまで、極めて極端な例を挙げる事によりまだ行き過ぎになっていない事の将来的な行き過ぎを危惧して風刺的に提言を行なう小説で済んでいたら。最早遅い話だが。

 しかし悲しいかな、支配と被支配、圧制と被圧制、差別と被差別の関係の逆転、平等を求めたはずが支配の逆転に留まった事は多く、昨日の被害者が今日の加害者となる事はそれより尚多い歴史上枚挙に暇の無い人類の通常営業。

 大筋が書かれた時は過激なブラックジョークで済ます筈だった過剰な誇張が罪深い事に現実に追いつかれさりとてその罪を償うにはあえてそれを世に問うしかないと作者を追い詰め思い込ませてしまったような、この世が常に陥り続けてきた地獄の平常運転でしか無く。

 ともあれ、彼はどうしてこのかつては麺類で有名だった島へ? そしてなにより、白人種の少年にも奇妙な余裕があるのでは、と、剣を装備した機体の日本人少年は問い返し。

「西部劇や銃なんてのは、僕が生まれた頃にはもう規制されてた。罪人民族・白人の悪性の根源だと、真っ先の真っ先に規制対象になったからな」

 操縦席でやや俯き、金色の前髪をさらりと垂らし……その下の碧眼をギラつかせ、白人種の少年は答えとしてそう呟いた。

「僕以外それが好きで、それを学び極めたやつはいなかった。いるとも思われてなかった。だから、対応する地獄も作られなかった。巨大ロボットも好きだったから、ここに来させられた」

 少年の手の動きに、機体の動きが重なる。

「でなきゃ僕に銃なんて与えられたなかったろうさ……一泡くらいなら噴かせられるくらいの自信がある銃なんてな」

 その動きは、完全に西部劇のガンマン、それも決闘に勝利しうる達人のそれであった。少年は牙を剥くように笑った。少年悪漢王ビリー・ザ・キッドの如く。

 終わった世界に意地と美を見せ無視を砕く反革命、処刑を遊ぶ戦いが始まる。巨大ロボットは、巨大ロボットなんて無駄だ無意味だ不合理だと言う声に反抗して立ち上がり勝利するのだから。
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