博元裕央巨大ロボット作品アイディア短編集

博元 裕央

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・人型である事に意味がある~人間原理サニティルーラー~

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 無限に近く広がる大宇宙。それは死さえ死す程の深淵だ。覗く者の目を容赦なく覗き返し、否応もなくその巨大さで己に圧倒的な差のある小さく儚い定命者モータルである事を日常培った人格の底から掘り起こし、死を突きつけて狂乱させる過酷な空漠。

 そんな空漠に、それでも尚人は旅立った。宇宙船を作り、その中を生存可能な空間と、すなわち生活圏、日常と化し、そこには決して死も狂気も存在しないのだと自分を騙し、虚無と凶器の流入を防ぎ旅をする。

 その旅をする理由が、そもそも自分達が永遠に値しない儚い存在である事、新しい場所、新しい資源を消費しなければ生きられない存在であり、無限に近いとはいえ有限を齧っていつか齧り尽くしてしまう存在である事を日常の中に埋没させ忘却しながらその忘却を希望として進む。

 だがそれは、その漫然とした盲目的な日常の拡大は、当然疑似無限の中に同じように広がっていく他の世界との激突を意味していた。

 ZDOOOM! 

 km単位の船体を持つ移民宇宙船に炎が走る。船内に振動が伝播する。

 巨大な虚無の宇宙で人類が他の知的生命体と遭遇して改めて気づいた事がある。これまで人類の認識する物理法則において、宇宙を観測する知的生命体は人類だけだったという前提だ。

 シュレディンガーの猫。人間原理。世界五分前仮説。観測により変化する宇宙。

 戯れ言めいて思われていた例えや仮説が、人類に牙を剥いた。

「AIEEEE!?」

 宇宙船内の人間達全員から悲鳴が迸った。敵性他宇宙知性体が接近した。それだけでだ。ここにいう人間には、人間と同種の人格を持つAIすら含まれる。AIすらAIEEEEと叫ぶのだ、AI、EEEEE! 

 地球の蛇に輪郭は似ているが実質は全く異なるうねる手足を持つ生命体、多肉植物と棘皮動物を交雑させたような翼を持つもの、様々な姿をとる知性菌類、時間の歪みが意識を持ったかの如き存在、生きている影……

 人類より遥かに先に宇宙に適応した人類の認識を遥かに上回る超知性存在は、人類より遥かに強度の高い観測力を持つ。宇宙の広大と人間の矮小との差と同じだ。故にその認識範囲を、自分達の認識に沿った宇宙に塗り替える。それ故に、全く別種の存在を認識した地球人類の自我は宇宙的恐怖によって破壊される。でありながら同時に、地球人も彼ら他宇宙知性体にとっては全く別の存在であるにも関わらず、彼らは自分達の常識を破壊される事無く行動可能なのだ。

 これに抗う方法は、地球人には一つしか無かった。

 即ち、シンプルに強力に強大に、地球人こそが宇宙の基準なのだと刻み付ける兵器による対抗。

 地球人を象った姿を持ち、地球の文明を象徴する無数の科学的兵器を装備した存在。地球人の認識に刻み付けられた物語である神々や英雄を象り、宇宙や科学を物語に従える、人類が疑い無く信じる事が出来る対象。

「あ、あ……」

 即ち、巨大ロボットである! 

「人間原理サニティルーラーⅠ、これより防衛活動にはいる!」

 人々の悲鳴と嘆きを止め、船外に群がる異形共に立ちはだかる姿が全船内に投影される。

 身長200m、人型宇宙戦艦と呼ぶべき偉容、王冠と天使の輪を象った頭部はレーダーと天体・素粒子観測機器の効果を兼ね、目も口も兵器の発射口。側頭部には日本神話めいた御角みずら髪めいた砲塔。

 腕には軍服の肩章を思わせる砲塔、動力炉と空間跳躍機関を搭載した胴体は太古の女怪メドゥサを飾った胸甲めいた装甲と兵器群。背中には拝火教の神の羽と天使の羽と光輪と仏像の光背を混ぜたようなバックパック。

 宇宙船としての機能を持つ両足は太く逞しく、その手には不可侵を思わせる五芒星・六芒星を紋章として複数組み合わせた盾と、ケルト十字とアンクを組み合わせたような剣めいた武器。

 パイロットは人体を強調するようにぴったりと張り付いたパイロットスーツと、逆にどこの誰でもありうる普遍的な正義の味方を思わせるフルフェイスヘルメットを被ってそれを操縦する。

 対峙するは何れもそれぞれの種族を象った蛇型・植物怪物型・菌糸有毛昆虫型等〈彼らにとっての人型兵器〉。彼等の文明と文化との形態の違い故に、サニティルーラー程過剰な数の象徴を搭載できない〔彼等の文化の一体性・単純性がそれほど多数の象徴を有させない〕故に、辛うじて成り立つ均衡。

 だがそれでも尚人類は恐怖を打ち払い進まねばならない。

 そうせねば、つまらぬ泥玉の如き地球が干上がるのと心中するばかりだ。この宇宙全ては残酷で冷徹でつまらなく、知恵を振り絞り少しでも寿命を引き延ばすべく抗わぬ限り人類の生存を許さないのだから。知恵の産物たる戦う巨大な人型は、その象徴と言えた。
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