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新世界創世編 感謝
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窓から差し込む陽だまりに照らされて
幸せな夢の世界から現実に戻される三人の少女。
仲良く抱き合っている三人の少女は目を覚ます。
シャルロットとモルドレッドは目を覚ますと
まず、ジリリリリリと五月蝿く鳴っている目覚まし時計を止め
真ん中で眠っているルクシアを撫でて
ぬいぐるみのように二人でルクシアを抱きしめる。
そしていつものように日常を始める。
「どちらのケーキにしましょうか?」
「いつものこれとこれをお願いね」
ルクシアのお友達のチェリルちゃんと
そのお母さんはすっかりこのお店の常連さんになっていた。
チェリルが厨房の奥から覗いている
ルクシアに気づいて駆け寄る。
「あっ!ルクシアちゃん!」
「チェリル……あそぼ」
「あ…ごめんねルクシアちゃん。
今日はすぐお家に帰らなきゃいけないの」
「チェリルー!行くわよー!」
「うん!ちょっと待ってお母さん!」
「…………」
ルクシアは少し寂しそうな表情を浮かべる。
「そうだルクシアちゃん!今度うちにおいでよ!
そしたらずっと遊べるもん!」
「……!」
ルクシアの表情がパァーっと花が咲くように明るくなる。
「なぁにルクシアちゃん?」
「お腹でも空いた?」
「………行きたい」
「どこへ?」
「チェリルの…お家」
『『えええええええ~~~!?』』
「別にいいけど…どうやって行くつもりなの?」
「また迷子になっちゃうかもしれないよ!」
「あらいいじゃない。いつでも大歓迎よ。
今度の休みにお泊りに来れば?」
「うん!ありがとうお母さん!」
「ルクシアちゃんお泊りに来てくれる?」
「………うんっ楽しみ。」
「ルクシアが…」
「お泊り~!?」
両親譲りなのか親バカな部分を引き継いでしまっていた
シャルロットとモルドレッドは
ルクシアに過保護気味と言える大量のお泊りグッズを授けた。
「いい?これがパジャマと替えの下着。
それから歯ブラシと歯磨き粉」
「万一の寒波に備えて湯たんぽとカイロ。
目覚まし時計も用意したしお風呂セットもOK」
「いりこに至っては業務用が1ダースあるぜいっ」
「それからそれから…はいっ!くまさんのぬいぐるみ!
モルちゃんが小さい頃に可愛がってたんだよ~」
「寂しくなったら私達だと思って抱きしめてね!」
「もう忘れものはないかな?」
「大丈夫よ。リュックに連絡先も縫い付けておいたから」
「さっすがモルちゃ~ん。ばっちりだね!」
ルクシアはパンパンになったリュックを見て
少々ドン引きしたような引き攣った笑みを浮かべながら
リュックを背負ってみたが重すぎてまともに歩けず
リュックの下敷きになってしまった。
『『ルクシアーー!?』』
その様子を見ていた零は呆れ顔になりながら
「お前達…ルクシアはたった1泊するだけなのだろう?
そんなに大荷物はいらないと思うのだが」
『いいえ!そんなことはないと思うのだ!』
「これは考え得るすべての可能性を考慮した完璧なお泊りセットなのよっ!」
「そんな大げさな…そもそもそんなにたくさん持っていけるわけが…」
パンパンになっていたリュックが決壊し
中に入っていた大量のお泊りグッズが弾け飛んだ
「わあーお……」
「……もう少し少なめにしましょう。」
次の休日、私達4人は並木通りを通って住所の近くへ行くと
チェリルちゃんとお母さんが待っていた。
「ルクシアちゃーん!こっちこっちー!」
「いらっしゃ~いっ!」
「このたびはうちのルクシアちゃんがお世話になります。
一日だけですがどうかよろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いしますね」
「おお…ローザお姉ちゃん大人の対応ってやつだ…」
「私達も負けていられないわよ!」
