博元裕央巨大ロボット作品アイディア短編集

博元 裕央

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・異なる歴史~浄騎輝感ラピュセル☆マーニュ~

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 西暦1241太宗十三年。モンゴル帝国大ハーンイェケ・モンゴル・ウルス・カアンオゴデイ、病より回復。これは、かつての秦王朝の遺跡から発掘された古代文明の遺産によるものであった。この世界においては、秦、大秦ローマ、エジプト、そしてメソポタミアの幾つかの場所に、こうした遺産が存在していた。それぞれが何時生まれどう受け継がれどのような形でこの時代を超越した存在であるかは個体差があったが。

 これにより西欧世界の破滅は定まった。

 レグニツァワールシュタットの戦いの大勝の勢いのままにウィーンを完膚なきまでに破壊したモンゴル軍は西進を続行。神聖ローマ帝国にケルンテン、バイエルン、フランケンにシュヴァーベンと貫通しフランスの沃野を巻き狩りの如く暴れ回り、ランスもパリも攻め落とし、欧州中央に盤踞。かつて中央アジアを逃げる敵を追ってインドまで進んだ軍勢は数年の内に各地の山脈を越え、その恐怖の力を以て応手全土を平服せしむるべくヴァチカンを完全破壊。教皇の首を晒した事によりキリスト教徒の心はモンゴルのテンゲリに屈服し、黄金天幕ジョチ・ウルスの威光は海を隔てた島を除く全欧州に及んだ。

 そして、二百年近い時が流れたフランスのオルレアンで。


「水の儀式、完了!」
「火の儀式、始め!」

 反乱が始まろうとしていた。オルレアン城市内部、砲兵弩兵から所属を変えた技師兵達が、慌ただしく右往左往する。

「申し上げます! タルタロスタタール・モンゴル軍、攻城兵器を押し出して来ました!」
「想定通りです。宜しい、城門の弓手に撤収を伝えなさい。事前の練習通り、撃ち負けたように、徐々に射撃を減らして、そっと」

 水車と風車から繋がった木製の歯車が音を立てて回転し、梃子と滑車が激しく上下する中、一団を指揮する青光りしそうなほど艶光る黒い髪と髭をしたフランス人貴族は、流石に緊張に生唾を呑んだ。これで敵攻城兵器を城門に集中させる。そこが決戦の場だ。上手くいく、上手く行く筈だ。撃って出れば騎兵の餌食、普通ならそうだ、だから撃って出ると敵は思わない、故にこれを罠だとは思わない……その予想を、これで上回るのだから。

「油の儀式、加え!」
「秘薬の儀式、加え!」

 儀式行程を確認する叫び声が木製の歯車の軋みと金属音の間を縫って響く。胸元を探れども、十字架は無し。心細さに貴族は奥歯を噛み締める。ヴァチカンもエルサレムも破壊され失われた。我等に神は無い。

(皮肉なものですね)

 しかし彼は理解している。だが、だからこそ、滅び去った古を求めて、自棄になって浪費した道楽が、これの発掘に繋がったのだと。

「プレラーティ博士……いけますね」
「ああ、いけるよ、ジル司令」

 黒髪黒髭の貴族、ジル司令に、技師兵達を指揮していた、まるで天使めいたふわふわの栗毛の子供が、にっかりと笑って親指を立てた。

怒りんぼうラ・イール君が伝えてくれたギリシャ火をベースにした燃料は凄いもんだ。必要な蒸気圧を確保できてる。他の部分は、天才錬金術師たる僕の保証済。歯車正常、ピストン式副蒸気ヘロン機関、タービン式主蒸気ヘロン機関は共に起動した」

 BOOOOO! 

 激しく蒸気を噴出する、全ての木製歯車と滑車と梃子と縄と油差しと水樋とスコップと炭が集束する、炎を宿した金属塊。古代ローマ帝国時代以前に賢者ヘロンが産み出した概念を、古代ローマ帝国が研鑽し続けた結果、帝国が崩壊する間際に数台作られた力。

 VOOOOO! 

