7 / 13
・娯楽~処刑玩具デスブンドドVS廃課金ソシャゲリオン
しおりを挟む
これは、皆が選択を誤った未来の物語だ。
WAAAAA……
WAAAAA……
一本調子な録音された合成音声の歓声が響き渡る。
客席ではロボットというのもおこがましい自動マネキンが、かちかちとプラスチックの掌で拍手をしている。
観客の全ては人形、何処にも中継されてすらいない。病原菌が蔓延している訳でもないのに行なわれる無観客試合というにはあまりにもおぞましいそれは、このコロッセオを仕立てた者達の意思だ。お前達は無価値だ、いや、お前達は無観客無中継試合で隔離されるべき病原菌なのだと示す為の。誰も、お前達を見ないのだと。ただそれだけの為の仕掛け。
巨大な鍋底を思わせる金属のコロッセオの中、建物が巨大すぎて小さく見える、一応それでも巨大ロボットなシルエットがあった。身長は皆5m、基本的に同一のフレームなのに、機体によって全然違う形になるよう飾り付けられた、過去の様々なロボットアニメを思わせる装飾を元の身長が10mの機体風の装飾も50mの機体風の装飾もサイズもプロポーションも無視して施された機体達。
「くそ、酷い出来映えだ。俺に作らせりゃ、この十倍はマシな姿に出来るんだがな」
「……大した余裕だな、あんた」
剣を装備させられた赤青金の塗装にでかい飛べない羽を背負った機体を操縦させられる少年が呻き、銃を装備させられた白い二本角の機体を操縦させられる少年が苦笑した。これから死ぬかもしれないのにこの糞機体の外見に拘るなんて、と。
そう。この巨大ロボット達は、高確率で破壊され死に至るデスゲームの為のツールだ。人呼んで処刑玩具デスブンドド。
そしてそのデスブンドドを処刑する為の機械、乗り込み式人型ロボットを実用化出来るレベルの技術を応用しデスブンドドに遥かに勝る予算を投じて圧倒的に上回る戦闘力を与えられた自動戦車は、課金ゲーム根絶の為禁止され奪われ破棄され破壊されたスマートフォンの部品を一部回路に再利用されている事から、彼らが否定圧殺する文化に対する最大限の嘲笑を込めてこう名付けられた。廃課金ソシャゲリオンと。
……人類社会は激変した。暴走し行き過ぎた思想があらゆる要素を差別として否定するようになり、それに呼応して娯楽を否定する様々な勢力が結託し、一見否定しにくいが故に過激化した狂気の情熱によって勝者となり、全ての娯楽を規制し娯楽を愛する人間を惨たらしく処刑する管理社会を生んだ。
ファンタジーを愛した人間は騎士やゴブリンを象ったアンドロイドに魔法の出ない杖やなまくらの剣を持たされた状態で殺され、ラブコメを愛する人間は異性を象ったアンドロイドに性的暴行を受け殺され、ゲームを愛する人間は飲食を禁じられ画像の前に磔にされてゲームが必要ならゲームから栄養を得てみせろという理不尽な狂気をぶつけられ餓死した。
そんな中、巨大ロボットが出てくる物語を愛する者達は、巨大ロボット等無意味である事を教育した上で殺す為として、このコロッセオに投じられる。
そしてこれらの処刑は、娯楽めいて演出されながら決して誰にも見られない。ただ、黙殺されるのだという事実を更に処刑対象者に突きつける為だけに、人形の観客に見せられるのだ。
「俺のは、唯の自棄だよ……そういうお前こそ、どうなんだ」
剣を装備した機体の少年は通信端末の画面越しに銃を装備した機体の少年に語り掛ける。極東における反娯楽主義の拠点であるこの島では珍しい白人種の少年だ。
海の向こうでは白人男性は存在そのものが女性と有色人種への差別だとされて民族の罪を償う為に奴隷階級に落とされたという。無論差別の解消は正しいが、そこまで行ってしまえばそれはもう新たな支配と差別でしかない。皮肉にも、対象の一部と対象の同胞の異性すらそれを望んだと言うが。だがそれでも新しい世界は走り出した修正の習性を止める事が出来ず、こうなってしまった。
もしこうなる前に止められていれば。これがあくまで、極めて極端な例を挙げる事によりまだ行き過ぎになっていない事の将来的な行き過ぎを危惧して風刺的に提言を行なう小説で済んでいたら。最早遅い話だが。
もしこうなる前に止められていれば。これがあくまで、極めて極端な例を挙げる事によりまだ行き過ぎになっていない事の将来的な行き過ぎを危惧して風刺的に提言を行なう小説で済んでいたら。最早遅い話だが。