『ごほん!このたびはうちの子のルクシアがおべんとうをおかけします!』
「え?お弁当?」
『違うわよシャルロット。それを言うならご面倒』
『そうそう!ご面倒でした!』
「まぁ。そういうことね。全然大丈夫よ」
「こちらは私達の連絡先です。
もし何かありましたら遠慮なくお電話ください」
「ルクシア。トイレの場所はすぐ確認するんだよ」
「ご飯を食べたら必ずごちそうさまって言って…それから」
「そうだ。これを渡していくね。
まだ見たら駄目。お家に上がったら真っ先に読んで」
「ああ~…」
「ルクシア~…」
「二人とも行きますよ」
「で…でも~…」
「やっぱり心配…」
「かわいい子には旅をさせよと言います。
あの子の成長のためにもとても良い機会だと思いますよ」
「ただいま~…」
「どうだ?涙涙のお別れだったか?」
「そ…そんなことないもん!」
『とか言って「行っちゃ駄目~」なんて
ずっと手を振り続けたりしたんじゃないんですか?』
『うふふ。そんなお姉様も子供みたいでかわいいかも』
「そんなんじゃないもん!もう子供じゃないんだから!」
「そ…そうよっ!シャルロットも私もお泊りくらい平気なんだからねっ!」
『あれ?ルクシアが』
『『!』』
二人は物凄い速さで首を回転させる。
「嘘だよ。」
「な…なんだよー驚かせやがって」
「ルクシアが帰ってきたのかと思ったじゃない。」
「「……………………」」
「うへええ……!」
「ルクシアァァァ………!」
「…やっぱり子離れできてない……。」
「……やっぱり大丈夫じゃなさそうですね。」
「はい、ミルクと鯛焼きをどうぞ。
自分の家だと思って楽にしててね。ルクシアちゃん」
「……うん。」
ルクシアは先程貰った紙切れを広げる
書いてあったのはカンペのような物だった。
「ルクシアちゃんそれなーに?」
「ルクシア…と申します。
不束者ですが、どうぞよろしくお願いします。」
「つまらないものですが。どうぞ」
「あら。お饅頭じゃない。ありがとう」
『すご~い!ルクシアちゃん!大人~!』
「……えへへ」
「えと…こちらのフォンダンショコニャを…」
「シャルロット。また噛んでる。」
『あ…フォンニャンショコラ三つで~!』
「フォンダンショコラ三つ用意します。」
「あわわっモルちゃんも数が多すぎ!」
「……えっ!?……うむむ私としたことが…」
「……あいつら大丈夫か?」
「ルクシアちゃんのことが忘れられないんでしょうね~」
「うふふ…微笑ましいです。」
「やっぱりお二人も子供ですね~まあそこが可愛いんですが」
「えっと何か手伝おうか?」
「それじゃあ食器を持ってきてくれる?」
「りょうかーいっ!」
「え~っと。お茶碗~…」
「はっ!今日はルクシアいないんだった…」
「……二人とも食欲がないのか?
今日のハンバーグ。お前達の好物だったよな?」
「うう…ルクシアもハンバーグが大好きだったよね…
今頃何食べてるのかな!?」
「零、このハンバーグは明日までとっておいて。
帰ってきたルクシアと一緒に食べたいから』
「お…おう…そうか………」
若干涙目になっている二人を見てたじろぐしかない。
一方その頃。
「あむっ…モグモグ」
「ん~!ママのハンバーグおいしー!」
「……美味しい。」
「あら~ルクシアちゃん。お野菜も残さず食べてるのね。嬉しいわ~」
「うっ」
「む~…私も頑張る!」
チェリルもルクシアに負けないように
苦手な野菜も食べることに挑戦している様子が
とても微笑ましい。
「ここがうちのお風呂だよ。一緒に入ろ!」
「あれ…?ルクシアちゃんもしかしてお風呂苦手?」
「……うぅぅ。」
「そっか~…あ!そうだ!」
「ほら!おいでよルクシアちゃん!
おもちゃで一緒にあそぼうよ!」
ルクシアはまだ少し抵抗があるようで
「そっか~それなら…てりゃっ!」
「うにゃっ!?」
水鉄砲の水を浴びせられたルクシアは
跳躍し浴槽に勢いよく飛び込んだ。
『あははは!ルクシアちゃんってだいた~ん!