「へへ、アンタと徒弟とジャンヌを、このデカブツが立つまでお守りする事に比べりゃ、軽い事じゃん」

 若い赤毛の傭兵はタフに笑った。地顔はいいが荒んだ目付き、片目の周りに火傷痕で、そのせいで強面に見えるが。

「そらそらジャンヌ、出番じゃんよ。オイラに見せてくれや、魔法」

 冗談めかせるその口調は、それでも希望を信じて明るい。

「魔法じゃありません、奇跡ですっ……多分、ね」

 修道女服の下をズボンにして、所々革素材にして更にぎりぎりまで肌にぴったりと張り付くように……万が一にも機体内部の歯車に引っ掛からない為だ……改造した装束を纏う、ボーイッシュな短髪栗毛の少女が答える。かわいい顔だが、額に醜い刀傷の痕がある。

 その傷は奇しくも、この地から絶えた信仰の象徴、十字を象っていた。

 そしてジャンヌは全ての中心に立つ。

「それじゃ、行ってきます」
「ジャンヌ……ご武運を」
「サポートは任せて」
「何かあったら、助けに行くさ。行ってきな」

 皆に見送られ、全ての中心である金属塊、開いたその背中から、その中に体を滑り込ませた。

 激しく蒸気を噴出する、ギリシャ神話の青銅巨人タロスを思わせる存在。即ち蒸気式巨大人形動力鎧。

 かつてジークフリート、ベオウルフ、アーサー、ディートリッヒ・フォン・ベルン等、ローマ帝国崩壊後の暗黒時代初期を生きた者達が実際に完成した何機かをそれぞれ手にして用い、英雄となったと言われている。

 この機体は、何れも最終的には英雄が去り技術が途絶え歴史に飲まれ消えていった、それぞれ操縦した英雄の名を冠した機体達の中でも最後に製造された機体。

 かつてこの地を救い束ねた器、大帝シャルルマーニュ。その名を冠する機体だ。

(彼女に、任せるしかない)

 罪悪感を覚えながらも、ジル司令は祈る対象を持たぬ祈りを彼女に捧げる。

 蒸気機関式巨大人形動力鎧が消えていったのは、維持するだけでもローマ帝国時代の秘儀を受け継ぐ錬金術師が必要であるからだけではない。

 大量の歯車等で使用者の体の動きを拡大するこの機械は、使用者の体の動きと機械が実際に動作するまでの間にどうしても時間差が発生する。かつての英雄はそれを使いこなして見せたのだが、それには余程の、正に天が与えたに等しい英雄としての素質が必要だ。

 ジャンヌにはそれがある。幼少時、徴税に来たタタールの手先に、男児と見誤られ額を砕かれた影響で傷ついた脳が歪に再生した結果なのか、真実の奇跡なのか、輝くような感覚と共に数秒先を見る・ ・事が出来る。その地からで、この場の人間の中で唯一、彼女だけがシャルルマーニュを操縦する事が出来た。

「儀式完了!」
「着装完了!」
「宜しい! 作戦開始!」
「門を開けろっ!」

 JYARRRRRRRRRRR! 

 皆の声が響き渡る。鎖が解放される。そして。

 DOWN! 

 城門が開いた。木製の腕を振り回す攻城塔と投石機が、人力で操作する兵士達の仰天の結果、まるで生き物がぎくりとしたかのように一瞬止まった。

 GAANN……GAANN……

 巨大な金属が、石畳を叩く。足音だ。そして。

 VOOOOOOOOOOOOOO! 

 身の丈15ピエ4メートル半もある金属の巨人が歩み出て、蒸気を吹き上げて咆哮した! 極めて華美な、ローマ帝国式鎧とバイキング鎧と騎士鎧をごちゃまぜにして更に飾り立てたような意匠の、攻城塔に引けを取らぬ巨躯の磨き上げられた白鎧、シャルルマーニュが再臨する! 


 ……ヨーロッパ・モンゴル独立戦争は、かくしてオルレアンから始まった。
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