しかし悲しいかな、支配と被支配、圧制と被圧制、差別と被差別の関係の逆転、平等を求めたはずが支配の逆転に留まった事は多く、昨日の被害者が今日の加害者となる事はそれより尚多い歴史上枚挙に暇の無い人類の通常営業。
大筋が書かれた時は過激なブラックジョークで済ます筈だった過剰な誇張が罪深い事に現実に追いつかれさりとてその罪を償うにはあえてそれを世に問うしかないと作者を追い詰め思い込ませてしまったような、この世が常に陥り続けてきた地獄の平常運転でしか無く。
ともあれ、彼はどうしてこのかつては麺類で有名だった島へ? そしてなにより、白人種の少年にも奇妙な余裕があるのでは、と、剣を装備した機体の日本人少年は問い返し。
「西部劇や銃なんてのは、僕が生まれた頃にはもう規制されてた。罪人民族・白人の悪性の根源だと、真っ先の真っ先に規制対象になったからな」
操縦席でやや俯き、金色の前髪をさらりと垂らし……その下の碧眼をギラつかせ、白人種の少年は答えとしてそう呟いた。
「僕以外それが好きで、それを学び極めたやつはいなかった。いるとも思われてなかった。だから、対応する地獄も作られなかった。巨大ロボットも好きだったから、ここに来させられた」
少年の手の動きに、機体の動きが重なる。
「でなきゃ僕に銃なんて与えられたなかったろうさ……一泡くらいなら噴かせられるくらいの自信がある銃なんてな」
その動きは、完全に西部劇のガンマン、それも決闘に勝利しうる達人のそれであった。少年は牙を剥くように笑った。少年悪漢王の如く。
終わった世界に意地と美を見せ無視を砕く反革命、処刑を遊ぶ戦いが始まる。巨大ロボットは、巨大ロボットなんて無駄だ無意味だ不合理だと言う声に反抗して立ち上がり勝利するのだから。
WAAAAA……
WAAAAA……
一本調子な録音された合成音声の歓声が響き渡る。
客席ではロボットというのもおこがましい自動マネキンが、かちかちとプラスチックの掌で拍手をしている。
観客の全ては人形、何処にも中継されてすらいない。病原菌が蔓延している訳でもないのに行なわれる無観客試合というにはあまりにもおぞましいそれは、このコロッセオを仕立てた者達の意思だ。お前達は無価値だ、いや、お前達は無観客無中継試合で隔離されるべき病原菌なのだと示す為の。誰も、お前達を見ないのだと。ただそれだけの為の仕掛け。
巨大な鍋底を思わせる金属のコロッセオの中、建物が巨大すぎて小さく見える、一応それでも巨大ロボットなシルエットがあった。身長は皆5m、基本的に同一のフレームなのに、機体によって全然違う形になるよう飾り付けられた、過去の様々なロボットアニメを思わせる装飾を元の身長が10mの機体風の装飾も50mの機体風の装飾もサイズもプロポーションも無視して施された機体達。
「くそ、酷い出来映えだ。俺に作らせりゃ、この十倍はマシな姿に出来るんだがな」
「……大した余裕だな、あんた」
剣を装備させられた赤青金の塗装にでかい飛べない羽を背負った機体を操縦させられる少年が呻き、銃を装備させられた白い二本角の機体を操縦させられる少年が苦笑した。これから死ぬかもしれないのにこの糞機体の外見に拘るなんて、と。
そう。この巨大ロボット達は、高確率で破壊され死に至るデスゲームの為のツールだ。人呼んで処刑玩具デスブンドド。
そしてそのデスブンドドを処刑する為の機械、乗り込み式人型ロボットを実用化出来るレベルの技術を応用しデスブンドドに遥かに勝る予算を投じて圧倒的に上回る戦闘力を与えられた自動戦車は、課金ゲーム根絶の為禁止され奪われ破棄され破壊されたスマートフォンの部品を一部回路に再利用されている事から、彼らが否定圧殺する文化に対する最大限の嘲笑を込めてこう名付けられた。廃課金ソシャゲリオンと。
……人類社会は激変した。暴走し行き過ぎた思想があらゆる要素を差別として否定するようになり、それに呼応して娯楽を否定する様々な勢力が結託し、一見否定しにくいが故に過激化した狂気の情熱によって勝者となり、全ての娯楽を規制し娯楽を愛する人間を惨たらしく処刑する管理社会を生んだ。
ファンタジーを愛した人間は騎士やゴブリンを象ったアンドロイドに魔法の出ない杖やなまくらの剣を持たされた状態で殺され、ラブコメを愛する人間は異性を象ったアンドロイドに性的暴行を受け殺され、ゲームを愛する人間は飲食を禁じられ画像の前に磔にされてゲームが必要ならゲームから栄養を得てみせろという理不尽な狂気をぶつけられ餓死した。