どう?ルクシアちゃんもやってみる?』
そしてチェリルとルクシアは
アヒルや水鉄砲のおもちゃで遊びながら
楽しいお風呂の時間を過ごした。
一方こちらもお風呂の時間。
『『は~』』
「今日は1日が長かったね…モルちゃん?」
「お風呂…なんかいつもより広いわね」
お風呂上がりに髪を乾かしてもらっている
ルクシアは壁に飾ってある
『おかあさんありがとう』と描かれた
子供が描いたイラストに目を向ける。
「……チェリル…あれはなに?」
「あっ!あれはね。お母さんの似顔絵。
母の日のプレゼントに私が描いたんだよ~」
「お母さん……?」
「いつもお母さん頑張ってるからありがとうって。
そしたらね。お母さんすっごく喜んでくれてね!」
「へえ………そうなんだ。」
「ねぇ。モルちゃん」
「何?シャルロット」
「お風呂もそうだったけどなんだか今日のベッド…広いね」
「…うん。そうね。ルクシアがいないからかしら?」
「モルちゃんもさっきはいつも通りなんてやせ我慢しちゃってさ」
「シャルロットが余計に寂しくならないようにって気を遣っただけなんだからね。」
「ありがとう。お姉ちゃん」
「それほどでも…」
「はぁ…今まで気づかなかったけど私達って
ルクシアがいるってことが当たり前になってたんだね」
「カカオが戻ってきたらまたみんなで一緒に寝ようね」
「もちろんよっ!」
「…でも、今日は私がシャルロットを独り占めするんだから」
「え~…ちょっと苦しいよ…発情期なのモルちゃん…?」
「だ~め。私を満足させるまで離さないんだから」
こうして二人は寂しさを紛らわすように熱帯雨林のような夜を過ごし
ルクシアは窓から見えた満月を見つめながら
『母の日』と『おかあさんありがとう』と描かれた
似顔絵のことが気になっていた。
翌日、喫茶店にやってきたチェリルとそのお母さんを
ローザが出迎える。
「ルクシアちゃんがお世話になりどうもありがとうございました」
「こちらこそ。楽しかったです」
チェリル達の脇を通り抜けてキラキラした表情で
こちらに駆け寄ってくるルクシア
それを私達は両手を大きく広げて抱きしめようとする。
『『ルクシア。さぁおいで~!』』
『『私達の胸に飛び込んで~』』
……来なかった。
「……あの~ルクシアさん?」
「どちらへ~?」
ルクシアは二人を華麗にスルーし部屋に入ってしまった。
「ルクシアー。入るよ」
「何これ!?」
そこには、部屋の中心に巨大な段ボールが鎮座していた。
「この段ボールは…!?」
「まさかルクシアがこの中に…?」
「もしもーし…」
シャルロットが段ボールの中に手を入れようとするが
即刻閉じられてしまった。
「ががががーん!?」
「……というわけで、ルクシアちゃんが
何故か閉じこもってしまったわけなのです。」
「ははーん。そいつは反抗期ってやつなのだ。」
「反抗期?」
「いくらなんでも来るの早すぎないかしら?」
「まぁルクシアちゃんも
ちょっとずつ大人になるための準備をしてるのでしょう。
ここは無理に干渉せずそっとしておきましょう。」
「本当に…」
「そうなのかしら…?」
「……ブフ……うふ…うふふ」
「何笑ってるのよローザ…」
(だ…だめです…まだ…まだ笑っては……)
(真相を今明かすわけには……イヒヒヒヒ…!)
「…変なロザ姉」
「失礼しま~す…」
「ってここ私達の部屋」
「まだ中で何かやってるみたい」
「ここはなんとしてもカカオとの会話を実現させる所存!」
「ルクシアちゃーん」
「いい子だから出ておいでー」
段ボールから水鉄砲が飛び出してきて迎撃されてしまった。
「きゃっ!」
「み…水鉄砲……」
「まさか…1日お泊りしただけで私達の事を忘れてしまったとか…?」
「そんなわけないよ。
こうなったらみんなにも頼んで
なんとしてもルクシアちゃんに段ボールの外に出てきてもらう!」
「うーん、そうですね、食べ物で釣るのはどうでしょうか?」
「こういう時は定番のサンマがいいと思うのだ!」
「さ~さ~。
脂の乗った新物のサンマだよ~。
今の時期には珍しいですよ~」
「なんだか目がひりひりしてきたのだ…」
「気のせい気のせい。もっと炙っていい匂いを…
けほけほ」
匂いを察知した零とルミナが部屋に突入してきた。
「お前達この煙は何事………火事…サンマ?」
「煙だらけじゃないですか~!」
「換気しないと……!」
「うむ……なるほどそういうことか。
匂いどころか煙までこもって私達が燻製になるところだったぞ。」
「うーんどうすればいいんでしょうか…」
「そうだ!いいこと思いつきました!
はい!モルドレッドさん」
「ルミナ…なにこれ?」
「カラオケ内蔵マイクです。
モルドレッドさんの天使的な歌声で
ルクシアちゃんを引きずり出しましょう!」
「はぁ?なんで私が歌わなきゃいけないのよ?」
「名付けて天岩戸作戦!」
「天岩戸?」
「シャルロットさんから聞いたことがあるんですが
その昔、神様が岩の向こうに隠れてしまった時に
外で楽しくお祭り騒ぎをして
なんとか出てきてもらったっていうお話があるんです。」
「つまり外でお祭り騒ぎすれば」
「ルクシアも気になって思わず出てきてくれるかもなんだね!」
「んな…おとぎ話じゃないんだから……」
「ねぇお願い!モルちゃんの素敵な歌声でルクシアをっ!』
「我も聞いてみたいのだ!」
「はぁ…わかったわよ」
「はぁ…はぁ…あ~!」
「ああああ…ああ~、モルドレッドさんの生歌声……
聞いてるだけで昇天しちゃいます~!」
「何に発情してるのだルミナは…!?」
段ボールの中からルクシアの頭が出てきた。
「ルクシア~!」
「出てきたわっ!」
「ルクシア~!」
「しっ!」
お静かにというジェスチャーをした後
即刻段ボールの中に入ってしまった。
「がーん!」
「そ…そんな!モルドレッドさんの天使のような
歌声でもダメだなんて……!?」
「何か…地味に傷ついたんですけど…」
「うむ……ルクシアはまだ出てこないのか?」
「そうなんだよ~零ちゃん。朝からずっと」
「箱の中にこもりっぱなしなのだ。」
「一体どうしたんだんだろうな?
ルクシアがご飯食べなかったことなんて今まで一度もなかったぞ?」
「そうだ!鯛焼き」
「ええ!このルクシアの大好物があれば!」
「お腹が空いてるルクシアもきっと出てくるはずっ!」
「みんなはご飯先に食べてて!」
「ルクシアのことは私達に任せなさいぅ!」
「ルクシアちゃ~ん」
「お腹空いてないかしら?」
「零ちゃんお気に入りの和菓子店のチョコレート鯛焼きだよ。
ほら!ルクシアちゃんの大好物!』
段ボールからルクシアの手が伸びて
鯛焼きの入った袋だけを受け取り
即刻中身の入っていない袋だけを返却されてしまった。
「がががががーん!?」
「どうしよう…このままずっと待ってるしかないのかな…」
「シャルロット。もはや最後の手段しか残ってないと思う」
「う…うん。零ちゃんはそっとしておけって言ってたけどやっぱり心配だよね!」
「かくなる上は!」
「強行突破あるのみ!てりゃーっ!」
飛びかかった瞬間、段ボールからルクシアが出てきて
戸惑ってしまった二人は空中で静止し自由落下して床に激突してしまう。
「ルクシア!もう心配したんだから!」
「一体どうしたのよ?」
ルクシアは手紙のような物を取り出し
そこに書いてある拙い文章を読み上げる。
『シャルロットと。モルルンへ。
いつも私と一緒に遊んでくれてありがと』
『私が退屈してつまんない時に
ボールで遊んでくれたりネコじゃらしで遊んでくれてありがと。』
『うみに連れて行ってくれて…とってもうれしかった。
ありがと。すごいおっきくてびっくりしちゃった。』
『遊園地に連れて行ってくれてありがと。すごく…たのしかった。』
『流れるお寿司いっぱい食べれておいしかった。ありがと』
『そして…ずっと言いたかったけど言えなかったこと。』
『わたしと出逢った時に
ここにわたしを置いてほしいって言ってくれたこと
すごい嬉しかったの。ありがとう。』
「ルクシア…」
「これを私達に…?」
『『あ…』』
そこには手紙だけでなく
『ありがとう』と感謝の言葉と
私達の似顔絵が描かれた紙が一緒に入っていて
「これ…」
「私達のために…?」
「……ん。シャルロット。モルルン。
………大好き。ずっと……ずっと一緒。」
私達は彼女から贈られた感謝の想いと言葉に
涙が止まらなくなり堪らずルクシアを抱きしめる。
「ルクシアーー!!!」
「ありがとうおおおおお!!!」
「わたしもっ!ルクシアのこと大好きだよ!』
「ずーっと一緒なんだから!」
「えへへ♪ずっといっしょ…」
ルクシアは二人の暖かな温もりを感じながら
静かに幸せそうに微笑みながら目を閉じた。
すると、白い光に包まれたような感覚に陥り
彼女は過去の記憶を追憶した長い夢から覚める。
「………うにゃ?」
目を覚ますとルクシアの顔を覗き込んでる
三人の顔が映り込む。
「ルクシアちゃんどうしたんですか?
随分長い間お昼寝してましたけど」
「気持ちよさそうに眠ってたわね。」
「寝言も凄い言っててそんなに良い夢だったんだ?」
「………うん、ちょっと楽しい夢を見てたんだ」
「凄く…懐かしい夢だった気がするんだ~」
幸せな夢の世界から現実に戻される三人の少女。
仲良く抱き合っている三人の少女は目を覚ます。
シャルロットとモルドレッドは目を覚ますと
まず、ジリリリリリと五月蝿く鳴っている目覚まし時計を止め
真ん中で眠っているルクシアを撫でて
ぬいぐるみのように二人でルクシアを抱きしめる。
そしていつものように日常を始める。
「どちらのケーキにしましょうか?」
「いつものこれとこれをお願いね」
ルクシアのお友達のチェリルちゃんと
そのお母さんはすっかりこのお店の常連さんになっていた。
チェリルが厨房の奥から覗いている
ルクシアに気づいて駆け寄る。
「あっ!ルクシアちゃん!」
「チェリル……あそぼ」
「あ…ごめんねルクシアちゃん。
今日はすぐお家に帰らなきゃいけないの」
「チェリルー!行くわよー!」
「うん!ちょっと待ってお母さん!」
「…………」
ルクシアは少し寂しそうな表情を浮かべる。
「そうだルクシアちゃん!今度うちにおいでよ!
そしたらずっと遊べるもん!」
「……!」
ルクシアの表情がパァーっと花が咲くように明るくなる。
「なぁにルクシアちゃん?」
「お腹でも空いた?」
「………行きたい」
「どこへ?」
「チェリルの…お家」
『『えええええええ~~~!?』』
「別にいいけど…どうやって行くつもりなの?」
「また迷子になっちゃうかもしれないよ!」
「あらいいじゃない。いつでも大歓迎よ。
今度の休みにお泊りに来れば?」
「うん!ありがとうお母さん!」
「ルクシアちゃんお泊りに来てくれる?」
「………うんっ楽しみ。」
「ルクシアが…」
「お泊り~!?」
両親譲りなのか親バカな部分を引き継いでしまっていた
シャルロットとモルドレッドは
ルクシアに過保護気味と言える大量のお泊りグッズを授けた。
「いい?これがパジャマと替えの下着。
それから歯ブラシと歯磨き粉」
「万一の寒波に備えて湯たんぽとカイロ。
目覚まし時計も用意したしお風呂セットもOK」
「いりこに至っては業務用が1ダースあるぜいっ」
「それからそれから…はいっ!くまさんのぬいぐるみ!
モルちゃんが小さい頃に可愛がってたんだよ~」
「寂しくなったら私達だと思って抱きしめてね!」
「もう忘れものはないかな?」
「大丈夫よ。リュックに連絡先も縫い付けておいたから」
「さっすがモルちゃ~ん。ばっちりだね!」
ルクシアはパンパンになったリュックを見て
少々ドン引きしたような引き攣った笑みを浮かべながら
リュックを背負ってみたが重すぎてまともに歩けず
リュックの下敷きになってしまった。
『『ルクシアーー!?』』
その様子を見ていた零は呆れ顔になりながら
「お前達…ルクシアはたった1泊するだけなのだろう?
そんなに大荷物はいらないと思うのだが」
『いいえ!そんなことはないと思うのだ!』
「これは考え得るすべての可能性を考慮した完璧なお泊りセットなのよっ!」
「そんな大げさな…そもそもそんなにたくさん持っていけるわけが…」
パンパンになっていたリュックが決壊し
中に入っていた大量のお泊りグッズが弾け飛んだ
「わあーお……」
「……もう少し少なめにしましょう。」
次の休日、私達4人は並木通りを通って住所の近くへ行くと
チェリルちゃんとお母さんが待っていた。
「ルクシアちゃーん!こっちこっちー!」
「いらっしゃ~いっ!」
「このたびはうちのルクシアちゃんがお世話になります。
一日だけですがどうかよろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いしますね」
「おお…ローザお姉ちゃん大人の対応ってやつだ…」
「私達も負けていられないわよ!」
『ごほん!このたびはうちの子のルクシアがおべんとうをおかけします!』
「え?お弁当?」
『違うわよシャルロット。それを言うならご面倒』
『そうそう!ご面倒でした!』
「まぁ。そういうことね。全然大丈夫よ」
「こちらは私達の連絡先です。
もし何かありましたら遠慮なくお電話ください」
「ルクシア。トイレの場所はすぐ確認するんだよ」
「ご飯を食べたら必ずごちそうさまって言って…それから」
「そうだ。これを渡していくね。
まだ見たら駄目。お家に上がったら真っ先に読んで」
「ああ~…」
「ルクシア~…」
「二人とも行きますよ」
「で…でも~…」
「やっぱり心配…」
「かわいい子には旅をさせよと言います。
あの子の成長のためにもとても良い機会だと思いますよ」
「ただいま~…」
「どうだ?涙涙のお別れだったか?」
「そ…そんなことないもん!」
『とか言って「行っちゃ駄目~」なんて
ずっと手を振り続けたりしたんじゃないんですか?』
『うふふ。そんなお姉様も子供みたいでかわいいかも』
「そんなんじゃないもん!もう子供じゃないんだから!」
「そ…そうよっ!シャルロットも私もお泊りくらい平気なんだからねっ!」
『あれ?ルクシアが』
『『!』』
二人は物凄い速さで首を回転させる。
「嘘だよ。」
「な…なんだよー驚かせやがって」
「ルクシアが帰ってきたのかと思ったじゃない。」
「「……………………」」
「うへええ……!」
「ルクシアァァァ………!」
「…やっぱり子離れできてない……。」
「……やっぱり大丈夫じゃなさそうですね。」
「はい、ミルクと鯛焼きをどうぞ。
自分の家だと思って楽にしててね。ルクシアちゃん」
「……うん。」
ルクシアは先程貰った紙切れを広げる
書いてあったのはカンペのような物だった。
「ルクシアちゃんそれなーに?」
「ルクシア…と申します。
不束者ですが、どうぞよろしくお願いします。」
「つまらないものですが。どうぞ」
「あら。お饅頭じゃない。ありがとう」
『すご~い!ルクシアちゃん!大人~!』
「……えへへ」
「えと…こちらのフォンダンショコニャを…」
「シャルロット。また噛んでる。」
『あ…フォンニャンショコラ三つで~!』
「フォンダンショコラ三つ用意します。」
「あわわっモルちゃんも数が多すぎ!」
「……えっ!?……うむむ私としたことが…」
「……あいつら大丈夫か?」
「ルクシアちゃんのことが忘れられないんでしょうね~」
「うふふ…微笑ましいです。」
「やっぱりお二人も子供ですね~まあそこが可愛いんですが」
「えっと何か手伝おうか?」
「それじゃあ食器を持ってきてくれる?」
「りょうかーいっ!」
「え~っと。お茶碗~…」
「はっ!今日はルクシアいないんだった…」
「……二人とも食欲がないのか?
今日のハンバーグ。お前達の好物だったよな?」
「うう…ルクシアもハンバーグが大好きだったよね…
今頃何食べてるのかな!?」
「零、このハンバーグは明日までとっておいて。
帰ってきたルクシアと一緒に食べたいから』
「お…おう…そうか………」
若干涙目になっている二人を見てたじろぐしかない。
一方その頃。
「あむっ…モグモグ」
「ん~!ママのハンバーグおいしー!」
「……美味しい。」
「あら~ルクシアちゃん。お野菜も残さず食べてるのね。嬉しいわ~」
「うっ」
「む~…私も頑張る!」
チェリルもルクシアに負けないように
苦手な野菜も食べることに挑戦している様子が
とても微笑ましい。
「ここがうちのお風呂だよ。一緒に入ろ!」
「あれ…?ルクシアちゃんもしかしてお風呂苦手?」
「……うぅぅ。」
「そっか~…あ!そうだ!」
「ほら!おいでよルクシアちゃん!
おもちゃで一緒にあそぼうよ!」
ルクシアはまだ少し抵抗があるようで
「そっか~それなら…てりゃっ!」
「うにゃっ!?」
水鉄砲の水を浴びせられたルクシアは
跳躍し浴槽に勢いよく飛び込んだ。
『あははは!ルクシアちゃんってだいた~ん!
どう?ルクシアちゃんもやってみる?』
そしてチェリルとルクシアは
アヒルや水鉄砲のおもちゃで遊びながら
楽しいお風呂の時間を過ごした。
一方こちらもお風呂の時間。
『『は~』』
「今日は1日が長かったね…モルちゃん?」
「お風呂…なんかいつもより広いわね」
お風呂上がりに髪を乾かしてもらっている
ルクシアは壁に飾ってある
『おかあさんありがとう』と描かれた
子供が描いたイラストに目を向ける。
「……チェリル…あれはなに?」
「あっ!あれはね。お母さんの似顔絵。
母の日のプレゼントに私が描いたんだよ~」
「お母さん……?」
「いつもお母さん頑張ってるからありがとうって。
そしたらね。お母さんすっごく喜んでくれてね!」
「へえ………そうなんだ。」
「ねぇ。モルちゃん」
「何?シャルロット」
「お風呂もそうだったけどなんだか今日のベッド…広いね」
「…うん。そうね。ルクシアがいないからかしら?」
「モルちゃんもさっきはいつも通りなんてやせ我慢しちゃってさ」
「シャルロットが余計に寂しくならないようにって気を遣っただけなんだからね。」
「ありがとう。お姉ちゃん」
「それほどでも…」
「はぁ…今まで気づかなかったけど私達って
ルクシアがいるってことが当たり前になってたんだね」
「カカオが戻ってきたらまたみんなで一緒に寝ようね」
「もちろんよっ!」
「…でも、今日は私がシャルロットを独り占めするんだから」
「え~…ちょっと苦しいよ…発情期なのモルちゃん…?」
「だ~め。私を満足させるまで離さないんだから」
こうして二人は寂しさを紛らわすように熱帯雨林のような夜を過ごし
ルクシアは窓から見えた満月を見つめながら
『母の日』と『おかあさんありがとう』と描かれた
似顔絵のことが気になっていた。
翌日、喫茶店にやってきたチェリルとそのお母さんを
ローザが出迎える。
「ルクシアちゃんがお世話になりどうもありがとうございました」
「こちらこそ。楽しかったです」
チェリル達の脇を通り抜けてキラキラした表情で
こちらに駆け寄ってくるルクシア
それを私達は両手を大きく広げて抱きしめようとする。
『『ルクシア。さぁおいで~!』』
『『私達の胸に飛び込んで~』』
……来なかった。
「……あの~ルクシアさん?」
「どちらへ~?」
ルクシアは二人を華麗にスルーし部屋に入ってしまった。
「ルクシアー。入るよ」
「何これ!?」
そこには、部屋の中心に巨大な段ボールが鎮座していた。
「この段ボールは…!?」
「まさかルクシアがこの中に…?」
「もしもーし…」
シャルロットが段ボールの中に手を入れようとするが
即刻閉じられてしまった。
「ががががーん!?」
「……というわけで、ルクシアちゃんが
何故か閉じこもってしまったわけなのです。」
「ははーん。そいつは反抗期ってやつなのだ。」
「反抗期?」
「いくらなんでも来るの早すぎないかしら?」
「まぁルクシアちゃんも
ちょっとずつ大人になるための準備をしてるのでしょう。
ここは無理に干渉せずそっとしておきましょう。」
「本当に…」
「そうなのかしら…?」
「……ブフ……うふ…うふふ」
「何笑ってるのよローザ…」
(だ…だめです…まだ…まだ笑っては……)
(真相を今明かすわけには……イヒヒヒヒ…!)
「…変なロザ姉」
「失礼しま~す…」
「ってここ私達の部屋」
「まだ中で何かやってるみたい」
「ここはなんとしてもカカオとの会話を実現させる所存!」
「ルクシアちゃーん」
「いい子だから出ておいでー」
段ボールから水鉄砲が飛び出してきて迎撃されてしまった。
「きゃっ!」
「み…水鉄砲……」
「まさか…1日お泊りしただけで私達の事を忘れてしまったとか…?」
「そんなわけないよ。
こうなったらみんなにも頼んで
なんとしてもルクシアちゃんに段ボールの外に出てきてもらう!」
「うーん、そうですね、食べ物で釣るのはどうでしょうか?」
「こういう時は定番のサンマがいいと思うのだ!」
「さ~さ~。
脂の乗った新物のサンマだよ~。
今の時期には珍しいですよ~」
「なんだか目がひりひりしてきたのだ…」
「気のせい気のせい。もっと炙っていい匂いを…
けほけほ」
匂いを察知した零とルミナが部屋に突入してきた。
「お前達この煙は何事………火事…サンマ?」
「煙だらけじゃないですか~!」
「換気しないと……!」
「うむ……なるほどそういうことか。
匂いどころか煙までこもって私達が燻製になるところだったぞ。」
「うーんどうすればいいんでしょうか…」
「そうだ!いいこと思いつきました!
はい!モルドレッドさん」
「ルミナ…なにこれ?」
「カラオケ内蔵マイクです。
モルドレッドさんの天使的な歌声で
ルクシアちゃんを引きずり出しましょう!」
「はぁ?なんで私が歌わなきゃいけないのよ?」
「名付けて天岩戸作戦!」
「天岩戸?」
「シャルロットさんから聞いたことがあるんですが
その昔、神様が岩の向こうに隠れてしまった時に
外で楽しくお祭り騒ぎをして
なんとか出てきてもらったっていうお話があるんです。」
「つまり外でお祭り騒ぎすれば」
「ルクシアも気になって思わず出てきてくれるかもなんだね!」
「んな…おとぎ話じゃないんだから……」
「ねぇお願い!モルちゃんの素敵な歌声でルクシアをっ!』
「我も聞いてみたいのだ!」
「はぁ…わかったわよ」
「はぁ…はぁ…あ~!」
「ああああ…ああ~、モルドレッドさんの生歌声……
聞いてるだけで昇天しちゃいます~!」
「何に発情してるのだルミナは…!?」
段ボールの中からルクシアの頭が出てきた。
「ルクシア~!」
「出てきたわっ!」
「ルクシア~!」
「しっ!」
お静かにというジェスチャーをした後
即刻段ボールの中に入ってしまった。
「がーん!」
「そ…そんな!モルドレッドさんの天使のような
歌声でもダメだなんて……!?」
「何か…地味に傷ついたんですけど…」
「うむ……ルクシアはまだ出てこないのか?」
「そうなんだよ~零ちゃん。朝からずっと」
「箱の中にこもりっぱなしなのだ。」
「一体どうしたんだんだろうな?
ルクシアがご飯食べなかったことなんて今まで一度もなかったぞ?」
「そうだ!鯛焼き」
「ええ!このルクシアの大好物があれば!」
「お腹が空いてるルクシアもきっと出てくるはずっ!」
「みんなはご飯先に食べてて!」
「ルクシアのことは私達に任せなさいぅ!」
「ルクシアちゃ~ん」
「お腹空いてないかしら?」
「零ちゃんお気に入りの和菓子店のチョコレート鯛焼きだよ。
ほら!ルクシアちゃんの大好物!』
段ボールからルクシアの手が伸びて
鯛焼きの入った袋だけを受け取り
即刻中身の入っていない袋だけを返却されてしまった。
「がががががーん!?」
「どうしよう…このままずっと待ってるしかないのかな…」
「シャルロット。もはや最後の手段しか残ってないと思う」
「う…うん。零ちゃんはそっとしておけって言ってたけどやっぱり心配だよね!」
「かくなる上は!」
「強行突破あるのみ!てりゃーっ!」
飛びかかった瞬間、段ボールからルクシアが出てきて
戸惑ってしまった二人は空中で静止し自由落下して床に激突してしまう。
「ルクシア!もう心配したんだから!」
「一体どうしたのよ?」
ルクシアは手紙のような物を取り出し
そこに書いてある拙い文章を読み上げる。
『シャルロットと。モルルンへ。
いつも私と一緒に遊んでくれてありがと』
『私が退屈してつまんない時に
ボールで遊んでくれたりネコじゃらしで遊んでくれてありがと。』
『うみに連れて行ってくれて…とってもうれしかった。
ありがと。すごいおっきくてびっくりしちゃった。』
『遊園地に連れて行ってくれてありがと。すごく…たのしかった。』
『流れるお寿司いっぱい食べれておいしかった。ありがと』
『そして…ずっと言いたかったけど言えなかったこと。』
『わたしと出逢った時に
ここにわたしを置いてほしいって言ってくれたこと
すごい嬉しかったの。ありがとう。』
「ルクシア…」
「これを私達に…?」
『『あ…』』
そこには手紙だけでなく
『ありがとう』と感謝の言葉と
私達の似顔絵が描かれた紙が一緒に入っていて
「これ…」
「私達のために…?」
「……ん。シャルロット。モルルン。
………大好き。ずっと……ずっと一緒。」
私達は彼女から贈られた感謝の想いと言葉に
涙が止まらなくなり堪らずルクシアを抱きしめる。
「ルクシアーー!!!」
「ありがとうおおおおお!!!」
「わたしもっ!ルクシアのこと大好きだよ!』
「ずーっと一緒なんだから!」
「えへへ♪ずっといっしょ…」
ルクシアは二人の暖かな温もりを感じながら
静かに幸せそうに微笑みながら目を閉じた。
すると、白い光に包まれたような感覚に陥り
彼女は過去の記憶を追憶した長い夢から覚める。
「………うにゃ?」
目を覚ますとルクシアの顔を覗き込んでる
三人の顔が映り込む。
「ルクシアちゃんどうしたんですか?
随分長い間お昼寝してましたけど」
「気持ちよさそうに眠ってたわね。」
「寝言も凄い言っててそんなに良い夢だったんだ?」
「………うん、ちょっと楽しい夢を見てたんだ」
「凄く…懐かしい夢だった気がするんだ~」
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