そんな中、巨大ロボットが出てくる物語を愛する者達は、巨大ロボット等無意味である事を教育した上で殺す為として、このコロッセオに投じられる。
そしてこれらの処刑は、娯楽めいて演出されながら決して誰にも見られない。ただ、黙殺されるのだという事実を更に処刑対象者に突きつける為だけに、人形の観客に見せられるのだ。
「俺のは、唯の自棄だよ……そういうお前こそ、どうなんだ」
剣を装備した機体の少年は通信端末の画面越しに銃を装備した機体の少年に語り掛ける。極東における反娯楽主義の拠点であるこの島では珍しい白人種の少年だ。
海の向こうでは白人男性は存在そのものが女性と有色人種への差別だとされて民族の罪を償う為に奴隷階級に落とされたという。無論差別の解消は正しいが、そこまで行ってしまえばそれはもう新たな支配と差別でしかない。皮肉にも、対象の一部と対象の同胞の異性すらそれを望んだと言うが。だがそれでも新しい世界は走り出した修正の習性を止める事が出来ず、こうなってしまった。
もしこうなる前に止められていれば。これがあくまで、極めて極端な例を挙げる事によりまだ行き過ぎになっていない事の将来的な行き過ぎを危惧して風刺的に提言を行なう小説で済んでいたら。最早遅い話だが。
もしこうなる前に止められていれば。これがあくまで、極めて極端な例を挙げる事によりまだ行き過ぎになっていない事の将来的な行き過ぎを危惧して風刺的に提言を行なう小説で済んでいたら。最早遅い話だが。
しかし悲しいかな、支配と被支配、圧制と被圧制、差別と被差別の関係の逆転、平等を求めたはずが支配の逆転に留まった事は多く、昨日の被害者が今日の加害者となる事はそれより尚多い歴史上枚挙に暇の無い人類の通常営業。
大筋が書かれた時は過激なブラックジョークで済ます筈だった過剰な誇張が罪深い事に現実に追いつかれさりとてその罪を償うにはあえてそれを世に問うしかないと作者を追い詰め思い込ませてしまったような、この世が常に陥り続けてきた地獄の平常運転でしか無く。
ともあれ、彼はどうしてこのかつては麺類で有名だった島へ? そしてなにより、白人種の少年にも奇妙な余裕があるのでは、と、剣を装備した機体の日本人少年は問い返し。
「西部劇や銃なんてのは、僕が生まれた頃にはもう規制されてた。罪人民族・白人の悪性の根源だと、真っ先の真っ先に規制対象になったからな」
操縦席でやや俯き、金色の前髪をさらりと垂らし……その下の碧眼をギラつかせ、白人種の少年は答えとしてそう呟いた。
「僕以外それが好きで、それを学び極めたやつはいなかった。いるとも思われてなかった。だから、対応する地獄も作られなかった。巨大ロボットも好きだったから、ここに来させられた」
少年の手の動きに、機体の動きが重なる。
「でなきゃ僕に銃なんて与えられたなかったろうさ……一泡くらいなら噴かせられるくらいの自信がある銃なんてな」
その動きは、完全に西部劇のガンマン、それも決闘に勝利しうる達人のそれであった。少年は牙を剥くように笑った。少年悪漢王の如く。
終わった世界に意地と美を見せ無視を砕く反革命、処刑を遊ぶ戦いが始まる。巨大ロボットは、巨大ロボットなんて無駄だ無意味だ不合理だと言う声に反抗して立ち上がり勝利するのだから。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
梅すだれ
木花薫
歴史・時代
江戸時代の女の子、お千代の一生の物語。恋に仕事に頑張るお千代は悲しいことも多いけど充実した女の人生を生き抜きます。が、現在お千代の物語から逸れて、九州の隠れキリシタンの話になっています。島原の乱の前後、農民たちがどのように生きていたのか、仏教やキリスト教の世界観も組み込んで書いています。
登場人物の繋がりで主人公がバトンタッチして物語が次々と移っていきます隠れキリシタンの次は戦国時代の姉妹のストーリーとなっていきます。
時代背景は戦国時代から江戸時代初期の歴史とリンクさせてあります。長編時代小説。長々と続きます。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる